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食事の席にて
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二十人は余裕で座ることが出来そうな食卓を三人のみで寂しく囲む。
対面式になっており、隅っこに座る俺の隣にセリカが、向かいにセラが座るかたちで食事を摂っている。
調度品の豪華さに反して食事は比較的質素で、魚介類と思しきものが入ったスープにパンといったものであった。
神殿という場所柄、粗食であるのは仕方が無いことだろう。
肉々しい料理が大量に出て来てもそれはそれでミスマッチな気もする。
料理の質素さに反して、飲み物の種類は割と豊富に用意してあるようで、ビール、ワイン、蜂蜜酒、林檎酒、謎の醸造酒と酒ばっかりのラインナップだ。
超絶下戸には厳しい品揃えなので、医務室で飲んだお茶が美味かったのでまた飲みたいとリクエストした。
どうやらあの飲み物は、レモンバームというハーブを乾燥させてお茶にしたものだったらしい。
ともあれ酒を避ける事に成功したのは喜ばしい限りである。
普段コーヒーを水の代わりの如く飲んでいたので、この世界にもコーヒーは無いかと期待したが、残念ながら存在しないらしい。
「天使も食事が必要なんだな」
「そうですね。 地上界に居る以上、天使であっても食事は必要ですよ」
パンを一口サイズにちぎって口に運んでいたセラが動きを止め、俺の素朴な疑問に答えた。
「しかしこれだけ広いのに、三人しか食卓に着いていないってのもなんだか味気ない気がするな。 さっきの双子以外は誰も見かけてないし、他に人は居ないのか?」
これだけ大規模の建物だ。
大勢の人で賑わっているのが自然な姿というか、しっくりくる。
しかしながら、この神殿内は不自然なほどに人の気配が無いのだ。
「ここで生活しているのはわたくしと、先程のフルとオク、それと大神殿を守護する天使レリエル、ルヒエルの五人ですね」
五人……、だと?
5LDKも有れば事足りるじゃないか。
この広大な敷地に五人しか住んでいないとは……。
どうりで誰ともエンカウントしない訳だ。
「レリエルは夜間の警戒、ルヒエルは昼間の警戒にあたってます。 最もルヒエルは所用で天界に赴いてますので今は留守ですが」
セラの話を耳に入れつつも、隣で黙々と食事をするセリカを横目で見る。
スープを平らげた彼女は、2つ折りにして膝の上に置いてあったナプキンを手に取りなんとも上品な所作で口を拭った。
鷲掴みでパンをもしゃもしゃしている自分が若干恥ずかしくなる。
おい、俺も知らないそんなマナー、一体どこで覚えた?
「お二人に紹介したいのですが、先の悪魔の件も有りレリエルには警戒を厳にしてもらっております。 また顔を合わせる機会もあると思うので、その時に改めて紹介させていただきますね」
これだけの規模の建物に対して、一人で守衛を務めるとはなかなかのブラックぶりだ……。
どうやってこのバカでかい神殿を見張るのか見当がつかないが、天使という存在にはそれが可能なのだろう。
きっと綜合警備○障もビックリな警備システムで。
「あぁ、わざわざ呼んでくるのも悪いし機会がある時で構わない。 こんだけデカい建物を一人で見張るとなると忙しいだろうし」
「本来この大神殿は外部から容易に侵入出来ないよう仕掛けが施されているのですが、何らかの方法を用いて突破されたうえにその方法も把握出来ていないのです。 侵入してきたのはアンドラスのみで、配下の軍勢は踏み入る事が出来なかったというのが不幸中の幸いでした」
あぁ、冗談で想像してみたものの、やっぱり警備システムあるのか……。
「軍勢って、……あんな凶悪なやつの仲間が大挙して攻め入ろうとしてたってことか」
あんな物騒なヤツらが、徒党を組んで押し寄せてくるなんて冗談じゃない。
「侵入出来なかったアンドラス配下の軍勢は都で暴れようとしていたところを、全滅させられたと報告を受けております」
全滅……だと?
