あなたを喰べてもいいですか?

スケキヨ

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第2章:シエルの捜索

2-16.とーっても美味しかった

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 こんなことをしている場合ではない。
 シエルは思った。
 祖父の薬湯が効いているのか、今は頭の中がはっきりと冴えている。

 レオポルトを捜さなければ……!
 シエルは夢の中に出てきた血まみれのレオポルトを思い出す。
 あれはレオポルトからのメッセージではないのか?
 レオポルトが言っていたことは聞き取れなかったが、きっと、こう言ってたんだろう。
「はやく見つけてくれ」と……。

 もう生きてはいないかもしれない。
 すでに予想していたことではあったが、あらためてシエルは覚悟した。
 何か形見が見つかればいいのだが……。
 そうすれば、サーシャだってさすがに受け入れるだろう。
 彼女は立ち直れるだろうか?
 レオポルトを心配するあまり、自分まで病んでしまったくらい繊細な娘なのだ。
 大丈夫、自分が支えればいい。
 元々そのつもりだったのだから。
 レオポルトと婚約するまでは自分がサーシャを……。
 そこまで考えて、シエルは目を閉じた。

 シエルを咥え込んだ女は腰を振り続けている。近くで燃える焚火のあかりに照らされて、成熟した裸体に浮かぶ玉のような汗が光っていた。
 女の胎内も燃えるように熱い。ザワザワと蠢く触手に刺激されて、股間が蕩かされてしまいそうだ。

 これがサーシャだったら……。
 シエルは想像した。
 この女のものよりもずっと小ぶりだが、ささやかで形の良い胸はきっと触れば溶けてしまうくらい柔らかいだろう。小さな乳首にそっと口づければ、恥ずかしながらも身をよじって悶えるに違いない。脚を割ってまだ固い秘孔を穿てば、サーシャはどれくらい乱れるのか……。

 あぁ、サーシャに会いたい。
 元気な姿が見たい。
 そして、この手で――

「あぁ…………サーシャ」

 シエルの口から思わず愛する女の名前がこぼれた。

「誰?」

 ぞっとするほど冷たい声が降ってきた。
 シエルが目を開くと、女が動きを止めて彼を見下ろしている。

「ねぇ……サーシャって、だぁれ?」

 女がちょこんと小首を傾げた。
 笑っている。

「いや、その……」

 危ない。
 シエルの本能が警鐘を鳴らしている。
 女の笑い方がいつもと違う気がした。
 アメジストの瞳が凍りついたように光を失っている。

「貴方……前に言ってくれましたよね。貴方の村に私も一緒に連れていってあげる、って。……言ってましたよね?」

 女が念を押すように訊いた。
 シエルは軽はずみな発言を後悔したが、もう遅い。

「……嬉しかった。そんなこと言われたの……久しぶりだったから」

 シエルは笑いながら語る女を見上げながら、どうすればこの状況を切り抜けられるかを考えていた。

「……わ、私がいったん先に帰って、きみの住む所や働き口を見つけてくるよ。だから……私が迎えに来るまで、ここで待っててくれないか」

 シエルがそう言うと、

「……本当? 本当に迎えに来てくれる?」

 女が首を傾げて訊き返した。

「あぁ、もちろんだ」

 シエルが引き攣った笑顔を浮かべながら答えると――

「うそ」

 女が低い声で呟いた。
 顔からは笑みが消えている。

 しまった!
 シエルは女の予想外の反応に、自分のやり方がまずかったらしいことに気づいたが、もはや後の祭りだ。

 女の指がシエルの鎖骨をなぞる。

「でもいいの。私はこの森から出ることはできないから……最初からそんなの無理な話だったんです」

「え……?」

「この森から無事に元の姿で出られる人間なんていませんよ。あの金髪の騎士さんだって……」

「金髪!? レオポルトか? レオポルトもここに来たのか?!」

 シエルは身を起こして、女の腕を掴んだ。

「名前はわかりませんけど……。でもその方も貴方と同じ名前を口にしていました」

「え?」

「……サーシャ、と」

 女の答えにシエルは確信する。

「レオポルトも、その……貴女とこんなふうに……」

「交わったのか? ということですか」

 言い淀むシエルに変わって、女がニヤリと笑ってみせる。

「えぇ。何度も……。あのヒトもとーっても

 レオポルト……!

 シエルの心のうちに、言いようのない怒りが芽生えた。この女の悪魔みたいな魅力は身をもって知っている。おそらくレオポルトも抗えなかったのだろう。
 しかし、あいつにはサーシャがいるではないか!
 サーシャという婚約者がありながら、自分からサーシャを奪っておきながら、別の女と情事にふけるなんて、許せなかった。

「あいつは何処へ行った!?」

 シエルがすごい剣幕で女に問い詰めた。

「さぁ……」

「くそっ!」

 シエルが悔しそうに唇を噛んだ。

「すまないが、私はやっぱり行かなければならない。あいつを……レオポルトを捕まえないといけないんだ」

「そうですか。それは残念」

 女は憐むような目でシエルを見て、薄く笑った。

「じゃあ、最後にひとつだけ……お願いを聞いていただいてもいいですか?」

「……なんだ? 私にできることなら、なんだってさせてもらう」

 シエルは一刻も早くここを立って、レオポルトを追いたかった。その一念のために、またその場しのぎの安請け合いをしてしまう。

「本当? 嬉しいわ」

 女が白い歯を見せて笑う。
 そして、口を開いた。










「――貴方を喰べてもいいですか?」


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