生き残りBAD END

とぅるすけ

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第2章 「征」編

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 翌日、剣得と楓彩の会話は無かった。否、昨日、工房で話してから楓彩と剣得はアイコンタクトだけでコミュニケーションを図っている。
 楓彩は昨日と同じように戦闘実演室にトレーニングウェアを着て、木刀を右手に立っていた。

「ショウさん…もう大丈夫何ですか?足…」 

 楓彩にコツコツと松葉杖の音を響かせて近寄ってくるショウ。

「うん、大分動くようになったよ…」

 楓彩は振り返り美人のようなポーズでショウと話している。
 
「あ、あの…剣得さんは…」
「もうそろそろ来ると思うよ?」
「そうですか…」

 楓彩の顔はやはり曇っている。
 その時

「おぉ、来てるなー」

 テレポートの能力で突然現れた群青色の髪、つまようじで歯の隙間を掃除しながら歩み寄ってくる男性。

「あれ? あんた朝食どこで?」
「近くのファミレスだが?」
「お金は?」
「食い逃げ…」

 ショウは男性にジト目を向けている。
 すると、ショウはコツコツと音を立てて男に近寄り、ポケットから財布を取り出し

「はいよ、これあげるから」

 その財布の中から紙幣を2枚渡す。

「? くれるのか?」
「そのかわり、犯罪行為はしないこと! いい?」

 男はショウが渡した紙幣を折りたたみポケットにしまうと

「悪いな、ま、気が向いたら返す」

 と、その時、戦闘実演室の扉が開き、剣得が入ってくる。

「遅れた…始めるぞ…」

 剣得は袖を通さないで着ている上着をたなびかせて、歩いてくる。
 やはり楓彩と目を合わせようとしない。

「……」

 楓彩も剣得と一緒には居づらいという感じだった。

「……ではお願いします…(今日はしっかり自我を保てるようにしないと…)」

 楓彩は晴れない顔で木刀を下段に構える。
 すると、男性はつまようじを右側に投げ捨てて右手に木刀を昨日と同じ方法で握らせる。

「まぁ落ち着け、今日は昨日お前を倒した技を伝授しようと思う…」
「ん?」

 楓彩は体に入った力を抜く。
 
「まぁ、もう1回受けてみろ…そこを動くなよ? 1歩でも動けばお前は死ぬ…」

 そう言って男は両手で木刀を握り、切っ先を高く掲げる。
 そして楓彩は息を呑んでそれを見る。

「目は閉じるなよ…」
「……はい…」

 ────刹那、楓彩の全身を突風が襲う。
 そして、気づいた時には男の木刀の切っ先はは楓彩の目の前にあった。

「見えたか?」
「……す、すごい…」

 楓彩は目を見開いてその切っ先を見つめていた。
 先程の攻撃は右脇腹、左脇腹、右の首筋、腹、どれも寸止めで止められたのか、トレーニングウェアに少し穴が開き、肌が見えていた。

「まぁ、見た通りやってみろ…」

 ショウは「んな無茶振りなぁ!」と突っ込むが、剣得はそれを真剣な目で見ていた。

「はい」

  楓彩は木刀を両手で握り、切っ先を高く掲げる。

「いきます! ───そぉい!!」

 と、威勢のいい声を上げ、男に降りかかるが、聞こえたのは4回のリズムのいい木の音だった。
 違う、男が放った技は1回しか、空気の切る音がしなかった。

「はぁ、そりゃそうだよ…」

 ショウはため息混じりに体の力を抜く。

「ど、どういう事ですか? ショウさん…」

 不安そうな顔をしてショウの方に向き直る。

「だって、そいつがやってる技は能力が絡んでるでしょ? ──“多重次元屈折現象”……人間の技じゃない…だって、あの瞬間、確実にそいつの木刀は4本存在することになる…」

 楓彩は難しい単語の登場に首を傾げる。
 
「いや? 能力なんか使ってないぞ? …そうだな…気合いだ、気合い…次元屈折現象なんかしらんが…」
「気合いって…あんた…剣術を磨いたとしても出来る技じゃないよ?」
「どういう事だショウ?」

 剣得は興味を持ったのかショウに聞き入る。


 男は楓彩の方を向く。

「とにかくだ、速く、確実に、そして鮮やかに振ってみろ…まずは実戦からだ…俺に1発でいい、入れてみろ…(昨日のようにはいかないぜ…?)」

 と、木刀を上段に構える。

「はい!」

 そして、打ち込みが始まったわけだが、当然、男の放った技を出来るわけもなく、ましてや、一撃も入れることも出来ずに、ただただ、14歳の少女が木刀で叩かれる悲痛な光景が続いた。
 楓彩はやけにがむしゃらで、今まで以上に必死になって男に向かっていた。
 剣得は異変に気づき止めに入る。

