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第6章 頂点に立つ
相反の世界
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その後、楓彩とショウは、授業中の校舎を案内してもらった。
「ここからは、どうか、お静かにお願いします…生徒達が授業をしておりますので」
「「授業??」」
「はい」
「授業」という単語に首を連動しているかのように傾げる楓彩とショウ。
「ショウさんショウさん、『授業』って何ですか?」
楓彩は不思議に思ったのか、ショウの白衣の裾を摘んで引っ張ると問いかける。
「わかんない」
ショウも不思議そうに、そう答えた。
コンクリートに緑色の塗装をされた床の廊下を歩いていると、男性や、女性の声が響いてくる。授業とやらをしているようだ。
通りかかった教室には、黒板側とロッカー側に一つずつドアがあり、幸い、生徒達の目にとまりにくいロッカー側のドアから生徒達を覗くことができた。
中には、学ランの男子生徒と、セーラー服姿の女子生徒が座って、居眠りしてたり、しっかりノートを取っていた。
まぁ、ショウは「何だあの服は…」と思うだけだった。
それに対し、楓彩は目をしっかり開けて、興味津々な様子で見ていた。
その時、
「あっ」
楓彩の視線に気づいたのか、一人の女子生徒がノートから目を離して振り向く。
その女子は少し驚いた様子で、しばらく楓彩を見つめると、近くにいた生徒にも楓彩の存在を知らせると、多くの人が、後ろに振り向くのに、30秒もかからなかった。
「!」
楓彩は、その圧にショウの後ろに、逃げるように隠れた。
「? 楓彩?」
教室はざわつき始めた。
「何? あの人達ー」「転校生!?」「へそだしエッロ!」
特に、思春期男子からのウケが良かった。
ショウも、思春期男子が興奮しているのを見て、少々の興奮を見せるも、楓彩がすっかり怯えきっているので、
「すいません校長、今日はここまでで…」
と、避難要請をする。
その後、楓彩とショウは学校から出て、本部への帰路につく。
「大丈夫? 楓彩?」
「はい…びっくりしました…」
楓彩は、ポケットに入っていた携帯が振動していることに気がつく。
「剣得さんからですね…この緑色の丸いの押せばいいんですよね?」
「うん」
楓彩は画面の応答のアイコンをタップして、両手で携帯を耳元へ持っていく。
「もしも────」
『楓彩ぇぇ!!!! どこ行ってんだぁぁぁ!!!!」
その剣得の怒号に、楓彩は思わず耳から携帯を遠ざける。
「いえ、お散歩に行ってただけですよ?」
『そうか…ショウもいるのか?』
「はい、いますよ?」
剣得は安堵の息を吐くと、
『じゃあ、早めに帰ってこいよ? 今日はやる事があるから』
「はーい」
その後、楓彩とショウは本部に戻ると、剣得達、大人と合流し、総督室に集まった。
「どうしたんですか? 勢揃いで…」
「確かに、大の“大人”がこんなに揃って…」
「「「「うっ」」」」
何か、変なうめき声が聞こえたが、楓彩とショウは気にしなかった。
「ま、まぁ、楓彩? あ、遊びに行かないか?」
「え、えっ!? 今からですか!?」
楓彩は目を見開いて剣得に問いかける。
「おう!」
「…その、仕事は…?」
「大丈夫だ! 何とかなる! それより! 行くぞ!」
「どこへ!? ぜ、全員で!?」
「「「「行こう!!」」」」
状況が掴めない、楓彩とショウ。そして先程から「はぁ」と、呆れている真希菜と彩楓。
どうやら、剣得が率いる、小雨、臨、朝日は楓彩の趣味を把握するための作戦を企てたようだ。
「なんですかね…」
「さ、さぁ…?」
その時、
「さてと、車出せるか? 朝日…もしくは臨…」
「「?」」
剣得は自動車を持っていそうな大人っぽい朝日と臨に訊ねる。が、二人とも渋い顔をする。
「持ってねぇぞ…」
「持ってないです…」
「えっ!?」
どうやら、本部から遠い場所に行きたいようだ、この人数なので、バスに乗るのも癪に障ると思った剣得は自動車での移動を試みたようだが、二人は持っていないようだ。
だとすると、大人っぽくて、車を運転しそうな人物といえば、
「ショ、ショウ?」
「いいけどさ、目的地は?」
