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外伝3 琅玕翡翠 ~ジェダイト~
7.干渉
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※ ※ ※ ※
「困りましたねぇ」
月の冷たい光が射しこむ石造りの部屋の中。鋲打ちされた革の椅子に座ったエテルニタスは壁にかけられた鏡を見ながら哂っていた。鏡に映し出されているのはパーウォーとコッペリア。
「平穏? まったく、このままではとんだ駄作の誕生ではないですか。海の魔法使いさんの感性はいったいどうなっているんでしょうね」
エテルニタスはパーウォーとコッペリアの交わした契約を鼻で笑うと、やれやれといった様子で椅子から立ち上がった。
「このままではこちらの予定がたちませんし。仕方ないですね、少しだけお手伝いしてさしあげましょうか」
エテルニタスはくつくつ笑うと、出した額縁の中へと消えていった。
※ ※ ※ ※
コッペリアとの契約を履行するため、パーウォーはまず結界を張り直すことにした。ネウロパストゥムが結界を解除してしまったため、今現在コッペリアの部屋は物理的な出入り口はないとはいえ無防備な状態となっている。
「今度の結界は里全体に張っておいたわ。認識阻害の効果も追加しておいたから、人間がここを訪れることはまずないはずよ」
「すごい! パーウォーって本当に魔法使いだったんだね」
「ちょっと、魔法使いじゃなかったらなんだと思ってたのよ」
「お化粧がヘタでお人好しで世話焼きな、人間に化けたムキムキ人魚?」
コッペリアの容赦ない正直な評価にパーウォーの笑顔が引きつる。そんなパーウォーの隣ではミドリが「でも私はパーウォー様のそんなとこもステキだと思ってますぅ」ともじもじしていた。
「じゃ、今日のとこはこれでお暇するわね」
「うん。色々ありがとう」
「どういたしまして。あ、もし何かあったらすぐその孔雀石に呼びかけてね。結界張ったとはいえ、あの紅白の変態たちがおとなしくしてるとは思えないから」
パーウォーはため息をつくとがっくりと肩を落とし、紅梅色の扉を出した。
「じゃ、また明日」
「うん。また明日」
お決まりとなった明日を約束する挨拶を交わし、紅梅色の扉が消えた。薄暗い閉ざされた部屋にコッペリアがひとりきりになる。
「また、明日……また……」
くすくすと。抑えきれなかった笑い声がコッペリアの口からあふれる。
「明日がこんなに楽しみになるなんて、想像できなかった」
※ ※ ※ ※
――なあ、知ってるか? 毛野の滅んだ羽衣蚕の里にとんでもねぇお宝があるって話。いや、俺も噂で聞いただけなんだがよ、なんでもその人形を手に入れられりゃ一晩でお大尽になれるんだってよ。しかも座敷童と違ってソイツは人を選ばねぇらしくてな、持ってるヤツに等しく富をもたらすって話だ。
――あ? そんなお宝とっくに誰かに盗られてんだろって? それがよ、どうも普通にゃ里にたどり着けなくなってるらしいんだよ。里に向かってたはずなのに、なんでかいつの間にか通り過ぎちまってるんだと。まるで狐狸に化かされたみてぇだって話だ。それとよ、なんでもおっかねぇ番人がいるんだと。
――だからなんでそれを俺が知ってんのかって? いや、だから噂で聞いたんだよ。つーかよ、なんでおめぇ知らねぇんだよ。あっちでもこっちでもみんな話してんじゃねぇか。
パーウォーが里に結界を張ってから三日――毛野から成人男性の足で徒歩五日ほど離れた秋津洲首都蜻蛉では、富をもたらす招福人形の噂がまことしやかに語られていた。その噂が蜻蛉に届くには少なくとも五日、最短でも三日は必要だというのに、すでに都は噂でもちきりだった。
