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第六章.醜い■■の■
8.夜間の狩り
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「……近いわね」
深夜遅い時間……あの後結局私が出掛けるまでに子どもの目は覚めなかったけれど、リーゼリットもお婆さんも居るし大丈夫だと信じて夜の街の駆ける。
夜の闇に紛れる黒い軍服に狼を模した仮面……右手には猟犬を携えて、羅針盤の示す方へと急ぐ。
「一人で大丈夫かしら? ……大丈夫よね、クレルが着いてるもの」
一応バルバトス本部へと連絡を入れたし、ガイウス中尉も『できるだけ急いで向かう』とは言ってくれたけれど……スズハラ大佐が『今はそちらに兵力を割くのは難しい』とも言っていたし、最初から当てには出来ないわね。
なんとかして一人で解決、もしくは被害を最小限に抑える事を成し遂げないといけないわね。……結構な条件じゃないの。
「──動かないで。両手を上げてゆっくりとコチラに振り返りなさい」
「「っ?!」」
銃撃モードの猟犬を構え、こんな深夜に出歩く怪しい出で立ちの二人組へと声を掛ける……白昼堂々じゃないだけまだマシだけれど、コソコソと路地裏を歩くのではなく大通りを闊歩している事に眉を顰める。……やはり権力側の協力があるみたいね。
「わ、私達に何か……?」
「軍人さんが何の用ですか?」
……へぇ、あくまでも自分達は一般人として振る舞うつもりみたいね? でも悪いけれど羅針盤は貴方達を指し示しているの……言い逃れはできないわよ?
「これが何か……分かるわよね?」
「……『羅針盤』、か」
「何か知ってるって事は魔法使いって事で良いのよね?」
「チッ! なんで狩人が居るんだよ!」
男の方が『呪具』らしき物を取り出し、それを投げる事で瞬時に岩の砲弾で目くらましと攻撃を兼ねた魔法を行使する……それらの、自分に当たりそうなものだけを瞬時に撃ち砕きながら彼らへと向けて駆け出す。
地面へと魔法で潜ろうとする男の周辺の地面を焼き焦がし、男を囮に自分だけでも逃げようとする女へと手榴弾を投げ付ける。
「クソっ、この女強いぞ! 逃げるよりも倒す事を優先する! 『我が願いの対価は寂寥の泥濘 望むは深き沼』!」
「なんでよぉ! 狩人となんか戦いたくないのにぃ! 『我が願いの対価は苦渋の硝子 望むは美しき光』!」
私の足下を中心として泥沼が広がり、私の足を奪いに来る……それだけじゃなく、周囲の空中に浮かぶガラス片が月と星の光を乱反射させ、私の視界から彼らを隠してしまう。
……これでは不安定な足場に変化した事によって踏み込みも甘くなってバランスを崩してしまうし、光の乱反射によって銃の照準も合わせられないわね。
「馬鹿め! 一人で来るからだ! このまま一気に──」
「──舐めないで」
地面に猟犬の刃を突き立て、超高温の炎を放出する事で泥沼を焼き固める……急上昇した周辺の温度により発生した陽炎によってガラス片による光の乱反射が揺らぎ、相手からコチラを隠す蓑へと逆に利用してやる。
……それに、目が見えなくても羅針盤があればだいたいの位置は把握できる……だいたいの位置が分かれば狙いなんて定めなくても良い。
「燃え尽きなさい!」
「この脳筋女がぁ?! 『我が願いの対価は頑固な砂粒 望むは我が身を包む羽衣』ッ!!」
「だから逃げたかったのに! 死にたくない! 『我が願いの対価は求める鏡 望むは厄を退ける術』ッ!!」
彼らが居るであろう場所へと特殊な手榴弾を投擲……爆発したそれが周囲に撒き散らした油に着火する様に特大の炎を走らせる。
魔法で身を守ろうとしているみたいだけど……好都合ね? 雑に地面からくり抜いた泥岩を先ほどまで立っていた場所に置き、自分は身を屈めて彼らに接近する。……あと私は脳筋なんじゃない。
