禁じられた逢瀬

スケキヨ

文字の大きさ
66 / 100
父子

父子④

しおりを挟む
 観月祭かんげつさいまでの一週間ほどは何事もなく穏やかに過ぎていった。

 いや、穏やかだったのは俺だけか……。

 当主の名代みょうだいとして儀礼の一部を任されることになった楠ノ瀬くすのせは、準備に追われているのか、祭の前日の金曜日にはついに学校を休んだ。

 俺の方は祭に参加すると言っても一参列者に過ぎず、儀式に必要な供物や薪なんかを担ぐだけだから楽なもんだ。

「それは今だけでしょ? あんただって正式に跡を継げば、やること増えるんだから」

 楠ノ瀬のいない金曜日には、あやちゃんが俺の元へとやって来て、普通に世間話をしていたくらいだ。

 そんな様子を、仁科にしなのヤツがニヤニヤと笑いながら見ていた。

 この調子では、俺が付き合っているのは楠ノ瀬ではなく、あやちゃんということで噂が広まってしまいそうだ。

 まぁそれがあやちゃんの狙いかもしれないけど……。





 *****

 そして祭の日がやって来た。

理森よしもりさん、こちらをお召しください」

 シゲさんに連れられた俺は、されるがままに白衣と白袴を着せられる。最後に腰紐をキュッときつく締められると気持ちまで引き締まる気がするから衣装の力は偉大だ。

「旦那様がいらっしゃいました」

 シゲさんが俺に耳打ちした。

 足音のする方に目を向けると、ちょうど仏頂面の父さんが入ってくるところだった。

 ――目が合ってしまう。

「理森……久しぶりだな」

「……あぁ」

 緊張で声が掠れた。

「なぁ父さん……ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「何だ?」

「…………藍原あいはらさんのことだよ」

 俺は一瞬、躊躇した。
 あいつの名前を出すことに。

 藍原の名を耳にしても父さんは相変わらず無表情で、何を考えているかはわからなかった。

「……何を、聞きたい?」

 冷静に問い返されて、俺は言葉に詰まった。

「あの、」

 父さんに会ったら聞きたいことが山ほどあったはずなのに……いざ本人を前にすると、言葉がうまく出てこない。

「あいつに……藍原あいはら朔夜さくやに……俺のケータイ番号、教えたのか?」

 俺の質問に、父さんは意外そうに片方の眉をぴくっと上げた。

「……教えた覚えはないが、勝手に見た可能性は否定できない。……朔夜が何か言ってきたのか?」

 父さんが「朔夜」と……藍原の名前を親し気に呼び捨てしたことで。
 あぁ、あいつの言っていたことは本当だったんだな……と、改めて思う。

 俺は少し言い淀んだ後で、吐き出すようにひと思いに告げた。

「『もし自分も開眼かいがんしたら、高遠たかとお家を譲ってくれ』……って、言われたよ」

「な、に……!?」

 あいつの言葉を伝えると、平静を保っていた父さんの表情がはじめて動いた。両方の眉をつり上げて、驚いたように目を大きく見開いている。

「父さんは……俺じゃなくて、あいつに跡を継がせたいと思ってるのか?」

 泣きそうな声で呟いた俺に、

「……それは私の権限で決められることじゃない。……当主が決めることだ」

 父さんは俺から目を逸らして、そう言った。

 目頭が熱い。

「そんなわけない」と言ってほしかった。
「高遠の跡継ぎはお前しかいない」と――。

 俺は、父さんがはっきり否定してくれなかったことに……自分でも意外なほど、傷付いているみたいだった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

清掃員と僕の密やかな情状

MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。 青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。 肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。 44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...