生き残りBAD END

とぅるすけ

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第3章「奪還」編

楓彩の中の鬼

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 ──痛い

──お腹が痛い…

──剣得さん…何でこんな酷いこと…

【ほらね? この世界は残酷なんだよ…】

───違う…剣得さんは操られ──

【そう、操られてる、“また”奪われるよ? 大切なもの…】

───やだっ!



 楓彩は全身に痺れが残る中、目を開けて目の前で繰り広げられている剣得と雷を身にまとった瑛太の戦いを見る。

「総督!! 目を覚ましてください!!」

 参戦しようにも、体は思うように動かず、武器となる刀は吹き飛ばされた衝撃で手元に無い。
  否、武器はある、いろは に渡された殺傷能力がある短刀2本。

「……くっ…」

 楓彩は自分が埋まっている壁から抜け出そうと、体を動かす。
 その時、剣得の強烈な右ストレートが瑛太の腹にめり込む。
 その瞬間を楓彩はしっかり見ていた。

「──ごぶっ!!」

 瑛太の体は戦闘実演室の端から端まで飛んでいった。

「えい…たさん…」

【さぁ、“復讐”しよう…あぁ、この際あの切れない刀は要らないや…】

  ───刹那

 楓彩は壁から抜け出し、剣得の頭めがけて鋭い飛び蹴りをかます。
 その飛び蹴りは剣得の左腕前腕で防がれてしまったが、その威力は、凄まじい破裂音、ソニックブームによって時間差で壊れた室内が物語った。

「……」
 
 さらに、刹那、剣得のカウンターよりも楓彩の二撃目の方が速く、飛び蹴りで使った左足とは逆の右足による、回し蹴りは見事、剣得の左頬に直撃する。
 剣得はそのままの姿勢のまま、後ろに吹き飛ぶ。

「はぁ……」

 無我の2人が対立する。

「お、鬼月さん……?」

 瑛太は腹を抑えながら立ち上がり、遠くにいる2人を視野に収める。
 普段の優しい表情を失った楓彩がそこにはいた。
 殺気ばしった禍々しい目線で剣得獲物を睨んでいる。

 そして

 突如、瑛太の視線を振り払うかのように起こった突風は2人の戦況を隠した。
 その突風は一瞬で、すぐに楓彩の右足によるハイキックと剣得の左拳がぶつかっているす姿が露見する。

「なんだよ…これ…」

 瑛太は上体を起こしたまま、目の前で繰り広げられている超人同士の戦いに息を飲んだ。
 正直言って速くて見えない。
 
───刹那

 楓彩の鋭い左回し蹴りが、剣得の脇腹を捉え、剣得の体は遠くの壁にめり込む。

「……(鬼月さん…マジだ…)」

 楓彩は背中に交差して脇腹あたりから出るように納刀してある短刀2本に手をかけ、抜刀する。

「ま、まって…!! 鬼月さん!!」

 その声も届かず。
 楓彩は破裂音とともにその場から姿を消し、壁に埋まっている剣得に突っ込む。

 しかし

 その楓彩の攻撃にも反応できる剣得の動体視力は人類最強を物語っていた。
 剣得はあの一瞬、楓彩の双刃を片方は頭を右に傾けることで避け、もう片方は2本指で刃を止めていた。

「……す、すげぇ…」

 瑛太も、参戦しようと立ち上がるが、刹那の内に2人の姿が消え、目前を鋭い風が通る。

「───っ!!(う、動けねぇ!)」

 硬直状態に陥る瑛太。



 その頃、人道は洗脳した兵士を肉の壁として、 いろは の斬撃、ショウの狙撃から逃げていた。

「クソっ! これではおれの能力が使えない!」
「はっ! いいか、幹哉…要は量より質だ」

 いろは の斬撃とショウの狙撃を洗脳した兵士で防ぐため、数が限られる。
 そして、今まさに、最後の1人がいろは の峰打ちで戦闘不能になった。

「ちっ!」
「さぁ、チェックメイト…」

  いろは は切っ先を人道の顔の前に突き出す。

「ふっ、おれを倒したところで、SABERの進撃は止まらない…」
「そうか、じゃあ死ね」

 その時

『いろは まって!!』

 耳につけていたインカムからショウの声が響く。

「なんだ…妨害が解けたのか、で? なんだ?」
『そいつの目を何かで覆ってから捕虜にしよう』
「わかった、俺よりはSABERの実態に詳しいはずだ」
 
 その後、人道は視界を奪われ、手足を厳重に鎖で拘束された。

「さて、ショウムート…こいつ、どうするんだ?」
『そうだね、楓彩達と合流して預かってもらいな、晴雲の相手は私達でやろう…頼んだよ?』
「わかった…」

 

