禁じられた逢瀬

スケキヨ

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許嫁

許嫁①

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 朝起きると、楠ノ瀬くすのせの姿がなかった。
 俺は身を起こして、きょろきょろと辺りを見回す。
 だだっ広く殺風景な部屋にいるのは俺一人だけで、他に気配はない。

 障子からは朝の光が照りこんでいる。
 さわさわと木々が揺れる音と遠くで鳴く鳥の声がかすかに聞こえた。

 ぺたぺたぺた……。

 外から聞こえる穏やかな自然の音に、人の足音が混じった。

「楠ノ瀬?」

 襖の前で止まった人影に向かって声をかけると、

「……悪かったわね、清乃きよのじゃなくて」

 現れたのは、あやちゃんだった。

 相変わらず不機嫌そうな仏頂面を浮かべている。
 まぁそれはいつものことだけど……。

 いつもと違うのは服装だった。

 彼女は白衣に緋袴ひばかまを身につけ、長い髪を後ろで一つに束ねている。

「巫女さん?」

 あやちゃんの姿を見て思いついた言葉をそのまま口に出すと、

「……私も一応この家の人間なの。分家ぶんけだけど」

 なるほど。
 楠ノ瀬とあやちゃんは何となく顔や雰囲気が似ていると思っていたが……親戚だったということか。

「これ、朝ごはん」

 あやちゃんは運んできたお盆を俺の前に差し出した。
 お盆の上には土鍋に入ったお粥と白いレンゲが載っている。お粥の中央には一粒の梅干しが添えられていた。

「あ、ありがとう」

 まさか楠ノ瀬の家でご飯まで食べさせてもらえるとは思っていなかった。
 驚いた俺が素直に礼を言うと、

「食べたらさっさと帰って」

 あやちゃんがすげなく答えた。
 ……うん。格好は違っても、いつものあやちゃんだ。
 
「……病人みたいなメニューだな」

 白いお粥からは湯気が立ち上っている。
 体には良さそうだが味気のないメニューを前に、俺は思わず呟いてしまう。

「そりゃ、昨日のあんたを見たら……」

 俺の呟きが耳に入ったらしいあやちゃんが言った。

「なぁ……昨日の俺、どうなったんだ?」

「……覚えてないの?」

 あやちゃんが訝しげに眉をひそめる。

「あぁ……」

 俺は心臓を握りつぶされるような痛みを思い出して、思わず左胸に手を当てた。

「大変だったのよ。こっちの言うことは全っ然聞こえてないみたいだし、目は完全にイッちゃってるし……」

「目……」

 俺は右手を持ち上げて、そっと自分の瞼に添えてみる。

「俺の目、どうなってた? ……青かった?」

 あやちゃんは躊躇するように視線をさまよわせた後、俺の問いかけを肯定するように、小さく首を縦に振った。

「……今は? 今も青いのか……?」

 彼女が俺の顔に目を向ける。
 探るように目を細めた後、今度は首を横に振った。

「そっか……よかった」

 安心した俺は、ほっと息をついた。

「楠ノ瀬家の人たちが、助けてくれたのか?」

「そう。まあ私は何もしてないけど……当主様と清乃がしずめてくださったわ」

 ――また楠ノ瀬が助けてくれたんだな。

「そういえば、楠ノ瀬は?」

 あやちゃんに尋ねると、

「知らない……知ってても教えないし」

 そう言って、ぷいと顔を逸らされた。

 ……うん、いつものあやちゃんだ。

「いただきます」

 俺はちょっと冷めかけたお粥に手を伸ばし、ゆっくりと口に運んだ。


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