「ぐぉっ?!」
「くぅっ?!」
彼らの認識外から近付き、峰から炎を噴出させた勢いを乗せた一撃によって、彼らの身を包み守る魔法の防御ごと街の外へと弾き飛ばす。
……ここが田舎で良かったわね。それなりに規模の大きな街だったら簡単には外に飛ばせないし、民間にも被害が出ていたわね……家同士の間隔が広いのも助かったわ。
「……どうする? 大人しく情報を吐くなら見逃してあげるけど?」
「……やっぱり脳筋じゃねぇか」
「うるさい。燃やすわよ」
町からほどほどに離れたチューリップ畑に落ちた彼らに追い付き、魔法使い用の拘束具で拘束して猟犬を首元に突き付けながら脅す。
魔法使いには何もさせずに即殺が望ましいとは言われているけれど……今回は情報を吐かせないといけないし、決して私が甘い訳でも魔法使いに肩入れしてる訳でもない……うん。言い訳のロジックは完璧ね。……多分。
「質問するわ。……人を堕天させるという道具は何処? いくつ配置したの?」
「……何の事を言ってるのか、分からないな」
「そう……あくまで白を切るのね」
猟犬の刃で男のフードを取り払う……クレルとは似ても似つかないけど、同じ黒髪と褐色の肌に胸が痛む……それでも心に蓋をして──彼の耳を削ぎ落とす。
「──ぐぅ?!」
「大丈夫よ、傷口は焼いたから出血は無いわ……話す気になったかしら?」
大丈夫、大丈夫よ……魔法使いはこれくらいじゃ死なないから……手加減だって出来てる。
良い? アリシア……これは天秤なの、彼の耳とここら一帯の人々の命……比べる事すら驕かましい程に『価値』に差があるのよ? それに──彼はクレルではないの。
「なぜゼイポ騎士爵は貴方達を引き入れたの? 娘を殺した理由は? ホラド伯爵閣下も知っているの?」
「……おいおい人にものを頼む時は脱げよ、売女」
「……そう」
「──ッ??!!」
彼の左手の指を三本ほど切り落とす……そのままガタガタと震える女の方に向き直り、今度はそちらへと猟犬の刃を向ける。
口を何度も開きかけては閉ざすという仕草を見る限り、恐怖心から口を割ろうとするのを必死で我慢している……ってところかしらね。
「貴女は何か知ってる?」
「……お、教えられません」
「教えてくれる? なぜゼイポ騎士爵は自らの領地を海に沈めようとしているの? それによって貴女達の得られる利益はなに?」
「ひっ……!」
……埒が明かないわね……アンジュが何処からか手に入れた書類に書かれた計画の一部を見る限り、ゼイポ騎士爵はマトモな思考とは思えない……そもそも計画の一部すら読み解けなかった。
娘を殺害して挑発? 花を堕天させる? 海に沈めて歓迎する? ……暗号なのか、そのままの意味なのかすら分からない。……けれど確実に言える事は、それによって多くの人命に被害が生じ、未だに目的すら分からない過激派組織である肥沃する褐色の大地に、なんらかの恩恵があるという事……人を魔物にする様な連中の考える事だから、絶対にろくなことじゃない。
「教えてくれたら殺さないわ」
「む、無理です! 話したら殺されてしまいます!」
「……」
これはどうしようもないわね……男の方はまだまだ元気そうだけれど、話してくれそうもないし、女の方は何かに酷く怯えていて話してくれたとしても真偽の見分けが付かない……せめて、堕天させるという道具を何処に配置したのかだけでも聞き出したい。
「人を堕天させる道具──〝グレゴリ〟なる物を何処に配置したのか、それだけ教えてくれれば見逃してあげるわ」
「ほ、本当ですか……?」
「馬鹿! 話すな!」
「でも! グレゴリの場所だけなら、また配置し直せば良いじゃない!」
女の方はもう少し揺さぶれば教えてくれそうね……戦闘開始した時も即座に逃げていたし、狩人自体に何かトラウマがあるのかも知れないわね……ちょっとカマかけてみようかしら?
