サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第六章.醜い■■の■

6.ゼイポ騎士爵

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「ようこそおいでくださいました、私がこの『ゼイポ地区』の管理をホラド伯爵閣下が任されているクラーク・ゼイポ騎士爵です」

「帝国軍治安維持局警務課に所属するアリシア・スカーレット准尉です」

 執務室に入って早々にお互いに挨拶を済ませる……なんていうか、ゼイポ騎士爵は全体的に痩せぎすで、落窪んだ眼孔に不健康そうな肌の色をしていて……不気味であると同時に神経質そうな印象を受ける。

「この度はわざわざお時間をくださり、誠にありがとうございます」

「いえいえ、そろそろチューリップを出荷する時期でしてな、その様な時期にくる客も珍しいのでタイミングが良かった」

 ……いきなり嫌味を言われてしまった……『こんな忙しい時期に来るとは……普通皆さん遠慮しますよ?』なんて言外に言っておきながら顔色一つ変えないなんて、良い神経してるじゃない?

「まぁ! それは丁度良かったです、たっぷりと時間私には全然関係がないので取れますね付き合って貰いますね

中々に素直図太い神経をお持ちな御仁であるようですな」

「「……」」

 私がにっこりと微笑むの対してゼイポ騎士爵はピクリとも顔の表情を変えずに握手をする……その時に強く握られたので、お望み通りに握り返してあげると初めて眉をピクリと動かす。

「……まぁお座りください」

「えぇ、そうしますね」

 促されるままに執務机の前にあった応接用のそファーに沈み込むように座る。……私って、そんなに力が強いのかしら? やっぱりゴリラって言われるほど馬鹿力な女性はクレルに嫌われちゃうのかな?

「それで? 本日はどの様なご用件で?」

「貴方の娘さんが殺害された件ついてです」

 そう言って被害者である女性の遺体写真を机の上に並べて行く……一枚一枚時間をかけていくけれど、実の娘の死体の写真だというのにここでは眉一つ動かさないわね。

「何か心当たりは?」

「ありませんな」

「では娘さんが何故この時期に領都に向かったのかは?」

「教える必要性を感じませんな」

 ……ふぅん? 本当に一切の協力をするつもりが無いみたいね? 実の娘が殺されているというのに何故? そしてこの忙しい時期になんで三女という微妙な立場の彼女が領都に?

「娘さんが殺された事について、どれほど確認が取れてますか?」

「さて」

「領主への報告などは長男ではなく、三女が担っていたと?」

「……」

 領主に中間報告をするのであればちゃんとした信頼できる部下か、跡継ぎである長男辺りを向かわせるのが無難なはず……ホラド伯爵達が犯人だとして、魔物に絡む何かをしている事に気付いたら三女が独自に調査を仕出し、それが邪魔になって殺された?

「他に聞きたい事はございますか? 無いならお帰り願いたいのですが……」

 ……ダメね、仮定に仮定を重ねても意味なんか無いし、アンジュの『犯人は魔物の子』というなんの信憑性もない言葉に引っ張られ過ぎて視野狭窄に陥ってるかも知れない……。
 ホラド伯爵達が犯人なんて証拠は現時点では無いんだし、最後に一つだけ質問して帰ろうかしらね。

「この事件に魔物が​」

「……(ピクっ」

「……関わっているかも知れないって言ったらどうします?」

「……」

 ……反応しないで欲しかったわね……そもそも被害者が一般人であるならば、領主の頼み事を優先するのは当然の事として納得はできたけれど、この領地の支局長とその下に居る警察武官は被害者が貴族である事を報告しているのにも関わらず、今も動いていない。
 ……むしろ自分の家臣の娘が被害者であるはずなのだから、事情を説明すればホラド伯爵だって事件の操作を優先する事を許してくれるはず……なのに何も音沙汰が無いって事はそういう事なのかしら?

「……さて、どうでしょうな? いたずらに民の不安を煽るのは止めていただきたいところですが」

「可能性の話ですよ」

「狩人達が持つ羅針盤も無く、どうやって魔力を検知したと言うのやら……大方騒ぎ立てる町民の話を鵜呑みにしたのでしょうが」

 ……まぁ既に魔力は羅針盤で検知はしているのだけれど……こちらを呆れた目で見てくる彼に対して、まだ私がその狩人である事は伏せておきましょう。
 今はまだ私がただの馬鹿な警察武官としか思っていないのでしょうけど、これが狩人だとなると警戒心を高めてしまうかも知れない。

「そうですか……では聞きたい事も聞けたのでこれで失礼しますね」

「ふぅ……やっとですか」

 やっとってなによ? やっとって? なんだかんだ言って、まだそんなに時間は経っていないじゃない……そんなに嫌だったのかしら?
 ……まぁいいわ。長居は無用だし、さっさと帰るべく立ち上がりましょう。

「では今回はありがとう​──」

「​──あぁそうそう、こちらからも一つよろしいですかな?」

「……なんでしょう?」

 立ち上がってドアの前で退出の挨拶をしようとしたところで遮られ、話し掛けられる……さっき済ませれば良かったじゃないとは思うけれど、聞きたい事ってなにかしら?

「我々に擬態した魔法使いの子どもを知りませんかな?」

「……知らないですね、それが何か?」

 見た目がレナリア人と変わらないガナン人の子どもを知らないかですって? それはチューリップ畑のド真ん中で倒れてたあの子の事を言っているのかしら?

「いやなに、もし見つけたら即座に我々にご連絡を……」

「……覚えておきましょう」

 明言は避けつつ、そのまま部屋を出る……なぜ彼らがあの子を探しているのか、あの子が血塗れで倒れていた事と何か関係があるのか……分からないわね。

「……確か魔法使いは魔物を倒して、その身に魔力を取り込む……のよね?」

 確かクレルが教えてくれたはず……魔法使い達は魔物を倒し、大地の汚染を防ぐべく、その核となった魔力が魔力残滓となる前に加工して取り込み、同時に自身の強化を図るのだと……だとしたらあの子は領主達に喧嘩を売った?
 領主が本当に魔物の子なのか、魔物が成り代わっているのかは分からないけれど……とにかく捜索はされているようね。

「支局長達が領主に呼び出されてるのも、多分この件ね……」

 兎にも角にも、まだ誰が敵で味方か分からない今は下手にあの子を差し出す訳にはいかない……せっかく救ったのにという気持ちがない訳では無いけれど、別に私情を入れている訳じゃない。
 領主達が完全に白で、疑った私がただの間抜けかも知れないけれど、流石に今は危険だわ。

「でも​​──」

 ​──もし仮に救ったあの子が魔物なら、私が殺す。

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