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第二章.愛おしさに諦めない
2.腹立つ司令
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「……」
「モグモグ」
特別対魔機関バルバトル総本部……帝都にあるその建物の一室で二人の男女が向かい合って座って居た。一人はこの部屋の主であるのだろう……シンプルでありながら品格のある執務椅子に座り、ニヤけ面を晒しながら桜餅を頬張る。……もう一人の女性はその男性の対面に置かれた来客用の椅子に腰掛け、腕と脚を組みながら目を瞑っまま無表情、無言で動かずに居た。
「君のお弟子さんがとうとう初陣だってさ」
「……」
「お! この八ツ橋も美味しいじゃないか」
この部屋の主の男性……バルバトス司令室勤務のヒサシ・スズハラ大佐が仏頂面の女性……ボーゼス・マクフォドル特務中佐に語りかけるも、彼女はそれには応えず、またスズハラ大佐も気にした風もなく次の甘味を頬ばる。
「凄いよね、君の扱きに耐え切って見事狩人に成ってみせるんだからさ」
「……」
「……うーん、この饅頭は外れだな」
いったいいつの間に八ツ橋を食べ終えたのか……スズハラ大佐は次の甘味を口にして微妙な表情を浮かべながら文句を言う。どうやら口には合わなかったらしい。
「士官学校での成績も良かったし、僕的には期待してるんだけど……彼女はちょっと甘いところがあるからなぁ? そこが心配だよね」
「……」
「君もそうは思わない? ……ふむ、この栗羊羹のストックを買わねば」
次の甘味を開封しながらニヤニヤと人を小馬鹿にする様な笑みを浮かべ、スズハラ大佐はボーゼス中佐へと再度語りかける……まるで揶揄うかの様に。
「……奴はもう立派な大人です、どのような選択をしようと関係ない」
「ふーん? 非常な師匠だね、少しは気にかけたりしないの?」
しかしながらボーゼス中佐に素っ気ない対応をされてしまい、スズハラ大佐はつまらなそうに頭の後ろで手を組み、鼻の下でペンを挟みながら負け惜しみを言う。
「……確かにアリシアには甘いところもありますが、しかし同時にその心は強い……挫ける事などないでしょう」
「お弟子さんの事を信頼してるんですねー」
まるで『ハイハイ凄い凄い』とでも言う様な、人を小馬鹿にする態度を取りながらスズハラ大佐がどら焼きを頬張る……それを受けて、ここに来て初めてボーゼス中佐のこめかみに青筋が浮かぶ……どうやら表情に出ないだけで、普通に苛立ってはいたらしい。
「そうだ、士官学校時代にお前が小賢しい工作をしようとも負けなかったからな」
「確かにガナン人に甘いところを突いて孤立させたり、虐めが起きるように手回ししたのに……彼女ってば全然挫けないんだもんねー」
「……」
「そんなに睨まないでよ、怖いでしょ?」
アリシアが学生時代に態と孤立し、虐めが起きるように手配していた事をあっさりとバラし、それどころかまるで『詰まらない』とでも言いたげなスズハラ大佐をボーゼス中佐が殺気を込めて睨むが、彼は彼女からのそれを軽く受け流す。
「ほらほら、そんな顔じゃ美人が台無しだよ?」
「……」
「そんなんだから実年齢よりも老けて見られ──うわぁ、本当にごめん」
ボーゼス・マクフォドル、今年で二十八歳である。しかし悲しいかな……彼女はその無表情さと戦績が際立ち過ぎて実年齢よりも高く見られる傾向にある。事実として七年前の時、既にアリシアに二十代後半に見られていた。……そして彼女も女性である、そんな所を突かれては怒らない筈などもなく、強烈な殺気と眼力にスズハラ大佐は早々に降参する。
「でもアリシアちゃんってば、自分の師匠が九歳くらいしか違わないって未だに気付いてないよ?」
「……聞かれなかったので教えてないだけです」
「クククッ……今頃は自分の師匠の事を三十代あたりだと──ごめんごめん」
再度の強烈な殺気を受けて謝罪しながらも肩を竦めながら鼻でため息をつき、まるで『やってられねぇぜ』と言わんばかりな態度を取るスズハラ大佐に、ボーゼス中佐がこめかみに浮かべる青筋の本数を増やす。
「まぁいいや……それで結局、彼女の初陣は上手くいきそう?」