「あら? 貴女前に会ったことないかしら?」
「ッ?!」
「へぇ~、こんなところに落ち延びていたのね?」
「あっ……あっ……」
「馬鹿! カマかけだ!」
……思ったよりも効果があったわね? そんなに酷い目にあったのかしら……まぁ今は好都合だわ。
仮にグレゴリなる物を配置し直されるとしても、ガイウス中尉達の応援が来るまでの時間が稼げるかも知れない……もしガイウス中尉達が間に合えばそれだけで大分楽になる。……完全に当てには出来ないけれど。
「教えてくれるわね?」
隣で喚く男の魔法使いの口に猟犬の刃を突き入れて黙らせつつ、女の方に促す……憎しみの篭った目で睨まれるのは慣れないけれど、努めて無視して場所を聞き出す──
「ば、場所は──」
「──教える必要はないよ?」
「っ!」
──すぐ傍で聞こえる男性の声を認識して直ぐにその場を飛び退く。……まったく気付かなった? いや、あれは転移して来たと見るべきかしら? ……そうだとしたら高位の魔法使いである事に違いないわね……いったいどんな相手なのか。
「……グリシャ」
「『緋色』ちゃん、か……何かと縁があるね?」
『ウィーゼライヒ市』と『ムルマンスク市』……どちらでも苦渋を舐めさせられた敵の登場に警戒を最大限に高めながら猟犬を構え、いつでも『覚醒』できる様に血液を取り出す。
今回は守るべき子どもも居ない、グリシャが何かをする前にさらに町から遠く吹き飛ばす事もできる……油断はない。
「そんなに怖い顔しないでよ。今日は君に用はないっていうか、構ってる暇はないんだ……ていうか何で狩人である君が居るのさ? 聞いてた事と違うんだけど? ……内通者がしくったか?」
「……言ってる事の意味が分からないけれど、私が貴方を見逃すと思ったのかしら? ……だったらオメでたい頭でなによりね」
「……あれ? 『緋色』ちゃん? なんか俺に当たりキツくない?」
「当たり前でしょッ!!」
今までの自分の行動を振り返ればそんな戯言も出てこないと思うわよ? もうちょっとこう……自覚というものがないのかしら?
……それに敵同士だし、おふざけしてる場合でもないでしょ?
「まぁでも……素直に逃がしてくれそうには──無さそうだね」
「それこそ当たり前でしょ」
半歩距離を取り、町を背にしつつ呼吸を整える……大丈夫、いつでも『覚醒』はできる。
「まぁでも──今回は彼らで我慢してよ」
「……やってくれたわね」
イヤに見覚えのある特徴的な物体……酷く歪な円の中心に、悲痛な表情を浮かべる子どもの像が縛り付けられているそれを、拘束具を外す事もしないまま足下に放置していた二人のうなじに突き入れる。
『マァムマァムマァムマァムマァムマァムマァムマァムマァムマァムマァムマァム』
『アイアヤヤアイアヤヤアイアヤヤアイアヤヤアイアヤヤアイアヤヤアイアヤヤ』
二人の身体がドロドロに溶け出し、そして異形へと再構築される。……まるで、蛹の中を解剖して観察したらこんな感じの映像が見れるのではないか……そう思える程に悍ましい光景が目の前に作り出される。
「じゃあね、『緋色』ちゃん……折を見て迎えに行くから」
「……人に殺意を抱く事って、あまり無いのよね」
彼は、いや彼らだけは……人の命を弄び続ける彼らだけは許してはならない……絶対に罪を償わせてやるんだから! そしてクレルの事と、人に戻す方法を吐かせてやるから覚悟なさい!
