114 / 159
第6章 頂点に立つ
消失
しおりを挟む
剣得達が自分たちの家の周辺についた頃には、日は沈む寸前で、空を赤く染めていた。
「はぁ、はぁ…」
剣得と朝日の運動神経が良かったことが救いとなり、日が沈む前に辿り着けそうだ。
しかし、剣得の方は美桜をずっと抱き抱えて走っていたので疲れがピークに達していた。
その時、剣得達の頭上を巨大な鳥の様な生物が飛んでいき、近くのアパートの屋上に避難していた人々を食い荒らし始めた。
「っ…」
しかし、すでに見慣れた光景だ。
ここに来るまでに幾度となく見てきた人が死ぬ瞬間。
中には胸が張り裂けそうになるような喰われ方もあった。
「後ちょっとだ…迂回していこう…」
「くっ…美桜? 歩けるか?」
「…うん…もう大丈夫…」
剣得は美桜を下ろし、美桜の右手を握ると歩き始める。
さらに進んでいくと街は騒然とし、いたるところから悲鳴が聞こえてくる。
その時、剣得達の頭上を軍のヘリや、戦闘機が飛んでいく。
「…剣得…帰ったらどうするんだ?」
「いや、軍に向かう。そこに俺の父親がいるだろ…匿ってもらおう」
爆撃音や、雨のように鳴り響く銃声の中、剣得達3人は海沿いにある軍基地への道を走り始める。
幸い、剣得達のいる場所から見える範囲に軍基地があり、まだ、無事なようだ。
しかし、広く目立つ場所ゆえ、バケモノも集まっていた。
それに、度々聞こえる銃声や爆音も、その方角から聞こえてくる音だ。
軍基地直前、剣得達の周りには同じ考えを持った人々で溢れかえっており、あっという間に身動きが取れない状況になってしまった。
「っ!!」
「おい! 押すな!!」
剣得は美桜の手を強く握りしめて、離さないようにし、人の波の向こう側にいる朝日もしっかり見ていた。
「ちっ…このままじゃ───」
剣得が試行錯誤していたその時、剣得の後ろの方から悲鳴とバケモノの鳴き声が響く。
剣得は振り返らずに、美桜の手を強く引き、人混みから引っ張り出すと、朝日の後ろ襟を掴んで人混みを強引に進んでいく。
「っ!? 剣得!?」
「はやくん! い、痛い!!」
「───」
人混みを抜け、軍機地に入ると、滑走路を疾走し、軍人の静止の命令を無視して建物に近づいていく。
その時。
「───っ!!」
一発の銃声。
「止まれ!!」
その声に、剣得は我に帰り足を止める。
「貴様…何者だ…!」
あっという間に緑色の迷彩服を着た隊員達に取り囲まれてしまった。
それぞれ、拳銃やアサルトライフルをこちらに向けている。
「…錯乱した市民が基地に侵入…」
「戻れ!」
「「「っ!?」」」
変な行動を取れば撃たれるだろう。
剣得は右腕にしがみつく美桜と、唖然としている朝日を見て、2人を救う方法を模索した。
───戻れは死ぬ
───行っても死ぬ
───なら…戦うしか…
「何をしている! 早く戻れ!」
兵隊が拳銃を構えて歩み寄ってきた。次の瞬間。
鳥と犬の鳴き声を混ぜたような鳴き声が響くと隊員たちの外側をバケモノが囲むように降り立って来た。
見た目はバラバラで、鳩と犬を混ぜたような見た目の様な生物や、コウモリと犬など。
共通するのは翼があるという点だけ。
「しまった! 撃て!!」
隊員達の注意が外側のバケモノへ向いたその隙を剣得は見逃さなかった。
美桜の右腕を握りしめ、朝日の左腕を取るとレーシングカー顔負けのスピードで建物まで一気に駆け抜ける。
それを追いかけようとした隊員達が次々と食われていく。
そして、剣得の前に立ちはだかったバケモノを剣得は
「───どけぇぇぇ!!!!」
渾身の飛び蹴りで、粉砕していく。
やっとの思いで、窓ガラスを突き破り、軍基地の中に入ることが出来た。
しかし、そこでも、銃を持った人々に取り囲まれてしまう。
「動くな!」
「っ!!」
剣得は身構え、周りの人々を睨みつける。
その時、
「銃を下ろせ…」
隊員達の後ろから金髪の中年男性。剣得によく似ている男性。
剣得の父親、王志 豪永が歩いてくる。
「お、親父…」
「お前ら、そこの3人と、外の市民を船に乗せ、セラフィスへ向え」
「はっ!」
隊員達は敬礼をすると、その場から離散した。
