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第五章.美しくありたい
15.妖精の魔女
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「リーシャ、大丈夫か?」
「は、い……平気で、す……よ」
背に背負うリーシャへと声を掛ければ、こちらを心配させまいとする彼女の声が聞こえる……もう何度目かも分からないこのやり取りに、さすがに苦笑する音が聞こえる。
「何かあったら直ぐに言うんだぞ?」
「え、ぇ……その、時は……よろ、し、く……お願、いし……ます、ね……?」
一晩が経ち、手足を軽くだが動かせるようになったと言っても本調子ではなく、未だにマトモに身体を動かす事はできない……無理をさせる事など絶対に出来ない。……俺の責任でもあるのだから。
「……運動が苦手なのは……こういう理由だったんだな」
「…………は、い」
今までずっと彼女が運動音痴なのを見てきて、『この娘は本当に大丈夫なのだろうか』等と的外れな心配をしていた……身体が鉄の性質を取り込み過ぎた結果として、可動域が狭ばまっていたなんて……初めて知った。
「……今までずっと、魔法を無理に使ってきたのか?」
「…………は、い」
俺のように師匠の様な大魔法使いに師事した訳でもなく、他に何か特別な力がある訳でもないのに……俺よりも年齢が下である彼女が、優秀な魔法使いだとマーリン様から紹介される理由でもあるのだろう。……事実として、彼女は魔女から一人であるにも関わらず、Ⅰ~Ⅲ型の供物で俺とマークを庇いながら凌いでいた。
「……そうしなければ、ならなかったのか?」
「…………は、い」
リーシャはまだ十五歳だったはず……その年齢で身体機能に障害が残る程の揺り戻しと、『対価』としたものの性質を取り込んだ結果の魔力残留……それらの後遺症が出るほどの魔法行使など、想像できない。
「……理由を、聞いてもいいか?」
「…………す、いま……せ、ん」
「……いやいい、大丈夫だ。……こちらこそ、すまないな」
リーシャにも話せない、話したくない過去の一つや二つくらい有るだろう……だからと言って信頼されていないとは思わない。……出会ったばかりの頃なら、こうして密着状態になっている今の体勢ですら一々赤面し、動けないのにも関わらず渋っていただろう。
「話したくなったら……その時は聞かせてくれ」
「は、い……その時、は……」
リーシャのまだ浅い呼吸に耳を擽られながら、草花を踏み締め、木々に目印を付け、リーシャと魔女のものと見られる戦闘痕を横目に流しながら、『そろそろだな』と当たりを付ける。
「リーシャ、そろそろ準備は良いか?」
「い、つで……も、い……けま……す……」
リーシャに声を掛けて確認を取れば、強い意志の篭った返事が返ってくる……彼女が取っておきのIV号供物を取り出し、今一度……自己を再確認しながら魔力を練り上げる。
「……また来たぞ」
「やはり私が恋しかったみたいだね? …………でもね、坊や? 素敵な女性を誘う時に他の女を同伴させるのは減点だよ」
一際大きく目立つ大樹……何も知らなければティコとレックを象って掘った人形を埋め込んでいたのかと錯覚してしまうような、そんな悍ましい大木の根元に……かの魔女は待ち構えていた。
「今日はお前を誘いに来た訳じゃない」
「……私のこの身体を組み伏せたくはないのか?」
「まったく、そそられないな」
いや嘘だ。今もこの目の前の女を組み伏せ、暴力によって屈服させ、綺麗な肌に爪を立て、その整った顔を恐怖に歪ませ、心の赴くままにその身体を使って快楽を貪りたくなる衝動に駆られている……素直になれという言葉が頭の中で反響して気持ち悪いくらいだ。
「……私を愉しみたくはないのか?」
「あぁ、残念だが──」
俯き、声を震わせながらそっと静かに問い掛ける彼女を見て、断り方を間違えたかと考えるが……そもそもそういった経験のない俺が悩んでも仕方のない事……どうせ討伐するのだから精一杯に拒絶してしまえ。
「──俺の心にお前が入る余地は無い」
「せっかく綺麗にナッタノニイィィィィィィィィィイイイイイイ!!!!!!!!!」
