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第4章
第59話 メヴェールの街
マルグリットちゃんとアンヌちゃんを無事にメヴェールの街まで護衛した俺は、彼女たちをベッケンバウム家へと送り届けることにする。
街の外壁をくぐり漁港の街並みの中を進んだ先にある、一番豪華な建物がベッケンバウム家の領主屋敷だ。
そして俺は港街を通り抜けた先にあるベッケンバウム邸に馬車を近づけると、門番の兵士に声をかけた。
「ありがとうございました!」
無事に目的地まで到着したことに対し、マルグリットちゃんとアンヌちゃんが、嬉しさ半分、名残惜しさ半分の顔で俺にお礼の言葉を伝えてくる。
その後、守衛の兵士が報告に向かったことで、屋敷の中からは白髪をオールバックにした上品な執事や、ゴテゴテの服を着てでっぷりと太った茶髪の男がやってくることになった。
着ている服の豪華さから予想するに、どうやらあの太った男が、ベッケンバウム家の人間なのだろう。
「マルグリット様。ようこそお越しくださいました。どうぞ、中でおくつろぎください」
ピンと張った背筋で丁寧なお辞儀した隙のない老執事が、人好きのする丁寧な態度でマルグリットちゃんたちを屋敷の中に案内していく。これで、俺の護衛任務は達成だ。あとは、彼らにマルグリットちゃんたちを任せればいい。
俺は自分の仕事が終わったことにホッと一息をつきながら、次はなにをしようかと考える。
「この方はアマネさんといって、野盗に襲われている私たちを助けてくださった方です。どうか丁重にお扱いください」
「はい。かしこまりました。アマネ様。申し訳ありませんが、マルグリット様を案内するまで、少しその場でお待ち下さい」
馬車で二人をメヴェールの街まで送り届けた俺についてマルグリットちゃんが説明すると、彼女の説明を聞いた老執事がニコニコ顔で返事をしていた。
マルグリットちゃんは律儀にも、ここまで護衛を務めた俺に謝礼をしてくれるらしい。老執事は俺に対しても丁寧な対応をしたあとに、応接のために人員をよこすように周囲に指示を始めている。
実はこれから、俺はメヴェールの街を一人で散策してみようと考え始めていたのだが、彼女たちの好意を受け取ってみてもいいかもしれないな。俺は、そんなことを考える。
しかし、そんな俺の隣では、老執事や世話役であろうメイドたちに連れられながらマルグリットちゃんたちが屋敷内に入っていく後ろ姿を、でっぷりと太った男が怒りに満ちた顔で睨みつけていた。
これはいったい、どういうことだろう。
「で、さっさと帰れ。この屋敷は、平民がおとずれていい場所ではない!」
「はあ……」
そして、マルグリットちゃんや執事がその場からいなくなった途端に、太った男が態度を変えて俺を威圧してくる。どうやら彼は、いますぐ俺を追い返したいらしい。
「なんだ、タカリか?貴族を馬車で護衛するのなんて平民の義務であって、謝礼を受け取ろうなんて意地汚いな。おい!守衛!さっさとこの下民をつまみ出せ!」
太った男はそのまま、めんどくさいといったイラつきをぶつけるようにして、俺に対して暴言をはき続けてくることになった。
「し、しかし、そんなことをしては、マルグリット様を助けてくださったこの少年に失礼では?それに、執事長のザヌーク様がその場でお待ちするようにと……」
そのあとすぐに、太った男がとりだした横暴な態度を見かねた守衛の男性が割り込んでくれるが、完全に馬鹿にされたような態度で彼はあしらわれてしまう。
「うるさい!領主であるジエーム・ベッケンバウムの命令が聞けないのか?たしか、お前は子供が生まれたばかりと言っていたな。いますぐ、守衛の仕事をクビにしてやってもいいんだぞ?」
こうなってしまったら、雇われの守衛さんではなにもできないだろう。
「君、すまない……」
そうして俺は、あっというまに屋敷から追い返されることになった。老執事が戻ってくると面倒だからさっさとどこかにいけと、俺は執拗に急かされながらその場をあとにする。
まあ、謝礼を受け取るつもりでしたことではないし、別にいっか。
そう気持ちを切り替えてベッケンバウム邸をあとにした俺は、港街を散策して異世界の海産物を楽しむことにした。
しかし、自分が領主であると偉そうに主張していたジエームが去り際に「下民が余計なことしやがって」と小さくつぶやいていたことが気になった俺は、従魔スライムのプルにベッケンバウム家の調査をお願いしてみる。
なにやら、怪しい気配がプンプンとしているからな。それに、俺の寝取りスキルが、マルグリットちゃんたちに対して警告を知らせてくれてもいた。
そして、プルの調査が終わるまでなにもすることがなくなった俺は、当初の予定通りにメヴェール港の散策を開始する。
物流の要所として名高いメヴェール港には様々な木造船が停泊していて、さらには近海で取れた海産物の屋台や市場が大規模に開かれていれるなど、異世界観光としてはワクワクすることが尽きない。
そんな数多くの人種が混じり合った人々でにぎわうメヴェール市場を、俺はキョロキョロと周囲を見渡しながら散策していった。
そこで俺は交易品の中に、醤油や味噌に似た調味料を発見する。メヴェール港は竜人族の国との貿易があり、これはそこから輸入されたものらしい。
どうやら竜人族の国はニホンに似た文化を持つ和風な国のようで、竜人族の国から輸入された着物や浮世絵などが美術品として数多く市場に並んでいる姿も発見できた。
「竜人族の国か。いつか行ってみたいな……」
俺は今後の旅行先の候補に竜人族の国を追加しながら、竜人族の国産の味噌や醤油を購入してアイテムボックスにしまっていく。
創造スキルで俺はニホンの料理を作り出すことができるが、せっかくだし、俺は現地の食材だけでニホンの料理を再現したいと考えていた。
そしていつか俺は、ニホン料理を売る流浪の屋台として世界中を周りたいとも計画している。
異世界をただ観光をするよりも、神出鬼没のレアな屋台として国々を巡るのも一興だ。その方が、何倍も異世界観光を楽しめる。
まずは、そのための材料集めだ。ということで俺は、片っ端から市場で売られている食材を調査していった。
それと同時に、俺は見たことのないような魚の串焼きや、現地の屋台で売られているおいしそうな料理も思う存分に楽しんでいく。
俺は創造スキルでなんでも作り出すことができるが、知らないものは作れない。だから、こうしてこの世界にある独自の食材や料理を、片っ端から楽しまなくてはならないのだ。
ちなみに異世界観光を楽しみながら俺は、ベッケンバウム邸の調査をしてくれているプルのお土産の確保も忘れない。
プルはかわいい俺の相棒だからな。プルがベッケンバウム邸の調査を終えて帰ってきたら、たくさんの料理で彼女をねぎらってあげよう。
俺は港街を散策しつつ、そんなことも考えていた。
「やっぱり新鮮な串焼き魚は、塩で味付けしてあるだけでもメチャクチャにおいしいな!」
こうして俺は夜になるまで、メヴェール港での異世界観光を思う存分に堪能したのである。
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