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第4章
第56話 とある少女の回想
マルグリット視点
私の名前は、マルグリット・フォン・モルシュテンダッド。
代々、軍人としてイスタリア王国に仕える貴族家出身の女の子です。
私はドルチアーノ王国のメヴェールという街にある許嫁の家に向かう旅の途中に、野盗に襲われてしまいました。
メヴェールは海運の要所として知られる場所で、ベッケンバウム家によって治められている街でもあります。
エルドス帝国による周辺国への侵攻が激化してきた昨今の対策として、私はベッケンバウム家に嫁ぐことが決まりました。
ベッケンバウム家は、自らが所有するベッケンバウム商会を通じて世界中と通商をおこなう大家であり、世界一とも評価される水軍を所有する名家でもあります。
そんなドルチアーノ王国の大貴族とも呼べるベッケンバウム家に私が嫁ぐことは、周辺国家への侵攻を企むエルドス帝国への牽制の意味が込められていました。
その理由は、私が生まれたモルシュテンタッド家は、イスタリア王国軍において代々将軍を務める名家でもあるからです。
過去におこなわれたエルドス帝国による侵攻を防衛する戦争の際、私のお祖父様が指揮をとった少数精鋭の魔導小隊による敵本陣への急襲作戦は、今や物語となって人々に語り継がれるほどに有名でした。
お互いに強力な軍事力を持つモルシュテンタッド家とベッケンバウム家との婚約は、エルドス帝国への牽制をおこないたいイスタリア王国とドルチアーノ王国両者の思惑とも重なり、あっというまに進むことになったのです。
そして小さい頃から私のメイドとして仕えてくれている気心の知れたアンヌと一緒に、私はベッケンバウム家に婚約の挨拶をするために旅をしていたのでした。
しかし、旅の途中で護衛たちが全員裏切るという不幸に見舞われた私とアンヌは、絶体絶命の窮地におちいってしまいます。
そんな私たちのピンチを助けてくれたのが、アマネさん。彼は私と同い年くらいで、黒髪に黒い瞳をしている、まるで勇者と呼ばれる英雄たちと同じような見た目の男の子です。
さらに、野盗の集団を一人で撃退してしまうという信じられないような強さを見せたことから、私は最初、アマネさんを本当に勇者かと思ってしまいました。
しかし、私がアマネさんに対して勇者であるかと質問してみても、自分は勇者ではないと苦笑いをして彼はそれを否定します。
そして、アマネさんの善意により、私とアンヌは貴族が乗るような馬車よりもさらに快適な内装のゴーレム馬車に乗せてもらいながら、メヴェールの街まで彼に護衛してもらうことになるのでした。
黒目黒髪をしていること。見た目は地味だが、貴族が所有しているものよりもさらに快適な性能をした馬車を所有していること。素晴らしくおいしい異国の料理を振る舞ってくれること。それが、私の国では勇者たちのわかりやすい特徴と言い伝えられています。
私はそんな噂でよく聞く勇者たちの特徴を数多く備え持つアマネさんを見て、実は彼はお忍びで旅をしている勇者なのではないかと結論づけました。
しかし、それを深く追求するのはアマネさんの迷惑になるので、私はなにも知らないふりを続けることにします。
「この、とりぱいたんラーメンという麺料理、すごくおいしいですわ!」
そして今日も、私はアマネさんの魔法によって振る舞われる異国の料理を楽しみながら、信じられないくらいに快適な馬車の旅を続けるのでした。
「食後のバニラアイスクリームも、すごく濃厚で舌がとろけそう!」
まるで自分が、物語に出てくる野盗に襲われていたところを勇者に救われて、そのまま勇者と結ばれるという恋物語の主人公になったように感じながら、私はひとときの旅路を楽しむのです。
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