人が変わったように顔中を掻き毟りながらヒステリックに絶叫する彼女に合わせて周囲の木々が脈動し、赤黒い葉脈を幹にまで走らせながらまるで眠りから覚めたかのように起き上がる……本当に魔物は情緒不安定でいけない。
「心も美しい相棒を背負っているから、尚さらそそられないな」
「あ、ぅ……クレ、ル君……集中で、きま……せ、ん……」
「す、すまん……」
確かに本人を前にして言うには恥ずかし過ぎる言葉だったな……だがまぁ、事実ではあるので反省はしても後悔はしていない。これは紛れもない本心なのだから。
「アァァァァァアアアアァァアア!!!!! 『アイツよアイツ あの女いけないの 私から彼を奪うからいけないの 葉を伸ばして光を奪って 枝を伸ばして捕まえて 根を張って枯れさせて 私をもっと美しく!!!』」
「チッ……『我が願いの対価は傲慢なる黒薔薇五輪 望むは人外の肉体 私の思い上がりに果てなどなく この身は人などに収まらない 茨の棘で他者を排し 傲慢故の孤独に酔いしれる その花弁を散らす時 己の過ちを識るだろう!!』」
完全に狂気に侵された魔女の目は俺ではなく、その背に背負うリーシャしか見ていない。あんなに自分を誘惑しておいて、どういう事だと思うが……魔物の思考など理解できなくて良い、しない方が良い。……強いて言うならリーシャを養分に、さらに美しくなりたいというところか。
「お前も! 私じゃなくて他の女を選ぶんだな!! そうなんだな?! 『私は悪くないわ 陽光たる彼に照らして欲しくて 根を張った 幹を伸ばした 葉を生い茂らせた その努力の報いは何処に!!!!』」
「悪いが醜女の言い訳など聞きたくない……『我が願いの対価は勘違いの牡丹三輪 望むは全てを捉える感覚 俺が絶対だ そうなのだ 黒は白く 大地が上で 空が下 上下左右すら覚束無いこの世界で ただ唯一 俺こそが正解なのだ』」
身体能力を限界ギリギリまで強化した俺たちに、まるで人の血を吸ったかのように赤黒い木々が襲ってくる……それらをまだ奴の影響範囲外にある木の幹を蹴りながら避けて移動し、リーシャが酔わないように魔法で三半規管を強化する。これによって例え逆さまに落ち、デタラメに振り回されたとしても、まるで地に足を付けているが如く周辺を知覚できる。
「なぜ! なぜなんだ?! こんなに努力して綺麗になったのに?!」
「鏡を見てみろ、その自慢の面すら見るに堪えんぞ」
「ッ!! わ、私の……私の……ッ!!」
あれだけ美しいと思った女の顔はもはや見るに堪えない……掻き毟ったせいなのかその顔は引き裂いた絵画の如く、その瑞々しい肌の下の汚物を露呈させる。
「私の努力を愚弄スルナァァァァァァァァァアアア!!!!!! 『もういい もういいの 私の努力も 知ろうとしない 私を選ぶセンスもない 彼の心は秋の曇り空 私に養分を与えてはくれない ならせめてその首を愛でさせて!!!!』」
「はぁ……お前は本当に──」
大地を引き裂きながら盛り上がる木々がその枝をしならせ、根を鋭く突き出し、幹を絡ませながら迫る……それらに触れる蝶などの虫や正常な木々が急速に干からびていくのを見て、本当に貪欲だなという感想を抱く。
「──求めるばかりだな」
「ッ!!」
相手を、相手に求めて手を伸ばすばかりで相手に与えるという事がない……そんなザマで愛して貰おうなどと、思い上がりも甚だしい。
「先ほどから聞き苦しいぞ、少しは──俺の相棒の様に献身を覚えたらどうだ?」
「イヤァァァァァァアアアア!!!! 私を他の女と比べるんじゃないッ!!!!!!」
もはや当初の余裕のある大人の女性という雰囲気は微塵もなく、ただ癇癪を起こしているだけの小娘と形容した方が正しいまであるな。……とりあえず、リーシャから『コホンっ!』という可愛らしい抗議を受けたので、彼女を引き合いに出して褒めるのは控えよう。
「そうだな、比べるまでもなく……リーシャの方が素敵な女性だな」
「……クレ、ル君ッ!!」
「あ、すまん……」
いや、本当にすまない……リーシャを背負って飛び回りながら、我慢できなくなった彼女から叱責を受けてしまう。……彼女の魔法が切り札なのだから、集中させなければ。
「つ、次からは気を付けよう」
「……(プイッ」
り、リーシャが拗ねてしまった……彼女の事だから魔法を使う分には大丈夫だとは思うが……いや、本当にすまない。反省しました。