だが、鬼族と呼ばれる妖が国を治め妖怪と共存している秋津洲といえど、このような怪しげな噂がここまで瞬時に熱狂的に人々の間に広がることはない。この噂の広がり方や熱狂はあきらかに不自然で、そして作為的であった。
結界を張って十日ほどは平和な日々を過ごしていたパーウォーとコッペリアだったが、その平和は残念ながら契約終了までもつことはなかった。
「おかしい」
眉間にしわを寄せて腕組みをしたパーウォーがつぶやく。
「パーウォー、仁王像みたいだよ。ほら、笑顔笑顔」
「ニオウゾウ……って、仁王像⁉ ちょっと、ワタシのどこがあんなごっつい筋肉裸族なのよ!」
「似てるのに。それに仁王が裸族だって言うなら、人魚は上どころか下も着てないよね?」
パーウォーはコッペリアの正論を聞き流すと、再び眉間にしわを寄せながら結界の状態の確認に戻った。
「前に張られてた結界の影響? それとも現在進行形で誰かが手を出してる? …………可能性としては、やっぱり手を出されてる、かしら」
パーウォーは関わりたくない紅白の変態魔法使いたちの顔を思い浮かべ、深いため息をついた。
――どっちもやりそうなのよね。あいつら、絶対人の嫌がること喜んでやる種類のやつらだもの。
そこでパーウォーは結界を張った日、エテルニタスがコッペリアに黄金緑柱石を渡していたことを思い出した。
「コッペリア、あの赤い変態から押し付けられた石!」
「赤い変態? ……あ、あの魔法使い様。えーと、石ってこれ?」
コッペリアは衿から懐紙に包まれた黄金緑柱石を取り出すと、パーウォーへと差し出す。
「不吉だから捨ててくるわ」
「パーウォー、本当にあの人苦手なんだね」
コッペリアから黄金緑柱石を受け取ったパーウォーは紅梅色の扉を出すと、懐紙から取り出した石を扉の向こう、大海原へと全力で投げ捨てた。
「これでよし」
パーウォーはすっきりとした笑顔を浮かべると扉を消し、コッペリアへ向き直ろうと振り返った――瞬間、ぎくりと動きを止めた。
「コッペリア、なるべく物音立てないようにじっとしてて」
ただならぬパーウォーの雰囲気にコッペリアは声を出さずにこくこくとうなずく。パーウォーはそれを確認すると扉を出し、すぐさま中へと駆けこんだ。
――やっぱり結界に干渉されてたわね。赤い方か白い方か……どっちにしてもワタシより古くて強い魔法使い。どっちが来ても厄介で面倒なことには変わりないとか、ほんともう!
扉から出るとパーウォーはすばやく周囲を見渡す。出た場所は街道へと繋がる里の玄関口だった。そこにいたのは、いかにもガラの悪そうな三人の男。
「な、なんだテメェ⁉」
突然現れた異国の大男に動揺した三人組は、それを隠すように慌てた様子でパーウォーを大声で威嚇した。その虚勢を張った姿にパーウォーは呆れのため息をもらしつつも、いちおうと警告する。
「アンタたち、いいから今すぐ帰んなさい」
「あぁ⁉」
「いいから。グズグズしてると死ぬわよ」
「ざっけんな! なんなんだテメェは‼」
けれど、こんなところへわざわざやって来る欲にかられた人間が、警告の言葉を素直に聞き入れるわけなどなかった。言葉足らずなパーウォーの警告にもまったく問題がないとは言えないが、この種類の人間には言葉を尽くしたとしてもなかなか聞き入れてもらえないのが世の常。
「わかったぞ。そのモロコシのヒゲみてぇな髪、けったいな隈取、仁王像みてぇなガタイに珍妙な着物……さてはオメェ天狗だな‼」
「お宝の番人って天狗だったのか!」
「天狗ってのはみんなこんな傾奇者なのか⁉」
「誰が天狗よ! 殴るわよ⁉」
ぎゃあぎゃあと不毛な争いを繰り広げる男四人。しかし、その争いは最後のひとりの登場でピタリと止まった。
「なんだ、ア――」
風切り音と同時に男の言葉が途切れる。パーウォーを天狗と評した男が立っていた場所には、腕の刀を露わにしたオリンピアが立っていた。