剣得はそう言われると、ショウの耳元に顔を近づけ、楓彩に聞こえないように事情を説明する。
「はぁ、分かったよ…(馬鹿なのかな…まぁ、剣得らしいか)」
その後、皆はG,S,A本部の噴水広場に出る。
そこは休憩所として愛用されているが、なぜショウはここに連れてきたのだろうか。
「ショウ?」
「えっと…ここかな?」
ショウは石が積まれて出来ている噴水の石の一つを触れる。
直後、水がホログラム化し、噴水の中に地下へと続く通路が現れる。
「入るよー」
皆は、「なんでぇぇ!!??」という、顔をして、無心になりショウのあとを着いていく。
「なんか、段々、本部がショウに改造されてねーか?」
剣得はそんなことをボヤき、着いていく。
しばらく薄暗い、廊下を歩くと広い場所に出る。依然、暗くて先が見えない。
「あ、電気つけるねー」
ショウがそういった直後、室内は白くライトアップされる。
「「「「「「っ!!」」」」」」
そこには、何種類、何台もの自動車が連なっていた。
「なっ!?」
それから、ショウは何食わぬ顔で、全員が乗れる程の車を用意すると、皆を乗せて走り出した。
その後、皆は夢を見たあとのようにほけーっとしていたが、運転が安定していたことは覚えていた。
程なくして、牧場に到着する。
車から降りると……牧場独特の匂いが漂っていた。それと、牛や、山羊の鳴き声も聞こえてくる。
「う、牛だね…」
「草だ…」
皆が、目の前の牛たちに、色々な意味で白い目を向けている横で、
「わぁぁ!! 牛さんですよ! 牛さん!!」
楓彩は剣得の服を掴んではしゃいでいた。
────喜んでくれてるならいっか…
その後、剣得は牧場の主に許可を得て、楓彩は牧場の動物達と触れ合ったり、乳製品を堪能したわけだが、それを見た大人達は悶絶するか、鼻血を出しながら、「可愛い」の一言で締めた。
────ダメじゃん!!!!
結局、大人達は、楓彩の可愛さに日々の疲れを癒されただけだった。
総督室
楓彩はショウに任せて、そのほかの皆は、総督室に集まり、朝のように座り、作戦会議を開始した。
「ダメじゃないか!!」
「「「おめーの作戦だろ!!」」」
朝日、小雨、彩楓の鋭いツッコミ。
剣得は机に伏せ、
「うぅぅぅがぁぁぁ!!」
と、獣のような呻き声をあげる。
「剣得さん? 楓彩の趣味を掴むのも大事だとは思うんですけど、何で同年代の友達を作ってあげたいんですか?」
臨は素朴な質問をしてくる。
「まぁな、可哀想だろ? なんか、目上の人に囲まれて……」
「じゃあ、楓彩には、オレたちを対等と思って欲しいんですか?」
「んーーー……普段の生活はそう思ってほしいかな…」
「そうですか…オレや、ショウに対して敬語なのは構いませんけど、剣得さんに対しても敬語なのは不思議ですね…何かあるんですか? 過去が…」
その、発言に剣得は「そうだなぁ」と言って、後頭部を掻いた。
「わからないんだよ…楓彩の全てが……いつも何を思って俺と暮らしてきたのか…俺と出会った時に何を思ったのか…」
楓彩と剣得が出会って、10数年、剣得はそんな事を時折思うらしい。
今は亡き剣得の父親、豪永《ごうえい》は元総督を務めていたが、その昔、剣得がまだ、豪永の権力で入隊したばかりの頃、剣得は、割と問題児で、目に止まる全ての人々を救う名目で、部隊の規律を大いに乱し、上官にも逆らう始末だった。
身寄りのないものを連れて来ては、面倒を見て、落ち着く場所一緒に探す日々を過ごしていたある日、元から孤児で、仲間と暮らしていたが、幼くして人生二度目の孤独を味わったショウが、具体例だ。
そんな傷ついたショウの心を剣得は癒した。
普段なら引き取った孤児は整えてから送り出すのだが、ショウは「残る」と言ったので、剣得はショウの意思を尊重し、剣得はショウの好きにさせた。
問題は楓彩だ、これは剣得の感情も混じっている。
似ていた…。
剣得はその頃の、楓彩の乾いた目が自分にすごく似ていることから近親感が湧いたのだろうか。
だが、それを豪永は許さなかった。
何の役にも立たない、ただの娘だ。
だが、剣得は必死に講義した。どうしても、楓彩をそのままには出来なかった。
そうして、長らく続いた講義だが、折れたのは豪永だった。
だが、条件が設けられた。
