月と秘密とプールサイド

スケキヨ

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『教師と生徒』

『教師と生徒』(1)※

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 ひな子は敏感になりすぎた胸の先とグズグズに疼く下半身を、擦りつけるように火神かがみの身体へと密着させた。

「ちょ……待て、って!」

 焦った火神が、ひな子の身体を引き離した。

「……待てません」

 火照ほてる身体を持て余したひな子が情欲に潤んだ目で火神の目を覗きこむ。

羽澄はすみ……お願いだから、あんまり困らせないでくれ」

 逡巡するように黒目を震わせた火神が、ひな子の背中に手を添えて、ゆっくりと押し倒した。毛足の長いライトグレーのカーペットが、ひな子の身体を柔らかく受け止める。
 仰向けになったひな子の上に覆い被さるようにして、火神が身をかがめた。

「俺はお前の『先生』だ。だからほんとは、こんなことしちゃ駄目なんだよ……」

 ひな子に向かって……というより、自分自身に言い聞かせるように火神が呻く。

「……先生は、ズルいです。今さらそんなこと言うんなら、どうして、あの夏の日に……」
「すまない。ほんと駄目な教師だな、俺は。生徒に手を出すヤツなんて最低だ、クズだ、って……頭ではわかってるのに……今だって、我慢できそうにないんだ」

 ひな子の太腿に硬い感触が当たっている。

「せんせ……」

 火神の頭を引き寄せると、ひな子は自分から火神の薄くて柔らかい唇に吸いついた。無理やり唇を割って、舌を差し入れる

「ん、……んぅ……ふ、ぅん」

 ひな子の鼻から息が漏れる。
 ふたりの荒い呼吸が雑然とした部屋を満たしていく。
 ひな子は喉の奥に張り付いたままの火神の舌を見つけると、自分の舌を絡めて引っ張りだした。教師の仮面かおも理性も……すべてを剥ぎ取ってしまいたかった。

 顔を上げた火神が、涙の滲むひな子の目尻をぺろりと舐め上げた。そのまま唇を下へと伝わせて、柔らかな胸の谷間へと顔を埋める。
 中途半端にずり下げられたブラジャーのせいで、大きな胸がさらに強調されていた。充血して固く尖った胸の先が、虫を誘う花のように、ツンと上を向いている。
 火神は赤く熟れたそれをパクリと口に含むと蜜を吸う蜂のように、ちゅうちゅうと音を立てて吸った。

「はぁ……んっ!」

 ひな子が天井に向かって、熱い息を吐き出す。
 片方を舌でねぶられながら、もう片方の乳首を指先でグリグリ刺激されると、

「ぁん……はぁ、あぁぁ……きもち、いぃ……」

 ひな子はこらえきれないといったふうに快感に悶えて身をよじった。

「ほんとにエロいな……。これ以上、困らせないでくれよ」

 半裸で乱れるひな子を見下ろしながら、火神が泣きそうな声で呟く。
 さっきまで口で攻めていた胸の先端をぴんっと弾くと、

「は、あぁ……んっ!」

 さんざん舌で嬲られた左の乳首は、指の先で少し弾かれただけでも痺れるほどの衝撃が走った。もはやどこに触れられても感じてしまう……。

「ん、せんせい……もっと、」

 ひな子がおずおずと火神の膨らんだ股間に手を伸ばした。服の上からでもわかる剛直した肉棒を少し強めに摩りあげる。

「おい……」

 火神が困ったように眉を下げる。

「どこで習ったんだよ、そんな誘いかた」

 ひな子は答えないで、顔を背けた。
 自分でもどうしてこんなに身体が疼いているのかわからない。

 ――もっと、もっと……。

 物足りなさに、脚が勝手に刺激を求めてもぞもぞと動いた。
 そんなひな子を見兼ねて、ついに火神が脱げかけのジーンズに手をかけた。ひな子は自ら腰を浮かせて脱がせやすくする。ごわついた生地が足首から引き抜かれてしまうと、ほどよく筋肉のついた脚が露わになった。あの日、火神が魅せられた人魚の尾のような白い脚。
 火神は誘われるがまま、きゅっと引き締まった足首に手を添えると、ふくらはぎから膝、そして太腿へと――下から上へ、ゆっくりとひな子の脚をなぞっていく。脚の付け根へとたどり着くと、柔らかな内腿を揉み込むように撫でまわした。何度も何度も。
 
「せん、せ……」

 ――焦らさないで。

 とっくにグジュグジュになったひな子の中心から濃くて甘い蜜の匂いが漂っていた。
 火神の指がなおも躊躇うように、ひな子の内腿を行ったり来たりしている。

「せん、せ……はやく」

 ひな子の蜜に誘き寄せられたように、火神の指がひな子の花芽を捉えた。
 
「あぁぁ……は、ぁんっ……!」

 敏感な突起をクニクニと弄られて、ひな子の肢体がびくびくと跳ねる。

「……は、すみ」

 ひな子の名前を呼ぶ火神の声が掠れていた。

「せんせいも、興奮してる……?」
「あぁ……」

 ガチャガチャ、と金属の触れ合う音がしたかと思うと、火神が蛇みたいなベルトをベッドの脇へと放り投げた。
 火神の背中にひな子の脚が絡みつく。
 どちらからともなく互いの唇に吸いついて、ぬちゃぬちゃと舌を絡めあうと、ふたりの息づかいと唾液の混ざり合う水音だけが、昼下がりの殺風景なワンルームに響いた。

 このまま思いを遂げる――はずだったのに。

 濃密な空気が支配するふたりだけの空間に、かすかなノイズが混ざった。
 部屋の片隅から漏れた聞き慣れた音楽とバイブ音。火神のスマホだった。

「……またかよ」

 うんざりした様子で起き上がると、スマホを引き寄せて、ディスプレイに表示された名前を確認した。

「大丈夫だ。この人は気にしなくて」

 ディスプレイに目を落としていた火神が、ほっとしたように息をつく。
 しかし、その後もスマホは何度となく震えつづけて、火神の気勢をそいだ。空気の読めない着信に、いい加減、みはじめてきたところに、

「おーい、火神! 鍵、開いてたから、勝手に邪魔させてもらうぞ……」
「ヒャっ……!」

 火神に組み敷かれていたひな子が悲鳴を上げた。
 火神がひな子の視線をたどって振り返ると――。

 そこには口をぽかんと開けて立ち尽くす丹野たんのの姿があった。


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