「……順当にいけば問題はないでしょう」
これ以上揶揄うのは流石に身の危険が迫るのを直感した為に話を打ち切り、スズハラ大佐が話題転換を図って放った質問にボーゼス中佐がなんでもないように返す。
「それは良かった……猟犬との適合率も高いしね?」
「……」
それを受けてスズハラ大佐はにこやかに、蛇のような目でボーゼス中佐を射抜き、今日の本題を切り出す……まるで、隠し事は許さないと言わんばかりの雰囲気を醸し出しながら。
「ねぇ、本当に知らない?」
「……なんのことです」
机の引き出しからアリシアに関する報告書やプロフィール等を取り出しながらスズハラ大佐は言葉を発する……まるで獲物を少しずつ追い詰めるかのように。
「おや、惚けるのかい? じゃあ一つずつ、丁寧に質問していくね」
「……」
何が可笑しいのか、楽しそうに親指を舐めて書類を捲るスズハラ大佐はまるで面白い玩具を与えられた子どもの様に無邪気に笑う。
「まず一つ目、なんでここまで猟犬と……魔法使いと親和性が高いのかな?」
「……ただの体質でしょう」
「彼女の左腕と胸の一部が褐色なのは?」
「知りませんね」
お互いに淡々と、相手の反応を探り合うかのように質問と、それに対する回答を口に出す……スズハラ大佐は胡散臭い笑顔の仮面を貼り付け、ボーゼス中佐は表情筋をピクリとも動かさない。……ただ共通している点は二人共、まったく笑っていない薄目で相手を睨んでいる事か。
「あっそう……じゃあ──」
その状態でスズハラ大佐が徐ろに、また新たな書類と懐中時計の様な複雑な機械──『羅針盤』を取り出す。……距離と大きさ共に大雑把にしか把握出来ないが、魔力に反応するそれをボーゼス中佐に見せ付けるようにして机に置く。
「──なんで彼女から魔力反応があるのかな」
「……」
「実はさっきまでガイウス中尉と一緒に来てもらっててね? 報告書を読んでも半信半疑だったけど、普通に反応があって僕ビックリしちゃった」
その机に置かれた羅針盤は明確に、光の弱り方からもう既に時間は経っているが、この場に魔力を持った者が居たことを示していた……それを指し示しながらスズハラ大佐は大袈裟に手を上げてみせる。
「……本当になにも知らない?」
「知りませんね」
「……彼女は本当にレナリア人?」
「奴は貴族の直系ですから、当たり前です」
あくまでも何も知らないと言い切るボーゼス中佐にスズハラ大佐はお手上げと言わんばかりに肩を竦めてため息をつき、机の引き出しからチョコレートを取り出して口に放り込む。
「あっそう……じゃあ──」
「──一つ質問なのですが……この尋問じみた詰問は上からの指示でしょうか?」
「……いや? ただの個人的興味だけど?」
「……」
眉間に眉を寄せ、まるで『何言ってんだコイツ』と言わんばかりの態度を取るスズハラ大佐を見て、ボーゼス中佐がこめかみに立てる青筋の本数を増やし、目元を引き攣らせる。
「んんッ! ……とにかく、彼女が純粋なレナリア人貴族であるのは魔物災害の責任を問われ、処刑される前の前スカーレット男爵も証言していたでしょう」
「まぁ確かに、自分の娘だって言ってた記録が残ってるね」
全てに於いて対応が後手後手に回り、結果として領地を荒れさせた責任を取らされて処刑された前スカーレット男爵……アリシアの父親も、アリシアが自分の娘、つまりレナリア人であると証言している。
「それにそれを裏付ける証拠もたっくさん有るしね……彼女の乳母も居るし、出生届けも貴族籍に出された記録もあるし」
「……」
「これでレナリア人じゃなかったら、何人なんだよって話だよね」
責任を取らされて処刑される程の男の証言など信用はできないとえらく調べたらしい……しかし、調べた過程で出てきた証拠のどれもが、アリシアがレナリア人貴族だと裏付ける物ばかりであった。
「そんな彼女がなんで魔力を持っているのか……詳しく調べようにも左腕と胸の魔力が強烈に邪魔をするんだよね」
「……みたいですね」
「そうなんだよ、まるで自分の物だと主張するかのように彼女に纏わりついて離れず、こちらのあらゆる魔力に関する技術を撥ね付ける……お陰で採血とか、そんな事しか出来ないよ、参ったね」
