月と秘密とプールサイド

スケキヨ

文字の大きさ
16 / 43
強かな女、鈍感な男

鈍感な男(2)※

しおりを挟む
*****

「これ、着けてくれてるんだな」

 ひな子の胸に顔をうずめていた龍一郎りゅういちろうが、彼女の首元で光るクローバーのネックレスを見つけて熱っぽく呟いた。

「……うん」

 龍一郎の言葉に、ひな子は小さく頷いた。このネックレスは去年の誕生日に龍一郎に貰って以来、ほとんど肌身離さず着けている。
 ひな子の胸元から顔を上げた龍一郎が、クローバーのチャームを舌先でつついた。ひんやりとした触感を楽しむように舌の上に載せて転がしはじめる。龍一郎の口の中で、アクアブルーの石がキラリと青く光った。
 クローバーをねぶる龍一郎の舌をぼんやりと眺めていたひな子。ついさっきまで自分の乳首もそうされていたのかと思うと、にわかに胸の先が熱を帯びる。
 刺激を求めて今にも弾けそうに赤くぷっくりと膨らむ蕾に……しかし龍一郎は気づかない。

「ぁ……」

 ひな子の胸をやわやわと揺すぶっていた彼の手が、そこを離れてゆく。

 ――あのひとなら……気づいてくれるのに。

 ついついそんなことを考えてしまった自分が信じられなくて、ひな子は軽く頭を振った。
 龍一郎の手は脇腹を伝ってひな子の身体を下へと向かっていく。くびれた腰に辿りつくと濡れたスカートを持ち上げて、下着越しにひな子の弾力あるお尻を掴んだ。力まかせにぎゅうぎゅうと揉みしだいてくる。
 雨で濡れた下着が肌にびちゃりと密着して気持ち悪い。

「んっ……、りゅうちゃん……やだ」

「やだ」の意味を濡れた下着のせいだと思ったらしい龍一郎が、ひな子の下着を引きずり下ろした。太腿の途中まで下ろすと、透明な粘液が糸を引いた。

「スゴい……濡れてる」

 感心したような龍一郎の口ぶりに、ひな子の頬が赤く染まる。

「それは、さっきの雨のせいで……」

 顔を伏せたひな子が消え入りそうな声で言うと、

「こんなトロトロの雨があるかよ」

 龍一郎が薄く笑いながら否定する。

「あっ……!」

 トロトロに溶けた蜜壷に、龍一郎が指を差し入れた。しばらく膣内なかを探るように指を曲げ伸ばししたかと思うと、グチュグチュと音を立てて掻き混ぜる。

「はぅっ……! ぁ、あぁ……んんっ……」

 自分でも知らない弱いトコロを擦られるたびに、ひな子の口からあられもない声が漏れる。

「すげぇ……次から次に溢れてくる」
「龍ちゃんのバカ…………そんなこと、言わないで……」

 言葉でこそ龍一郎をなじってはいても、身体は真逆の反応をしてしまう。

「やばい……三本でも余裕で入ってく」
「もぅ……ヤダぁ……」

 恥ずかしさのあまり、ひな子の目に涙が滲む。
 これ以上進んだら、龍一郎との関係が変わってしまう……そう思うのに、腰が勝手に動いて、龍一郎の指をがっつりと呑み込んでいく。
 ふいに愛液にまみれた龍一郎の指が、ひな子の花芽をかすめると――

「はぁあああ…………んぅっ!」

 一際ひときわ高い声で鳴いたひな子を面白がるように、龍一郎が執拗にそこばかりを攻め立ててきた。新しい玩具おもちゃをみつけた子供みたいに――。

「なぁ……。お前、いつからこんなにエロくなったんだよ」

 龍一郎がひな子の耳元に顔を寄せて囁いた。
 ひな子の花芯をいじくる指の動きが、激しさを増す。
 自分勝手な龍一郎の指に翻弄されて、ひな子は壊れたバイオリンみたいに身をよじらせて嬌声を上げた。

