生き残りBAD END

とぅるすけ

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終章

来訪者

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 翌朝、皆はいつもの様に素朴な食材で作られたご馳走を囲んでいた。

「すごいな…やっぱ…」

「むぅー聞き飽きたぞぉ…」

 花麗も皆のリアクションに飽き始めていた。

「さてと…今日はいつも通り、見回りと食材調達、装備の整え…今日も働こう!」
  
 ショウの号令で、各々が仕事を始めるために、立ち上がっていく。
 楓彩と瑛太、花麗は朝食の片付けと皆の布団の片付けに中った。

「じゃあ布団を片付けてくるよ」

「分かりました、花麗さん? 食器を持っていきますね?」

「うむ! 助かる!」

 
 

 その後、楓彩と瑛太は家事を終え、家から半径1kmの範囲で食料を漁りに家を出た。
 花麗はと言うと、農業の手入れをすると言って、家に残った。

「さてと、今日はどこを回ろうか」

 瑛太はバツ印が所々に書かれた地図を広げて楓彩にも見えるように体を傾ける。
 楓彩の首から下げられているネックレス。楓彩が剣得にプレゼントしたものだ。

「そうですね…」

「……東区の方角はまだ漁ってないところがあるからそこに行こう」

「はい」



  その後2人は東区の商店街に訪れた。

「懐かしいです…」

 そこは以前、楓彩が剣得と暮らしていたアパートの近くにある商店街で知り合いも多く通っていた。

「そうか、鬼月さんの家…ここから近くだもんね」

「はい…」

「じゃあ、帰りに寄っていく? 色々必要品とか持って帰ろう」

「はい…」

 楓彩の前で、過去を振り返るような言動は禁物。
 瑛太はそう思ったが、逆に忘れさせるのも気が引ける。
 楓彩も忘れたくはないだろう。剣得との思い出を、暮らしていた時の思いを。

「無理に行かなくてもいいんだよ?」

「大丈夫です…私も…用がありますから」

 公道を歩いていても、半年間整備されていない道路の亀裂や、カビがかった建物が、その島のゴーストタウン感を醸し出していた。
  賑やかだった人並みはもう無い。
 この島にいる人間は自分達だけなのだと改めて実感する瑛太と楓彩。

「この店も…全部ダメか…」

「そうですね…」

「ここ一帯でもう11軒目だ…せめて非常食だけでも…」

「日用品は余ってますね、これだけでも貰っていきましょう」

 と、楓彩はトイレットペーパーやティッシュなどと言った日用品をかき集めだした。
 すると、おもむろにポケットから小さいキューブを取り出す。

「ん? 鬼月さんなにそれ」

「あぁ、ショウさんが「いつも重そうだからこれを持っていきな」って…くれました」

「どう使うの?」

「多分このボタンを押すんだと…」

 楓彩はそのキューブに付いているボタンを押す。
 次の瞬間、そのキューブは瞬時に展開し、あっという間に体積が何10倍もの大きさになった。

「す、すごい…」

「わぁ…!」

 その箱の蓋を開けると、中には紙が1枚入っていた。
 瑛太はその紙を拾い上げて、書かれているショウの手書きの文字を読み上げる。

『ショウちゃんお手製! 物質圧縮装置! これで手持ちはらくらく! ワンプッシュで簡単! おバカさんでも扱えます!』

「な、舐めてる…」

「ま、まぁ、簡単なのはいい事です…!」

 その後、2人はその箱をありがたく活用し、大荷物を楽に持ち運ぶことが出来た。

 そして訪れた剣得の家。

「鬼月さん、鍵とかは?」

「あ……」

「はぁ…ちょっと待ってて」

 瑛太は鍵穴に手をかざし、黒い髪の毛を逆立てた。
 すると、次々と解錠音が響く。
 どうやら瑛太の能力、R《ライトニング》の電気エネルギーが生み出した強力な電磁力だろう。

「すごい」

「うん…何かと便利でしょ?」

 と、楓彩が中に入ろうとドアノブに手を近づけた瞬間。

───バチッ!!

「きゃあ!!」

「うわっ! ごめん! 鬼月さん!」

 楓彩はその場に尻もちを着いてしまった。
 瑛太は自分が楓彩を立ち上がらせようにも、自身の体が帯電していることに気がつき、手を引っ込める。

「ふぇぇ……」

「ごめん! 鬼月さん! 大丈夫?」

「え、えへへ…ちょっと痛かったです」

 と、楓彩はフラフラした様子で立ち上がり、体制を立て直すために瑛太の方に触れる。

────バチッ!!