「おい、もうそこまでにしとけよ…」

 楓彩はちょうど、男に吹き飛ばされ、剣得の右側辺りに尻もちをついてしまった。
 剣得はすかさず、楓彩の前に出て、手を差し伸べる。

「…いてて……ど、どいて下さい…剣得さんには私の気持ちなんか……私の心なんか分からないんですから!!」

 楓彩は感極まったのか、剣得を左拳で叩き、どかせる。
 
「っ!?」
「い、いいですから…私は大丈夫です…」

 楓彩は胸を撫で下ろし、呼吸を整えて、再び男に立ち向かう。
 楓彩が動くと起こるソニックブームも気にせずに。

───3時間後

「はぁ…はぁ…」

 楓彩は大の字になって戦闘実演室の白い床に寝そべっていた。
 口からは口内が切れたのか出血し、顔にも打撲の痛々しい後が数箇所出来ていた。

「…はぁ、まだまだっ!! …」

 楓彩は立ち上がろうとする。
 その時

「おい楓彩! いい加減にしろ!!」
「っ!!」

 剣得は立ち上がろうと、肘を床につく楓彩の両肩を押さえつける。

「な、なんですか…邪魔です…」

 やはり、殺気立った目だ。
 もう一人の楓彩。どうやら負けてしまったようだ。

「おい、楓彩…また、自分に負けてるぞ…」
「はっ!」

 楓彩は我に返ったのか、木刀を放し、木が転がる音が響く。

「くっ…はぁぁ…」

 楓彩は深い溜息の後、左腕の前腕で目を覆う。

「楓彩…辛いならやめろ…自分のために───」
「なら助けてくださいよ!!!!」

 剣得の言葉を遮った、楓彩の甲高い叫びにも近い声が響く。

「もう嫌なんです…」

 震えた声。

「剣得さんに恩返しをしたい……けど、この世界には人を傷つけることが出来ない私の居場所が無い……ぅぅっ……!」

 そして、楓彩の頬を伝う涙。

「俺は、楓彩を苦しめるために“あの日”助けたわけじゃないぞ…?」
「でも私は剣得さんに恩を返したい! なんでいつもそうやって私の心を踏みにじるようなことを平然と言うんですか!!」

 楓彩は左腕をどけて、涙が溜まった目で剣得を睨みつける。

「俺は別に踏みにじってなんか……」

 剣得は楓彩から目をそらす。
 その時、男が歩み寄ってくる。

「おい、内輪喧嘩は他所でやれ、俺の前でやるな……」

 剣得と楓彩は男を見る。

「あぁ、悪いな、楓彩、立ってくれ、今日は終わりだ…」

 剣得は楓彩の右腕を引っ張り、立ち上がらせる。
 そして、ショウ、剣得、楓彩の3人は戦闘実演室から退出する。

「……」

 戦闘実演室の扉が閉まると、3人にしばらくの沈黙が訪れる。
 その沈黙を破ったのは楓彩だった。

「……らいです…」
「え?楓彩なんか言ったか?」
「剣得さんなんて嫌いです!!!!」

 楓彩はそう叫ぶと、ショウの腰あたりを抱えて足早に去っていた。


ショウちゃんの工房

「まったくもう…あの人はいつもいつも!」

 楓彩は怒った様子で、仮眠用のソファに座り、ショウが買い溜めして、ポテトチップスやチョコレートなどのお菓子で一杯になったビニール袋からポテトチップスの袋を取り出して、抱え込んで食べていた。

「楓彩ー? 太るよー? もう5袋目じゃない…」
「いいんです! あ、このピザポテトもらいますね?」

 楓彩はそう言って、食べ終わった包を床に落として、近くに置いてあった、ビニールからピザポテトと書いてある包を取り出して開封する。
 そしてまた、食べ始める。
 それをショウは苦笑いしながら見ていた。

「もう、剣得さんなんか…」
「まぁ、確かに剣得は無神経だよねー?」
「ショウさん?」

 楓彩の手が止まる。

「でもさ、楓彩? 剣得はあんたの事がすごく大事なんだよ…想像してごらん? 自分の大事な人が目の前で苦しんでるんだよ? いつでも止めれる状況で…」

 楓彩は俯いて、考え込んだ。そして

「すごく、嫌です…止めたくなります…」
「でしょ? 早めに仲直りしときなよ? 私も、嫌だからさ…────」

 その時、生存者(サバイバー)出現を知らせる不快な警報が響き渡る。

「生存者(サバイバー)!? 久しぶりだね…」



 司令室

 剣得は真剣な眼差しで巨大なモニターに映し出された島の全体図を見ていた。

「総督、西区にC級生存者(サバイバー)が3体出現、たった今近くに居合わせた帝 臨が対処に当たっています。」

 女性オペレーターの声。
 
「応援は呼びますか…?」
「いや、いらん、臨1人で足りる…」

 その時だった。
 剣得の背後にある扉が開く。
 入ってきたのは目立った外傷は無いが、何やら苦しそうな顔をして、ライフルを構えた男性隊員だった。

「て、てき……しゅう………」

 その男性隊員はライフルの銃口を剣得に向けたまま立って気を失った。
 次の瞬間、男性隊員は白目を向いて

「うがぁぁぁっ!!」

 奇声を発しながら乱発する

「っ!!!!」



G,S,A本部前

「さぁ、始めろ…俺らの新時代を!」



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