サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
74 / 140
第四章.救えない

3.怒られて、凹んで、喜ぶ

しおりを挟む
「ふふーん!」

「……ご機嫌ですね、シーラ少尉」

 何やら腰に手を当て、渾身のドヤ顔を決めながら高らかに空を見上げるシーラ少尉に若干引きながら声を掛ける……彼女の見つめる先には帝国鉄道の駅構内から見える汽車しか見えないけれど。

「シーラは鉄道が大好きなのです!」

「あー、なるほど……」

 シーラ少尉が鉄道好きな事に変な納得感を得る。……中には大人になっても鉄道に異様な執着を示す人も居るけれど、基本的に鉄道が好きではしゃぐのは子どもが多いから……かしら? なんだか微笑ましいわね。

「目立つから騒ぐな、さっさと乗り込むぞ」

「ぶー! ヴェロニカのケチババァ​──」

「​──あ"ぁ"?!」

「痛い! 痛いであります!」

 踏まなくて良い地雷を踏み抜き、見事に起爆させて頬を引っ張られているシーラ少尉を置いて、先にはガイウス中尉と一緒に専用搭乗口から汽車へと乗り込むべく歩き出す。……今回は同行者が居るって聞いたけれど、どんな人なのかしら? そんな事を考えながら扉に向かえば、その前で女性が立って待っていた。

「お待ちしておりました。今任務に於いてご同行させて頂く事になりました。特別対魔機関バルバトス医務室所属医官リコリス・アデーラ少尉であります。以後よろしくお願いします」

「貴女は……」

 あれ? ……彼女は確か定期検診の時にいつも私の担当になっている女性よね? 今回の任務で一緒になるだなんて、凄い偶然もあるのね。

「……機士の奴らはどうした?」

「機士の方々は別件があり、後から来られるようです」

「そうか」

 最近は何処も人手が足りていないわね……この前の『ウィーゼライヒ市』の収容施設襲撃事件もあってか、軍の警戒レベルも上昇しているし……何事も無いと良いのだけれど、虫が良すぎるかしら?

「俺は別に構わんぞ? ……アイツとシーラを会わせたくない」

「? ヴェロニカもビーフジャーキー食べますか?」

「……いらん」

 ほんの少し目を離した間に何があったのか……もの凄く疲れた表情をしているヴェロニカ大尉と、元気にビーフジャーキーを頬張っているシーラ少尉が遅れてやって来る。……シーラ少尉と会わせたくない機士ってどんな方かしら?

「とりあえずこちらへどうぞ、ご案内します」

「あぁ」

 こちらに背を向け、車内へと進んで行くリコリス少尉の後を追って私達も汽車の中へと赴く。……車内では他の一般の客も居るみたいね? 私達も変装……というか、私服? だし。

「あー! それシーラも好きですー!」

「な、なんだい? お嬢ちゃん……」

「こらっ! おまっ?! すいません!!」

「……いや、気にしないが」

 車内販売でもしていたのでしょう……乗客の一人が食べていたチョコレートを目敏く発見したシーラ少尉が突撃してしまう。……本当に彼女はなんであんなに元気なのかしら? しかもヴェロニカ大尉が口元を抑えているのに不服そうだし……おじさんが微笑ましいものを見る目で見てるから良いものの……。

「シーラと言ったかい? お姉ちゃんなんだから、ちゃんとしっかりしてないとダメだよ?」

「なぁっ?!」

「ッ?! はい! シーラはヴェロニカのお姉ちゃんなのでね! しっかりするのです!!」

「「……」」

 あー、やってしまった……ガイウス中尉と額に手を当て、天を仰ぎ見る……まぁ確かに見た目的にはおじさんを責める事は出来ないのでしょうけども……これは確実にシーラ少尉が調子に乗るわね。まだ短い付き合いだけれど、断言出来るわ。

「さぁ行きますよヴェロニカ! シーラお姉ちゃんにしっかりと着いて来るのですよ!」

「……」

「ヴェロニカは可愛いですね! しっかりと手を握るのでありますよ!」

「「……」」

 あぁ……おじさんがニコニコしてるのを尻目に、先を行くシーラ少尉に手を引かれるヴェロニカ大尉の目がドンドン死んでいく……!!

