インドラの箱

夏風涼

文字の大きさ
7 / 21

破1

しおりを挟む
「・・・・・・」
 
 空白だった。私の頭は空白だった。
 何をしていたのだろう? 何があったのだろう?
 全く分からない。
 私は指の先に当たる、何かを拾い上げる。
 羽のようだ、おそらく真っ黒な羽。
 分かった。影縫の羽だ・・・・・・。
 私は影縫の部屋に入れられたのか?
 かげぬい・・・・・・。かげぬいって誰だっけ・・・・・・。

「ウワァァアアアアア!!!」
 
 私は叫んでいた。大声で叫んでいた。
 様々な物が私の頭の中に入り交じってきたのだ。
 混沌とした脳内に、影縫の存在が浮かび上がる。
 そして、影縫が殺された光景が眼に貼り付く。
 私はまた涙を流す。大量の目から落ちる透明の滴は私の頬を辿って、この千年殺しの石畳に落ちていく。

「おい! しっかりしろ!!」
 
 横の部屋の住人が話しかけてきた。

「そうだ。うるさくって寝れやしない!」
 
 また別の部屋の住人。
 千年殺しに入れられた、あやかしたちは、人間のくせに千年殺しに入れられている私を歓迎はしていないようだ。というより心配されている。

「おい! あんまり話すと、あやかし狩りが来るぞ!」
「いいって、もうこの嬢ちゃんがうるさいから、意味が無い」
 
 がやがや話し合いを始めた。
 いい、苦しい。もう一度頭を空っぽにして、全て忘・・・・・・。

「おい! もうその繰り返しなんだろう?! あんた全てを忘れようとして、思い出してるんだろうっ!? 分かっているぞ」
 
 私はその声の主の発言に耳が反応した。

「な、なんで・・・・・・」
 
 それは向かいの部屋のあやかしだった。

「見てりゃ分かる」

「見えるのか?」

「闇は俺たちの十八番だ。人間は見えないと思っているみたいだがな」

「・・・・・・」
「で、何があったんだ? 嬢ちゃん?」
 
 意識が戻ったとはいえ、悲鳴をあげてしまった、あの惨劇を思い起こすことは拷問以上に痛みを伴う。
 だが、私は言った。影縫はこの人達の王子だ。言わなければならない。

「影縫は死んだ。尚登に村雨で斬られて・・・・・・」
「そうか・・・・・・」
 
 どこか得心しきった声色だった。

「嬢ちゃんは王子の恋人、辛いな。でも、嬢ちゃんの中に王子がいる限り、王子は死なないさ」
 
 私は下瞼にたまった涙を拭く、鼻水も出てきて、どうしようもない。
 目の前のあやかしは見えているのだろう。
 すると、別のあやかしが話しかけてきた。私ではない、目の前のあやかしにだ。

「しかし、王の跡取りは影縫王子しかいない。もうあやかしは終わりかもしれないな・・・・・・」
 
 その後、長い嘆息を出した。
 私のせいだ。
 私が全部、悪い。
 ぐちゃぐちゃになった顔を服の布で拭き取る。

「嬢ちゃん、あんまり自分を責めるな。嬢ちゃんはやれることはやったんだ」
「うん・・・・・・」
 
 そう言った後、前のあやかしは優しく話しかける。

「とにかく、もう静かにしな。嬢ちゃんはいいかもしれないが、皆に迷惑をかける」
「ごめんなさい・・・・・・」
 
 私は涙を拭いて、少し寝ることにした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

白椿の咲く日~遠い日の約束

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに姉の稚子(わかこ)と会う。真由子の母、雪江は妻を亡くした水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。実之には俊之、稚子、靖之の三人の子がいた。 稚子と話をしているうちに、真由子は雪江と庭の白椿の木に、何か関係があることに気がつき…… 大人の恋物語です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヘンタイ好きシリーズ・女子高校生ミコ

hosimure
恋愛
わたしには友達にも親にも言えない秘密があります…。 それは彼氏のこと。 3年前から付き合っている彼氏は実は、ヘンタイなんです!

処理中です...