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第1章

第4話 脱出

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「さて、これからどうするか?」


 俺は創造魔法で新しく作り出したマップのスキルで周囲の状況を確認しながら、これからの計画を練り始めることにする。


 俺が作り出したマップスキルは、周辺の地理や存在する生き物を地図上に確認することができる便利なスキルだ。ゲームで画面端にあるような、あのマップを思い浮かべてもらえばいい。さらにはマップ上では俺の味方の生物は青色、俺に敵意のある生物は赤色、中立は黄色といった風に色分けもできる。


 そして、この城の中にある人間のマーカーをマップスキルで確認してみると、見事に赤色ばかりだった。後は関係のない使用人が黄色なのと、一部の高校生が青色に表示されている位だ。きっと彼らはいい奴なのだろう。


 この青色に表示されている高校生達の名前は覚えておいて、彼らが困ったときには助けてあげることにしよう。でもまずは、目の前の困難を乗り越えなければな。着々と俺が押し込められた質素な部屋の周りには、赤色のマーカーが集まってきている。多分、無能認定を受けた俺に対する殺害計画が練られているのだろう。


 さらには俺が召喚された国について異世界辞典のスキルで調べてみると、そこには面白いことが書かれていた。


 異世界辞典
 エルドス帝国
 周辺国家に内密で勇者召喚を行った国。勇者を騙して周辺国家への侵攻を計画している


 俺が召喚された国はエルドス帝国という名前らしい。そして帝国は勇者達を騙して、周辺国家を侵攻するための道具にしようとしていると。


(まぁこの件は今の俺にはどうにもできないから、事態の進行を少し待つことにしよう。……とりあえずは逃げるか)


 逃走方法は簡単だ。まずは、創造魔法のスキルで作り出した俺の身代わり人形をベッドの上に布団をかけて置いておく。まるで眠っているように見えるし、血も出る精巧な人形だ。本物とまったく同じで、少しビビるぐらいである。


 でも、これで帝国は俺の殺害計画がうまくいったと勘違いをするだろうな。後は創造魔法により生み出した転移スキルを使って、俺がどこかに移動するだけだ。


 この転移スキルは、マップスキル上に指定した場所にどこでも転移できるという便利なスキルだ。まあ定番のスキルではある。


 他にも色々とスキルを生み出したが、そのお披露目はまた、今度にしておくことにしよう。


 そして時刻が夜明けになる頃、俺が閉じ込められている部屋のドアに数人の赤色マーカーが集まり出すのを確認した。どうやら彼らが俺を殺しに来た兵士のようだ。さてと、ではこの城をお暇するとしますか。うまいこと騙されてくれよ。


「脱出成功だな」


 俺はひとまず、俺が召喚された城がある都市の街中に転移をしてみる。そして、日の出始めた朝モヤの街並みを散策してみることにした。この世界の文化とやらを直に感じるためだ。


 俺が散策した都市の中は、まるで典型的なファンタジーの世界といった出で立ちであった。その現代社会では見ることのできない独自の文化の様子から、自分が本当に別世界に転移をさせられてしまったことを強く実感する。


「なんだか無性に、歌いたくなってきたな」


 街の散策を終えた俺が噴水のある広場で休んでいると、なんだか無性に歌が歌いたくなってきた。目立ったり派手なことをするのは好きな性格ではなかったなずなのだが、これも邪神の使徒になった影響なのかもしれない。


 せっかくだし、この場で一曲、披露してからこの国を去ることにしよう。幸いにも俺はギターが弾ける。俺は創造魔法のスキルでアコースティックギターを作り出すと、それをかき鳴らしながら大きな声で歌い出した。


「俺は貧乏だ!金を持ってねえ!」


 ギターというこの世界の人間が見たこともないであろう物体を持っている俺を、朝モヤの中で労働に出かける人たちが変な人を見る目で見つめている。しかし、俺が突然広場で歌い出すと、異国の吟遊詩人だと俺のことを理解したのか興味を失ったように人々は歩き出す。俺はそのまま歌を続けていった。


「俺は親に殴られながら育った!友達はみんな俺を馬鹿にした!」


 しかし朝早くから労働のために出かける人には苦労人が多いのか、ちらほらと俺の歌を聞くために立ち止まる者も現れる。中には共感したのか涙ぐむ者までいた。


「誰も俺を愛してくれた人はいない!美味いものなんて食ったことないし、靴だって穴だらけでボロボロだ!俺は冬を越すためのコートだって持ってねえ!」


 現状の苦しい生活に当てはまる人が多いのか、俺の歌を聞いた人たちの間でざわざわと困惑の声が上がっている。そしてその声は次第に何か熱のようなものに変わると、周りの群衆へと伝播していった。


「金貨なんて見たこともねえ!学校も行けなかった!俺はいつだってボロボロのまんまで生きてきたんだ!俺は何一つ持ってねえ!」


 首輪を巻き、豹みたいにスラッとした美しい肉体を持つ頭にケモミミを生やした女性にいたっては、俺の歌を聴いて涙まで流している。多分、彼女はこの世界の奴隷なのだろう。どうやらこの世界には獣人がいるようだ。俺は初めて獣人を見たことになる。


「でも俺にはこの身体がある!この右手が!この左手が!この右足が!この左足がある!俺は生きてるんだあああああ!」


(ふう……)


 俺が気持ちよく歌い終わると朝の広場に集まった労働者たちは皆、シンと静まり返ってしまっていた。奴隷制度が前提のような社会でこんな敵性音楽を歌う奴がいたら、きっとそいつは正気を疑われるだろう。つまり俺は今、みんなにやばい奴と認識をされているわけだ。


(たまには、こんな気分も悪くねえぜ……)


 俺は謎のニヒルな気分を浮かべながらもそそくさとその場を後にすると、人目のない場所に移動した後に転移スキルを使って隣の国に移動することにした。


 ちなみにこのときの俺は異世界に転移したことと、自分が殺されそうになったことによって変にハイな気分になっていたのだろう。しばらく時間が経ち冷静に戻った俺は、この記憶を黒歴史として完全に封印することにしたのであった。


 ―――――


 この日、エルドス帝国帝都の広場で謎の吟遊詩人が歌いあげた歌により、魂に火のついた市民の間に解放運動が広がり始めることとなる。革命の始まりであった。


 数年後、エルドス帝国の圧政に苦しむ市民たちによる革命運動によって、エルドス帝国はその歴史に幕を閉じることになる。後世の歴史家達の中で有名な歴史的転換点、エルドス革命である。


 エルドス革命の始まりが、圧政に苦しむ日々の中である日吟遊詩人が歌い上げた一曲の歌であることは、その特殊性から歴史家の間であまりにも有名になるのであった。


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