生き残りBAD END

とぅるすけ

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第3章「奪還」編

こんな時でも朝は平和

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 その後、5人は明日のためということで夜8時に、それぞれの布団に入る。
 皆、疲れているのか落ちるのが早かった。
 楓彩も意識が無くなったが

「ん……おしっこ…」

 尿意に目を覚ます。
 楓彩は腹にかかっているタオルケットをどけて起き上がり、暗闇の中真っ直ぐ手探りしながら歩き、手に襖が当たる。
 ゆっくりと音が出ないように開き、廊下に出て左手にあるトイレへ向かう。

「んん、暗い…」

 しばらく歩くと、縁側に出る。
 月明かりが差し込んでいて、そこから見渡せる手入れが行き渡った松や、花が並ぶ庭園は、どこか、忙しい日常と切り離された優しさを感じる。

「きれいですね……ブル」

 しかし、楓彩はそんなことをしている場合ではないと気づき、トイレへ急ぐ。

❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿

「ふぅ…」

 その時、楓彩の視界がぼやける。

「……ふわぁ…」

 意識が薄れていく。
 楓彩は右手にあった襖を開けて中に入り、布団に入ると、すぐに意識が無くなる。



 翌朝、ショウが目を覚ますと、まだ日が登っていない肌寒さを感じる。

「寒っ…」

 一度は二度寝を考えたが、昨日自分が話した事を思い出し、重たい体を起こす。

「おーい、起きてー…」

 その声に周りで寝ていた小雨達は動き出す。

「あれぇ? もう朝? 臨? 起きて…楓彩ちゃんも──」

 小雨は左の臨を揺さぶった後、右で寝ている楓彩を……。

「あれ? いない…」

 そこには楓彩の姿がなかった。

「ショウちゃん…楓彩ちゃんは?」
「あれ? もう起きたの? あの子…早いねぇ、まだ5時だよ?」

 3人は部屋の中を見渡す、だが、広さ的にもいるはずが無く、ショウは立ち上がり、男子部屋へ向かうことに。

「瑛太と一緒に朝ごはんでも作ってるんじゃない?」

 ショウはそう言って女子部屋を後にする。

 ショウが男子部屋の襖を開けると、二つの布団には、人が入っている山ができていた。

「いろは …寝顔、意外と可愛いね…」

 ポツリと呟き、瑛太が寝ている方の布団を見る。
 
「瑛太は……っ!!」

 瑛太の方へ目を送ると、そこには、浅く抱き合っている楓彩と瑛太。

「───がっ!!!!」

 ショウは自分でもどこから出しているのか分からない声が出る。

「お、お、起きろーー!!」

 大声をあげて瑛太と楓彩から布団を勢い良く取り上げる。
 その衝撃で目を覚ました瑛太と楓彩。

「むにゃ……もう、朝ですか」「ん? 朝……っ!!」

 楓彩は目を擦って前を見ていない。

「おおおお、鬼月さん!?」
    
 瑛太はすかさず浅く背中に回していた手をどけて布団から飛び出して後ずさりして部屋に背中を打つ。

「…? 瑛太さん…?」

 騒ぎを聞いて起き上がった いろは は普段とさほど変わらぬ目線で

「今、子作りするのはタイミングが悪いな…」
「ししし!!してませんよ!!」

 瑛太は顔を真っ赤にして否定する。

「ん? 瑛太さん…顔赤いですよ? 大丈夫ですか?」

 楓彩は四つん這いになって瑛太に近づく。
 楓彩の貧……控えめな胸なので前屈みになると先の方が良く見える。

「っ!!(ま、丸見え……!!)」

 瑛太は朝から刺激の強い光景から目をそらし、顔の下半分を右手で隠す。

「か、楓彩…子供産むの……?」
「は!? へ!? …ショウさん? 何言ってるんですか?」

 楓彩は全く理解していない様子でショウを見返す。
 ショウは額に手を当ててどこか遠くを見ていた。

「ショウさん知らないんですか? “子供は愛し合ってる男女が願わないと出来ないんですよ?”」
「「「は?」」」

 ───なんとピュアな子だろう

 胸の前でシスターの様に両手を握っている楓彩の前で、3人の心はシンクロした。

「お、おい…… かえで …いいか、子供って言うのは、男と女が重な───むぐっ!!」
「「わあああああ!!」」

 何やら世界の真実を語り出した いろは の口を大慌てで塞ぐショウと瑛太。

「?」
「……お、鬼月さん? あ、朝飯にしよ? ね?」
「はい!」

 
 楓彩、臨は瑛太の手伝いのため台所へ向かい、その他は客間でウトウトしていた。

「ショウ…座りながら寝てるし……」

 意識がはっきりしてきた小雨。

「そういえば、 いろは ? だっけ? まだあなたの事何も知らないんだけど…」
「そうだな、これからお前らとどれくらいの付き合いになるか分からんから多くは語れないが…まず俺の事よりSABERの事からだな…」

 コクコクと頷いていたショウの意識が戻る。

「そうだね、それに関してはこっちから質問してくね?」
「あぁ」
「まず、晴雲以外の主力の名前と能力、その実態を教えてくれる?」
「……マインドコントロールの使い手、名前は人道じんどう  幹哉みきや、こいつの攻略だが、“近づきすぎない、そして取り乱さない事だ”」

 いろは が言うに、その男の能力は、自分の携帯を落とした時に出る焦りでも常人は操れると言う。
 そして、半径1mに入ったら最後、精神状態がどうであろうと洗脳されてしまう。

「なるほど、そいつをうまく誘導して狙撃すれば問題無いね、それだけ?」
「あと一人、能力は“時間”が関係していると思うのだが…名前も実態も知らない…だが、雰囲気で分かるだろう」
「じゃあ、あんた達のお頭は?」
「すまない、その事だが、全く情報がない」
「声から人物は特定できるよ?」
「変声機で声を変えていてその情報すらないんだ…」
「そう…」

 その時、襖が開かれ、楓彩がお盆の上に料理を乗せて重そうに運んでくる。

「お待たせしました」

 終始心配しながら楓彩を見守る3人。
 続いて瑛太と臨が残りの料理を持って登場する。


 その後、客間のテーブルには朝から有名旅館並の豪華な和食が並べられていた。

「あ、朝からすごいね…神ちゃん…楓彩ちゃんも手伝ったの?」

 目の前に並ぶ素晴らしく、そして、眩しい料理を若干引いた目で見つめる小雨。

「いえ、私は料理ができな……苦手なのでお皿を出したりしてました」

 出来ないと認めなかった楓彩。

「助かったよ、ありがとう、鬼月さん」
「………」

 瑛太がお礼を言うと、なぜか楓彩の表情が暗くなる。

「えっと、瑛太さん? 『鬼月さん』っ呼ぶの何か硬い感じで、落ち着かないので『楓彩』って呼んでくれますか?」

 と、小恥ずかしい感じで瑛太に向かって微笑む。

「っ! ……う、うん…分かったよ……か、楓彩…はっ!!」

 その時、瑛太は赤くなっている自分を見ている大人の皆様の生暖かい視線に気づく。

「若いねぇ…瑛太」
「神ちゃん可愛いね…」
「瑛太くん…青いね」
「はっ、平和なクソガキどもだな…」

 
 その後、6人はショウの作戦通り、ショウが昔使っていた武器を取りに行くことに。
 それぞれ、準備を整えると、戸を開けて門の外に出る。
 楓彩はシロンを連れていくか悩んでいたが、よく考えたら危険だと気づき、大人しくしているように言って外に出た。
 平和な朝、しかし、確かに不穏な空気が漂わせる朝だった。


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