外からは依然として銃声が聞こえてくる。
「……剣得…無事だったか…」
「……」
「その2人は、船に乗れ、お前は俺と来い」
「「「っ!?」」」
豪永のその言葉に美桜と朝日は目を見開き、立ち上がる。
「まっ、待ってください!! 剣得を連れていくんですか!?」
「あぁ、君は凍海さんの家の子か、あぁ、貴重な戦力だ」
「そ、そんな…」
朝日は剣得の肩を掴み、
「お、お前はどうするんだよ…剣得…」
「……そうだな…これは俺に出来ることなのかもしれない…俺は行くよ…」
「やだよ!!」
突然、美桜は叫ぶ。
「やだよ! はやくんと離れたくない!!」
「美桜…」
美桜は強く剣得に抱きつく。
「朝日…美桜を頼む…」
「剣得…それでいいのか…」
「あぁ、俺は死なねぇよ…」
剣得は美桜の頭を優しく撫でる。
その後、朝日と美桜は軍の支持に従い船に乗せられると、他の市民達と共にセラフィスへの航海を始めた。
「あっくん…」
「大丈夫だ…剣得は…」
波に揺られる暗い船内は先程とは違って静かだった。
その時、朝日は甲板、上の方から何やら騒がしさを感じる。
「?」
「? あっくん?」
「美桜──」
次の瞬間、船内は大きく揺れる。
続いて銃声と悲鳴が鳴り響き騒然とする。
朝日はもしやと思い、美桜の右手を引いて出口の近くに行く。
「美桜! 掴まれ!」
「!!」
朝日は慌てて外に出ると、イカのゲソのようなものが船の周りを囲んでいた。
「っ!!」
「さ、下がってください!!」
アサルトライフルを持った隊員達がパニックに陥った市民たちを中へ押し戻してくる。
「くっ!」
「下がってくだ───うっ!? うわぁぁぁぁあ!!!!」
朝日の目の前を塞いでいた隊員が巨大なゲソに巻き付かれ、あっという間に海に消えていった。
さらに、周りをよく見るといくつもの白く巨大なゲソが甲板に居た人々を海へ引きずり込んでいく。
「────くっ!」
その時、朝日の右足しが強く引っ張られ、状況を把握する前に朝日の体は宙吊りになった。
「──うわぁぁ!?」
そして、振り回されたあと、海に引きずり込まれる。
朝日は咄嗟に、全身から冷気を放出する。
その冷気は海を一瞬にして凍らせ、ゲソの動きも止まる。
「ぷはぁ!」
朝日は水面に顔を出し、船の方を見る。
辺りには冷気のせいで濃い霧がたっており、うっすらとしか船の位置を確認出来なかった。
位置としては割と近く、朝日は海に厚い氷を張り巡らせ足場を作ると、這い上がり歩いて船へ向かう。
その後、朝日は軍の人に事情を説明し、能力での移動を任された。
しかし、朝日が出した条件として美桜は朝日の近くに置くことにした。
セラフィスまであと1km、大勢の人々は暗闇の中、朝日が作り出した氷の上を身震いしながら歩き、軍の護衛もあり、順調だった。
目指できる距離にセラフィスの放つきらびやかな光。
否、それはマズルフラッシュだろう。
度々、銃声が聞こえてくる。
1歩ずつ、確実に進んでいく。
「美桜?」
「……」
美桜の表情から疲れが見て取れた。
「まて、止まれ…前方からなにか来る」
隊員のひとりが、朝日を呼び止めた。
その言葉通り、前方から波がこちらに向かっているのがわかる。
「(明かりを消せ…止まれ)」
隊員は後方の市民を側近をしている隊員達にモールス信号を送る。
その後、「(了解)」 と、返事が帰ってるくる。
明かりは消え、氷の下を何かが通っていくのを静かに待った。
「クジラ……か」
朝日が接近していた生物の招待を確認した次の瞬間。
「っ!!」
朝日達を巨大な光が照らす。
明かりの方向には巨大な軍用艦が接近していた。
「はっ…はやく……ん…?」
朝日の服を掴んでいた美桜はその方向に歩き始める。
朝日もそれに釣られるように美桜の先に足場を作っていく。
「美桜! 朝日!!」
緑色の迷彩服を着た剣得は相当な高さから飛び降り、それに合わせて朝日は足場を作っていく。
「はやくん!!」
美桜と剣得は冷たい氷の上で熱く抱き合った。
「…よかった! 船が沈没しているのを発見した時は心臓が止まりかけたぞ!」
「うぇぇぇん…!」
その後、皆は軍用艦に乗り、剣得、美桜、朝日は甲板で再会の感動に浸っていた。