「『──大地を踏み歩くは我らが空 褐色の幼子に血を捧ぐ』」
でも今は……彼ら二人を楽にさせてあげる事が最優先ね。
▼▼▼▼▼▼▼
深夜遅い時間……あの後結局私が出掛けるまでに子どもの目は覚めなかったけれど、リーゼリットもお婆さんも居るし大丈夫だと信じて夜の街の駆ける。
夜の闇に紛れる黒い軍服に狼を模した仮面……右手には猟犬を携えて、羅針盤の示す方へと急ぐ。
「一人で大丈夫かしら? ……大丈夫よね、クレルが着いてるもの」
一応バルバトス本部へと連絡を入れたし、ガイウス中尉も『できるだけ急いで向かう』とは言ってくれたけれど……スズハラ大佐が『今はそちらに兵力を割くのは難しい』とも言っていたし、最初から当てには出来ないわね。
なんとかして一人で解決、もしくは被害を最小限に抑える事を成し遂げないといけないわね。……結構な条件じゃないの。
「──動かないで。両手を上げてゆっくりとコチラに振り返りなさい」
「「っ?!」」
銃撃モードの猟犬を構え、こんな深夜に出歩く怪しい出で立ちの二人組へと声を掛ける……白昼堂々じゃないだけまだマシだけれど、コソコソと路地裏を歩くのではなく大通りを闊歩している事に眉を顰める。……やはり権力側の協力があるみたいね。
「わ、私達に何か……?」
「軍人さんが何の用ですか?」
……へぇ、あくまでも自分達は一般人として振る舞うつもりみたいね? でも悪いけれど羅針盤は貴方達を指し示しているの……言い逃れはできないわよ?
「これが何か……分かるわよね?」
「……『羅針盤』、か」
「何か知ってるって事は魔法使いって事で良いのよね?」
「チッ! なんで狩人が居るんだよ!」
男の方が『呪具』らしき物を取り出し、それを投げる事で瞬時に岩の砲弾で目くらましと攻撃を兼ねた魔法を行使する……それらの、自分に当たりそうなものだけを瞬時に撃ち砕きながら彼らへと向けて駆け出す。
地面へと魔法で潜ろうとする男の周辺の地面を焼き焦がし、男を囮に自分だけでも逃げようとする女へと手榴弾を投げ付ける。
「クソっ、この女強いぞ! 逃げるよりも倒す事を優先する! 『我が願いの対価は寂寥の泥濘 望むは深き沼』!」
「なんでよぉ! 狩人となんか戦いたくないのにぃ! 『我が願いの対価は苦渋の硝子 望むは美しき光』!」
私の足下を中心として泥沼が広がり、私の足を奪いに来る……それだけじゃなく、周囲の空中に浮かぶガラス片が月と星の光を乱反射させ、私の視界から彼らを隠してしまう。
……これでは不安定な足場に変化した事によって踏み込みも甘くなってバランスを崩してしまうし、光の乱反射によって銃の照準も合わせられないわね。
「馬鹿め! 一人で来るからだ! このまま一気に──」
「──舐めないで」
地面に猟犬の刃を突き立て、超高温の炎を放出する事で泥沼を焼き固める……急上昇した周辺の温度により発生した陽炎によってガラス片による光の乱反射が揺らぎ、相手からコチラを隠す蓑へと逆に利用してやる。
……それに、目が見えなくても羅針盤があればだいたいの位置は把握できる……だいたいの位置が分かれば狙いなんて定めなくても良い。
「燃え尽きなさい!」
「この脳筋女がぁ?! 『我が願いの対価は頑固な砂粒 望むは我が身を包む羽衣』ッ!!」
「だから逃げたかったのに! 死にたくない! 『我が願いの対価は求める鏡 望むは厄を退ける術』ッ!!」
彼らが居るであろう場所へと特殊な手榴弾を投擲……爆発したそれが周囲に撒き散らした油に着火する様に特大の炎を走らせる。
魔法で身を守ろうとしているみたいだけど……好都合ね? 雑に地面からくり抜いた泥岩を先ほどまで立っていた場所に置き、自分は身を屈めて彼らに接近する。……あと私は脳筋なんじゃない。
「ぐぉっ?!」
「くぅっ?!」
