生き残りBAD END

とぅるすけ

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終章

それでも光る

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 ────じゃあな…鬼月さん…

────瑛太さん…! 行かないでください!

────俺じゃお前を守れない…。大丈夫…お前を守ってくれる人は必ずいるから……

────瑛太さん!!



「───はっ!!」
 
 楓彩は深夜に目を覚ます。
 
「はぁ…はぁ…ん? ショウ…さん…?」

 楓彩の隣には添い寝をしているショウの姿があった。
 
「……おしっこ…」

 楓彩はショウを起こさないように静かに立ち上がり、部屋を出た。

 楓彩は月明かりが差し込むトイレまで続く開放感のある縁側に差し掛かった時、

「ん?」

「あっ…真希菜さん…」

 廊下の影から水色の浴衣姿の真希菜が歩いてくる。

「鬼月さん…どうしました? こんな夜更けに」

「いえ…おしっこに行こうと思いまして…」

「そうですか…お邪魔をしましたね…どうぞ…」

 真希菜は楓彩の右側を歩いていこうとした。

「あ、あの…真希菜さん?」

「なんでしょう?」

「少し…お話をしたいのでここで待っててくれませんか?」

「分かりました」



 数分後、2人は月明かりが差し込む縁側に並んで座っていた。

「夜の空…見るの初めてです…私…」

「そうですか…自分も何だか久しぶりな気がします…鬼月さんはこうやって夜更しをするのは初めてなんですか? 自分は睡眠を必要としないので夜、こうやって皆さんが寝静まった後、見回りをしているのですが…」

「そうですね…私、何故か夜になると眠くなってしまって、気がついたら朝になっていますね…」

 おそらく確時睡眠症の事だろう。
 
「規則正しい生活を送っていたんですね…」

「そうですか? えへへ…」

 楓彩は少し照れて口角を上げる。
 すると、上に大きく伸び、夜風を感じる。

「…んっ……風が気持ちいですね!」

「そうですね…今日は比較的低い気温です…で? 話とは?」

「……はい…その…瑛太さんは…」

 楓彩は少し俯いて真希菜の質問に答える。

「神ヶ丘さんは…今のところ行方が分かりません…安全な区域の外に出たとは考えにくいのですが、区域内に彼の姿が見当たらずにいます…」

「……そうですか……。私…ここで何ができているんでしょうか…」

「ん? 何ができている? とは…」

 楓彩の声のトーンが明らかに先程から下がっているのに真希菜は気づいた。

「皆さんの役に立てているのでしょうか…。私…どちらかと言うと迷惑しかかけていなんじゃないでしょうか…」

「……」

「花麗さんがいなくなって…瑛太さんが落ち込んでいる時に…何かかける言葉がもっと他にあったんじゃないでしょうか…元気づけることが出来たんじゃないでしょうか…」

 楓彩の声に震えが混じり始めた。

「鬼月さん…」

「私このまま何も出来ないんでしょうか…」

 その時、楓彩の左肩に真希菜の手が回される。

「え…?」

「自分にも…似たような時期がありました…」

「真希菜さんにも…」

「えぇ、入った世界は自分の生き方じゃ生きていけない、誰かのためにどころか自分のこともままならない…けど恩返しをしたい…そんな日々が自分にもありました」 


 
「もう何年前かのことかも覚えていませんが、自分は一度、生存者《サバイバー》に殺されました。しかし、不幸中の大幸いでしょう、死んだのがボス……朝日さんの目の前でした。SABERの高度な蘇生技術を受けた自分は第二の人生を歩み始めました」

「それが…」

「そうです…自分のこの機械仕掛けの体です…しかし、それから2年ほどでしょうか、体にうまく馴染むことが出来ず、正直いって何の役にも立たない木偶の坊でした。けど、朝日さんが言ってくれたんです…「自分の出来ることからやれ…役に立つのはその後だ」って…」 

「それで…出来ることって?」

「朝日さんの愛人になる事です…まぁ、鬼月さんには早い(エロい)話なので、詳しい話は省きますが、朝日さんと、長く一緒にいることで段々と第二の人生も歩きやすくなっていきました」

「そ、それは良かったです……」

「まぁ朝日さんは今どこにいるのか知りませんが…」

「っ…!」

 真希菜は夜空を見上げて悲しそうにつぶやく。

「なにか知ってますか…? 朝日さんの行方について…一回ぶん殴ってやりたいので」

「………」

 楓彩の口からは言えない。
 自分の目の前で朝日が死んだと。
 また1人の心が傷ついてしまうかもしれない。

「? 鬼月さん…?」

「朝日さんは…」

 言い寄られた楓彩はやむを得なかった。



「え………」

「………」

「そんな…ことが…」

「ごめんなさい……」

「………いえ…鬼月さんのせいではありません…私があの時…鬼月さんの一撃で機能を停止してしまったからです…自分の弱さが招いたことです…」

「そんなこと……」

「はぁ…馬鹿な人…最後まで朝日さんらしい消え方して…自分勝手…」

 真希菜は無表情だが、楓彩には真希菜の抱いている感情と心の中で流しているものが分かった。
 機械の体には流せない涙。

「真希菜さん…」

「ごめんなさい、自分は涙を流せないので感情表現が上手く出来ません…『悲しい』…こんなのすごく久しぶりです…」

───何が出来る? また心に傷を負った人が目の前に…

───私に何が…


 次の瞬間、真希菜の体を小さな体が包み込む。

「え? 鬼月さん…?」

「私に出来るのはこれくらいです…」

 そうだ、楓彩に出来るのは前に瑛太がしてくれたことをするだけ。
 そっと、真希菜の鉄のように体温を持たず、冷たい体を抱きしめる楓彩。

「ありがとうございます…」





 翌朝

「……あ…あれ…」

 ショウは目を覚ます。

「楓彩…? 楓彩!?」

 隣で寝ていたはずの楓彩の姿が見当たらず、パニックに陥り部屋を飛び出した。
 すると、丁度トイレ前の縁側で真希菜が座っているのが見える。

「真希菜……」

「ん? おはようございます…ショウさん…お静かにお願いします」

 ショウはそう言われて真希菜の膝元に目線を下ろす。
 そこには楓彩が真希菜の膝枕で気持ちよさそうに寝ている姿があった。

「…(へっ!? なにこれ! 尊い!!)」

 楓彩の愛らしい寝顔に見とれるショウ。

「コホンっ…そ、そうだ、真希菜…楓彩に渡したい物があるからちょっと起こさないでまってて」

 ショウはそう言ってその場を離れた。

 数分後、ショウら何やら上着のような物を持ってきた。

「これを掛けてあげてくれる?」

 それは男性用のG,S,Aの制服、の中でも一際丈が長いものだ。
 
「これは…」

「剣得の遺品…」

「…」

「なんか…これしかそれらしいのが無くて、楓彩も言いはしないけど筐(かたみ)が欲しいと思う」

「そうですか…」

 ショウは真希菜が剣得の上着を楓彩の体に掛けるのをみると大きく伸びをして

「さて、やることやっちゃいますか!」

 と言って元気よくその場を離れた。
 おそらく彼女自身も自分の闇を抱えているのだろう。しかし、彼女は皆の光になろうとしている。
 真希菜の鉄に埋もれた人の目にもショウムート・ロン・トゥルンはそう映っていた。





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