あなたを喰べてもいいですか?

スケキヨ

文字の大きさ
24 / 25
第3章:女の正体

3-3.花嫁?

しおりを挟む
*****

「これじゃあ、花嫁というより娼婦じゃない?」

 リリーは自分が身に纏った衣装を見下ろしながら呆れたように笑った。

 笑えないたとえだが、彼女の言う通りだとアデルも思った。
 その白いドレスは足首まで隠れるぐらい丈の長いものだが、生地が薄く、布の下の肌が透けて見える。

 目のやり場に困ったアデルは彼女の姿を見ないようにして、夕暮れの道を西に向かって黙々と歩いた。森までの道のりはそう遠くないが、少女の足に合わせると、着くのは夜も更けた頃になるだろう。

 アデルとリリーの他には誰もいない。
 二人きりの花嫁道中だ。
 そんな馬鹿なことがあるか、とアデルは怒りを隠せなかった。

 ろくに口もきかないアデルに構ってほしいのか、彼の後ろを歩いていたリリーが小走りで前に回り込むと、スカートの端を両手で摘むと裾を広げて、クルッと一周してみせる。

「どう? きれい?」

 アデルは何も答えないまま、下を向いてリリーを追い越してゆく。

「どうしたの? ずっと黙り込んで。さっきだって全然食べてなかったでしょう?」

 アデルを追いかけてきたリリーが彼の顔を覗き込んだ。彼女は年上のアデルに対しても、まったく臆すことなく話しかけてくる。

 アデルはつい先ほどまで村で催されていた宴会を思い出した。森に嫁ぐリリーを祝うためのうたげだ。

 よく肥えた仔羊が一頭、丸焼きにされ、村の皆に振る舞われた。
 村の皆といっても、リリーと同じ修道院で生活している子供たちはいない。
 大人だけだ。
 あの禿頭の修道士は参加していたかもしれないが。

 肉と酒に食らいついて騒ぎに興じる大人たちを、アデルは冷ややかな目で見つめていた。

 なぜ浮かれていられるのか。
 なんの罪もない少女の命が奪われようとしているのに――。

 アデルが自分でも抑えられない憤りにさいなまれるなか、主役であるはずのリリーは口元にわずかな冷笑を浮かべたまま、燃えさかる火の一点を見据えていた。
 その青みがかった灰色の瞳が炎に照らされてチロチロと光る様をアデルは見逃さなかった。

「キャッ!」

 アデルのすぐ後ろを歩いていたはずのリリーが小さく悲鳴を上げた。

「どうした!?」

 アデルが慌てて振り返ると、リリーが地面に膝をついて下を向いている。

「大丈夫か?」

 アデルも片膝をついて腰を落とすと、リリーの顔を覗き込んだ。

「やっと、こっち向いた」

 顔を上げたリリーがニヤリと悪戯っぽく笑う。

「……っ!?」

 驚いたように身を引くアデルの顔を、リリーが真正面から見つめている。その青みがかった灰色の瞳に見つめられて、アデルは息が止まるかと思った。

 ――この娘は苦手だ。

 彼は心の底からそう思った。

「……怪我はないか?」

 ぶっきらぼうにそう告げると、アデルはリリーの視線から逃げるかのように、ひとりで先に立ち上がった。

「足を挫いたかもしれない。……起こして?」

 リリーは四つん這いになったまま、顔だけ上を向けてアデルに訴えた。

「……くそっ」

 リリーの奔放な振る舞いが、なぜか無性に腹立たしかった。

 それでも放っておくわけにはいかず、請われたとおりに手を差し出すと、リリーが自分の手を重ねてきた。彼女の手は薄闇の中でも分かるくらい白く、そして冷たかった。

 アデルがぐっと力を入れてリリーを引っ張りあげると、反動でよろめいた彼女が彼の胸に飛び込んでくる。

「あっ」

 動揺したアデルは咄嗟にリリーの身体を引き離そうとしたが、彼女は自分の頬をアデルの胸にぴたりと寄せたまま動こうとしない。
 少女の細い肩が震えていた。

 ――泣いているのだろうか?

 アデルはリリーが落ち着くまで、彼女の好きにさせてやるしかないと腹を括った。
 華奢な少女の身体が自分の胸の中にすっぽりと収まっているかと思うと、居心地が悪くてたまらない。息を凝らしてじっとしていると、破裂しそうな勢いで脈打つ心臓の音が彼女に聞こえてしまいそうだった。

 アデルは恐る恐る手を伸ばし、震えるリリーの背中を撫でた。子どもの頃、初めて馬の背を撫でた時みたいに……。

 少女の手のひらはあんなに冷たかったのに、背中はしっとりと温かかった。

「……っく、……ふ、っ」

 アデルの胸の中で、リリーがかすかな声を漏らす。
 彼女の呼気でアデルの胸が湿った。

「……大丈夫か?」

 心配したアデルがリリーの顔を覗き込むと、

「ふっ……ふっ、ふ、……は、ハハッ、アハハ、ハ」

 堪えきれないといったように、リリーがお腹を抱えて笑い出した。

「え……?」

 呆気にとられるアデル。

「なんで笑ってるんだ……?」

 彼女の行動が理解できないアデルが呆然としつつ問いかけると、

「ハハッ……だって、オカシイでしょう?」

 リリーが笑いながら言った。

「オカシイ……? 何がだ?」

「どうして、騎士さんがそんなに緊張してるの? あなた、何にも関係ないじゃない。私を森の入り口まで送り届けて、それでおしまい。明日の明け方には村に帰って、いつもどおりの朝を迎える……。違う?」

 リリーの容赦ない物言いに、アデルは口ごもるしかなかった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...