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私は目を覚ました。
再び静まり返った、牢獄。
誰かが来る。この足音は・・・・・・。
それは、私が小さい頃から聞いていた音ではあった。
優しく、暖かい。
私の心に深く残る傷を少し癒やしてくれるようだった。
そして目の端で、洋灯(ランプ)の光を捉える。
青白く燃える炎は、この闇しか見えない闇の中を少しだけ照らしてくれる。
「父上・・・・・・」
目の前には小袖に裁着袴姿の父が立っていた。
だが、年嵩はあるが、容姿端麗のため、若若しく見える父はとても老け込んだように見える。
目の下に大きな隈を作り、生気のない、憔悴しきった顔で私の前に立っていた。
私は喉からそれ以上言葉が出なかった。出すことなどできない。
私は大親不孝者なのだろうか。
「凪紗、驚いたぞ、お前が影縫とできていたとは・・・・・・」
父は、酷くうなだれ、私を見てくれない。
「・・・・・・」
私は声をかけることができなかった。
私は自分を否定する言葉も頭の中に浮かんできている。
けれども、気持ちがそうでも言葉にすることなどできようがない。
私は間違ったことをしたと今でも捉えていないからだ。
影縫を救出しようとしたこと。それはあやかしのためでもあり、人間のためでもある。
私が影縫がしようとしたことを否定すれば、人間どころか、あやかしすら、影縫を認めてくれることがないだろう。
たとえ死んでいようとも、影縫を悪く言うことは自分の心が許せなかった。
「凪紗・・・・・・」
しかし、父はようやく顔を上げた。
だが、目に力はなく、とても弱々しい。
「期待はしないでくれ、私がお前の罪が軽くなるように働きかけてみる」
私は返事しない。
そして、父はあまり時間が許されていないようで、また重たげな足取りで来た道を引き返していった。
炎が遠ざかり、草履が石畳に音をたてる様をじっと見て、聞いていた。
また、ランプの光が近づいてくる。
しかし、足音で分かる、その者が巨悪に満ちた存在だと。
私は鉄格子に身体をぶつける。
衝動的になっていた。けれども肩、横腹、太股に大きな跡を残しただけで、鉄格子はびくともしない。
「尚登ぉおおおおおおおおお!!」
再び、影縫を殺された情景が蘇る。
尚登がかなぐり取った小太刀で、影縫の首を斬る情景。
だが、私は今度は自分の精神を落ち込ませてはいない。むしろ昂揚させて殺意を高めることに心を使っている。
「貴様ぁぁああああああ!!!!!!」
何度も、何度もぶつける。
たとえ、この身がどうなろうと知ったことではない。
ランプに照らされた尚登の顔は、光と影がはっきりと分かる。
明暗がはっきりしているせいで、より一層醜悪さが際立っている。
気味の悪い笑みをこぼして、尚登は私に言った。
「無様ですね、凪紗さん」
「貴様ぁああああ!!!」
殺したかった。殺してやりたかった。だがそれが叶わない。
その歯がゆさに、私は自分の舌をかみ切ってみたい衝動に襲われる。
「私と婚約はしてくれるのですか?」
「黙れッッッ!! 貴様の顔など二度と見たくない」
尚登は顎をしゃくって、鼻息を立てる。
「そう、ですか。私ももう、あなたにこだわるのは止めました。いくら美人でも、後ろから刺される怖れがある者を妻にしたくない」
「では貴様の魂胆はなんだ!?」
わざわざ会いに来たのである。愉快犯かもしれないが、おそらくそれはない。
垂れ下がった醜い顔を見せつけながら、尚登は言った。
「交渉ですよ」
「交渉?」
尚登は一旦、ためを作る。たらこ唇を開いて話し出す。
「インドラの箱を知っていますね?」
「インドラの箱!!?」
再び静まり返った、牢獄。
誰かが来る。この足音は・・・・・・。
それは、私が小さい頃から聞いていた音ではあった。
優しく、暖かい。
私の心に深く残る傷を少し癒やしてくれるようだった。
そして目の端で、洋灯(ランプ)の光を捉える。
青白く燃える炎は、この闇しか見えない闇の中を少しだけ照らしてくれる。
「父上・・・・・・」
目の前には小袖に裁着袴姿の父が立っていた。
だが、年嵩はあるが、容姿端麗のため、若若しく見える父はとても老け込んだように見える。
目の下に大きな隈を作り、生気のない、憔悴しきった顔で私の前に立っていた。
私は喉からそれ以上言葉が出なかった。出すことなどできない。
私は大親不孝者なのだろうか。
「凪紗、驚いたぞ、お前が影縫とできていたとは・・・・・・」
父は、酷くうなだれ、私を見てくれない。
「・・・・・・」
私は声をかけることができなかった。
私は自分を否定する言葉も頭の中に浮かんできている。
けれども、気持ちがそうでも言葉にすることなどできようがない。
私は間違ったことをしたと今でも捉えていないからだ。
影縫を救出しようとしたこと。それはあやかしのためでもあり、人間のためでもある。
私が影縫がしようとしたことを否定すれば、人間どころか、あやかしすら、影縫を認めてくれることがないだろう。
たとえ死んでいようとも、影縫を悪く言うことは自分の心が許せなかった。
「凪紗・・・・・・」
しかし、父はようやく顔を上げた。
だが、目に力はなく、とても弱々しい。
「期待はしないでくれ、私がお前の罪が軽くなるように働きかけてみる」
私は返事しない。
そして、父はあまり時間が許されていないようで、また重たげな足取りで来た道を引き返していった。
炎が遠ざかり、草履が石畳に音をたてる様をじっと見て、聞いていた。
また、ランプの光が近づいてくる。
しかし、足音で分かる、その者が巨悪に満ちた存在だと。
私は鉄格子に身体をぶつける。
衝動的になっていた。けれども肩、横腹、太股に大きな跡を残しただけで、鉄格子はびくともしない。
「尚登ぉおおおおおおおおお!!」
再び、影縫を殺された情景が蘇る。
尚登がかなぐり取った小太刀で、影縫の首を斬る情景。
だが、私は今度は自分の精神を落ち込ませてはいない。むしろ昂揚させて殺意を高めることに心を使っている。
「貴様ぁぁああああああ!!!!!!」
何度も、何度もぶつける。
たとえ、この身がどうなろうと知ったことではない。
ランプに照らされた尚登の顔は、光と影がはっきりと分かる。
明暗がはっきりしているせいで、より一層醜悪さが際立っている。
気味の悪い笑みをこぼして、尚登は私に言った。
「無様ですね、凪紗さん」
「貴様ぁああああ!!!」
殺したかった。殺してやりたかった。だがそれが叶わない。
その歯がゆさに、私は自分の舌をかみ切ってみたい衝動に襲われる。
「私と婚約はしてくれるのですか?」
「黙れッッッ!! 貴様の顔など二度と見たくない」
尚登は顎をしゃくって、鼻息を立てる。
「そう、ですか。私ももう、あなたにこだわるのは止めました。いくら美人でも、後ろから刺される怖れがある者を妻にしたくない」
「では貴様の魂胆はなんだ!?」
わざわざ会いに来たのである。愉快犯かもしれないが、おそらくそれはない。
垂れ下がった醜い顔を見せつけながら、尚登は言った。
「交渉ですよ」
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