「いや、本当に生きててよかったよ…お前ら…」
「死ぬかと思ったけどな」
「朝日…本当にありがとう…美桜を助けてくれて…」
「なに、当たり前のことだろ?」
「あっくん、かっこよかったよー」
朝日は少し、照れる素振りを見せるが、咳払いをして口笛を始める。
「ん? まて…なんだあれ…」
剣得が、少し海の方を眺めていると何かの影を見つける。
暗い海にうっすらと影を浮かばせる巨人のような物。
「なに? はやくん…?」
「なんだよ! またかよ!」
その姿を辛うじて見えた美桜と朝日も、その巨大な影に目を丸くする。
続いて周りの人達もその存在に気づく。
「おい! なんだよあれ!」
「何あれ!」
「でかいぞ!」
近くにいた隊員達は行動に移り、その巨体を避けるようにセラフィスへの接近を余儀なくした。
その時だった。
船が大きく揺れ、剣得達も体制を崩す。
セラフィス目前。
目の前には過去最大の敵。
そんな状況下、事件は起こってしまった。
剣得がそのバケモノに気を取られていた瞬間、鳥型のバケモノ数匹がが、美桜と朝日を含め、大量の人をさらっていく。
「────」
───美桜!! 朝日!!
剣得は船の一番高いところまで上り、全力のジャンプで、近くにいた一体目を飛び蹴りで粉砕すると、その個体を踏み台に朝日を捉えている個体に近づく。
「───返せ!」
剣得の渾身のパンチはバケモノの頭部を簡単に吹き飛ばした。
開放された朝日は下に向かっていた長い氷を張り、落下を阻止して剣得の新たな足場を作る。
「いけ!! 剣得!!」
「美桜ぁぁあ!!!!」
剣得のかかと落としは見事命中。
後は美桜をキャッチするだけ───
「───くっ!」
剣得を他のバケモノが掴み、自由を奪われる。
「朝日!!」
朝日を見るが朝日も他のバケモノに襲われ、身動きが取れない状況にあった。
「──クソっ!!」
剣得は最後の力を振り絞りバケモノの足を引きちぎると体を畳んで落ちていく美桜を追いかける。
「────とどけぇぇぇ!!!! ────」
────? あぁ、これが走馬灯か…
気がつけば剣得の目の前は空色の氷に覆われ、身動きが取れない状況にあった。
────あの時、俺が美桜の手を取っていれば…。あの時俺に力があれば…
────美桜は救えた
────そして今も、俺が非力だから…お前《朝日》という大事な友も失いかけてる
────ごめん…朝日…美桜…
「ボス…G,S,Aを完全に制圧しました」
「分かった…」
巨大な氷山に飲み込まれたG,S,A本部の建物は武闘派集団SABERによって占拠された。
朝日はその中心、総督室の辺りに陣取って氷漬けになった剣得を見ていた。
「俺は変えてやるよ…お前を…」
────刹那
剣得は氷の中から飛び出し、朝日の右頬にストレートを軽くかます。
それでも朝日の体は吹き飛び近くの氷壁に背中を打ち付けた。
その後、近くにいたSABERの隊員を手荒く手刀で気絶させる。
「っ!!」
「俺は死なねぇよ…朝日…」
燃え盛る剣得の体。
朝日が目にしたのは友の涙だった。
「はぁ、はぁ…」
剣得と朝日の運動神経が良かったことが救いとなり、日が沈む前に辿り着けそうだ。
しかし、剣得の方は美桜をずっと抱き抱えて走っていたので疲れがピークに達していた。
その時、剣得達の頭上を巨大な鳥の様な生物が飛んでいき、近くのアパートの屋上に避難していた人々を食い荒らし始めた。
「っ…」
しかし、すでに見慣れた光景だ。
ここに来るまでに幾度となく見てきた人が死ぬ瞬間。
中には胸が張り裂けそうになるような喰われ方もあった。
「後ちょっとだ…迂回していこう…」
「くっ…美桜? 歩けるか?」
「…うん…もう大丈夫…」
剣得は美桜を下ろし、美桜の右手を握ると歩き始める。
さらに進んでいくと街は騒然とし、いたるところから悲鳴が聞こえてくる。
その時、剣得達の頭上を軍のヘリや、戦闘機が飛んでいく。
「…剣得…帰ったらどうするんだ?」
「いや、軍に向かう。そこに俺の父親がいるだろ…匿ってもらおう」
爆撃音や、雨のように鳴り響く銃声の中、剣得達3人は海沿いにある軍基地への道を走り始める。
