生き残りBAD END

とぅるすけ

文字の大きさ
150 / 159
終章

嵐の前の静けさは殺伐と

しおりを挟む
 「わぁ…ラーメン!!」

 楓彩は湯気を立てているラーメンの前に目を輝かせる。

「さぁ、伸びないうちにどうぞ?」

 真希菜はラーメンを皆の前に並べると、厨房へ戻った。

「んふーー! 美味しいー! ……あっついーーっ!!」

「落ち着いて食べなよ…ふーっ…ふーっ…アチっ!」

 ショウも熱々のラーメンに顔を離す。
 皆は無言でラーメンを啜り、その食の速さで美味しさを表していた。
 
 その後、食堂の上の階にある居住区の家具屋に戻ると、彩楓はショウを呼び寄せて皆から離れた。
 2人は家具屋と同じかいにある暗い廊下に訪れる。

「どうしたの? 彩楓」

「……不味いことになった…」

「ん?」

 彩楓は急に体を傾けて、ショウの体を使ってバランスをとる。

「──ちょっ! 彩楓!?」

「はぁ…はぁ…すまねぇ…体の様子がおかしいんだ…」

「…そんな…」

 彩楓にはそんな素振りは無かった。
 今の今まで、普通に歩き、食べ、話していた。
 ショウは彩楓の額に手を当てて熱を測る。

「熱は無い…」

 ショウは彩楓の頭が自分の太ももに乗るように腰を下ろす。

「頼むから…楓彩や、皆にはこの事を伝えるな…迷惑は掛けたくない…」

「分かった…でも、無理はしないでね…。多分だけど、症状から見るに能力の酷使のしすぎだね…」

「こんなに辛いものなのか…」

「うん…。私には能力と呼べる能力は無いけど、分かるよ…医者だから」

「はっ…」

「とにかく、これからは能力の使用を控えてね? 私たちも努力するから」

「わかった…。すまなかったな…もう大丈夫だ」

 彩楓は立ち上がり、ショウの右手を引っ張って立ち上がらせる。

「私も極力、治そうとは試みるけど、今の状況で薬の製造は難しいから…自分でも、注意はしっかりしてね」

「了解」

 ショウは更に念を推す。
 

────彩楓は…絶対に亡くしたくない…



 「あっ! ショウさん! 彩楓さん! どこに行ってたんですか…!」

 家具屋に着くなり、楓彩はムスッとした顔でショウ達を出迎える。

「ごめんごめん…なにかするの?」

「はい! こんなものを見つけてきました!」

 『人生ゲーム』と、書かれた色とりどりな箱を手に、明るい笑顔を向けてくる楓彩。

「へぇ、ボドゲか…いいよ…気分転換になりそう」


 その後、皆でテーブルを囲んで人生ゲームを展開した。

「よーし、じゃあ私からだね」

 ショウは1から6までの数字が書かれた丸いルーレットの中心の摘みを軽く回した。

「3…ね」

 ショウは車をもした赤い駒を3マス進める。

「就職…医者…!」

「まんまじゃねぇか…」

「ショウさんらしいですね」

「次は私か」

 続いて、小雨がルーレットを回す。

「5…タレント…か」

「小雨なら有り得るかもね…」

「はい! スタイルいいですし!」

「そう…かな…」

 暗かった小雨の表情が少し明るくなる。

「じゃあ次はいっくんだよ…」

 小雨は彩楓にルーレットを渡す。

「1か…さい先転ぶ、1000払う……」

「ぶっふぉ!!」

 ショウは彩楓の、渋い顔を見て吹き出す。

「クスッ…彩楓さん! ドンマイです!」

「……ええい! 次は楓彩だ!」 

 彩楓は楓彩にルーレットを回す。

「いよーっし! ……4です!」

 楓彩は駒を進めた。

「迷い猫を拾い、飼い主に感謝される…2000貰う!」

「楓彩らしいね……なんか…すごいわ…このゲーム…」

「次は真希菜さんですね」 

「はい…6ですね…撫でようとした犬に噛まれ怪我、1000払う……ですか…」

「ドンマイです…」



────開発した便利グッズが大ヒット

────剣道を始め、手首を負傷

────猫を飼い始める

────友達の恋愛相談に苦労

────恋人に貢ぐ


 何気ないマスはそれぞれの過去に近く、何かと思い出させる。

「ゴール!」

 最後は楓彩がゴールし、ゲームを終了した。

「ふぅ、なんか、楽しかったけど疲れたね」

「そうですね…」

 その時、ショウの持っていた携帯がアラームを鳴らす。

「───っ!」

 ショウはすぐさま携帯を取り出し、確認する。

「あぁ…そんな!」

「どうしたんですか!?」

「もうこの場所がバレた…!」

 ショウは立ち上がり、携帯を凝視する。

「まだ13階か…ここ(32階)に来るのも時間の問題だな…よし! 皆! 迎え撃つぞ!」

「正気か! ショウムート! 奴らは聞いた所、能力者殺しのスペシャリストじゃないのか!?」

 彩楓も立ち上がり、ショウに訴える。
 その時、彩楓は大体を察していた。
 自分の気を使っての発言だろう。能力者殺しのスペシャリストだからこそ、彩楓の出る幕はない。
 ショウ、真希菜を中心にした作戦を展開するはずだ。

「うん、このまま逃げ続けても、この狭い島の中、いつか追い詰められる。なら、この絶好の場所で奴らを潰そう…幸い、私と真希菜は能力者じゃない…。私達で奴らを撹乱し、ケルト・ローレンスを集団から引き剥がした後、小雨と彩楓に数を削いでもらう。即席の作戦だけどやるしかない…」

「待ってください、シロンがいません!」

「っ!」

 楓彩は辺りを見回しながら叫ぶ。

「小雨、真希菜、まだ時間はある…シロンを楓彩と一緒に探してきて」

「「了解」」

「彩楓は私と来て…敵の武装、正確な数を知りたい」

「分かった」




 ライトを持つ楓彩を先頭に、薄暗い中、シロンを探して歩く真希菜と小雨。

「シローン…出てきてくださーい!」

「鬼月さん…もう少し、静かにお願いします」

「あ、ごめんなさい…」

 しばらく歩き回っていると、楓彩は何やら水たまりを踏む。

「ん?」

 楓彩は持っていたライトを足元に向ける。

「………え…」

 水たまりだと思っていたそれは鮮血だった。

「…血?」

「や、やだ…シロン…! シロン!!」

「お、落ち着いて! 楓彩ちゃん! まだシロンの物と決まった訳じゃ」

「臭いが! シロンのものです!」

「───っ!!」

 忘れていた。楓彩の人間離れした嗅覚を。
 楓彩は臭いを辿るように走り始めた。


 そして


『グルルルっ……』


「…あ……」


 突如、姿を現したタコのような無数の足で歩行する犬の頭をした生存者《サバイバー》。

 目に映った。その足の1本にあった血に染まった白猫の姿が。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

【完結】異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され…… ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

処理中です...