彼らの認識外から近付き、峰から炎を噴出させた勢いを乗せた一撃によって、彼らの身を包み守る魔法の防御ごと街の外へと弾き飛ばす。
……ここが田舎で良かったわね。それなりに規模の大きな街だったら簡単には外に飛ばせないし、民間にも被害が出ていたわね……家同士の間隔が広いのも助かったわ。
「……どうする? 大人しく情報を吐くなら見逃してあげるけど?」
「……やっぱり脳筋じゃねぇか」
「うるさい。燃やすわよ」
町からほどほどに離れたチューリップ畑に落ちた彼らに追い付き、魔法使い用の拘束具で拘束して猟犬を首元に突き付けながら脅す。
魔法使いには何もさせずに即殺が望ましいとは言われているけれど……今回は情報を吐かせないといけないし、決して私が甘い訳でも魔法使いに肩入れしてる訳でもない……うん。言い訳のロジックは完璧ね。……多分。
「質問するわ。……人を堕天させるという道具は何処? いくつ配置したの?」
「……何の事を言ってるのか、分からないな」
「そう……あくまで白を切るのね」
猟犬の刃で男のフードを取り払う……クレルとは似ても似つかないけど、同じ黒髪と褐色の肌に胸が痛む……それでも心に蓋をして──彼の耳を削ぎ落とす。
「──ぐぅ?!」
「大丈夫よ、傷口は焼いたから出血は無いわ……話す気になったかしら?」
大丈夫、大丈夫よ……魔法使いはこれくらいじゃ死なないから……手加減だって出来てる。
良い? アリシア……これは天秤なの、彼の耳とここら一帯の人々の命……比べる事すら驕かましい程に『価値』に差があるのよ? それに──彼はクレルではないの。
「なぜゼイポ騎士爵は貴方達を引き入れたの? 娘を殺した理由は? ホラド伯爵閣下も知っているの?」
「……おいおい人にものを頼む時は脱げよ、売女」
「……そう」
「──ッ??!!」
彼の左手の指を三本ほど切り落とす……そのままガタガタと震える女の方に向き直り、今度はそちらへと猟犬の刃を向ける。
口を何度も開きかけては閉ざすという仕草を見る限り、恐怖心から口を割ろうとするのを必死で我慢している……ってところかしらね。
「貴女は何か知ってる?」
「……お、教えられません」
「教えてくれる? なぜゼイポ騎士爵は自らの領地を海に沈めようとしているの? それによって貴女達の得られる利益はなに?」
「ひっ……!」
……埒が明かないわね……アンジュが何処からか手に入れた書類に書かれた計画の一部を見る限り、ゼイポ騎士爵はマトモな思考とは思えない……そもそも計画の一部すら読み解けなかった。
娘を殺害して挑発? 花を堕天させる? 海に沈めて歓迎する? ……暗号なのか、そのままの意味なのかすら分からない。……けれど確実に言える事は、それによって多くの人命に被害が生じ、未だに目的すら分からない過激派組織である肥沃する褐色の大地に、なんらかの恩恵があるという事……人を魔物にする様な連中の考える事だから、絶対にろくなことじゃない。
「教えてくれたら殺さないわ」
「む、無理です! 話したら殺されてしまいます!」
「……」
これはどうしようもないわね……男の方はまだまだ元気そうだけれど、話してくれそうもないし、女の方は何かに酷く怯えていて話してくれたとしても真偽の見分けが付かない……せめて、堕天させるという道具を何処に配置したのかだけでも聞き出したい。
「人を堕天させる道具──〝グレゴリ〟なる物を何処に配置したのか、それだけ教えてくれれば見逃してあげるわ」
「ほ、本当ですか……?」
「馬鹿! 話すな!」
「でも! グレゴリの場所だけなら、また配置し直せば良いじゃない!」
女の方はもう少し揺さぶれば教えてくれそうね……戦闘開始した時も即座に逃げていたし、狩人自体に何かトラウマがあるのかも知れないわね……ちょっとカマかけてみようかしら?