「いつからこんなに……感じやすくなったんだよ……!」

 龍一郎の口調にはひな子を責めるようなニュアンスが含まれていた。

「んぅ……あぁっ……そんな言い方、しないでよ……私はただ、龍ちゃんのため、に……」

 思わず言いかけた言葉を、ひな子は必死の思いで飲み込んだ。瞳に溜まっていた涙がひと粒こぼれ落ちて、床のカーペットに染みていく。

「なぁ、ひな子……俺、もう……」

 切迫した声で呻いた龍一郎が、ひな子の手を掴んで自分の股間へと導いた。

「きゃっ……」

 すっかり勃ち上がった龍一郎のモノの猛々しさに、ひな子が小さく悲鳴を上げる。

「ひな子……俺、もう我慢できない……なぁ、俺にもヤらせてくれよ……」

 龍一郎がひな子の耳に鼻先を押し付けながら、懇願するように掠れた声で呟いた。熱い息が耳にかかって、ひな子の身体が震える。

「龍ちゃん……」

 子供の頃からずっと好きだったひとに求められている。応じるかどうかは別としても、本来なら嬉しくてしょうがないはずだ。

 ――だって、ひな子はずっと……龍一郎のことが好きだったのだから。

 なのに……。
 が、ひな子の心に引っかかっていた。

(俺に……?)

「……龍ちゃん……さっき、『俺にも』って言った……?」

 ひな子が震える声で尋ねた。

「…………」

 龍一郎が無言でひな子の耳に噛みつく。

「痛い……っ!」

 痛みに驚いたひな子が龍一郎の顔に目を向けると――
 そこには……子供の頃からよく知っている幼馴染ではなく……全然知らない男の顔があった。

「……龍ちゃん? どうしたの? なんか、ヘンだよ。なんだか……知らない男のヒトみたい……」

 ひな子の声が震える。
 龍一郎は無言のまま、ひな子の視線を避けるように、ふいっと目を逸らした。その仕草はひどく冷酷なもののように、ひな子は感じた。

「龍ちゃん……もしかして、知ってる……の?」

 龍一郎はひな子から目を逸らしたまま、答えない。

「……そんな……なんでっ……!」

 ひな子の目から涙が溢れた。
 大粒の涙が零れては落ちて、乱れたブラウスとカーペットに吸い込まれていく。

 ――知られたくなかった。

 純粋で鈍感で子どもっぽくて。
 昔からちっとも変わらない龍ちゃんには、龍ちゃんにだけは……知られたくなかったのに……!

「……ヘンなのは、ひな子のほうだろ。知らないひとになっちまったのは……お前のほうじゃねぇかよ……」

 拗ねた子供みたいな口調でぼそりと呟いた龍一郎が、今度はひな子の尖った乳首に噛みついた。

「やだっ……痛、いっ……!」

 痛みに耐えかねたひな子が、龍一郎を突き飛ばした。
 濡れたブラウスに張りついて透けた胸を隠すように、両腕で自身の身体を抱え込む。それでも全身の震えを抑えることができなくて、身体がガタガタと震えている。快感ではなく、恐怖のために……。

「……ごめんなさ、い……。今日は、帰って……」
「……ひな子、」

 龍一郎が手を伸ばしながら、フラリとひな子の元へと近づいてくる。

「やっ……来ないで……!」

 ヒビ割れたようなひな子の悲鳴に、龍一郎が動きを止めてその場に立ち尽くした。信じられない、といった表情を浮かべてから、行き場をなくした腕を静かに下ろす。力なく首を垂れて向きを変えると、背中を丸めて、ひな子の家を出て行く。
 振り返ったら、どうしよう……と、ひな子は思ったが、龍一郎は一度も振り返ることなく、ひな子の視界から姿を消した。
 ひとりになったひな子は、カーペットが濡れるのも構わず、その場にずるずると座り込んだ。拭っても拭っても、溢れ出る涙を止めることができない。

 どしゃ降りだった雨は、いつの間にかすっかり弱まったみたいだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...