この世界には、あんなのとまともにやり合えるような存在がゴロゴロ居るってことなのか……。
「化け物と戦えるような軍隊みたいなものがあるのか?」
「いえ、上位種の魔物が三十体程居たそうなのでまともに相手をすれば、普通の兵士ではすぐに全滅させられるでしょう」
魔物が三十体……。
上位種と言われたところで想像も出来ないが、仮に俺をガブガブしたのが三十体程居ると想像すると事態の深刻さがなんとなく解った。
普通の人間にアレがどうこう出来るとはとても思えない。
「だとすると天使が戦ったのか?」
ほとんど捉えることは出来なかったが、セラの戦いぶりはこの目で見た。
きっとその他の天使も、俺の想像し得ない戦闘力を備えているに違いない。
「それも違いますね、天使は自衛以外で武力介入することは許されていないので、天界側に矛先が向けられない限りは積極的に戦うことは出来ません。 要請に応じて結界を張ったりと補助的な支援は可能ですけどね」
なるほど、色々と面倒な取り決めがあるのだろう。
この神殿内に人間の姿が見えないのも、人間と天使の間に何らかの溝が有るからなのかもしれない。
「この都には英雄サイモンが居ますから……」
セラは今までの説明的な口調から一変して、何故か寂しげなトーンでそう呟いた。
「そういえば、書庫で見た文献に名前がありましたね。 シーカーという魔物を倒す事を生業とする組織で英雄とされている人物だとか」
全て食事を食べ終わったセリカが口を開いた。
きっと彼女は食ってる最中会話したくないタイプの人なのだろう。
幼い頃に晩飯は静かに食え、と父親に叱られていたのをふと思い出した。
お陰で我が家の食卓は、お通夜のように静かなものだった。
「へー、そんな商売があるんだな」
「元々は天界と魔界の戦時中に人間達の平和を守るため発足された、ガーディアンという組織が前身です。 戦後は平和維持活動と並行して、魔導鉱物を集め報酬を得て生活する者を束ねる組合的な要素が加えられて、シーカーという名前に変わったものですね」
再び説明口調に戻ったセラが答えた。
「でも不思議なんですよ……、その大昔にあったガーディアンという組織が発足された当初から、……サイモンという人物の名前が記載され続けてるんですよ」
まるで怪談でも話すかのように間を取りつつそう言うセリカ。
「それが何か不思議な事なのか?」
「だって普通の人間であれば幾度も天寿を全うしてるような期間を、サイモンさんは救国の英雄として戦い続けていることになるんです」
「あぁ、そういうことか。 世襲制とか襲名制とかなんじゃないか?」
きっと何代目何衛門、的なやつなのだろう。
まぁ俺達もついさっき普通の人間じゃなくなったんですけどね。
「いえ、全て同一人物です。 『不死身の英雄』、彼はそう呼ばれています……」
そう呟いた後、再び物憂げな表情になる。
セラの浮かべた表情に何か引っかかるものを感じたが、それを問われる事を拒絶するかのような空気がそこには存在している気がした。
英雄についてはどうでも良い。
セラの浮かない様子は少し気にはなったが、俺は言葉を飲み込んだ。
「そういえば明日、英雄サイモンの活躍を祝して都でパレードが開かれるそうです。 折角なので、お二人で見に行かれてはいかがですか?」
表情が曇る理由について聞けないままでいると、セラが急に外出案を提示してきた。
昨日の今日で祝勝会とは、この世界の人間は祭り好きか何かなのか?