───お前が、その全ての責任を持て、使えないなら捨てろ。それも責任だ───
この言葉が、楓彩を剣得達の世界へ引き込んだ。
「ここからは、どうか、お静かにお願いします…生徒達が授業をしておりますので」
「「授業??」」
「はい」
「授業」という単語に首を連動しているかのように傾げる楓彩とショウ。
「ショウさんショウさん、『授業』って何ですか?」
楓彩は不思議に思ったのか、ショウの白衣の裾を摘んで引っ張ると問いかける。
「わかんない」
ショウも不思議そうに、そう答えた。
コンクリートに緑色の塗装をされた床の廊下を歩いていると、男性や、女性の声が響いてくる。授業とやらをしているようだ。
通りかかった教室には、黒板側とロッカー側に一つずつドアがあり、幸い、生徒達の目にとまりにくいロッカー側のドアから生徒達を覗くことができた。
中には、学ランの男子生徒と、セーラー服姿の女子生徒が座って、居眠りしてたり、しっかりノートを取っていた。
まぁ、ショウは「何だあの服は…」と思うだけだった。
それに対し、楓彩は目をしっかり開けて、興味津々な様子で見ていた。
その時、
「あっ」
楓彩の視線に気づいたのか、一人の女子生徒がノートから目を離して振り向く。
その女子は少し驚いた様子で、しばらく楓彩を見つめると、近くにいた生徒にも楓彩の存在を知らせると、多くの人が、後ろに振り向くのに、30秒もかからなかった。
「!」
楓彩は、その圧にショウの後ろに、逃げるように隠れた。
「? 楓彩?」
教室はざわつき始めた。
「何? あの人達ー」「転校生!?」「へそだしエッロ!」
特に、思春期男子からのウケが良かった。
ショウも、思春期男子が興奮しているのを見て、少々の興奮を見せるも、楓彩がすっかり怯えきっているので、
「すいません校長、今日はここまでで…」
と、避難要請をする。
その後、楓彩とショウは学校から出て、本部への帰路につく。
「大丈夫? 楓彩?」
「はい…びっくりしました…」
楓彩は、ポケットに入っていた携帯が振動していることに気がつく。
「剣得さんからですね…この緑色の丸いの押せばいいんですよね?」
「うん」
楓彩は画面の応答のアイコンをタップして、両手で携帯を耳元へ持っていく。
「もしも────」
『楓彩ぇぇ!!!! どこ行ってんだぁぁぁ!!!!」
その剣得の怒号に、楓彩は思わず耳から携帯を遠ざける。
「いえ、お散歩に行ってただけですよ?」
『そうか…ショウもいるのか?』
「はい、いますよ?」
剣得は安堵の息を吐くと、
『じゃあ、早めに帰ってこいよ? 今日はやる事があるから』
「はーい」
その後、楓彩とショウは本部に戻ると、剣得達、大人と合流し、総督室に集まった。
「どうしたんですか? 勢揃いで…」
「確かに、大の“大人”がこんなに揃って…」
「「「「うっ」」」」
何か、変なうめき声が聞こえたが、楓彩とショウは気にしなかった。
「ま、まぁ、楓彩? あ、遊びに行かないか?」
「え、えっ!? 今からですか!?」
楓彩は目を見開いて剣得に問いかける。
「おう!」
「…その、仕事は…?」
「大丈夫だ! 何とかなる! それより! 行くぞ!」
「どこへ!? ぜ、全員で!?」
「「「「行こう!!」」」」
状況が掴めない、楓彩とショウ。そして先程から「はぁ」と、呆れている真希菜と彩楓。
どうやら、剣得が率いる、小雨、臨、朝日は楓彩の趣味を把握するための作戦を企てたようだ。
「なんですかね…」
「さ、さぁ…?」
その時、
「さてと、車出せるか? 朝日…もしくは臨…」
「「?」」
剣得は自動車を持っていそうな大人っぽい朝日と臨に訊ねる。が、二人とも渋い顔をする。
「持ってねぇぞ…」
「持ってないです…」
「えっ!?」
どうやら、本部から遠い場所に行きたいようだ、この人数なので、バスに乗るのも癪に障ると思った剣得は自動車での移動を試みたようだが、二人は持っていないようだ。
だとすると、大人っぽくて、車を運転しそうな人物といえば、
「ショ、ショウ?」
「いいけどさ、目的地は?」
剣得はそう言われると、ショウの耳元に顔を近づけ、楓彩に聞こえないように事情を説明する。
「はぁ、分かったよ…(馬鹿なのかな…まぁ、剣得らしいか)」
その後、皆はG,S,A本部の噴水広場に出る。
