インドラの箱

夏風涼

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エピローグ

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 数年後、私は影縫と夫婦になり、あやかしの土地の村で一緒に住んでいた。
 あやかしはあまり大きな集落は作らない。
 全国に村のような集落を作り、そこで生活を営んでいる。
 
 王族が住んでいるとはいえ、そこは人間の少し大きな村程度の規模だった。
 私は茅葺きの家に住み、四季を感じながら、畑仕事や狩りを村の皆と一緒にして過ごしていた。
 
 私が懐妊するまでは・・・・・・。
 私のお腹には、影縫の子が宿っている。
 
 そして、今は臨月である。
 私は畳の上に布団をしいて、自分のお腹をさすった。
 バタバタと羽ばたく音が聞こえる。
 着地したようで、木戸を開いて、彼女がやってきた。
 彼女は山犬の奥さんで、王家の傍流の女性、時雨だ。
 影縫と同じ、青碧の瞳は女の私にはうらやましく思う程、澄んで、輝いている。
 背中に生えた濡羽色の翼をたたんで、私の部屋までやってきた。

「どうだい? 具合は?」
「ううん。今は安定しているみたいだよ・・・・・・」
「もう、いつ生まれてもいいんだよ、不安はないのかい?」
 
 私は寝ながら、首を横に振った。

「ううん。でも私嬉しいから。影縫の子が生まれてくるの」
「そうかい」
 
 優しい笑みを私に向けて、微笑んだ。

「あんた、王子はどこ行った?」
「影縫は政だって・・・・・・。忙しいみたい」
 
 時雨は溜息をついた。

「あんたが頑張っている間に、仕事かい? 政かなんかしらないが、男ってどれも一緒だね」
 
 頭を抱えながら、溜息をつく。
 まるで旦那さん、山犬のことを言っているみたいで微笑ましい。
 その時だった。
 陣痛だ。
 何度もあった。だが、今回はいつもの何倍も強い。

「あんた、どうしたのさ?! 大丈夫かい!!」
 
 声は聞こえる。けれども、それどころじゃない。
 大慌てで、時雨は「産婆さん連れてくるから、待ってて!!」と言いながら、飛び去った。
 ハァハァ、大量の汗が布団に染みつき、水たまりができているようだ。
 すぐに、時雨が、産婆さんの狐の耳と尻尾を持つ、老婆を連れてきた。

「あんた大丈夫かい?!」
 
 とてもじゃないが大丈夫じゃない。
 腹から体が真っ二つになりそうだ。

「生まれるね。これは。あんた王子を連れてきて」
 
 狐の産婆さんは、時雨に王子を連れてくるように言う。
 また大急ぎで飛び去った、時雨。

「頑張るんだよ。ゆっくり呼吸して、吐いて」
 
 ハァハァハァ。
 自分の息が熱く纏りつく。
 辛い、だが、希望だ。これは希望だ。
 影縫が来てくれた。
 そして私に駆け寄った。

「大丈夫か、凪紗。凪紗。頑張るんだ。頑張るんだ」
 
 何度も何度も私に耳打ちする。

「おい! 凪紗は大丈夫なのかっっ!!」
 
 彼もかなり動揺している。

「あたしゃ、知らないよ。人間の子なんて初めてだ」
「なんだと!!」
「しっかりせえ! あんたらの子供だろ?!」
 
 狐の産婆に王子である影縫が怒られている。だが、その光景を見て、私の心は少し和らいだ。
 けれども、考えられない激痛が体の中心から走る。
 痛いなんてものではない。
 この世の何よりも耐えがたい痛み。

「あんた! 頭出てるよ! もう少しだ! 頑張れ」
 
 産婆が応援している。
 その瞬間、ふと楽になった。
 
 生まれた・・・・・・。
 
 家の周りで、王子の子をいち早く見ようと、待機していたあやかしたちの歓声があがる。
 影縫は産婆から我が子を渡され、顔をくしゃくしゃにしている。
 私も涙が止まらなかった。
 
 生まれた。私達の子供が。人間とあやかしの希望が。
 
 子供は人間のような風貌だった。
 ただ、背中に小さな黒い翼があり、あやかしと人間の証をちゃんと持っている。
 片方の目は私と同じ、黒目がち。だが、片方は透き通るような青い瞳だ。
 私は涙を拭いた。
 
 ――生まれてきてありがとう。
 
 そう、何度も反芻し、私はその日、泣き止むことはなかった。


 私達の子は橋介(きょうすけ)と名付けた。
 人間風の名前だが、どうしても橋という文字を名前に入れたかった。
 人間とあやかしの架け橋になる私達の子。
 時代が変わっても、人間とあやかしが共に歴史を歩んでいける未来になって欲しい。その象徴にこの子はなって欲しいと思っている。
 
 依然、あやかしと人間の争いが続いているし、この国自体、外国の、ユーロピアンの侵略も始まっている。
 私達はこの激動の時代に、皆が幸せに暮らしていける世界になるように歩んでいかなければならない。
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