「それは良いですね、資料で情報収集も大事ですけど、この世界について直接目で見て得られるものも大きいでしょうから。 ね、ご主人さま?」
嬉しそうにそう言うと、俺の顔を覗きこんでくるセリカ。
急に顔が近くなった事に動揺してビクっとなった自分に情けなさを感じざるを得ない。
「ふふふ、わたくしは素敵だと思いますけど、いつまでもその格好で居るわけにもいかないでしょうからついでに調達なさって来るのもよろしいんじゃないですか?」
セラの表情は、もうすっかりと晴れていた。
取り繕った笑顔なのか、自然な笑みであるのか、それは俺には知るよしもないが、少しいたずらめいた少女らしいこの笑顔は彼女に一番似合った表情だ。
外出、魅力的な提案であるに違いないのだが、それはつまり新たな服を手に入れるまでの道中は女装で出歩くしかないということである……。
対面式になっており、隅っこに座る俺の隣にセリカが、向かいにセラが座るかたちで食事を摂っている。
調度品の豪華さに反して食事は比較的質素で、魚介類と思しきものが入ったスープにパンといったものであった。
神殿という場所柄、粗食であるのは仕方が無いことだろう。
肉々しい料理が大量に出て来てもそれはそれでミスマッチな気もする。
料理の質素さに反して、飲み物の種類は割と豊富に用意してあるようで、ビール、ワイン、蜂蜜酒、林檎酒、謎の醸造酒と酒ばっかりのラインナップだ。
超絶下戸には厳しい品揃えなので、医務室で飲んだお茶が美味かったのでまた飲みたいとリクエストした。
どうやらあの飲み物は、レモンバームというハーブを乾燥させてお茶にしたものだったらしい。
ともあれ酒を避ける事に成功したのは喜ばしい限りである。
普段コーヒーを水の代わりの如く飲んでいたので、この世界にもコーヒーは無いかと期待したが、残念ながら存在しないらしい。
「天使も食事が必要なんだな」
「そうですね。 地上界に居る以上、天使であっても食事は必要ですよ」
パンを一口サイズにちぎって口に運んでいたセラが動きを止め、俺の素朴な疑問に答えた。
「しかしこれだけ広いのに、三人しか食卓に着いていないってのもなんだか味気ない気がするな。 さっきの双子以外は誰も見かけてないし、他に人は居ないのか?」
これだけ大規模の建物だ。
大勢の人で賑わっているのが自然な姿というか、しっくりくる。
しかしながら、この神殿内は不自然なほどに人の気配が無いのだ。
「ここで生活しているのはわたくしと、先程のフルとオク、それと大神殿を守護する天使レリエル、ルヒエルの五人ですね」
五人……、だと?
5LDKも有れば事足りるじゃないか。
この広大な敷地に五人しか住んでいないとは……。
どうりで誰ともエンカウントしない訳だ。
「レリエルは夜間の警戒、ルヒエルは昼間の警戒にあたってます。 最もルヒエルは所用で天界に赴いてますので今は留守ですが」
セラの話を耳に入れつつも、隣で黙々と食事をするセリカを横目で見る。
スープを平らげた彼女は、2つ折りにして膝の上に置いてあったナプキンを手に取りなんとも上品な所作で口を拭った。
鷲掴みでパンをもしゃもしゃしている自分が若干恥ずかしくなる。
おい、俺も知らないそんなマナー、一体どこで覚えた?
「お二人に紹介したいのですが、先の悪魔の件も有りレリエルには警戒を厳にしてもらっております。 また顔を合わせる機会もあると思うので、その時に改めて紹介させていただきますね」
これだけの規模の建物に対して、一人で守衛を務めるとはなかなかのブラックぶりだ……。
どうやってこのバカでかい神殿を見張るのか見当がつかないが、天使という存在にはそれが可能なのだろう。
きっと綜合警備○障もビックリな警備システムで。
「あぁ、わざわざ呼んでくるのも悪いし機会がある時で構わない。 こんだけデカい建物を一人で見張るとなると忙しいだろうし」
「本来この大神殿は外部から容易に侵入出来ないよう仕掛けが施されているのですが、何らかの方法を用いて突破されたうえにその方法も把握出来ていないのです。 侵入してきたのはアンドラスのみで、配下の軍勢は踏み入る事が出来なかったというのが不幸中の幸いでした」
あぁ、冗談で想像してみたものの、やっぱり警備システムあるのか……。
「軍勢って、……あんな凶悪なやつの仲間が大挙して攻め入ろうとしてたってことか」
あんな物騒なヤツらが、徒党を組んで押し寄せてくるなんて冗談じゃない。
「侵入出来なかったアンドラス配下の軍勢は都で暴れようとしていたところを、全滅させられたと報告を受けております」
全滅……だと?
