透明な回想録 ~Transparent reminiscences~

スーパーアドシスO

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都にて 2

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売却すれば大量の金貨が手に入る。
しかし俺は、例の記念硬貨を売却するかどうか決めあぐねていた。

……セラには衣食住まで提供して貰ったうえに死の淵から救っても貰った、いわば恩人である。

大天使かつ大司教という立場のセラにとっては瑣末なことなのかもしれない。
その恩人から更に大金をせしめるような真似をしていいものかと二の足を踏んでしまう。

そこまでの施しを受けるのはさすがに抑えがたい罪障感を抱く。

「せっかく情報を聞き出して貰ったのに申し訳無いんだが……」

「売るのはやめて返却する、そうお考えになられたんですよね?」

「……勘が鋭いな」

「いくらご主人さまでも、さっきの話を聞いて意気揚々と隣の店に駆け込んで行ったら、……さすがにドン引きです」

内心ちょっと悩んだのは秘密にしておこう。
それと同時にセリカに白眼視されずに済んだ事に胸を撫で下ろす。

「あぁ、これはセラさんに返却しようと思う。 これで晴れて文無しのままだ」

「そのことなんですけど……」

往来に面した店の前で人目をはばからず、何やらゴソゴソと探し物をするセリカ。

あの、公衆の面前で一体どこをまさぐってるんでしょうか?

「はい、じゃーん!」

セルフSEと共に取り出されたのは、虹色に輝く透明の立方体を幾つもくっ付けたような石だった。
立方体一つ一つには迷路のような筋が入っており、その筋が眩耀させるように光を放つ。
この紋所が目に入らぬか、のポーズで石を掲げるセリカ。

セリカさん、それスカートの内側から出てきた気がするんですが、気のせいでしょうか?

「魔導鉱物です」

……魔導鉱物、確か魔物を倒すと手に入る不思議エネルギー資源だったか。

魔物……、あぁ。
俺は自分の肩に触れた。

「昨日の狼がそれになったのか?」

痛みも何も感じない……。
食い千切られた肩と、あの強烈な生臭さを思い出しながら尋ねた。

「ご明察です。 折ってしまったナイフを拾いに行った時に見つけたので、何かの役に立つんじゃないかと回収しておきました」

仰々しく人差し指を立てながら解説モードに入るセリカだったが、俺はスカートの中が気になって仕方が無かった。
どう見てもスカート内に収まるような大きさには見えない。

「この魔導鉱物を売って生活している人達が居るって話をしましたよね?」

「シーカーだったか、危険極まりない職業だなと思いながら聞いていた」

俺の脳内では上半身裸のタフガイ達が魔物を囲んで棒で殴る絵が浮かんでいた。

「そこで、これを売りに行ってはどうかなと思い付いたのですが、いかがでしょうか?」

文無しの俺にセリカの提案を拒否する理由は無かった。
そんなこんなで筋骨隆々の野郎どもが集結する総本山であろう場所へと乗り込むことに相成った。



--------------




「こんにちは、ようこそシーカーズ協会へ。 ご依頼でしょうか? 登録でしょうか?」

薄暗い部屋のロビーに鎮座した、酔っ払いの屈強な荒くれ者達が「うっへっへっへ」と談笑しているイメージを浮かべていたが、そんな光景が繰り広げられることは無かった。

良い意味で俺の浮かべていたイメージは裏切られた。
受付のお姉さんも爽やかさ全快だ。

明るい照明に白を基調とした清潔感溢れる内装。
綺麗に掃除の行き届いた、病院の待合室のようなロビー。
お揃いの腕輪を付けた若者が朗らかに談笑している。

ゲイカップルか何かだろうか?

「お尋ねしたいことがあるのですが、こちらでこれは買い取って貰えるのでしょか?」

辺りをキョロキョロする挙動不審な俺をよそに、カウンターを挟んで向かい合うお姉さんに例の魔導鉱物を見せながらセリカが問い掛ける。

「魔導鉱物の買い取りをご希望なのですね。 でしたら、こちらでシーカーとして登録が必要になります」

受付のお姉さんが、何やら書類と記載の仕方が書いてある見本のようなものを取り出す。

「代書が必要でしたら手数料が掛かりますが、こちらで手配いたしますのでロビーでお掛けになってお待ち下さい」

受付のお姉さんのマニュアル的な回答と言い、書類のテンプレまで用意してある点と言い、なんだか市役所か陸運局に来たような気分になった。

「書き終わりましたら、登録料をお支払いいただいたのち、講習の日程をお知らせいたしますのでこちらへお持ち下さい」

はい、登録。
って訳にはいかないようで色々とややこしい手順があるようだ。

登録料なんぞ一文無しなので払えるわけが無い。
物を売る為の権利を得る金が必要だとは、なんとも世知辛い。

「ありがとうございます。 少しお借りしていきますね」

書類を受け取ってこちらを振り返ったセリカの表情には、明らかな困惑の色が浮かんでいたのが見て取れた。

「うーん、困りましたね。 この書類、身元保証人の欄までありますよ。 どうしましょう?」

「どちらにせよ、今すぐにってのは無理みたいだな」

おまけに講習とやらが必要みたいで、即日登録は不可能と見て間違いないだろう。
すなわち、魔導鉱物を売却して資金ゲットという目は消えたわけだ。

「残念ですけどそのようですね。 わざわざここまで来たのに、下調べが足りずに申し訳ありません」

「いやいや、俺だけじゃこんなこと思いつかなかった。 だから謝る必要なんてこれっぽっちも無いぞ」

当てが外れてしまったセリカが心底済まなそうな表情で謝罪する様を見て、なんだかこっちまで心苦しい気分になった。

「今すぐ金が必要ってわけでも無いんだし気にするな。 それよりも、パレード見に行くんだろ?」

「ですけど……。 そうですね、ありがとうございます」

これ以上セリカの暗い表情を見たくないと思った俺は、目的を変えるように誘導すべく話題をすりかえることにした。


「あの、すみません。 少しお時間よろしいでしょうか? 会長がお話があると……」

出入り口へと続く長いカーペットを歩いているところを、先程の受付のお姉さんより年配の女性に呼び止められる。
事情がわからないが、酷く慌てた様子だった。
有無を言わさぬ迫力に押し切られる形で、俺達は恰幅の良い女性に連行された。
受付の奥にある扉を抜け、廊下を歩いていった先は幅の狭い螺旋階段になっていた。

……階段を昇る前にわざと歩くペースを遅くして、並んで歩いていたセリカを先に行かせるようにしたのはここだけの秘密だ。

見上げるようにして階段を昇っていく俺の背中に恰幅の良い女性、もといおばさんの冷たい視線が突き刺さるのを感じた。

程なくして階段を昇りきった先には、何の飾り気も無い木製の片開きドアが待っていた。
大神殿の扉達とはえらい違いだ。

「お連れいたしました」

一枚板に簡素な金属の取っ手がついただけのドアをおばさんがノックする。

「ご苦労さま、入って貰ってくれ」

扉の中からハスキーボイスな女性の声が響く。

「やぁ、急にお呼び立てして済まないね。 君達に少し伺いたいことがあるんだ」

扉が開き中の様子が目に入った瞬間、あまりの不意打ちに膝の力がガクっと脱力するのを感じた。
声の主は、倍音豊かな声の印象とは余りにかけ離れており、発生源がその人物だと認識する事を脳が拒んでいた。


目の前に立つこの幼女から発せられている、だと……?
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