幸い、剣得達のいる場所から見える範囲に軍基地があり、まだ、無事なようだ。
しかし、広く目立つ場所ゆえ、バケモノも集まっていた。
それに、度々聞こえる銃声や爆音も、その方角から聞こえてくる音だ。
軍基地直前、剣得達の周りには同じ考えを持った人々で溢れかえっており、あっという間に身動きが取れない状況になってしまった。
「っ!!」
「おい! 押すな!!」
剣得は美桜の手を強く握りしめて、離さないようにし、人の波の向こう側にいる朝日もしっかり見ていた。
「ちっ…このままじゃ───」
剣得が試行錯誤していたその時、剣得の後ろの方から悲鳴とバケモノの鳴き声が響く。
剣得は振り返らずに、美桜の手を強く引き、人混みから引っ張り出すと、朝日の後ろ襟を掴んで人混みを強引に進んでいく。
「っ!? 剣得!?」
「はやくん! い、痛い!!」
「───」
人混みを抜け、軍機地に入ると、滑走路を疾走し、軍人の静止の命令を無視して建物に近づいていく。
その時。
「───っ!!」
一発の銃声。
「止まれ!!」
その声に、剣得は我に帰り足を止める。
「貴様…何者だ…!」
あっという間に緑色の迷彩服を着た隊員達に取り囲まれてしまった。
それぞれ、拳銃やアサルトライフルをこちらに向けている。
「…錯乱した市民が基地に侵入…」
「戻れ!」
「「「っ!?」」」
変な行動を取れば撃たれるだろう。
剣得は右腕にしがみつく美桜と、唖然としている朝日を見て、2人を救う方法を模索した。
───戻れは死ぬ
───行っても死ぬ
───なら…戦うしか…
「何をしている! 早く戻れ!」
兵隊が拳銃を構えて歩み寄ってきた。次の瞬間。
鳥と犬の鳴き声を混ぜたような鳴き声が響くと隊員たちの外側をバケモノが囲むように降り立って来た。
見た目はバラバラで、鳩と犬を混ぜたような見た目の様な生物や、コウモリと犬など。
共通するのは翼があるという点だけ。
「しまった! 撃て!!」
隊員達の注意が外側のバケモノへ向いたその隙を剣得は見逃さなかった。
美桜の右腕を握りしめ、朝日の左腕を取るとレーシングカー顔負けのスピードで建物まで一気に駆け抜ける。
それを追いかけようとした隊員達が次々と食われていく。
そして、剣得の前に立ちはだかったバケモノを剣得は
「───どけぇぇぇ!!!!」
渾身の飛び蹴りで、粉砕していく。
やっとの思いで、窓ガラスを突き破り、軍基地の中に入ることが出来た。
しかし、そこでも、銃を持った人々に取り囲まれてしまう。
「動くな!」
「っ!!」
剣得は身構え、周りの人々を睨みつける。
その時、
「銃を下ろせ…」
隊員達の後ろから金髪の中年男性。剣得によく似ている男性。
剣得の父親、王志 豪永が歩いてくる。
「お、親父…」
「お前ら、そこの3人と、外の市民を船に乗せ、セラフィスへ向え」
「はっ!」
隊員達は敬礼をすると、その場から離散した。
外からは依然として銃声が聞こえてくる。
「……剣得…無事だったか…」
「……」
「その2人は、船に乗れ、お前は俺と来い」
「「「っ!?」」」
豪永のその言葉に美桜と朝日は目を見開き、立ち上がる。
「まっ、待ってください!! 剣得を連れていくんですか!?」
「あぁ、君は凍海さんの家の子か、あぁ、貴重な戦力だ」
「そ、そんな…」
朝日は剣得の肩を掴み、
「お、お前はどうするんだよ…剣得…」
「……そうだな…これは俺に出来ることなのかもしれない…俺は行くよ…」
「やだよ!!」
突然、美桜は叫ぶ。
「やだよ! はやくんと離れたくない!!」
「美桜…」
美桜は強く剣得に抱きつく。
「朝日…美桜を頼む…」
「剣得…それでいいのか…」
「あぁ、俺は死なねぇよ…」
剣得は美桜の頭を優しく撫でる。
その後、朝日と美桜は軍の支持に従い船に乗せられると、他の市民達と共にセラフィスへの航海を始めた。
「あっくん…」
「大丈夫だ…剣得は…」
波に揺られる暗い船内は先程とは違って静かだった。
その時、朝日は甲板、上の方から何やら騒がしさを感じる。
「?」
「? あっくん?」
「美桜──」
次の瞬間、船内は大きく揺れる。
