サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
15 / 140
序章.美しき想い出

13.彼女を救うために

しおりを挟む
「アリシア……」

 彼女の口と胸へと耳を寄せる……まだ息は少しだけ……本当に弱いけどある。心臓もちゃんと、微弱だけど動いてる! 安心は絶対にできない……それでも今はまだ……生きてる!!

「……アリシア、僕も好きだったよ」

 彼女の頬を撫でる……彼女のおかげで母さんを失った僕がどれほど救われたか、照れ隠しなのがわかったけど、ディンゴの虐めはキツかったし、それから庇ってくれて嬉しかった。

「だから、絶対に助けるから待ってて」

 それから僕は一度彼女の元から離れて、戦闘があった場所へと赴く……魔物と狩人が争った跡と僕の魔法で虫食いになった屋敷の残骸、そして羊達が出てきた大穴に、勢い余って齧った地面の跡……。

「……これが『魔力残滓』」

 ドス黒く、絶えず形を変え、生き物の様に脈動する『魔力残滓』……アリシアを助けるためにはまだ一度も魔力を取り込んでおらず、まったく強化されていない僕では無理がある。……だからせめて、この一回だけでも……!

「『君の願望は果たされず終わる 僕の中でスヤスヤと眠る それでもいいのなら 満たされる事よりも安寧を望むのなら 僕は拒まない』」

 魔物が死に、その場に残ったドス黒く、絶えず形を変え、生き物のような『魔力残滓』……時間が経てば地面に溶け込み土地を汚染するそれを、丁寧に紐解き、バラバラの闇の帯と粒として自らの内へと取り込んでいく……。

「ぐぅっ……!!」

 魔物の元となった人間の記憶──君は孤児だったんだね──魔物になったきっかけとなった出来事と願望──路地から眺める家族が恋しくて、母の愛情が欲しかったんだね──魔物になってから殺して喰らってきた人達の記憶──息子が心配だった、産まれてくる子どもが楽しみだった、それが奪われた悲痛な嘆き──が一気に流れ込んでくる……!!

「今は君たちの問い掛けには応えられないけど、力を貸して貰うよ……!!」

 半ば強引に押し込みながらも、日頃の鍛錬の賜物か、魔力を取り込むための操作は思ったよりも上手くいく。

「げほっ、ごほっ!! ……アリシア!」

 表面上は安定して落ち着いたところで、急ぎアリシアのところへと駆け抜けて行く……途中転んで足を擦りむき、腹から血が滲むが知ったことではない。

「コヒュー……コヒュー……」

 アリシアのところへと辿り着くともう既に呼吸音がヤバい、急がないと! 他人の傷を……それも重症や、胸などの重要な内蔵を治すのは制御が難しいけど、素早くしなければ手遅れになる……覚悟を決めよう……。

「『我が願いの対価は──』」

 ……ごめんね、アリシア。僕に今払える対価なんて……それもアリシアをほぼ蘇生させるような……僕にとって価値ある対価なんてこれぐらいしかないんだ……。

「『──尊きアリシアとの思い出』」

 でも許しておくれ、ディンゴとの記憶はあるし、違和感には気付けると思うし、君には負担をかけると思うけど、また僕と一から友達になって欲しいな……?

「『幼子の淡い恋心を薪とくべ 奏でる戯曲 初恋の相手へ捧ぐ想い』」

 それにさ、僕はまた君に一目惚れすると思う……君は周囲から褒められた事がないって言ってたけど、凄く可愛いから。本当に凄く……笑った顔が可愛いし、怒った顔も可愛い、考え事してる時は美しい、かな? 僕はそんな君が大好きだった。

「『蘇生リザレクション』」

 緋と瑠璃色の帯が彼女を包んでいく……それによって胸に開けられた穴は塞がれ、左腕も包まれていく。帯の中がどうなっているのか、左腕までちゃんと生えてくるのかは分からないけど……。

「よかった……?」

 あぁ、なんだろうか……? 僕の中から何か大事な物が抜かれていく……半身を引きちぎられるかのように痛い、寒い、辛い、悲しい、憎い、恋しい、寂しい、苦しい、淋しい……。

「ぁ、アリシア……?」

 アリシア……アリシア、アリシア、アリ、シア……アリ、シア? ア……リ、シア……ア? アリシ……?? ア……???

「アリ……ア??」

 誰だろう? 誰の名前なんだろう? ……思い出せない、わからない、誰だ? 大事な人の様な気がする! 忘れてはならない気がする!

「頭が……」

 激しい頭痛に襲われて倒れてしまう……僕の隣に誰か倒れていた気がするけど身体中が痛くて……特にお腹が痛くて向きを変えられない。

「あぁ、ディ、ン……ゴ……」

 なんだかよくわからないけど、僕はちゃんとやり遂げたんだよね? お兄ちゃん……。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

処理中です...