サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第二章.愛おしさに諦めない

8.外道

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「ぐっ! げほっごほっ……ガ、巨狼殿!」

「……無事か」

 激しい土埃を払いながらガイウス中尉と合流する……この非常事態で分断される事は避けられたみたいね。……本当に急過ぎて、何がなんだか。

「あれ? ちょっとグリシャ君、彼ら生きてるよ?」

「……命令が急すぎるんですよ」

「そう? ……まぁさらに実験できると思えば良いか、ねぇユーリ君?」

「ぐっ! 離せッ!!」

 先ほどまで居た独房ではグリシャと名乗った尋問官──いえ、魔法使いが縛られたままのユーリと呼ばれる魔法使いの首を締め上げながら、白衣の彼と呑気に会話していた。

「……本当に魔法使いなのでしょうか?」

「……わからん、だがこの魔力反応は見過ごせん」

 思わずガイウス中尉に尋ねるもそんか返答が返ってくる。……『羅針盤』は白衣の彼とグリシャに対する魔力反応を示さない……それにも関わらず、白衣の彼が取り出した物に強烈な反応を返してくる。

「ほらユーリ君、君の心配していたララ君だよ? こんな姿になってるけどまだ生きてる」

「そんな、嘘だ……でもこの魔力はララのもの……お前、いったい何を…………ララに何をしたッ?!」

 白衣の彼が取り出したそれ……酷く歪な円の中心に悲痛な表情を浮かべる女性の像が縛り付けられている物から酷く嫌な予感がする。……それに対する若い男性の魔法使いの反応を見る限り、それがもう一人の魔法使い? 嘘でしょ?

「うーん、ちょっとした実験?」

「貴様ッ!!」

 若い男性の魔法使いの憤怒の形相の問い掛けにも顔色一つ変えず、飄々と変えす白衣の彼に寒気がする。

「そしてその実験には君にも付き合って貰う」

「何をする──ガッ?!」

「むっ?!」

「っ?!」

 自体の推移を観察しながらも狩人を展開し、現れた機械仕掛けの長剣をしっかりと握り締め、構える……こちらの戦闘準備が整ったと同時にユーリと呼ばれる若い男性の魔法使いは白衣の彼に胸を貫かれ、もう一人の魔法使いだったと主張する何かを胸に埋め込まれる。……いったい何がしたいのか分からないけれど、悍ましい事が目の前で起きてる事は確かね。

「ァガカョラマビカ???」

「おー、これも成功だね」

 胸に異物を埋め込まれて一泊置いて、若い男性の魔法使いは意味のわからない言語を喋り顔中の穴から黒い液体を噴き出しながらどんどんと身体が膨張していく……もはや羅針盤からは耐えず光が発せられていて意味もないので仕舞う。

「……まさか、これは」

 どんどん身体と魔力を膨張させながらその身を変質させていく……身体中に岩を纏い、蔦を巻き付かせ、岩塊の隙間からは黒い粘液を垂らし続けるそれはまるで魔物のようで……ありえない、嘘でしょ?

「後は経過観察をしたいんだけど……ダメ?」

「……さすがにこれ以上、好き勝手すると怒られますよ?」

「だよねぇ~」

 緊迫する事態とは反比例するかのように、彼らの会話は酷く軽い。ガイウス中尉に視線を向けてみるけれど、顔を横に振られる……ガイウス中尉にも初めての事態みたいね。

「……逃げるつもりか?」

「ん? まぁそうだね、これ以上は怒られるし」

「この地下室から逃げられるとでも?」

 ガイウス中尉と二人、猟犬を構えて臨戦態勢を整える……初陣だっていうのに目の前には産まれかけの魔物に加えて魔法使いが二人……一人、白衣の彼は推定だけれど、脅威度は変わらない。

「できるよ? グリシャなら、だけど」

「『我が願いの対価は思い寄せる粘土 望むは老いた君を若返らせる秘術──』」

「ぬぅ?!」

「きゃっ?!」

 唐突に吹き荒れる魔力と突風に驚く……この施設は魔力妨害が働いているはず、それなのに肌で感じ取れる程の魔力を動かし、大魔法を発動しようとする彼を邪魔するべく動く。

「このっ!」

「おっと、ユーリ君!」

『ボワテゥニィヤ?』

「『──祖父の代から見守る君 貴女と居るのは当たり前で その暖かさの価値に気付かない愚かな僕は 朽ち始める君を見て 初めて恩返しをする──』」

 地面を踏み締めて一息に飛び、猟犬で切りかかろうとするけれど……魔物と化した元魔法使いが巨大な拳で殴りつけ、邪魔をされる。……ガイウス中尉の銃撃は白衣の彼の取り出したよく分からない物で防がれてしまったみたいね。

「『──もっと若くリフォーム』」

「っ!」

「捕まれ!」

 グリシャと呼ばれた魔法使いの魔法が完成すると共に激しい地震に見舞われ、体勢を崩したところをガイウス中尉に支えられる。

「……嘘でしょ」

「……これほどの魔法使い、お前新人には荷が重いし人手も足らんな」

 魔力妨害が機能しているはずの魔法使いを収容する施設で、さらにはその地下室で大地を掻き分け、建物をブロック状に分解し、組み替えて地上への道を作る……こんな魔法使い、新人の私が対処して良い相手じゃない。

「……最後に聞かせろ」

「ん?」
 
「……お前達は奈落の底アバドンではなく、肥沃する褐色の大地メシア所属の魔法使いって事でいいのか?」

 油断なく銃口を向けながらガイウス中尉が彼らに問い質す……私というお荷物が居なくても、白衣の彼が未知数過ぎて、ベテランのガイウス中尉でも一人だけで対処できるのか分からない。……もう見逃す前提の質問だけれど、素直に答えてくれるかしら?

「誰が犬っころに教えるか──」

「──そうだよ? 僕は別に奈落の底アバドン所属の魔法使いではないよ?」

「……俺は知りませんからね、怒られても」

「ハッハッハッ! この実験結果があれば大丈夫だって」

 そのまま白衣の彼を抱えて、グリシャと呼ばれた魔法使いはご丁寧に作り出した階段を登って外へと消えていく……それを追い掛けたいけれど、目の前の魔物を放っては置けないわね。

「ガイウス中尉……」

「……すまんな、俺も初めての事態だ」

 まぁそうよね、目の前で意図的に人間を魔物に変えるなんて聞いたこともないし、士官学校でも習わなかった……第一そんな事があるのなら師匠が教えてくれていたはず。

『ハヤテヒワナャタャギャ???』

「大丈夫だ、若い魔法使いが魔物に成ったばかりであるから弱いはずだ」

「……訓練通り行きます」

 二人で『猟犬』を構えて街に被害が出ないうちに倒す事を目的に駆け出す。

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