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お披露目
お披露目②
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結局、楠ノ瀬とは口を利かないまま冬休みに突入し、そして年が明けた。
俺は未だに神様を制御することなんて出来ていないのに……高遠家の正式な後継者として町の人たちにお披露目される日が確実に迫ってきていた。
正月には家族が顔を揃えたけれど、父さんは相変わらず何を考えているのかわからなかった。
口では祖父さんの意向に従うと言っていても、本心ではきっとあいつ――藍原朔夜に継がせたいに違いない……少なくとも俺はそう確信していた。
俺は限られた時間の中で、祖父さんから神憑りについての話を聞いたりして何とかもう一度、神を制御できないものかと思案したが……あの地震があった日を最後に神が俺に「憑く」ことはなかった。
――やはり神は俺じゃなくて、あいつを選んだんじゃないのか……?
お披露目の日も近いというのに……俺は不安でたまらなかった。
*****
俺の気持ちなんてお構いなしに時間は流れて、あっという間にその日はやって来た。
一月の寒い朝。
白衣と白袴に身を包んだ俺は祖父さんに連れられて、まだ陽も昇りきらないうちから、あの泉へと足を運んだ。
翡翠色の鳥居に祀られた神様に新年の御加護を祈願してから、泉の水で顔を洗う。
泉の水は一滴の濁りもなく透きとおり、水面を覗きこんだ俺の不安気で弱々しい表情をありありと映し出していた。
「理森、行くぞ」
祖父さんが腹に響くような低い声で、俺の名前を呼んだ。
俺はかすかに頷く。もう引き返せない……。
楠神社の境内に設えられた舞台に、祖父さんと二人で登壇する。眼下に町の人たちが見渡せた。石段の上から下までお年寄りを中心に数百人は集まっているみたいだった。静謐な山の空気に不釣り合いな騒めきが波のように広がっていく。
「あ……」
群衆の中で頭一つ飛び抜けたひょろりと長身の影を見つけて声が漏れる。
梢江先生だった。
観察するような鋭い眼差しをひしひしと感じて、俺は目を逸らした。
舞台の下手には楠ノ瀬の婆さんが控えている。
俺は無意識のうちに楠ノ瀬の姿を捜したが、彼女の姿はなかった。
「本日は寒い中、朝早くからお集まりいただき、有難うございます」
祖父さんの朗々たる声が響き渡って、群衆の騒めきが止んだ。
挨拶のあとで深く一礼する祖父さんの真似をして、俺も頭を下げる。
顔を上げると、集まった人々の好奇心に満ちた視線がつき刺さった。
高遠家の後継者としてふさわしいか、当主に足るだけの器があるのか……。
俺の資質を見定めようとする何百もの目玉が俺を見つめている。
自分に向けられた視線の渦にたじろいでしまう。思わず一歩後ずさると、
「理森、堂々としていなさい。……自信を持て」
祖父さんは前を向いたまま、隣に立つ俺にだけ聞こえるように低い声で呟いた。
「……はい」
かろうじて返事をして姿勢を正してみたものの、俺の額にはじっとりと汗が滲んでいた。こんなに寒いというのに……。
「孫の理森です。まだまだ若輩者ですが、すでに開眼もしております……」
『開眼』という言葉を受けて、町の人たちが一斉に色めき立った。どこからか「おぉ……」という歓声が上がる。拝むように手を合わせるお爺さんたちの姿も目に入った。
「理森、見せてやりなさい。あの「目」を……」
祖父さんが俺の肩を掴んで言った。
俺は未だに神様を制御することなんて出来ていないのに……高遠家の正式な後継者として町の人たちにお披露目される日が確実に迫ってきていた。
正月には家族が顔を揃えたけれど、父さんは相変わらず何を考えているのかわからなかった。
口では祖父さんの意向に従うと言っていても、本心ではきっとあいつ――藍原朔夜に継がせたいに違いない……少なくとも俺はそう確信していた。
俺は限られた時間の中で、祖父さんから神憑りについての話を聞いたりして何とかもう一度、神を制御できないものかと思案したが……あの地震があった日を最後に神が俺に「憑く」ことはなかった。
――やはり神は俺じゃなくて、あいつを選んだんじゃないのか……?
お披露目の日も近いというのに……俺は不安でたまらなかった。
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俺の気持ちなんてお構いなしに時間は流れて、あっという間にその日はやって来た。
一月の寒い朝。
白衣と白袴に身を包んだ俺は祖父さんに連れられて、まだ陽も昇りきらないうちから、あの泉へと足を運んだ。
翡翠色の鳥居に祀られた神様に新年の御加護を祈願してから、泉の水で顔を洗う。
泉の水は一滴の濁りもなく透きとおり、水面を覗きこんだ俺の不安気で弱々しい表情をありありと映し出していた。
「理森、行くぞ」
祖父さんが腹に響くような低い声で、俺の名前を呼んだ。
俺はかすかに頷く。もう引き返せない……。
楠神社の境内に設えられた舞台に、祖父さんと二人で登壇する。眼下に町の人たちが見渡せた。石段の上から下までお年寄りを中心に数百人は集まっているみたいだった。静謐な山の空気に不釣り合いな騒めきが波のように広がっていく。
「あ……」
群衆の中で頭一つ飛び抜けたひょろりと長身の影を見つけて声が漏れる。
梢江先生だった。
観察するような鋭い眼差しをひしひしと感じて、俺は目を逸らした。
舞台の下手には楠ノ瀬の婆さんが控えている。
俺は無意識のうちに楠ノ瀬の姿を捜したが、彼女の姿はなかった。
「本日は寒い中、朝早くからお集まりいただき、有難うございます」
祖父さんの朗々たる声が響き渡って、群衆の騒めきが止んだ。
挨拶のあとで深く一礼する祖父さんの真似をして、俺も頭を下げる。
顔を上げると、集まった人々の好奇心に満ちた視線がつき刺さった。
高遠家の後継者としてふさわしいか、当主に足るだけの器があるのか……。
俺の資質を見定めようとする何百もの目玉が俺を見つめている。
自分に向けられた視線の渦にたじろいでしまう。思わず一歩後ずさると、
「理森、堂々としていなさい。……自信を持て」
祖父さんは前を向いたまま、隣に立つ俺にだけ聞こえるように低い声で呟いた。
「……はい」
かろうじて返事をして姿勢を正してみたものの、俺の額にはじっとりと汗が滲んでいた。こんなに寒いというのに……。
「孫の理森です。まだまだ若輩者ですが、すでに開眼もしております……」
『開眼』という言葉を受けて、町の人たちが一斉に色めき立った。どこからか「おぉ……」という歓声が上がる。拝むように手を合わせるお爺さんたちの姿も目に入った。
「理森、見せてやりなさい。あの「目」を……」
祖父さんが俺の肩を掴んで言った。
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