「そ、その……部屋はこちらです……」

「あぁ、うむ……」

 気まずそうに目を逸らすリコリス少尉に何も言わずに部屋へと入るガイウス中尉の優しさ……優しさなのかしら? ……まぁ、あまり下手に触れない方が​──

「そこに段差があるでありますよ! ヴェロニカは小さい・・・・・・・・・でありますからな! シーラお姉ちゃんが抱っこしてあげるでありますよ!」

「「「​──」」」

 ​──あぁ、終わった……シーラ少尉に黙って脇の下から担がれているヴェロニカ大尉が怖い……本当にもう……シーラ少尉のバカ。

「シーラよ……」

「? なんですか? シーラお姉ちゃんがちゃんと聞いて​──」

 バカなだけでなくアホなのか……ヴェロニカ大尉の様子にも気付かすに呑気に返事をするシーラ少尉からゆっくりと、そして静かに……ガイウス中尉とリコリス少尉の三人とで離れる。

「​──大好きな車内探検をさせてやろうじゃないかッ!!」

「ぬわぁーー!! 目がァーー!!」

 勢いよくシーラ少尉の手から逃れながら振り返ったヴェロニカ大尉が彼女の目を潰し、それによる絶叫が車内に響いた。……本当に今回の任務、大丈夫なのかしら? 不安が尽きない。

▼▼▼▼▼▼▼

「えーと……今回の任務の人員についてですが……」

「痛い……ヴェロニカは酷いでありますよ……」

 悲しげに顔を手で覆って泣く……振りをしながら指の隙間からこちらを窺ってくるシーラ少尉にやりづらそうにしながらも、リコリス少尉は簡単なミーティングを行っていく。

「なにやら帝都の中に魔法使いが四人ほど侵入したらしく、一部の狩人の人手とその空いた穴を埋めるべく機士の方々が一部狩人の業務を担っており、こちらに追い付くのが遅れるとの事です」

「帝都に魔法使い、か……」

 そう言ってガイウス中尉が唸るのも仕方ないでしょう……この前の『ウィーゼライヒ子爵領』での魔法使いによる潜入工作の件といい、皇帝陛下のお膝元である帝都に大胆にも侵入して来た事といい……魔法使い達の動きが活発化している事は間違いではないようね。……クレルもその中に居たりしないかしら?

「……まぁ奴らには『軍馬』があるし、多少遅れても直ぐに追い付けるだろう」

「そうだな、拠点襲撃の決行日までに間に合えば良い」

ガイウス中尉の言葉に頷くヴェロニカ大尉を見ながら考える。
 『軍馬』……それは私達狩人にとっての『猟犬』みたいな物……同じ素材で出来た同一の物という見方も出来るけれど、その運用方法等は全くの別物だと聞く。

「潜入し、魔法使いを狩っていくのは我々の役目だが……もしも逃げ出す輩が居たり、また人為的に魔物が産み出された場合は奴ら機士達が動く……いいな?」

「了解です」

「目が……痛いよ……(チラッ」

「『……』」

 し、締まらない……本当にそんなバレバレな演技で良いと思っているのかしら? ……まぁ可愛いから、構ってあげたくなる気持ちも分かるけれど。

「……食べる?」

「わーい! やったぁー! シーラ、アリシア大好きーー!!」

「……それは良かったわ」

 ビーフジャーキー一つでここまでコロコロと表情を変えるのね……ある意味、退屈だけはしなさそうではあるわね。……私、彼女と一緒に見張りなんだけれど。

「汽車の旅にチョコレートは如何ですかぁ?」

「五つ貰おう」

 あんまり騒がしかったのでしょう……笑顔を貼り付けながら、その下で不審者を見る目で様子を窺う販売員に何事も無かったかのようにガイウス中尉が買い物を済ませる。

「……何かを食わせれば、静かになるだろ」

「……そうだな」

 シーラ少尉以外の四人で苦笑しながら、この始まったばかりの長い汽車の旅を無事に終わる事を祈る。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫
ファンタジー
魔物の森に住む不死の青年とお城脱走が趣味のお転婆王女さまの出会いから始まる物語。 遥か昔、マカニシア大陸を混沌に陥れた魔獣リィスクレウムはとある英雄によって討伐された。 ――しかし、五百年後。 魔物の森で発見された人間の赤ん坊の右目は魔獣と同じ色だった―― 最悪の魔獣リィスクレウムの右目を持ち、不死の力を持ってしまい、村人から忌み子と呼ばれながら生きる青年リィと、好奇心旺盛のお転婆王女アメルシアことアメリーの出会いから、マカニシア大陸を大きく揺るがす事態が起きるーー!! リィは何故500年前に討伐されたはずのリィスクレウムの瞳を持っているのか。 マカニシア大陸に潜む500年前の秘密が明らかにーー ※流血や残酷なシーンがあります※

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...