続いて銃声と悲鳴が鳴り響き騒然とする。
朝日はもしやと思い、美桜の右手を引いて出口の近くに行く。
「美桜! 掴まれ!」
「!!」
朝日は慌てて外に出ると、イカのゲソのようなものが船の周りを囲んでいた。
「っ!!」
「さ、下がってください!!」
アサルトライフルを持った隊員達がパニックに陥った市民たちを中へ押し戻してくる。
「くっ!」
「下がってくだ───うっ!? うわぁぁぁぁあ!!!!」
朝日の目の前を塞いでいた隊員が巨大なゲソに巻き付かれ、あっという間に海に消えていった。
さらに、周りをよく見るといくつもの白く巨大なゲソが甲板に居た人々を海へ引きずり込んでいく。
「────くっ!」
その時、朝日の右足しが強く引っ張られ、状況を把握する前に朝日の体は宙吊りになった。
「──うわぁぁ!?」
そして、振り回されたあと、海に引きずり込まれる。
朝日は咄嗟に、全身から冷気を放出する。
その冷気は海を一瞬にして凍らせ、ゲソの動きも止まる。
「ぷはぁ!」
朝日は水面に顔を出し、船の方を見る。
辺りには冷気のせいで濃い霧がたっており、うっすらとしか船の位置を確認出来なかった。
位置としては割と近く、朝日は海に厚い氷を張り巡らせ足場を作ると、這い上がり歩いて船へ向かう。
その後、朝日は軍の人に事情を説明し、能力での移動を任された。
しかし、朝日が出した条件として美桜は朝日の近くに置くことにした。
セラフィスまであと1km、大勢の人々は暗闇の中、朝日が作り出した氷の上を身震いしながら歩き、軍の護衛もあり、順調だった。
目指できる距離にセラフィスの放つきらびやかな光。
否、それはマズルフラッシュだろう。
度々、銃声が聞こえてくる。
1歩ずつ、確実に進んでいく。
「美桜?」
「……」
美桜の表情から疲れが見て取れた。
「まて、止まれ…前方からなにか来る」
隊員のひとりが、朝日を呼び止めた。
その言葉通り、前方から波がこちらに向かっているのがわかる。
「(明かりを消せ…止まれ)」
隊員は後方の市民を側近をしている隊員達にモールス信号を送る。
その後、「(了解)」 と、返事が帰ってるくる。
明かりは消え、氷の下を何かが通っていくのを静かに待った。
「クジラ……か」
朝日が接近していた生物の招待を確認した次の瞬間。
「っ!!」
朝日達を巨大な光が照らす。
明かりの方向には巨大な軍用艦が接近していた。
「はっ…はやく……ん…?」
朝日の服を掴んでいた美桜はその方向に歩き始める。
朝日もそれに釣られるように美桜の先に足場を作っていく。
「美桜! 朝日!!」
緑色の迷彩服を着た剣得は相当な高さから飛び降り、それに合わせて朝日は足場を作っていく。
「はやくん!!」
美桜と剣得は冷たい氷の上で熱く抱き合った。
「…よかった! 船が沈没しているのを発見した時は心臓が止まりかけたぞ!」
「うぇぇぇん…!」
その後、皆は軍用艦に乗り、剣得、美桜、朝日は甲板で再会の感動に浸っていた。
「いや、本当に生きててよかったよ…お前ら…」
「死ぬかと思ったけどな」
「朝日…本当にありがとう…美桜を助けてくれて…」
「なに、当たり前のことだろ?」
「あっくん、かっこよかったよー」
朝日は少し、照れる素振りを見せるが、咳払いをして口笛を始める。
「ん? まて…なんだあれ…」
剣得が、少し海の方を眺めていると何かの影を見つける。
暗い海にうっすらと影を浮かばせる巨人のような物。
「なに? はやくん…?」
「なんだよ! またかよ!」
その姿を辛うじて見えた美桜と朝日も、その巨大な影に目を丸くする。
続いて周りの人達もその存在に気づく。
「おい! なんだよあれ!」
「何あれ!」
「でかいぞ!」
近くにいた隊員達は行動に移り、その巨体を避けるようにセラフィスへの接近を余儀なくした。
その時だった。
船が大きく揺れ、剣得達も体制を崩す。
セラフィス目前。
目の前には過去最大の敵。
そんな状況下、事件は起こってしまった。
剣得がそのバケモノに気を取られていた瞬間、鳥型のバケモノ数匹がが、美桜と朝日を含め、大量の人をさらっていく。
「────」
───美桜!! 朝日!!