「───きゃあ!!!!」

「わぁぁ!! ごめん!! 鬼月さん!!」




 2人は元々汚かったがさらに汚くなった物置部屋を物色していた。

「すごいな…汚い」

「そうですね…掃除したくなります…」

 ホコリが立ち込める部屋はダンボールの山が出来上がっており、楓彩も入ったことが少ないので部屋の中に何があるかはよく知らない。

 2人はまず、ダンボールを部屋からだし、整理から始めた。
 楓彩は二つ目のキューブを用意し、自分の衣服や、思い出の写真、剣得が大切にしていた物を詰め込む。

────懐かしい

────これ小さい時の私です

────こんなに身長差があったんですね…

────……あれ? この…背の高い金髪の男の人…剣…得さ…ん? 

────あれ? 剣得さん? …剣得さん…ですよね……はやと…はやと……



「鬼月さん…?」

「…なんですか?」

 瑛太は下を向いて作業を進める楓彩の異変に気が付き、呼び止める。

「…大丈夫? 泣いてるけど…」

「え…?」

 楓彩の両頬を伝う涙。
 楓彩は急いで涙を拭いた。

「ど、どうして!」

「………鬼月さん…」

「うぐっ……う、うぅぅ…」

 瑛太は楓彩の心を気遣い、家から出ることにする。

「落ち着いた?」

 瑛太はしゃがみこむ楓彩の背中をさすっていた。

「…はい…すみません…」

「今日はもう帰ろう?」

 楓彩は小さく頷いて立ち上がった。
 その時

「っ!」

 瑛太は楓彩に強く右手を握りしめられた。

「ごめんなさい…こうさせてください…」

 必死に瑛太の手にしがみつく楓彩の弱々しい左手。

「うん…」



「いやー…ラブラブだねーー…?」


「「っ!!」」

 アパートを出てすぐ、道の曲がり角から防弾チョッキに身を包んだヘルメットで顔が隠れた男が現れる。

「何者だ!」

「いやはや、まさかそんなにラブラブだとは……───殺し甲斐があるね」

「───はっ! 鬼月さん!! 下がっ───」

─────刹那

 瑛太の腹部に男のミドルキックが直撃する。

「───かはっ!!」

「──瑛太さん!! …っ!」

 楓彩が瑛太を追いかけようとした瞬間。

「きゅっ!! ぐっ!!」

 首を掴み上げられてしまう。

「あーあ、美人薄命とはこの事か…」

「ぐっ! かはっ…く…る…じ…」

「鬼月さんを離せぇぇ!!」

 瑛太は男に向けて突進し、電気を帯びた右手で殴りかかろうとした。
 が、

「あっそーれ!」 

 男は楓彩を瑛太に投げつけてくる。

「きゃあ!」

「ぐわっ!!」

 瑛太は尻もちをつきながらも楓彩を受け止める。

「お、鬼月さん! 大丈夫!?」

「ゴホッ! ゲホッ!! だ…大丈夫です…!」

 2人は体勢を立て直し、構える。

「鬼月さん! 武器は!」

「ごめんなさい! 持ってないです!」

「じゃあ…鬼月さんは下がってて…他に敵がいるかもしれない…俺から離れないでね!」

「はい!」

「………話し合いは終わった?」

 男はこちらを向き、おもむろにヘルメットを脱ぐ。

「ぷはぁ! やっぱ、このヘルメット嫌いだ…」

 茶髪の目が笑っている様に細い優男風の男性。

「お前は…!」

「あぁ、名乗る前に蹴っちゃってごめん! 俺はケルト……。ケルト・ローレンスだ対能力者の能力者だ」

「まさか…ハワイ島の…」

「あぁ…そうだね…君は…電気使いかい?」

「……」

「まぁ、僕の能力は教えても対策のしようがないから教えておくけど、異端殺し《タブーキラー》…その名の通りさ、君らのような人外を駆逐するために生み出された対能力者用の能力者さ」

「くっ!」

「ん? そちらのお嬢さんは能力無しかい? ……あ、あぁぁぁ!!」

 男は楓彩の顔を見るなり楓彩を指さして叫び出す。

「僕の能力が反応した! 君は生存者《サバイバー》か!!」

「な、なに!? なぜ分かる!」

「能力のおかげさ…。まさか…こんな所に棘の使の者がいるとは……」 

「「……?」」

「知らないか…そうかそうか…君たちに教えてあげるよこの世界の真実を」


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