アリシア本人には詳しく説明はせず、これまで何度もその魔力を溶かしたり、取り出したり、計測してみたり……といった試みが為されていたようだが、そのどれもが失敗に終わり、採血や脈拍を測る等……簡単な調査しかできないでいる。
「もしも魔力に意思があるとするのなら──」
何をやってもダメ、アリシアの魔力を調査しようと強行な手段を取った者はその尽くが死亡している。
……アリシアを薬で眠らせてナイフを振り下ろそうとした者は、その振り下ろそうとしたナイフが心臓に転移して死亡。
……腕を切り落とそうとした者は手足をもがれて達磨になり、失血死で死亡。
……男性が胸の魔力を調べようと、眠る彼女の服に手をかけただけで心臓麻痺による死亡。
……銃殺しようとした物は全身に細かい穴が開き、そのまま死亡。
「──アレは酷く愛が重いね」
「……」
「特に男性が彼女を調べようとするとさらに苛烈になる傾向にあるね」
スズハラ大佐はそのまま「おー、怖い怖い!」等と呟きながら、態とらしく自身の二の腕を両手で擦る……それをボーゼス中佐は黙って見ているだけで、反応は示さない。
「だから……同じ女性で、彼女本人からも信頼されている君から色々聞きたかったんだけどなぁ?」
「……知らないものには答えられません」
「……本当に?」
「えぇ……くどいですよ」
ここに来て初めて、スズハラ大佐が殺気を込めて睨む……それをボーゼス中佐は受け流しながらも、自身もまた殺気を込めて睨み返す。
「「……」」
「「…………」」
「「………………」」
「「……………………」」
どれだけの時間が経ったのか……ほんの数秒かも知れないし数分かも知れない……もしかしたら数時間経っているかも知れない。……この場に他の者が居たら胃のあたりを抑えて、即座に退出するだろう程に重い空気が満ち溢れる。
「……ま、いいや。知らないならもう帰っていいよ」
「……失礼しました」
もう興味は失せたと言わんばかりの態度でスズハラ大佐は口にチョコレートを放り込み、椅子を回転させて背後の窓に向き直りながら退出を促し、ボーゼス中佐はそれに素直に従う。
「……絶対に何か知ってるよね」
ボーゼス中佐が退出し、一人になった部屋でスズハラ大佐の独り言が静かに響いた。
▼▼▼▼▼▼▼
「モグモグ」
特別対魔機関バルバトル総本部……帝都にあるその建物の一室で二人の男女が向かい合って座って居た。一人はこの部屋の主であるのだろう……シンプルでありながら品格のある執務椅子に座り、ニヤけ面を晒しながら桜餅を頬張る。……もう一人の女性はその男性の対面に置かれた来客用の椅子に腰掛け、腕と脚を組みながら目を瞑っまま無表情、無言で動かずに居た。
「君のお弟子さんがとうとう初陣だってさ」
「……」
「お! この八ツ橋も美味しいじゃないか」
この部屋の主の男性……バルバトス司令室勤務のヒサシ・スズハラ大佐が仏頂面の女性……ボーゼス・マクフォドル特務中佐に語りかけるも、彼女はそれには応えず、またスズハラ大佐も気にした風もなく次の甘味を頬ばる。
「凄いよね、君の扱きに耐え切って見事狩人に成ってみせるんだからさ」
「……」
「……うーん、この饅頭は外れだな」
いったいいつの間に八ツ橋を食べ終えたのか……スズハラ大佐は次の甘味を口にして微妙な表情を浮かべながら文句を言う。どうやら口には合わなかったらしい。
「士官学校での成績も良かったし、僕的には期待してるんだけど……彼女はちょっと甘いところがあるからなぁ? そこが心配だよね」
「……」
「君もそうは思わない? ……ふむ、この栗羊羹のストックを買わねば」
次の甘味を開封しながらニヤニヤと人を小馬鹿にする様な笑みを浮かべ、スズハラ大佐はボーゼス中佐へと再度語りかける……まるで揶揄うかの様に。
「……奴はもう立派な大人です、どのような選択をしようと関係ない」
「ふーん? 非常な師匠だね、少しは気にかけたりしないの?」
しかしながらボーゼス中佐に素っ気ない対応をされてしまい、スズハラ大佐はつまらなそうに頭の後ろで手を組み、鼻の下でペンを挟みながら負け惜しみを言う。
「……確かにアリシアには甘いところもありますが、しかし同時にその心は強い……挫ける事などないでしょう」
「お弟子さんの事を信頼してるんですねー」