「だからさっさと帰んなさいって言ったのよ」
パーウォーは右手に二人、左手に一人の襟首をつかみ、冷や汗を流しながらオリンピアと対峙していた。
「ごめんなさいね。すぐに出ていくからおかまいなく」
軽口をたたくとパーウォーはオリンピアに背を向け、三人を引きずりながらものすごい速度で走りだし結界の外へと飛び出た。結界の外に出ると男たちをその場で雑に放り投げ、即座に結界の綻びを修復する。
「悪いことは言わないわ。命が惜しかったら二度とここには近づかないこと。わかったでしょ? アンタたちなんてあの子にかかれば瞬殺よ」
皮一枚だったが首を真一文字に斬られ血を流す男を見下ろし、パーウォーは最後の警告を発した。三人の男たちはすっかりおとなしくなっており、まるで憑き物が落ちたかのように打って変わって素直に立ち去った。
「……死ぬかと思った」
パーウォーはしゃがみ込みうつむくと、大きく深いため息を吐き出した。
――あの白い変態の趣味の悪さに助けられたわ。
オリンピアは侵入者の前に必ず姿を現し、自分の姿を認識させてから攻撃に入る。そういう癖を持っていた。だから最初のときも、さきほども、パーウォーはなんとか対処することができた。
――おそらくだけど、相手に恐怖を与えるために最初にわざと姿を見せつけてるわよね。で、複数の相手には初手でひとりを見せしめに殺して、残りはじわじわと追い詰める……てとこかしら。
オリンピアの敏捷性があればわざわざ姿など見せなくとも、問答無用で襲い掛かれば侵入者の排除など容易いはず。けれど、彼女は必ず姿を現す。それもゆっくりと、見せつけるように。
「ほんっと趣味悪!」
パーウォーはネウロパストゥムへの嫌悪を吐き捨てるとのろのろと立ち上がり、扉を出してコッペリアのもとへと戻った。
「困りましたねぇ」
月の冷たい光が射しこむ石造りの部屋の中。鋲打ちされた革の椅子に座ったエテルニタスは壁にかけられた鏡を見ながら哂っていた。鏡に映し出されているのはパーウォーとコッペリア。
「平穏? まったく、このままではとんだ駄作の誕生ではないですか。海の魔法使いさんの感性はいったいどうなっているんでしょうね」
エテルニタスはパーウォーとコッペリアの交わした契約を鼻で笑うと、やれやれといった様子で椅子から立ち上がった。
「このままではこちらの予定がたちませんし。仕方ないですね、少しだけお手伝いしてさしあげましょうか」
エテルニタスはくつくつ笑うと、出した額縁の中へと消えていった。
※ ※ ※ ※
コッペリアとの契約を履行するため、パーウォーはまず結界を張り直すことにした。ネウロパストゥムが結界を解除してしまったため、今現在コッペリアの部屋は物理的な出入り口はないとはいえ無防備な状態となっている。
「今度の結界は里全体に張っておいたわ。認識阻害の効果も追加しておいたから、人間がここを訪れることはまずないはずよ」
「すごい! パーウォーって本当に魔法使いだったんだね」
「ちょっと、魔法使いじゃなかったらなんだと思ってたのよ」
「お化粧がヘタでお人好しで世話焼きな、人間に化けたムキムキ人魚?」
コッペリアの容赦ない正直な評価にパーウォーの笑顔が引きつる。そんなパーウォーの隣ではミドリが「でも私はパーウォー様のそんなとこもステキだと思ってますぅ」ともじもじしていた。
「じゃ、今日のとこはこれでお暇するわね」
「うん。色々ありがとう」
「どういたしまして。あ、もし何かあったらすぐその孔雀石に呼びかけてね。結界張ったとはいえ、あの紅白の変態たちがおとなしくしてるとは思えないから」
パーウォーはため息をつくとがっくりと肩を落とし、紅梅色の扉を出した。
「じゃ、また明日」
「うん。また明日」
お決まりとなった明日を約束する挨拶を交わし、紅梅色の扉が消えた。薄暗い閉ざされた部屋にコッペリアがひとりきりになる。