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「は、い……平気で、す……よ」
背に背負うリーシャへと声を掛ければ、こちらを心配させまいとする彼女の声が聞こえる……もう何度目かも分からないこのやり取りに、さすがに苦笑する音が聞こえる。
「何かあったら直ぐに言うんだぞ?」
「え、ぇ……その、時は……よろ、し、く……お願、いし……ます、ね……?」
一晩が経ち、手足を軽くだが動かせるようになったと言っても本調子ではなく、未だにマトモに身体を動かす事はできない……無理をさせる事など絶対に出来ない。……俺の責任でもあるのだから。
「……運動が苦手なのは……こういう理由だったんだな」
「…………は、い」
今までずっと彼女が運動音痴なのを見てきて、『この娘は本当に大丈夫なのだろうか』等と的外れな心配をしていた……身体が鉄の性質を取り込み過ぎた結果として、可動域が狭ばまっていたなんて……初めて知った。
「……今までずっと、魔法を無理に使ってきたのか?」
「…………は、い」
俺のように師匠の様な大魔法使いに師事した訳でもなく、他に何か特別な力がある訳でもないのに……俺よりも年齢が下である彼女が、優秀な魔法使いだとマーリン様から紹介される理由でもあるのだろう。……事実として、彼女は魔女から一人であるにも関わらず、Ⅰ~Ⅲ型の供物で俺とマークを庇いながら凌いでいた。
「……そうしなければ、ならなかったのか?」
「…………は、い」
リーシャはまだ十五歳だったはず……その年齢で身体機能に障害が残る程の揺り戻しと、『対価』としたものの性質を取り込んだ結果の魔力残留……それらの後遺症が出るほどの魔法行使など、想像できない。
「……理由を、聞いてもいいか?」
「…………す、いま……せ、ん」
「……いやいい、大丈夫だ。……こちらこそ、すまないな」
リーシャにも話せない、話したくない過去の一つや二つくらい有るだろう……だからと言って信頼されていないとは思わない。……出会ったばかりの頃なら、こうして密着状態になっている今の体勢ですら一々赤面し、動けないのにも関わらず渋っていただろう。
「話したくなったら……その時は聞かせてくれ」
「は、い……その時、は……」
リーシャのまだ浅い呼吸に耳を擽られながら、草花を踏み締め、木々に目印を付け、リーシャと魔女のものと見られる戦闘痕を横目に流しながら、『そろそろだな』と当たりを付ける。
「リーシャ、そろそろ準備は良いか?」
「い、つで……も、い……けま……す……」
リーシャに声を掛けて確認を取れば、強い意志の篭った返事が返ってくる……彼女が取っておきのIV号供物を取り出し、今一度……自己を再確認しながら魔力を練り上げる。
「……また来たぞ」
「やはり私が恋しかったみたいだね? …………でもね、坊や? 素敵な女性を誘う時に他の女を同伴させるのは減点だよ」
一際大きく目立つ大樹……何も知らなければティコとレックを象って掘った人形を埋め込んでいたのかと錯覚してしまうような、そんな悍ましい大木の根元に……かの魔女は待ち構えていた。
「今日はお前を誘いに来た訳じゃない」
「……私のこの身体を組み伏せたくはないのか?」
「まったく、そそられないな」
いや嘘だ。今もこの目の前の女を組み伏せ、暴力によって屈服させ、綺麗な肌に爪を立て、その整った顔を恐怖に歪ませ、心の赴くままにその身体を使って快楽を貪りたくなる衝動に駆られている……素直になれという言葉が頭の中で反響して気持ち悪いくらいだ。
「……私を愉しみたくはないのか?」
「あぁ、残念だが──」
俯き、声を震わせながらそっと静かに問い掛ける彼女を見て、断り方を間違えたかと考えるが……そもそもそういった経験のない俺が悩んでも仕方のない事……どうせ討伐するのだから精一杯に拒絶してしまえ。
「──俺の心にお前が入る余地は無い」
「せっかく綺麗にナッタノニイィィィィィィィィィイイイイイイ!!!!!!!!!」
人が変わったように顔中を掻き毟りながらヒステリックに絶叫する彼女に合わせて周囲の木々が脈動し、赤黒い葉脈を幹にまで走らせながらまるで眠りから覚めたかのように起き上がる……本当に魔物は情緒不安定でいけない。
「心も美しい相棒を背負っているから、尚さらそそられないな」
