サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第六章.醜い■■の■

3.困った少女

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「やぁお姉さん!」

「……アンジュ、貴女また来たの?」

 リーゼリットと二人、朝目覚めて着替えていたところにアンジュが部屋の窓から顔を出す……ていうかここ、確か五階だったはずなのだけれど? どうやって登ってきたの?

「おっと、着替え中だったかい? すまない事をしたね!」

「別に女性同士だから構わないわよ」

 別に申し訳とか全く思ってもいないんでしょうし……事実、彼女は後ろを振り向いたり目を逸らす事もせず、むしろ窓から跨いで部屋に侵入する始末だもの。

「そうかい? お姉さんみたいな美人の着替えに同席できるなんて、僕は幸せ者だなぁ」

「……やっぱ出ていって」

「ごめんごめん、調子に乗ったよ」

 ていうか、何故さも当然と言わんばかりに部屋に上がって来てるのかしら? ……まぁもう仕方ないか。
 ため息をつきながらブラを着け、片足を上げて黒いニーソを履いていく……その時に太ももの辺りに投げナイフや弾倉を収納したベルトを装着するけれど……別に見られてもどうにも出来ないでしょうから、構わないか。

「……本当に色んな場所に武器を仕込んでるんだね」

「武器だけじゃないけれどね」

 応急止血薬や簡単な強壮剤なんかも用意しておかないと、いざって時に失血死とかしかねないもの……武器だけあったって、状況を乗り切れる訳じゃないわ。
 反対の左足も上げて、同じように黒いニーソを履いて道具を装着していく。

「あのさ、少し聞いてみてもいい?」

「……なに?」

 本当にこの少女は遠慮がないわね……同じ女性と言っても、無遠慮に着替えを見詰められたら流石に恥ずかしいわよ? 質問とかも多いし……やっぱり探偵に憧れているだけあって、仕込み武器とかにも興味があったりする​──

「​──なんでお姉さんはそんなに傷だらけなの? 特に左脚」

「……」

 …………質問には答えず、黙ってシャツのボタンを留めて制服のスカートと短パンを履き、ベルトを通す。

「あと胸と左腕だけ肌の色が違うね」

 …………ベルトにもいくつか細長いポーチを掛けてから、制服の上着を羽織って白い手袋を嵌める……特に左腕にはなるだけ地肌が見えないようにアームカバーも装着する。

「……って答えづらいよね、ごめんね? 職業病っていうか、細かい事が気になっちゃうんだ」

「……別にいいけれど」

 少しだけ申し訳なさそうな顔をしたアンジュに、目を逸らしながら応えつつ、今日は動きやすいように長い髪をポニーテールに纏める。
 寝る前にもしたけれど、着替えが終わったら武器のメンテナンスも一緒に始める。

「……ねぇアリシア? 私も気になってたんだけど、警察武官ってそんなに激しい戦闘があるの?」

「……えっと」

 リーゼリットからの遠慮気味な問いに一瞬だけ動きを止めながら考える……どう言い訳をしようかしら? 彼女には下手な嘘は通じないし、かといって本当の事を話す訳にもいかないし……うーん、お茶を濁すしかないわね。

「……まぁ、完全に無いとは言い切れないわね」

「……もしかしてこの前の落ち込んでた事件?」

「…………否定はしないわ」

 ……よしっ! 全く嘘は付いてない! 警察武官に激しい戦闘が無い訳じゃないし、この前の事件で出来た傷というのも否定していない! ただそれが警察武官としてじゃなく、狩人としての仕事だとは言っていないだけよ!

「例の事件ってなに?!」

「貴女は知らなくて良いのよ……もう解決もしたし」

「えぇ! 教えてよ~!」

 ぐっ、今度は事件という単語でアンジュが食いついて来た……そう言えばこの娘ってば探偵かぶれだったわね……迂闊だったかしら? まさかここまで食い気味にグイグイ来るとは……。

「よしっ終わり! ……それでアンジュ、貴女は何をしに来たのよ?」

「えぇ? 分かってるくせに~、一緒に聞き込みに行くんでしょ?」

「今日も?」

「今日も」

「「ハァ……」」

 満面の笑みで今日も聞き込みについて来ると断言したアンジュに、リーゼリットと二人揃ってため息を吐く……。
 この三日間でどれだけ断って振り切ってもいつの間にか近く居て、勝手に色んな事をするから半ば諦めたのよね……一人にして余計な事をされるより、近くに置いて制御した方が良いという打算的なものだけれど。

「さぁ行きますよ助手のお姉さん方」

「……助手?」

「? 探偵に助手はつきものだろう?」

「……私は助手ではない」

 なぜ『何言ってるんだこいつ』みたいな顔で私が見られているのだろうか……そんなにおかしな事を言ったのだろろうか? ……ダメだわ、この娘ただの探偵かぶれじゃない……頭のおかしい探偵かぶれだわ。

「そういえばお姉さん」

「今度は何かしら? 早く行くわよ?」

「いや、毎日持ち歩いてるそのケースには何が入ってるの?」

「本当に質問が多いわね……秘密よ」

 この三日間、常にそう……『あれはなに?』『これはなに?』『それはなに?』と、とにかく質問が多い。……本物の探偵に知り合いは居ないけれど、やっぱり気になった物はとにかく質問したいのかしら? それともただ単にアンジュが好奇心旺盛なだけ?

「教えてくれたって良いのに~! ぶーぶー!」

「豚さんになるわよ?」

「ぶっ?!」

 ぶーぶー言うアンジュの鼻をぷにっと押しながら微笑む……まぁまだ子どもだし、そう邪険にする事もないわね。……いざとなったら私が守ればいいんだし、魔物さえ出てこなければ……ただの人間が相手なら問題ないわ。

「……それで? 今日は何処に行くの?」

「リーゼリットの仕事も兼ねているから、先ずは有名なチューリップ農園の方ね」

「……ふーん?」

 まぁただ単に観光旅行を完全に諦め切れてないだけだけど……もちろんリーゼリットの仕事もするし、事件の聞き込みに必要な場所だから行くのであって、ただ観光目的だけだったら行かないから良いのよ! うん!

「リーゼリットはそこで何を聞くの?」

「うん? あぁ、チューリップを大量に栽培するようになった歴史的な経緯とか、この地域にとってどれだけ大事な物なのか……とかを聞きに」

「「へぇ~」」

 リーゼリットの答えにアンジュと二人で関心した声を出す……チューリップが綺麗だけじゃダメなのかしら? ダメなんでしょうね。
 ……まぁアンジュは別の事で関心した声を出してそうだけど。

「とりあえずそういう事だから、ついて来る以上は勝手に離れたり勝手な行動はしない事! いい?」

「分かってるって、お姉さん」

「……本当かしら?」

 まぁ今はアンジュを信じるしかないか……ともかく背後のアンジュと、居るのかさえ分からない魔物に警戒しながらリーゼリットの仕事を見守りつつ聞き込み、何かあった時は二人を守る。……よし、今度は絶対に守り切ってみせるわ。

「……ねぇ、金髪のお姉さん? あのお姉さんなんか肩に力が入ってない?」

「……アリシアはいつもこんな感じで、一人で色んな人を救おうとする悪癖があるからね」

「難儀なんだね」

「まったくだよ」

 背後から生暖かい目線が二人分も注がれている事にも気付かず、私はホテルのロビーでバスの時刻表を確認して今日の予定を立てる……チューリップ畑、楽しみだなぁ……。

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