「また、明日……また……」
くすくすと。抑えきれなかった笑い声がコッペリアの口からあふれる。
「明日がこんなに楽しみになるなんて、想像できなかった」
※ ※ ※ ※
――なあ、知ってるか? 毛野の滅んだ羽衣蚕の里にとんでもねぇお宝があるって話。いや、俺も噂で聞いただけなんだがよ、なんでもその人形を手に入れられりゃ一晩でお大尽になれるんだってよ。しかも座敷童と違ってソイツは人を選ばねぇらしくてな、持ってるヤツに等しく富をもたらすって話だ。
――あ? そんなお宝とっくに誰かに盗られてんだろって? それがよ、どうも普通にゃ里にたどり着けなくなってるらしいんだよ。里に向かってたはずなのに、なんでかいつの間にか通り過ぎちまってるんだと。まるで狐狸に化かされたみてぇだって話だ。それとよ、なんでもおっかねぇ番人がいるんだと。
――だからなんでそれを俺が知ってんのかって? いや、だから噂で聞いたんだよ。つーかよ、なんでおめぇ知らねぇんだよ。あっちでもこっちでもみんな話してんじゃねぇか。
パーウォーが里に結界を張ってから三日――毛野から成人男性の足で徒歩五日ほど離れた秋津洲首都蜻蛉では、富をもたらす招福人形の噂がまことしやかに語られていた。その噂が蜻蛉に届くには少なくとも五日、最短でも三日は必要だというのに、すでに都は噂でもちきりだった。
だが、鬼族と呼ばれる妖が国を治め妖怪と共存している秋津洲といえど、このような怪しげな噂がここまで瞬時に熱狂的に人々の間に広がることはない。この噂の広がり方や熱狂はあきらかに不自然で、そして作為的であった。
結界を張って十日ほどは平和な日々を過ごしていたパーウォーとコッペリアだったが、その平和は残念ながら契約終了までもつことはなかった。
「おかしい」
眉間にしわを寄せて腕組みをしたパーウォーがつぶやく。
「パーウォー、仁王像みたいだよ。ほら、笑顔笑顔」
「ニオウゾウ……って、仁王像⁉ ちょっと、ワタシのどこがあんなごっつい筋肉裸族なのよ!」
「似てるのに。それに仁王が裸族だって言うなら、人魚は上どころか下も着てないよね?」
パーウォーはコッペリアの正論を聞き流すと、再び眉間にしわを寄せながら結界の状態の確認に戻った。
「前に張られてた結界の影響? それとも現在進行形で誰かが手を出してる? …………可能性としては、やっぱり手を出されてる、かしら」
パーウォーは関わりたくない紅白の変態魔法使いたちの顔を思い浮かべ、深いため息をついた。
――どっちもやりそうなのよね。あいつら、絶対人の嫌がること喜んでやる種類のやつらだもの。
そこでパーウォーは結界を張った日、エテルニタスがコッペリアに黄金緑柱石を渡していたことを思い出した。
「コッペリア、あの赤い変態から押し付けられた石!」
「赤い変態? ……あ、あの魔法使い様。えーと、石ってこれ?」
コッペリアは衿から懐紙に包まれた黄金緑柱石を取り出すと、パーウォーへと差し出す。
「不吉だから捨ててくるわ」
「パーウォー、本当にあの人苦手なんだね」
コッペリアから黄金緑柱石を受け取ったパーウォーは紅梅色の扉を出すと、懐紙から取り出した石を扉の向こう、大海原へと全力で投げ捨てた。
「これでよし」
パーウォーはすっきりとした笑顔を浮かべると扉を消し、コッペリアへ向き直ろうと振り返った――瞬間、ぎくりと動きを止めた。
「コッペリア、なるべく物音立てないようにじっとしてて」
ただならぬパーウォーの雰囲気にコッペリアは声を出さずにこくこくとうなずく。パーウォーはそれを確認すると扉を出し、すぐさま中へと駆けこんだ。
――やっぱり結界に干渉されてたわね。赤い方か白い方か……どっちにしてもワタシより古くて強い魔法使い。どっちが来ても厄介で面倒なことには変わりないとか、ほんともう!
