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第4章
第60話 ベッケンバウム家の裏事情
「さて、どうしようかな?」
夜になり、宿泊した宿屋の部屋で俺はプルにお願いしたベッケンバウム家の調査結果を整理する。
プルが持ってきてくれた映像記録球に映っていた映像を見ることで、判明した事実はこうだ。
まず、俺をベッケンバウム家から無理やり追い返した、ジエームの腹の中は真っ黒だった。彼はマルグリットちゃんの身柄をエルドス帝国に売ることで、報酬を得ている。
さらに最低なのは、マルグリットちゃんの許嫁であるリヒャルト・ベッケンバウムも、彼女の身柄を売る計画に参加しているということである。
プルが持ってきてくれた映像記録球の中に、ジエームと同じく茶髪にでっぷりと太った男であるリヒャルトが、計画の失敗についてお互いに責任をなすりつけあっている場面がしっかりと録画されていた。
事件の経過はこうだ。
まず、イスタリア王国とドルチアーノ王国の軍事同盟を阻止したいエルドス帝国が、マルグリットちゃんを消そうと直接的な妨害工作にでていた。
本来ならば許嫁同士であるリヒャルトにも、エルドス帝国からの妨害工作がおこなわれるはずだったのだが、リヒャルトはマルグリットちゃんがベッケンバウム家をおとずれるという情報を帝国に売ることで、自分の安全を確保したのだ。
そしてリヒャルトは、自分の身の安全のために、現在もマルグリットちゃんの情報をエルドス帝国に流し続けている。
しかし、マルグリットちゃんの情報を売っているのはリヒャルトとジエームの独断で、ベッケンバウム家自体は、その行為に関与しているわけではないらしい。
その原因は、現在のベッケンバウム家の人間関係にあった。
現在、ベッケンバウム家とベッケンバウム商会の運営を一手に引き受けているのは、エカテリーナ・ベッケンバウムという女傑だ。ジエームなどという、太った男ではない。
エカテリーナは幼い頃から商売の才能と武術の才能を発揮すると、ベッケンバウム商船団に乗って世界中を周り、現場での取引経験を積んできた傑物である。
そんな彼女は25歳でベッケンバウム家の家督をすべて譲り受け、28歳のいまも、世界中を航海しながらベッケンバウム商会を取り仕切っている。
この話は、世界中でも有名な逸話であった。
そんなベッケンバウム家の状況を気に入らなかったのが、彼女の兄であるジエームとリヒャルトだ。
どうやら彼らは自分たちの妹が若くしてベッケンバウム家の家督と、ベッケンバウム商会の全権限を譲り受けたことに、恨みを持っていたらしい。
彼らはエルドス帝国が周辺国への侵攻を強めているという不安定な情勢を利用して、イスタリア王国とドルチアーノ王国の軍事同盟の象徴となるマルグリットちゃんの身柄を売り渡し、エルドス帝国から利益を得ようとしたのだ。
マルグリットちゃんの身柄を売り渡すことで帝国との大口の商取引を約束すると同時に、マルグリットちゃん失踪の全責任を現商会長であるエカテリーナになすりつけることで、彼女を失脚させる計画が立てられていた。
そのあと、彼らは自分たちがベッケンバウム家の全権力を握るつもりだったらしい。
しかし、リヒャルトとジエームにとって誤算だったのが、俺がマルグリットちゃんとアンヌちゃんを野盗に偽装したエルドス帝国の兵士から救い出してしまったことだ。
だからジエームはあのとき、腹いせのために俺のことを無下に扱って、ベッケンバウム家から追い出そうとしてきたのだ。
秘密裏に悪事を計画しているために、俺の証言によって、周りの人間に自分たちの計画がばれることを防ぐ目的もあったのだろう。
代々、ベッケンバウム商会は三方良しという標語を掲げており、買い手に良し、売り手に良し、世間に良しの商いをいまも継続し続けている。
そんな清い商売を続けているベッケンバウム家を長く見守り続けるあの隙のない老執事には特に、彼らは計画を知られてはいけないと考えていたようだ。
マルグリットちゃんの身柄をエルドス帝国に売りたいと考えているのはリヒャルトとジエームだけで、誠実な人間ばかりが雇われている使用人たちにすら、彼らは計画を秘密にしている。
そんな人間関係の中で、頭の回転も早く勘も鋭い老獪な執事が違和感を感じてしまうと、エカテリーナに報告がいって、あっというまにジエームとリヒャルトは処罰されてしまうのだろう。
例えば、妙に野盗の身なりがきれいだったとか、野盗にしてはやたらと統率の取れた集団だったなどと現場の状況を俺が証言すれば、老執事はその情報から色々と真実にたどり着くことができてしまうくらいに切れ者のようだ。
プルが持ってきてくれた映像記録球の中には、俺からの現場の証言を聞くことができずに残念がっている老執事の姿も録画されている。
俺を歓迎することなく追い出し、事件の詳細をうやむやにすることで、ジエームとリヒャルトは、マルグリットちゃんをエルドス帝国に売る計画を成功させようとあがいていたというわけだ。
そういった諸々の事象が重なって、いまの状況ができあがっている。
「うーん。どうしよう」
俺は宿屋の部屋の中で自分がどう行動すれば、マルグリットちゃんたちを救えるのかを考えていた。せっかくこの街まで一緒に旅を続けてきたんだ。そんな彼女たちが、悪事に巻き込まれて不幸になるなんて絶対に許せない。
とりあえずのあいだは、プルに護衛をお願いしたため、直接的な身の危険が彼女たちに及ぶ心配はないだろう。
いまもスライムであるプルが体を透明にして隠れながら、マルグリットちゃんたちを向こうで見守り続けてくれている。
「お邪魔するわよん♪」
しかし、俺が考えごとをしている宿屋の室内から、突然、聞き覚えのない人間の声が聞こえてくることになる。
俺のすぐ後ろに立っているその存在は、マルグリットちゃんたちを救い出した俺をエルドス帝国が襲撃してくる可能性に備えて全開にしていた俺の警戒スキルをかいくぐり、いとも簡単に部屋の中まで侵入してきていた。
恐ろしいことに、背後から声をかけられるまで、俺はその人物の存在にまったく気がつかなかった。信じられないほどの、手練である。
「はじめまして♪わたくし、魔法少女フリードニヒ8世と申します♪」
俺の異世界生活においての、最大のピンチがいま、おとずれようとしていた。
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