この世界には、あんなのとまともにやり合えるような存在がゴロゴロ居るってことなのか……。
「化け物と戦えるような軍隊みたいなものがあるのか?」
「いえ、上位種の魔物が三十体程居たそうなのでまともに相手をすれば、普通の兵士ではすぐに全滅させられるでしょう」
魔物が三十体……。
上位種と言われたところで想像も出来ないが、仮に俺をガブガブしたのが三十体程居ると想像すると事態の深刻さがなんとなく解った。
普通の人間にアレがどうこう出来るとはとても思えない。
「だとすると天使が戦ったのか?」
ほとんど捉えることは出来なかったが、セラの戦いぶりはこの目で見た。
きっとその他の天使も、俺の想像し得ない戦闘力を備えているに違いない。
「それも違いますね、天使は自衛以外で武力介入することは許されていないので、天界側に矛先が向けられない限りは積極的に戦うことは出来ません。 要請に応じて結界を張ったりと補助的な支援は可能ですけどね」
なるほど、色々と面倒な取り決めがあるのだろう。
この神殿内に人間の姿が見えないのも、人間と天使の間に何らかの溝が有るからなのかもしれない。
「この都には英雄サイモンが居ますから……」
セラは今までの説明的な口調から一変して、何故か寂しげなトーンでそう呟いた。
「そういえば、書庫で見た文献に名前がありましたね。 シーカーという魔物を倒す事を生業とする組織で英雄とされている人物だとか」
全て食事を食べ終わったセリカが口を開いた。
きっと彼女は食ってる最中会話したくないタイプの人なのだろう。
幼い頃に晩飯は静かに食え、と父親に叱られていたのをふと思い出した。
お陰で我が家の食卓は、お通夜のように静かなものだった。
「へー、そんな商売があるんだな」
「元々は天界と魔界の戦時中に人間達の平和を守るため発足された、ガーディアンという組織が前身です。 戦後は平和維持活動と並行して、魔導鉱物を集め報酬を得て生活する者を束ねる組合的な要素が加えられて、シーカーという名前に変わったものですね」
再び説明口調に戻ったセラが答えた。
「でも不思議なんですよ……、その大昔にあったガーディアンという組織が発足された当初から、……サイモンという人物の名前が記載され続けてるんですよ」
まるで怪談でも話すかのように間を取りつつそう言うセリカ。
「それが何か不思議な事なのか?」
「だって普通の人間であれば幾度も天寿を全うしてるような期間を、サイモンさんは救国の英雄として戦い続けていることになるんです」
「あぁ、そういうことか。 世襲制とか襲名制とかなんじゃないか?」
きっと何代目何衛門、的なやつなのだろう。
まぁ俺達もついさっき普通の人間じゃなくなったんですけどね。
「いえ、全て同一人物です。 『不死身の英雄』、彼はそう呼ばれています……」
そう呟いた後、再び物憂げな表情になる。
セラの浮かべた表情に何か引っかかるものを感じたが、それを問われる事を拒絶するかのような空気がそこには存在している気がした。
英雄についてはどうでも良い。
セラの浮かない様子は少し気にはなったが、俺は言葉を飲み込んだ。
「そういえば明日、英雄サイモンの活躍を祝して都でパレードが開かれるそうです。 折角なので、お二人で見に行かれてはいかがですか?」
表情が曇る理由について聞けないままでいると、セラが急に外出案を提示してきた。
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「それは良いですね、資料で情報収集も大事ですけど、この世界について直接目で見て得られるものも大きいでしょうから。 ね、ご主人さま?」
嬉しそうにそう言うと、俺の顔を覗きこんでくるセリカ。
急に顔が近くなった事に動揺してビクっとなった自分に情けなさを感じざるを得ない。
「ふふふ、わたくしは素敵だと思いますけど、いつまでもその格好で居るわけにもいかないでしょうからついでに調達なさって来るのもよろしいんじゃないですか?」
セラの表情は、もうすっかりと晴れていた。
取り繕った笑顔なのか、自然な笑みであるのか、それは俺には知るよしもないが、少しいたずらめいた少女らしいこの笑顔は彼女に一番似合った表情だ。
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