まるで『ハイハイ凄い凄い』とでも言う様な、人を小馬鹿にする態度を取りながらスズハラ大佐がどら焼きを頬張る……それを受けて、ここに来て初めてボーゼス中佐のこめかみに青筋が浮かぶ……どうやら表情に出ないだけで、普通に苛立ってはいたらしい。
「そうだ、士官学校時代にお前が小賢しい工作をしようとも負けなかったからな」
「確かにガナン人に甘いところを突いて孤立させたり、虐めが起きるように手回ししたのに……彼女ってば全然挫けないんだもんねー」
「……」
「そんなに睨まないでよ、怖いでしょ?」
アリシアが学生時代に態と孤立し、虐めが起きるように手配していた事をあっさりとバラし、それどころかまるで『詰まらない』とでも言いたげなスズハラ大佐をボーゼス中佐が殺気を込めて睨むが、彼は彼女からのそれを軽く受け流す。
「ほらほら、そんな顔じゃ美人が台無しだよ?」
「……」
「そんなんだから実年齢よりも老けて見られ──うわぁ、本当にごめん」
ボーゼス・マクフォドル、今年で二十八歳である。しかし悲しいかな……彼女はその無表情さと戦績が際立ち過ぎて実年齢よりも高く見られる傾向にある。事実として七年前の時、既にアリシアに二十代後半に見られていた。……そして彼女も女性である、そんな所を突かれては怒らない筈などもなく、強烈な殺気と眼力にスズハラ大佐は早々に降参する。
「でもアリシアちゃんってば、自分の師匠が九歳くらいしか違わないって未だに気付いてないよ?」
「……聞かれなかったので教えてないだけです」
「クククッ……今頃は自分の師匠の事を三十代あたりだと──ごめんごめん」
再度の強烈な殺気を受けて謝罪しながらも肩を竦めながら鼻でため息をつき、まるで『やってられねぇぜ』と言わんばかりな態度を取るスズハラ大佐に、ボーゼス中佐がこめかみに浮かべる青筋の本数を増やす。
「まぁいいや……それで結局、彼女の初陣は上手くいきそう?」
「……順当にいけば問題はないでしょう」
これ以上揶揄うのは流石に身の危険が迫るのを直感した為に話を打ち切り、スズハラ大佐が話題転換を図って放った質問にボーゼス中佐がなんでもないように返す。
「それは良かった……猟犬との適合率も高いしね?」
「……」
それを受けてスズハラ大佐はにこやかに、蛇のような目でボーゼス中佐を射抜き、今日の本題を切り出す……まるで、隠し事は許さないと言わんばかりの雰囲気を醸し出しながら。
「ねぇ、本当に知らない?」
「……なんのことです」
机の引き出しからアリシアに関する報告書やプロフィール等を取り出しながらスズハラ大佐は言葉を発する……まるで獲物を少しずつ追い詰めるかのように。
「おや、惚けるのかい? じゃあ一つずつ、丁寧に質問していくね」
「……」
何が可笑しいのか、楽しそうに親指を舐めて書類を捲るスズハラ大佐はまるで面白い玩具を与えられた子どもの様に無邪気に笑う。
「まず一つ目、なんでここまで猟犬と……魔法使いと親和性が高いのかな?」
「……ただの体質でしょう」
「彼女の左腕と胸の一部が褐色なのは?」
「知りませんね」
お互いに淡々と、相手の反応を探り合うかのように質問と、それに対する回答を口に出す……スズハラ大佐は胡散臭い笑顔の仮面を貼り付け、ボーゼス中佐は表情筋をピクリとも動かさない。……ただ共通している点は二人共、まったく笑っていない薄目で相手を睨んでいる事か。
「あっそう……じゃあ──」
その状態でスズハラ大佐が徐ろに、また新たな書類と懐中時計の様な複雑な機械──『羅針盤』を取り出す。……距離と大きさ共に大雑把にしか把握出来ないが、魔力に反応するそれをボーゼス中佐に見せ付けるようにして机に置く。
「──なんで彼女から魔力反応があるのかな」
「……」
「実はさっきまでガイウス中尉と一緒に来てもらっててね? 報告書を読んでも半信半疑だったけど、普通に反応があって僕ビックリしちゃった」
その机に置かれた羅針盤は明確に、光の弱り方からもう既に時間は経っているが、この場に魔力を持った者が居たことを示していた……それを指し示しながらスズハラ大佐は大袈裟に手を上げてみせる。
「……本当になにも知らない?」
「知りませんね」
「……彼女は本当にレナリア人?」
「奴は貴族の直系ですから、当たり前です」