扉から出るとパーウォーはすばやく周囲を見渡す。出た場所は街道へと繋がる里の玄関口だった。そこにいたのは、いかにもガラの悪そうな三人の男。
「な、なんだテメェ⁉」
突然現れた異国の大男に動揺した三人組は、それを隠すように慌てた様子でパーウォーを大声で威嚇した。その虚勢を張った姿にパーウォーは呆れのため息をもらしつつも、いちおうと警告する。
「アンタたち、いいから今すぐ帰んなさい」
「あぁ⁉」
「いいから。グズグズしてると死ぬわよ」
「ざっけんな! なんなんだテメェは‼」
けれど、こんなところへわざわざやって来る欲にかられた人間が、警告の言葉を素直に聞き入れるわけなどなかった。言葉足らずなパーウォーの警告にもまったく問題がないとは言えないが、この種類の人間には言葉を尽くしたとしてもなかなか聞き入れてもらえないのが世の常。
「わかったぞ。そのモロコシのヒゲみてぇな髪、けったいな隈取、仁王像みてぇなガタイに珍妙な着物……さてはオメェ天狗だな‼」
「お宝の番人って天狗だったのか!」
「天狗ってのはみんなこんな傾奇者なのか⁉」
「誰が天狗よ! 殴るわよ⁉」
ぎゃあぎゃあと不毛な争いを繰り広げる男四人。しかし、その争いは最後のひとりの登場でピタリと止まった。
「なんだ、ア――」
風切り音と同時に男の言葉が途切れる。パーウォーを天狗と評した男が立っていた場所には、腕の刀を露わにしたオリンピアが立っていた。
「だからさっさと帰んなさいって言ったのよ」
パーウォーは右手に二人、左手に一人の襟首をつかみ、冷や汗を流しながらオリンピアと対峙していた。
「ごめんなさいね。すぐに出ていくからおかまいなく」
軽口をたたくとパーウォーはオリンピアに背を向け、三人を引きずりながらものすごい速度で走りだし結界の外へと飛び出た。結界の外に出ると男たちをその場で雑に放り投げ、即座に結界の綻びを修復する。
「悪いことは言わないわ。命が惜しかったら二度とここには近づかないこと。わかったでしょ? アンタたちなんてあの子にかかれば瞬殺よ」
皮一枚だったが首を真一文字に斬られ血を流す男を見下ろし、パーウォーは最後の警告を発した。三人の男たちはすっかりおとなしくなっており、まるで憑き物が落ちたかのように打って変わって素直に立ち去った。
「……死ぬかと思った」
パーウォーはしゃがみ込みうつむくと、大きく深いため息を吐き出した。
――あの白い変態の趣味の悪さに助けられたわ。
オリンピアは侵入者の前に必ず姿を現し、自分の姿を認識させてから攻撃に入る。そういう癖を持っていた。だから最初のときも、さきほども、パーウォーはなんとか対処することができた。
――おそらくだけど、相手に恐怖を与えるために最初にわざと姿を見せつけてるわよね。で、複数の相手には初手でひとりを見せしめに殺して、残りはじわじわと追い詰める……てとこかしら。
オリンピアの敏捷性があればわざわざ姿など見せなくとも、問答無用で襲い掛かれば侵入者の排除など容易いはず。けれど、彼女は必ず姿を現す。それもゆっくりと、見せつけるように。
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