そこは休憩所として愛用されているが、なぜショウはここに連れてきたのだろうか。
「ショウ?」
「えっと…ここかな?」
ショウは石が積まれて出来ている噴水の石の一つを触れる。
直後、水がホログラム化し、噴水の中に地下へと続く通路が現れる。
「入るよー」
皆は、「なんでぇぇ!!??」という、顔をして、無心になりショウのあとを着いていく。
「なんか、段々、本部がショウに改造されてねーか?」
剣得はそんなことをボヤき、着いていく。
しばらく薄暗い、廊下を歩くと広い場所に出る。依然、暗くて先が見えない。
「あ、電気つけるねー」
ショウがそういった直後、室内は白くライトアップされる。
「「「「「「っ!!」」」」」」
そこには、何種類、何台もの自動車が連なっていた。
「なっ!?」
それから、ショウは何食わぬ顔で、全員が乗れる程の車を用意すると、皆を乗せて走り出した。
その後、皆は夢を見たあとのようにほけーっとしていたが、運転が安定していたことは覚えていた。
程なくして、牧場に到着する。
車から降りると……牧場独特の匂いが漂っていた。それと、牛や、山羊の鳴き声も聞こえてくる。
「う、牛だね…」
「草だ…」
皆が、目の前の牛たちに、色々な意味で白い目を向けている横で、
「わぁぁ!! 牛さんですよ! 牛さん!!」
楓彩は剣得の服を掴んではしゃいでいた。
────喜んでくれてるならいっか…
その後、剣得は牧場の主に許可を得て、楓彩は牧場の動物達と触れ合ったり、乳製品を堪能したわけだが、それを見た大人達は悶絶するか、鼻血を出しながら、「可愛い」の一言で締めた。
────ダメじゃん!!!!
結局、大人達は、楓彩の可愛さに日々の疲れを癒されただけだった。
総督室
楓彩はショウに任せて、そのほかの皆は、総督室に集まり、朝のように座り、作戦会議を開始した。
「ダメじゃないか!!」
「「「おめーの作戦だろ!!」」」
朝日、小雨、彩楓の鋭いツッコミ。
剣得は机に伏せ、
「うぅぅぅがぁぁぁ!!」
と、獣のような呻き声をあげる。
「剣得さん? 楓彩の趣味を掴むのも大事だとは思うんですけど、何で同年代の友達を作ってあげたいんですか?」
臨は素朴な質問をしてくる。
「まぁな、可哀想だろ? なんか、目上の人に囲まれて……」
「じゃあ、楓彩には、オレたちを対等と思って欲しいんですか?」
「んーーー……普段の生活はそう思ってほしいかな…」
「そうですか…オレや、ショウに対して敬語なのは構いませんけど、剣得さんに対しても敬語なのは不思議ですね…何かあるんですか? 過去が…」
その、発言に剣得は「そうだなぁ」と言って、後頭部を掻いた。
「わからないんだよ…楓彩の全てが……いつも何を思って俺と暮らしてきたのか…俺と出会った時に何を思ったのか…」
楓彩と剣得が出会って、10数年、剣得はそんな事を時折思うらしい。
今は亡き剣得の父親、豪永《ごうえい》は元総督を務めていたが、その昔、剣得がまだ、豪永の権力で入隊したばかりの頃、剣得は、割と問題児で、目に止まる全ての人々を救う名目で、部隊の規律を大いに乱し、上官にも逆らう始末だった。
身寄りのないものを連れて来ては、面倒を見て、落ち着く場所一緒に探す日々を過ごしていたある日、元から孤児で、仲間と暮らしていたが、幼くして人生二度目の孤独を味わったショウが、具体例だ。
そんな傷ついたショウの心を剣得は癒した。
普段なら引き取った孤児は整えてから送り出すのだが、ショウは「残る」と言ったので、剣得はショウの意思を尊重し、剣得はショウの好きにさせた。
問題は楓彩だ、これは剣得の感情も混じっている。
似ていた…。
剣得はその頃の、楓彩の乾いた目が自分にすごく似ていることから近親感が湧いたのだろうか。
だが、それを豪永は許さなかった。
何の役にも立たない、ただの娘だ。
だが、剣得は必死に講義した。どうしても、楓彩をそのままには出来なかった。
そうして、長らく続いた講義だが、折れたのは豪永だった。
だが、条件が設けられた。
───お前が、その全ての責任を持て、使えないなら捨てろ。それも責任だ───
この言葉が、楓彩を剣得達の世界へ引き込んだ。
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