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本編
虎と怪物3 〚ベン〛
しおりを挟むその確信はやはり正しく、鴉はあっさりと首領になった。
あまりにも若く首領となったために反発したものを武力で黙らせ、何故か王宮に潜りながら軽々と組織を動かす。
抗争で後れをとることなど一度なく、まるで未来が見えているかのように数手先を読んで先手を打っていく姿に、信奉者はどんどん増えた。
事実、抗争は増えたにも関わらず死者は減り、思いもよらない財源を確保しては構成員に還元。いつの間にか王宮にも組織の根を広げ、そこから得た情報で拠点への一斉捜索も逃れたりした。
「虎、暇か」
こう聞かれるときは、組織を動かすほど確信を持てない危険の芽を潰しに動くとき。
空振りに終わっても危険度を読み誤って死亡したとしても、構成員としてごく普通の使われ方なのだが、それを首領は良しとしない。
「俺とお前なら何があっても切り抜けられるだろう」
そう言われれば反対することもできず、二人だけで潰した組織の数は両手両足に余るほど。
もう驚きもしないが、とうとう引退するその日まで、首領の先読みは一度たりとも外れることはなかった。
―――で、その首領が、また何を言い出すかと思えば。
「えーと要するに、面白い玩具で遊ぶために執事の仕事をほっぽって行くと?」
「人聞きが悪いですね。ずっと取得していない休暇を、まとめて取得するだけですよ。」
にっこり笑う顔は、優しげに見えるところが恐ろしい。
飢えたような瞳をしていた少年の面影はなく、裏社会特有の危ない匂いを執事服に隠す、油断のならない男がここにいる。
「ケヴィン、休むの!?」
「ええ、るり様。ひと月ほどでしょうか。……やけに嬉しそうですね?」
「そそそそんなことないよ!遊びたいほーだいとか、思ってないもん!」
「思ってるんですね、わかりました。宿題をたくさん用意しておきます。」
「わーばかばか!いらないってば!ちゃんとおとなしくしてるってばぁ!」
歩き出す素振りを見せた首領にるり様が抱きついて、ずるずると引きずられていく。
主人に対してするとは思えないほど乱雑に引き剥がして、首領がちらりとこちらを見た。
るり様から見えない方の手で、ひらひらと指示をする。
るり様を指し示し、親指で地面を指し、そのまま喉笛を掻き切る仕草。
『るり様に仇(あだ)なす者は、殺せ。』
にっこり笑って出された指示にひとつ頷いて、コック帽を胸に当てて一礼した。
首領の考えが読み取れたことなど、長い付き合いで一度もない。
今回の件も、きっとなにか大きなことに繋がっているのではないか。………それが何かは、わからないけれど。
執事というには隙がなさすぎる後ろ姿を見送って、今の俺の戦場へと舞い戻った。
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