ぼくはスライム

桃瀬わさび

文字の大きさ
3 / 15

ぼくはスライム 3

しおりを挟む

ご主人さまが戦うとき、ぼくはかくらんとみがわりをする。
敵のちゅういを引きつけて、ご主人さまに向かう攻撃を、できる限り受けるんだ。
ぼくはニンゲンじゃなくてスライムだから、痛いのだって感じないから。
剣とかヤリはちょっとにゅにゅってなるだけだし、魔法だって吸収できる。
どれかがご主人さまに当たったらすごくたいへんだから、とにかくせっせと走るんだ。

このダンジョンのヌシは、魔法がとくいみたいだった。
ぶつり攻撃ははじめだけで、ぼくに効いてないってわかると、そこから先はずっと魔法。
びりびりってのは、カミナリで、カッて熱くなるのはホノオ。このへんは平気。
苦手なのは、水とばくはつだった。

どういう仕組みかわかんないけど、水はすっぱりとぼくのおててを切り落としちゃうし、ばくはつはぼくの体をちりぢりにする。
離れちゃったところに触ればちゃんと元に戻るんだけど、そんな隙もなかなかない。
んんー、つよい。

「おい、大丈夫か!?」
「だいじょうぶー。ご主人さまは、けがしてない?」
「してねぇ!お前がぜんぶ受けてんだろ馬鹿!」
「へへ、よかったー」

ぼくは攻撃が出来ないから、ご主人さまのたてになりたい。
ご主人さまが怪我しないように、ぜんぶぜんぶ、受けきりたい。

ヌシもそろそろ、たいへんだって気がついたみたい。
死にものぐるいでぼくたちに攻撃をしかけてきて、ぼくの体がちりぢりになる。
ぼくこのままじゃ、ちっさくなっちゃう。
あ、でも、ご主人さまはちっさくてもいいって言ってた。
ならべつにいっかー。

ぶつぶつと何か唱えていたご主人さまが、ヌシに向かって駆け出した。
すぐにそれについていきながら、ほんのちょっとやな予感がする。
あのヌシ、なんで、逃げないんだろう。
なんで攻撃もしてこないんだろう。

まさか。

「ごしゅじんさまっ……!」

ご主人さまの剣がヌシを切り裂くと同時に、ヌシの体がばくはつした。
ぎりぎりで間に滑り込んだけど、ばくはつの威力はすごかった。
はじっこから千切れて飛ばされて、体がどんどん欠けていく。
まるっとぜんぶ呑もうとするのに、呑みきれなくてあふれてきちゃう。
それでも無理矢理呑み込んだら、体が端からくずれ出した。
千切れて飛んだぷにぷにの方から、さらさらと砂に消えていく。

あ、これが、いっぱいを超えるってことなのかな?

「馬鹿!お前、なんで……!」

なんでって、へんなご主人さま。
こうしなきゃご主人さまは死んじゃったのに。
ぼくはご主人さまを守るためにいるのに。

ひとりぼっちのぼくを拾って、たくさんのことを教えてくれて。
あったかくって、やさしくて。
いっしょにいるとさみしくなくて、なのに胸がきゅうっとして。
えっと、これ、なんていうんだったっけ。

あ、そうだ、たしか、

「ごしゅじんさま、すき」

あ。しまった言っちゃだめなんだった。
ご主人さまが困るから、ずっとないしょにするんだった。
ぐしゃりとご主人さまが顔を歪めて、目からぽたぽたと水をこぼす。

あの水、なんて、いうのかな、

いつか、教えて、くれるかな……?





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

処理中です...