あくまでも何も知らないと言い切るボーゼス中佐にスズハラ大佐はお手上げと言わんばかりに肩を竦めてため息をつき、机の引き出しからチョコレートを取り出して口に放り込む。
「あっそう……じゃあ──」
「──一つ質問なのですが……この尋問じみた詰問は上からの指示でしょうか?」
「……いや? ただの個人的興味だけど?」
「……」
眉間に眉を寄せ、まるで『何言ってんだコイツ』と言わんばかりの態度を取るスズハラ大佐を見て、ボーゼス中佐がこめかみに立てる青筋の本数を増やし、目元を引き攣らせる。
「んんッ! ……とにかく、彼女が純粋なレナリア人貴族であるのは魔物災害の責任を問われ、処刑される前の前スカーレット男爵も証言していたでしょう」
「まぁ確かに、自分の娘だって言ってた記録が残ってるね」
全てに於いて対応が後手後手に回り、結果として領地を荒れさせた責任を取らされて処刑された前スカーレット男爵……アリシアの父親も、アリシアが自分の娘、つまりレナリア人であると証言している。
「それにそれを裏付ける証拠もたっくさん有るしね……彼女の乳母も居るし、出生届けも貴族籍に出された記録もあるし」
「……」
「これでレナリア人じゃなかったら、何人なんだよって話だよね」
責任を取らされて処刑される程の男の証言など信用はできないとえらく調べたらしい……しかし、調べた過程で出てきた証拠のどれもが、アリシアがレナリア人貴族だと裏付ける物ばかりであった。
「そんな彼女がなんで魔力を持っているのか……詳しく調べようにも左腕と胸の魔力が強烈に邪魔をするんだよね」
「……みたいですね」
「そうなんだよ、まるで自分の物だと主張するかのように彼女に纏わりついて離れず、こちらのあらゆる魔力に関する技術を撥ね付ける……お陰で採血とか、そんな事しか出来ないよ、参ったね」
アリシア本人には詳しく説明はせず、これまで何度もその魔力を溶かしたり、取り出したり、計測してみたり……といった試みが為されていたようだが、そのどれもが失敗に終わり、採血や脈拍を測る等……簡単な調査しかできないでいる。
「もしも魔力に意思があるとするのなら──」
何をやってもダメ、アリシアの魔力を調査しようと強行な手段を取った者はその尽くが死亡している。
……アリシアを薬で眠らせてナイフを振り下ろそうとした者は、その振り下ろそうとしたナイフが心臓に転移して死亡。
……腕を切り落とそうとした者は手足をもがれて達磨になり、失血死で死亡。
……男性が胸の魔力を調べようと、眠る彼女の服に手をかけただけで心臓麻痺による死亡。
……銃殺しようとした物は全身に細かい穴が開き、そのまま死亡。
「──アレは酷く愛が重いね」
「……」
「特に男性が彼女を調べようとするとさらに苛烈になる傾向にあるね」
スズハラ大佐はそのまま「おー、怖い怖い!」等と呟きながら、態とらしく自身の二の腕を両手で擦る……それをボーゼス中佐は黙って見ているだけで、反応は示さない。
「だから……同じ女性で、彼女本人からも信頼されている君から色々聞きたかったんだけどなぁ?」
「……知らないものには答えられません」
「……本当に?」
「えぇ……くどいですよ」
ここに来て初めて、スズハラ大佐が殺気を込めて睨む……それをボーゼス中佐は受け流しながらも、自身もまた殺気を込めて睨み返す。
「「……」」
「「…………」」
「「………………」」
「「……………………」」
どれだけの時間が経ったのか……ほんの数秒かも知れないし数分かも知れない……もしかしたら数時間経っているかも知れない。……この場に他の者が居たら胃のあたりを抑えて、即座に退出するだろう程に重い空気が満ち溢れる。
「……ま、いいや。知らないならもう帰っていいよ」
「……失礼しました」
もう興味は失せたと言わんばかりの態度でスズハラ大佐は口にチョコレートを放り込み、椅子を回転させて背後の窓に向き直りながら退出を促し、ボーゼス中佐はそれに素直に従う。
「……絶対に何か知ってるよね」
ボーゼス中佐が退出し、一人になった部屋でスズハラ大佐の独り言が静かに響いた。
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