「あ、ぅ……クレ、ル君……集中で、きま……せ、ん……」
「す、すまん……」
確かに本人を前にして言うには恥ずかし過ぎる言葉だったな……だがまぁ、事実ではあるので反省はしても後悔はしていない。これは紛れもない本心なのだから。
「アァァァァァアアアアァァアア!!!!! 『アイツよアイツ あの女いけないの 私から彼を奪うからいけないの 葉を伸ばして光を奪って 枝を伸ばして捕まえて 根を張って枯れさせて 私をもっと美しく!!!』」
「チッ……『我が願いの対価は傲慢なる黒薔薇五輪 望むは人外の肉体 私の思い上がりに果てなどなく この身は人などに収まらない 茨の棘で他者を排し 傲慢故の孤独に酔いしれる その花弁を散らす時 己の過ちを識るだろう!!』」
完全に狂気に侵された魔女の目は俺ではなく、その背に背負うリーシャしか見ていない。あんなに自分を誘惑しておいて、どういう事だと思うが……魔物の思考など理解できなくて良い、しない方が良い。……強いて言うならリーシャを養分に、さらに美しくなりたいというところか。
「お前も! 私じゃなくて他の女を選ぶんだな!! そうなんだな?! 『私は悪くないわ 陽光たる彼に照らして欲しくて 根を張った 幹を伸ばした 葉を生い茂らせた その努力の報いは何処に!!!!』」
「悪いが醜女の言い訳など聞きたくない……『我が願いの対価は勘違いの牡丹三輪 望むは全てを捉える感覚 俺が絶対だ そうなのだ 黒は白く 大地が上で 空が下 上下左右すら覚束無いこの世界で ただ唯一 俺こそが正解なのだ』」
身体能力を限界ギリギリまで強化した俺たちに、まるで人の血を吸ったかのように赤黒い木々が襲ってくる……それらをまだ奴の影響範囲外にある木の幹を蹴りながら避けて移動し、リーシャが酔わないように魔法で三半規管を強化する。これによって例え逆さまに落ち、デタラメに振り回されたとしても、まるで地に足を付けているが如く周辺を知覚できる。
「なぜ! なぜなんだ?! こんなに努力して綺麗になったのに?!」
「鏡を見てみろ、その自慢の面すら見るに堪えんぞ」
「ッ!! わ、私の……私の……ッ!!」
あれだけ美しいと思った女の顔はもはや見るに堪えない……掻き毟ったせいなのかその顔は引き裂いた絵画の如く、その瑞々しい肌の下の汚物を露呈させる。
「私の努力を愚弄スルナァァァァァァァァァアアア!!!!!! 『もういい もういいの 私の努力も 知ろうとしない 私を選ぶセンスもない 彼の心は秋の曇り空 私に養分を与えてはくれない ならせめてその首を愛でさせて!!!!』」
「はぁ……お前は本当に──」
大地を引き裂きながら盛り上がる木々がその枝をしならせ、根を鋭く突き出し、幹を絡ませながら迫る……それらに触れる蝶などの虫や正常な木々が急速に干からびていくのを見て、本当に貪欲だなという感想を抱く。
「──求めるばかりだな」
「ッ!!」
相手を、相手に求めて手を伸ばすばかりで相手に与えるという事がない……そんなザマで愛して貰おうなどと、思い上がりも甚だしい。
「先ほどから聞き苦しいぞ、少しは──俺の相棒の様に献身を覚えたらどうだ?」
「イヤァァァァァァアアアア!!!! 私を他の女と比べるんじゃないッ!!!!!!」
もはや当初の余裕のある大人の女性という雰囲気は微塵もなく、ただ癇癪を起こしているだけの小娘と形容した方が正しいまであるな。……とりあえず、リーシャから『コホンっ!』という可愛らしい抗議を受けたので、彼女を引き合いに出して褒めるのは控えよう。
「そうだな、比べるまでもなく……リーシャの方が素敵な女性だな」
「……クレ、ル君ッ!!」
「あ、すまん……」
いや、本当にすまない……リーシャを背負って飛び回りながら、我慢できなくなった彼女から叱責を受けてしまう。……彼女の魔法が切り札なのだから、集中させなければ。
「つ、次からは気を付けよう」
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り、リーシャが拗ねてしまった……彼女の事だから魔法を使う分には大丈夫だとは思うが……いや、本当にすまない。反省しました。
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