剣得は船の一番高いところまで上り、全力のジャンプで、近くにいた一体目を飛び蹴りで粉砕すると、その個体を踏み台に朝日を捉えている個体に近づく。
「───返せ!」
剣得の渾身のパンチはバケモノの頭部を簡単に吹き飛ばした。
開放された朝日は下に向かっていた長い氷を張り、落下を阻止して剣得の新たな足場を作る。
「いけ!! 剣得!!」
「美桜ぁぁあ!!!!」
剣得のかかと落としは見事命中。
後は美桜をキャッチするだけ───
「───くっ!」
剣得を他のバケモノが掴み、自由を奪われる。
「朝日!!」
朝日を見るが朝日も他のバケモノに襲われ、身動きが取れない状況にあった。
「──クソっ!!」
剣得は最後の力を振り絞りバケモノの足を引きちぎると体を畳んで落ちていく美桜を追いかける。
「────とどけぇぇぇ!!!! ────」
────? あぁ、これが走馬灯か…
気がつけば剣得の目の前は空色の氷に覆われ、身動きが取れない状況にあった。
────あの時、俺が美桜の手を取っていれば…。あの時俺に力があれば…
────美桜は救えた
────そして今も、俺が非力だから…お前《朝日》という大事な友も失いかけてる
────ごめん…朝日…美桜…
「ボス…G,S,Aを完全に制圧しました」
「分かった…」
巨大な氷山に飲み込まれたG,S,A本部の建物は武闘派集団SABERによって占拠された。
朝日はその中心、総督室の辺りに陣取って氷漬けになった剣得を見ていた。
「俺は変えてやるよ…お前を…」
────刹那
剣得は氷の中から飛び出し、朝日の右頬にストレートを軽くかます。
それでも朝日の体は吹き飛び近くの氷壁に背中を打ち付けた。
その後、近くにいたSABERの隊員を手荒く手刀で気絶させる。
「っ!!」
「俺は死なねぇよ…朝日…」
燃え盛る剣得の体。
朝日が目にしたのは友の涙だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】瑠璃色の薬草師
シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。
絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。
持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。
しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。
これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。
【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-
いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、
見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。
そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。
泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。
やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。
臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。
ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。
彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。
けれど正人は誓う。
――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。
――ここは、家族の居場所だ。
癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、
命を守り、日々を紡ぎ、
“人と魔物が共に生きる未来”を探していく。
◇
🐉 癒やしと涙と、もふもふと。
――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。
――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。
古嶺こいし
ファンタジー
異世界に神隠しに遭い、そのまま10年以上過ごした主人公、北城辰也はある日突然パーティーメンバーから『盾しか能がないおっさんは使えない』という理由で突然解雇されてしまう。勝手に冒険者資格も剥奪され、しかも家まで壊されて居場所を完全に失ってしまった。
頼りもない孤独な主人公はこれからどうしようと海辺で黄昏ていると、海に女の子が浮かんでいるのを発見する。
「うおおおおお!!??」
慌てて救助したことによって、北城辰也の物語が幕を開けたのだった。
基本出来上がり投稿となります!
【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる