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許嫁
許嫁②
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布団の上に身を起こしてお粥を啜る俺を、少し距離を置いて正座するあやちゃんが見ている。
――見張りだろうか……?
あやちゃんから向けられる視線に居心地の悪さを感じながらもお粥を完食すると、
「ごちそうさまでした」
食べ終わった俺は、空になった土鍋をお盆の上に戻し、礼儀正しく手を合わせて食後の挨拶をした。
「ふぅん……」
俺の動作を見ていたあやちゃんが、さりげなく感心したような相槌を漏らした。
「なんだかんだ言って、やっぱり高遠の跡継ぎなんだね。作法がしっかりしてる」
――誉められてるのか、バカにされてるのか……どちらかわからなかったが、
「……どうも」
一応、礼を言っておいた。
「起き上がれる?」
立ち上がったあやちゃんが、俺を見下ろしながら尋ねた。
俺は腕をついて体を持ち上げてみる。
「ん……大丈夫。普通に動ける」
「そう。じゃ、早く立って。玄関まで送ってくから」
俺は追い立てられるように身支度をして部屋を出た。
前を行くあやちゃんの後を付いて、長い廊下を歩いていく。
「あの、帰る前に楠ノ瀬にも挨拶したいんだけど……」
おずおずと切り出すと、
「必要ないでしょ。……清乃は今、取り込み中だから」
あやちゃんに冷たく却下されてしまった。
まぁ予想はしていたが……。
俺は黙って、あやちゃんの後をおとなしく付いていく。
「……ん…………ごめん、なさ……っ」
とある部屋の前を取り掛かったとき、誰かの声が聞こえた。
あやちゃんと俺は、思わず足を止める。
「……や……っ……」
襖の向こうからすすり泣くような女の声が聞こえる。
「この声……楠ノ瀬?」
――聞き覚えのあるその声に、思わず声が漏れる。
「行くわよ」
気になってその場を動けないでいる俺を、あやちゃんが低い声で促す。
「……」
重い足を引きずるように歩き出した俺たちの耳に、
「……やぁ……んっ…………あぁっ……!」
一際大きな女の嬌声が聞こえた。
ごくり、と思わず喉が鳴る。
俺とあやちゃんの間に気まずい空気が流れる。
恐る恐るあやちゃんの様子を伺うと――。
彼女は正気の抜けた昏い目で襖を見つめていた。
その目には一切の光がなく、顔にはなんの表情も浮かんでいない。
「……大丈夫か?」
あやちゃんの様子に尋常でないものを感じ取った俺が声をかけると、
「……」
あやちゃんは俺に視線を向けることもなく、朱い袴をわずかに引き摺りながら無言で立ち去っていく。
俺も彼女の後を付いてこの場を離れようとしたが……床に張り付いてしまったように足が動かない。
「……我慢しなくていいから……声、出して……」
「でも……はずかし……ぃ…………」
誰のものかわからない男の低い声と。
それに応える楠ノ瀬の甘い声が、嫌でも耳に入ってくる。
楠ノ瀬の白く柔らかな胸と、そこに刻まれていたあの赤い痕がはっきりと思い浮かんだ。
「くそっ……!」
俺は無意識の内に両手の拳を握りしめていた。
「やぁ……っ…………あぁぁ……」
楠ノ瀬の縋りつくような喘ぎ声が廊下に響く。
「……っ」
血が滲みそうなほどきつく握りしめた俺の拳を、誰かの手が包み込んだ。
「行くわよ」
いつのまにか引き返してきていたあやちゃんが、俺の手を強く引く。
俺は彼女に引きずられるようにして、なんとかその場を離れた。
――見張りだろうか……?
あやちゃんから向けられる視線に居心地の悪さを感じながらもお粥を完食すると、
「ごちそうさまでした」
食べ終わった俺は、空になった土鍋をお盆の上に戻し、礼儀正しく手を合わせて食後の挨拶をした。
「ふぅん……」
俺の動作を見ていたあやちゃんが、さりげなく感心したような相槌を漏らした。
「なんだかんだ言って、やっぱり高遠の跡継ぎなんだね。作法がしっかりしてる」
――誉められてるのか、バカにされてるのか……どちらかわからなかったが、
「……どうも」
一応、礼を言っておいた。
「起き上がれる?」
立ち上がったあやちゃんが、俺を見下ろしながら尋ねた。
俺は腕をついて体を持ち上げてみる。
「ん……大丈夫。普通に動ける」
「そう。じゃ、早く立って。玄関まで送ってくから」
俺は追い立てられるように身支度をして部屋を出た。
前を行くあやちゃんの後を付いて、長い廊下を歩いていく。
「あの、帰る前に楠ノ瀬にも挨拶したいんだけど……」
おずおずと切り出すと、
「必要ないでしょ。……清乃は今、取り込み中だから」
あやちゃんに冷たく却下されてしまった。
まぁ予想はしていたが……。
俺は黙って、あやちゃんの後をおとなしく付いていく。
「……ん…………ごめん、なさ……っ」
とある部屋の前を取り掛かったとき、誰かの声が聞こえた。
あやちゃんと俺は、思わず足を止める。
「……や……っ……」
襖の向こうからすすり泣くような女の声が聞こえる。
「この声……楠ノ瀬?」
――聞き覚えのあるその声に、思わず声が漏れる。
「行くわよ」
気になってその場を動けないでいる俺を、あやちゃんが低い声で促す。
「……」
重い足を引きずるように歩き出した俺たちの耳に、
「……やぁ……んっ…………あぁっ……!」
一際大きな女の嬌声が聞こえた。
ごくり、と思わず喉が鳴る。
俺とあやちゃんの間に気まずい空気が流れる。
恐る恐るあやちゃんの様子を伺うと――。
彼女は正気の抜けた昏い目で襖を見つめていた。
その目には一切の光がなく、顔にはなんの表情も浮かんでいない。
「……大丈夫か?」
あやちゃんの様子に尋常でないものを感じ取った俺が声をかけると、
「……」
あやちゃんは俺に視線を向けることもなく、朱い袴をわずかに引き摺りながら無言で立ち去っていく。
俺も彼女の後を付いてこの場を離れようとしたが……床に張り付いてしまったように足が動かない。
「……我慢しなくていいから……声、出して……」
「でも……はずかし……ぃ…………」
誰のものかわからない男の低い声と。
それに応える楠ノ瀬の甘い声が、嫌でも耳に入ってくる。
楠ノ瀬の白く柔らかな胸と、そこに刻まれていたあの赤い痕がはっきりと思い浮かんだ。
「くそっ……!」
俺は無意識の内に両手の拳を握りしめていた。
「やぁ……っ…………あぁぁ……」
楠ノ瀬の縋りつくような喘ぎ声が廊下に響く。
「……っ」
血が滲みそうなほどきつく握りしめた俺の拳を、誰かの手が包み込んだ。
「行くわよ」
いつのまにか引き返してきていたあやちゃんが、俺の手を強く引く。
俺は彼女に引きずられるようにして、なんとかその場を離れた。
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