「あら? 貴女前に会ったことないかしら?」
「ッ?!」
「へぇ~、こんなところに落ち延びていたのね?」
「あっ……あっ……」
「馬鹿! カマかけだ!」
……思ったよりも効果があったわね? そんなに酷い目にあったのかしら……まぁ今は好都合だわ。
仮にグレゴリなる物を配置し直されるとしても、ガイウス中尉達の応援が来るまでの時間が稼げるかも知れない……もしガイウス中尉達が間に合えばそれだけで大分楽になる。……完全に当てには出来ないけれど。
「教えてくれるわね?」
隣で喚く男の魔法使いの口に猟犬の刃を突き入れて黙らせつつ、女の方に促す……憎しみの篭った目で睨まれるのは慣れないけれど、努めて無視して場所を聞き出す──
「ば、場所は──」
「──教える必要はないよ?」
「っ!」
──すぐ傍で聞こえる男性の声を認識して直ぐにその場を飛び退く。……まったく気付かなった? いや、あれは転移して来たと見るべきかしら? ……そうだとしたら高位の魔法使いである事に違いないわね……いったいどんな相手なのか。
「……グリシャ」
「『緋色』ちゃん、か……何かと縁があるね?」
『ウィーゼライヒ市』と『ムルマンスク市』……どちらでも苦渋を舐めさせられた敵の登場に警戒を最大限に高めながら猟犬を構え、いつでも『覚醒』できる様に血液を取り出す。
今回は守るべき子どもも居ない、グリシャが何かをする前にさらに町から遠く吹き飛ばす事もできる……油断はない。
「そんなに怖い顔しないでよ。今日は君に用はないっていうか、構ってる暇はないんだ……ていうか何で狩人である君が居るのさ? 聞いてた事と違うんだけど? ……内通者がしくったか?」
「……言ってる事の意味が分からないけれど、私が貴方を見逃すと思ったのかしら? ……だったらオメでたい頭でなによりね」
「……あれ? 『緋色』ちゃん? なんか俺に当たりキツくない?」
「当たり前でしょッ!!」
今までの自分の行動を振り返ればそんな戯言も出てこないと思うわよ? もうちょっとこう……自覚というものがないのかしら?
……それに敵同士だし、おふざけしてる場合でもないでしょ?
「まぁでも……素直に逃がしてくれそうには──無さそうだね」
「それこそ当たり前でしょ」
半歩距離を取り、町を背にしつつ呼吸を整える……大丈夫、いつでも『覚醒』はできる。
「まぁでも──今回は彼らで我慢してよ」
「……やってくれたわね」
イヤに見覚えのある特徴的な物体……酷く歪な円の中心に、悲痛な表情を浮かべる子どもの像が縛り付けられているそれを、拘束具を外す事もしないまま足下に放置していた二人のうなじに突き入れる。
『マァムマァムマァムマァムマァムマァムマァムマァムマァムマァムマァムマァム』
『アイアヤヤアイアヤヤアイアヤヤアイアヤヤアイアヤヤアイアヤヤアイアヤヤ』
二人の身体がドロドロに溶け出し、そして異形へと再構築される。……まるで、蛹の中を解剖して観察したらこんな感じの映像が見れるのではないか……そう思える程に悍ましい光景が目の前に作り出される。
「じゃあね、『緋色』ちゃん……折を見て迎えに行くから」
「……人に殺意を抱く事って、あまり無いのよね」
彼は、いや彼らだけは……人の命を弄び続ける彼らだけは許してはならない……絶対に罪を償わせてやるんだから! そしてクレルの事と、人に戻す方法を吐かせてやるから覚悟なさい!
「『──大地を踏み歩くは我らが空 褐色の幼子に血を捧ぐ』」
でも今は……彼ら二人を楽にさせてあげる事が最優先ね。
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