『わかった…』

 ショウはインカムのスイッチを楓彩に繋げる。

「楓彩?」
『──────』

 聞こえたのはノイズ音。

「?」

 ショウは焦らずに瑛太を呼ぶ。

「瑛太ー?」
『ショ、ショウさん!?』
「あ、繋がった…人道は倒した、楓彩と連絡が取れないんだけど、誰か見つかった?」
『鬼月さんと総督が! …いま、目の前で殺しあって…──プッ』

 ショウは瑛太の言葉を最後まで聞かず、小雨に『狙撃は任せた』と言って、本部へ向かう。



 同時刻、楓彩と剣得はお互いに命を狙いあっていた。
 首を切り落とそうとする、短刀、脳を破壊しに掛かる拳。
 どれも当たれば即死するような攻撃だ。

【そうだ、殺れ…殺れ…殺れ…殺れ──】



  「かえで 達は戦闘実演室か…階を上がってすぐだな…」

 いろは は楓彩たちと合流するため、気絶した人道を方にかかえて走っていた。
 と、その時。

「っ!」

 いろは はその足を止める。
 そして、眼前の暗闇に包まれた廊下の奥底からコツコツと足音を立てて歩み寄ってくる人物。

「そーかそーか、新生G,S,Aを作ろうと働いている最中に来るような酷なやつだったんだな…旦那…いや、クラブ!」

 殺気ばしった目、小雨と、同じ金髪、人道と同じような黒のローブに身を包んだ青年。

「晴雲…(タイミングが悪いな…今は荷物もあるし…)」

 いろは は逃げの一手を選択した。
 瞬時に、テレポートし、晴雲を視界から消した。

「ふぅ、さすがに焦った…」

 その時、異変に気づく。

「?」

 暗がりでよく見えないが、足元が水? のような物で水浸しなのだ。
 暗がりでよく見えないが足を滑らせないように…。

「…っ!!」

 いろは は痛みを感じて初めて気づいた。
 床を濡らしているのは水ではなく 、いろは の脇腹から滴る血液だった。

 「(あの一瞬で…)」

 いろは は人道を下ろし、壁を背もたれにして脱力する。

「はぁ、舐めてたな…」

 ため息をしつつ、いろは は止血を多少の悔恨とともに開始する。



 戦闘実演室は元の姿を留めておらず、巨大な切り傷、巨大なクレーターなどの常人には不可能な破壊跡を作りながら尚、死闘が繰り広げられていた。
 瑛太も尚、硬直状態で2人を見守ることしか出来なかった。

「……」

 ───刹那

 楓彩の体を剣得の強烈な一撃が掠り、大の字で遠くの壁に打ちつけられる。

「あぁっ!!」

 瑛太は力と勇気を込めて、楓彩の元へ駆け寄ろうとする…が。

「な、なんでっ!!」

 足が言うことを聞かない…瑛太の体は完全に恐怖に支配されていたのだ。
 剣得はまだ息をしている楓彩へ歩み寄る。

 その時だった。

「──っ!? こ、ここは…」

 唐突に、剣得の意識が戻る。
 戦闘実演室に居るものは知らないが、今はマインドコントロールの使い手、人道は倒れている。
 倒れてからの時間差があるかは定かではないが、関係はしているだろう。

「か、楓彩なのか…?」

 数メートル先の壁を背に、ぐったりと座っている楓彩を見て、剣得は混乱する。

───刹那

 楓彩は2本の短刀を握り直し、剣得に迫る。
 
「っ!!」

 剣得は左側から迫る短刀を咄嗟に左手の甲で否すが、続く第二撃は反応出来なかった。
 剣得の体から血飛沫が上がる。

「───くっ!!」

 剣得の目に写ったのは宙に舞う、自分の二の腕から先の右腕だった。



 


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