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第1章
第8話 アマンダさん宅へ
「ようこそ、我が冒険者パーティー『麗しき庭園の誓い』の居城へ。どうやら、他のパーティーメンバーは誰もまだ家にはいないみたいだな」
俺は今、アマンダさんが所属する冒険者パーティーが住んでいるという一軒家にお邪魔させてもらっている。彼女たちが住んでいる家は、一階が共用スペース、二階がプライベートスペースとなっているようだ。
「ちょっと!男女で二人っきりはまずいですって!」
「アマネみたいな弱っちー男に、私がどうこうできるわけ無いだろ!大丈夫だって!」
でもここからが、俺が予想していた展開と少し違っていた。なんと、俺が泊めてもらえるのはアマンダさんの私室らしい。てっきり俺は、客間か何かに泊めてもらうものだと思っていた。俺はその展開に焦りを覚えることとなる。
しかし、Aランク冒険者として活躍し、すでに家まで購入しているアマンダさんに、ゴブリンに苦戦するような駆け出しの男が何も出来るわけがないと言い切られてしまうと、俺はそのまま納得する他なかった。
外の景色はもうすでに薄暗くなり始めている時間で、今から宿屋を探すのは骨だ。仕方ないけど今日はアマンダさんの部屋に泊めてもらい、明日から、どこかの宿屋に泊まることにしよう。
「おじゃましまーす……」
「まあ、適当にくつろいでくれ!」
俺が案内されたアマンダさんの私室は、男勝りな彼女の言動とは裏腹に、女の子らしくてかわいい装飾に彩られた部屋だった。
しかも、彼女の部屋にはソファーが置いてあり、俺は毛布を借りてそこに寝ることになる。別々に寝るのならあんなに焦る必要もなかったと、俺は安堵することになった。
「へへ!じゃあ今のうちに、アマネ、私と魔力のパスを交換しようぜ」
「魔力のパス?」
部屋に入って一段落すると、アマンダさんが俺に知らない提案をしてくる。魔力のパスとは何のことだろうか。その言葉から意味すらも推定することが出来なかった俺は、魔力のパスについて彼女に質問をしてみる。
「やっぱり、アマネはそういうのも知らなかったか。そりゃ、好都合だ」
「好都合?」
「何でもない!とりあえず、魔力のパスについて説明しておこうか!」
怪しい何かをごまかしながら、アマンダさんが俺に魔力のパスについて説明をしてくれるという。俺はアマンダさんの言葉に少し引っかかりを覚えながらも、そのまま彼女の話に聞き入ることにした。
「……というわけなんだ」
アマンダさんの説明によると、まず、この世界の住人は全て、それぞれが波長の違う魔力を持っているらしい。現代で言う、一人ひとりの指紋が違うような感覚だ。
その一人ひとりが持つ魔力の波長が違うという性質を利用することで、この世界では、色々と便利な道具が開発されていると。
そして、アマンダさんが言う魔力のパスとは、いわゆるスマホの連絡先交換のようなものだった。魔導板という道具があって、それが現代で言うスマホとそっくりなのだ。
魔導板が現代のスマホと違うところは、魔導板には自分の魔力を登録して使うという機能があることだろう。それを本登録というらしい。
次に、別の魔導板に本登録をしたお互いの魔力の波長を追加登録させることで、魔導板同士の魔力を電波のように繋げることができ、メッセージや会話のやり取りをする仕組みになっている。さらには魔法陣を刻むことで、魔導板にはスマホでいうアプリのような機能も追加することが出来るようだ。
だから、この世界での通話は電話ではなく、魔話と呼ばれている。
アマンダさんの説明を聞いて、俺は感銘を受けていた。俺が来たニホンとは全く違う文明が、ここには根づいていたからだ。さすが魔力のある、ファンタジー世界である。
「アマネは魔導板も知らないのか~。じゃあ、こういうのも知ってるか?」
(へへ!アマネ、聞こえるか~!)
「うわ、頭の中にアマンダさんの声が聞こえる!」
感動もひとしおのところに、さらに驚きの展開が続いていく。
アマンダさんに指示をされ彼女と手をつなぐと、俺の体の表面に彼女の魔力が触れるような慣れない感覚がした後に、俺の頭の中にアマンダさんの声が直接聞こえてきたのだ。それはもう、お互いの魔力同士で手をつないで物理的に魔力を触り合っているような、不思議な感覚だった。
(アマネは、念話をするのも初めてなんだな!)
アマンダさんに教えてもらったのだが、この世界の住人は魔力で繋がることで、お互いにスキンシップをとることが出来るらしい。この念話は、その一種だそうだ。
向こうの世界では考えられない、全員が魔力を持っている異世界独自の文化の連続に、俺は感動に打ち震えることになる。
(すげー!魔力で、こういう事もできるんだ!)
(やっぱり、アマネは他人と魔力で繋がるのは初めてか?)
(はい!)
俺は異世界に来て、初めて体験する行為に興奮しっぱなしだった。俺は念話を使い、アマンダさんと会話を続けていく。初めてする念話は、それはもう楽しかった。
だって、この世界では、念話は小説で出てくるような架空の技術ではなく、実際にある技術なのだ。素晴らしいではないか。
(アマネの顔って、よく見るとかわいいよな!)
しかし、感動のしすぎて周りがまったく見えなくなっていた俺は、途中から、アマンダさんの様子が男勝りで面倒見のいいお姉さんから、獲物を狙う猛禽な獣のような雰囲気に変わっていることに気づくことが出来なかった。失態である。
「――うわぁ!」
――どさっ!
だから俺は、肉食動物に襲われる草食動物のように、雰囲気の変わったアマンダさんに押し倒されてから初めて、彼女の様子がさっきまでとは違って、すごく攻撃的であることに気がついたのだ。
しかし、襲われてしまってからでは時すでに遅く、俺は座っていたソファーの上でアマンダさんの体にのしかかられて、まったく身動きの取れない状態で右往左往することになる。
(じゃあ、アマネのこと、食べちまうか!)
(えっ?ちょっと、待って!)
今までとは態度を豹変させたアマンダさんが、ソファーの上に仰向けに倒れ込んだ俺の体の上にまたがりながら、何やら変な宣言をしている。どうやら、彼女はこれから、俺のことを食べるらしい。アマンダさんが言っていることの意味が俺にはよく分からないが、何かまずいことが起きていることだけは分かる。
(こういう手ほどきも、必要だかんな!)
獲物を狙うハンターの瞳になったアマンダさんが、ソファーの上で俺の体を押さえつけながら楽しそうに笑っている。俺はシンと張り詰めた空気に変わった部屋の中で、冷や汗をかきながらこの場の状況の理解に努めていく。
(なんか、ヤバい!)
(へへ!逃さねーよ!)
自分の体がこれから食べられる獲物になってしまったような恐怖を感じた俺は、ソファーの上から脱出しようと試みるが、アマンダさんにうまく体を抑え込まれていて、その場からまったく見動きがとれない。最悪の状況だった。
「アマンダさん……いったい……何を……?」
「……っ♡」
――ぺろり♡
舌なめずりをしながら余裕の態度を崩さないアマンダさんの体の下で、俺は突如としておとずれたこの窮地から、なんとか逃れる方法を懸命に探すのであった。
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