11 / 25
第2章:シエルの捜索
2-6.誘い
しおりを挟む「えー……と、私の顔に何か付いている、か……?」
シエルが身をそらしながら女に問うと、
「あっ……申し訳ありません! 私ったら、不躾なことを……」
女はハッとしたように後ずさって、シエルから離れた。
シエルはそんな女の態度をなぜか好ましく感じた。
見た目は明らかに成熟した大人の女に違いないのに、まるで男に慣れていない若い娘のような初々しい反応が意外だったからかもしれない。
「……道に、迷われたのですか?」
再び声をかけてきた女はすっかり落ち着きを取り戻していた。
シエルは出会ったばかりのこの女を改めて観察してみる。
亜麻のシンプルなワンピースは質素なものだったが、背中に垂らされた長い髪は艶々と銀色に輝いていて、とても魅力的だ。
落ち着いた容貌はシエルと同じか、幾らか歳上くらいだろうか。
「仲間を捜しに来たんだが」
「……仲間?」
シエルが答えると、女は小首を傾げた。
そうだ!
もしかしてレオポルトもこの女に遭遇したかもしれない。
そう思いついたシエルは、懸命にレオポルトの特徴を言い募った。
「一ヶ月ほど前にこの森に入ったまま、帰ってこないんだ。歳格好は私とさほど変わらない。髪の色は金色……よく実った麦の穂みたいに揺れる豊かな金髪だ。瞳の色はよく晴れた秋空のように澄んだ青色をしているんだが……そんな男に覚えはないだろうか?」
シエルは期待を込めて女に水を向けた。
女はしばらく黙って目を伏せていたが、
「……さあ。そのような方、お見かけしてはおりませんが」
そう言うと、眉を下げて微笑んだ。
「そうか……。もしかして、と思ったんだが」
当てが外れたシエルはがっくりと肩を落とした。
この場所に導かれたのは天の配剤に違いないと思っていたのだが……やはり、そう甘くはないようだ。
「そんなことより……、こんな所まで入り込んできては危ないですよ。夜の森には獰猛な動物がたくさんいますから」
女がシエルに忠告する。
「よかったら、今夜はうちに泊まっていかれたらいかがですか? 森で野宿するのは危険ですから」
「え……」
女の提案は願ってもないことだったが……。
シエルは躊躇した。
こんな所に一人でいて危険なのはシエルに限ったことではない。この女にだって言えることだ。
こんな森の奥に、まさか一人で暮らしているわけではないだろうが……家族と一緒だろうか?
「それは大変有難い申し出だが、迷惑じゃないだろうか? 貴女のご家族にも許可を取ってからのほうがいいのでは……」
シエルはさりげなく女に家族の話を向けた。
いくら困っているとは言え、ついさっき会ったばかりのよく知りもしない男を勝手に連れ帰っては、この女の家族も怒るのではないか、と心配になったからである。
「フフフ、大丈夫ですよ……。家族なんておりませんから」
女が口をすぼめて笑う。
「えっ!?」
女の返答に戸惑うシエル。
こんな森の奥に一人きりで住んでいるというのか、この女は……。
「だから……ね? 遠慮なさらずに、いらしてくださいな。食事もご用意いたしますから」
やはり女はシエルが肉を盗ろうとしていたことに気づいていたらしい。
「いや、女の一人暮らしと聞いては、ほいほい世話になるわけにもいかない……」
バツの悪いシエルが断ろうとすると、
「でもこんなところで寝ていたら、夜の間にオオカミに食べられてしまって、二度と朝日を拝めなくなりますよ」
女が悪戯っぽく笑う。
いつのまにか、シエルのすぐ目の前に立って袖を掴んでいる。
女からは何とも言えない甘い匂いが漂ってくる。甘い、蜜のようなーー。
「……それでは、お言葉に甘えてもいいだろうか?」
考えるより先に、シエルの口が勝手に動いていた。
何故だろう?
身体に力が入らなかった。
それどころか、どんどん力が抜けていくようだ。
なのに、ひどく心地よい……。
「えぇ、もちろんです。では、こちらに……」
女がシエルの手を取った。
シエルは女に導かれるがまま、フラフラと彼女の後をついて歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる