透明な回想録 ~Transparent reminiscences~

スーパーアドシスO

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会長室 1

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「ボクはシーカーズ協会の会長を務めているマリアだ」


扉の先には、鮭みたいな頭の色をしたどこからどうみても小学生ぐらいの、耳の尖った少女が仁王立ちで待ち構えていた。
声と容姿のギャップもそうだが、おおよそその発育具合に相応しくない半裸のような衣服を身に纏っている事にも驚く。


俺は扉の敷居を跨ぐことなく、無言でゆっくりと扉を閉めた。
カチャン、と虚しく扉が閉まる音が鳴り止むと同時に隣り合って立つセリカと顔を見合わせる。

「ま、待ってくれ。 どうして扉を閉めるんだ!」

中から勢い良く扉が開けられ、慌てた様子のボクっ娘幼女に俺達は物凄いパワーで手を引かれ部屋の中に連れ込まれた。

「まぁ、掛けてくれたまえ」

言葉とは裏腹に凄い力で押し込まれるようにして、半ば強引に椅子に着座させられる。

8畳程度の部屋に所狭しと様々な武器や甲冑が並んでおり、部屋の真ん中にテーブルを挟みこむ形で据え付けられた2人掛けのソファー、なんとも居心地の悪い部屋だ。

「そんなに警戒しないでくれよ、君達が持っていたという魔導鉱物についてちょっと聞きたかっただけなんだ」

やれやれという様子で溜息をつきつつ向かい合うソファーに腰を下ろす幼女。

「これのことですか?」

セリカの手から透明なテーブルの上に魔導鉱物が置かれ、ゴトっと重い音を立てる。

「そう、それだ! これを見てくれ!」

そう言うと箱の中から塊のようなものをいくつも取り出し、置かれている魔導鉱物と少し離して並べ始めた。

「模様が同じだと思わないか?」

並べられた塊も同じように、立方体をいくつも組み合わせた石に迷路のような筋が入った魔導鉱物であった。

「そうですね、似ているように見えます」

「模様は同じだな。 しかし色が全然違うぞ」

この部屋に入って俺は初めて口を開いた。


「うわぁ、びっくりしたぁ! 君、女性じゃなかったのか!」


オーバーリアクションで飛び上がりながら驚く幼女。
ここまで声と容姿が掛け離れた人物に指摘されるといささか複雑な気分だ。

「そんなことより、この石がどうかしたのか?」

俺は幼女の指摘をスルーして話を続ける。
並べられた魔導鉱物はセリカの持つそれとは違い、形は同じだが色が着いており透明度もまちまちであった。

「この魔導鉱物は昨日、都に出没した魔物のものなんだ」

並べられた魔導鉱物を手で弄びながら、ひと際低いトーンで眉を寄せながら言う。
本当にどこから出てるんだ、コイツの声は……。

「うちの精鋭達が討伐に当たったので被害は最小限で済んだんだけど、倒した魔物達はちょっと特殊な魔導鉱物に変わったんだ」

「特殊とはどういうことなのでしょうか?」

並べられた魔導鉱物を覗き込みながらセリカが尋ねる。

「悪魔に近しい存在の魔物である程、模様が複雑になるっていう法則があってね。 そして、無色透明に近づくほど上位の魔物なんだ」

幼女の説明を聞いた上で、セリカが持ち込んだ例の石をまじまじと眺めてみる。

「これ思いっきり透明だよな?」

「はい、思いっきり透明ですね」

テーブルの上に置かれたそれは限りなく無色透明に近い。
先程の言葉から推測すると、あの臭い狼はかなり高位な魔物だったようだ。

「一体どこで、どうやってこれを手に入れたか。 それがボクの聞きたかったことなんだ」

テーブルの両端に手をつき、身を乗り出してこちらに詰め寄る幼女。
巨乳の持ち主であったとしたら、正に眼福といえる姿勢なのだろう。
生憎、目の前で食い入るように俺達二人を交互に見る者は絶壁と言って差し支えないプロポーションの持ち主である。


「この色から見て、殲滅された魔物達よりもさらに上位種の魔物だと思うんだ。 君達が倒したというなら、かなりの手練れなんだろう。 良ければ君達二人の名を聞かせてくれないか?」

捲くし立てるマリアに気圧されぎみな俺達は名前だけを手短に述べた。

「ふむ、……セリカとアンジューか。 名のある武人かと思ったが、初めて聞く名だね」

アンジュー……、俺のことか?
何やら間違って発音されている気がするが、間違いを指摘する余地も無く幼女は続ける。

「サイモン以外でそんな魔物と渡り合える猛者なんて、大神殿の天使以外はこの辺りに居ないと思ったんだけどなぁ。 見たところ君達は普通の人間のようだし、……まだまだボクも見聞が狭いということかな」

やれやれという素振りで、ウエーブがかった髪を揺らしながら頭を掻く幼女。

「あぁ、……まさにその天使が一撃で消し炭にしたんだ」

ベラベラ喋って良いものかと思って口を噤んでいたのだが、セラが都で起きたことを知っていた件から推し量って、何らかの知らせがここから神殿へ有ったものと見て間違いないだろう。
つまり、神殿と此処はそれなりに交流があるはずだ。
ならば事情を話しても問題は無いだろうと、俺は真相を告げることにした。


「なるほど、それで合点がいったよ。 ボクには何も知らせてくれないなんて、相変わらずセラは意地が悪いなぁ」

事情を飲み込んだ幼女は、頭を掻きながらそうぼやく。
どうやらセラとは面識があるらしい。

「随分親しげだが、セラさんとは見知った仲なのか?」

「そうだね、セラがどう思ってるかは知らないけど、まぁ旧知の仲と言っても過言ではないと思うよ」

ずっと険しい表情を崩さずに会話を続けていたマリアの表情から険が消え、その表情からは安堵の色が伺えた。
彼女からしてみれば俺達は得体の知れない二名だったわけで、警戒するのも致し方ない。
神殿から来た人間だと解り多少は安心したのだろう。

「ところで、ご主人さま。 本来の目的をお忘れじゃないですか?」

「この石を売って豪遊の件か?」

「そうじゃなくて、パレードですよ。 それに豪遊なんて一言も会話に出てきませんでしたよ。 なんだか先程から外が騒がしいのでもう始まっちゃってるんじゃないでしょうか?」

パタパタと窓の傍に駆け寄り外を覗き込むセリカ。
言われてみれば、窓の外から賑やかな声が聞こえている。

「へぇ、君達はパレードを見に来たのか、……時間を取らせて済まなかったね。 しかし、今から外に出ても雑踏に飲み込まれるだけだと思うよ。 お詫びと言っては何だけど、ボクが特等席を用意してあげよう」

立ち上がったマリアが、部屋の一番奥まった場所にある引き戸を開ける。
引き戸の先は小さいながら、バルコニーになっていた。

「そこからは通りが良く見えるんだ、狭いけどゆっくりしていってくれ」

小さな丸い木製のテーブルと椅子が置かれたバルコニーからは、大通りが一望出来た。
部屋の雑多な様子とは対照的なシンプルさで、開放感溢れる光景がそこには広がっていた。
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