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疾雷の魔女
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暗紫色の長い髪をハーフアップにしたキツい顔立ち、美人であるのは間違いないのだが、凍てつくような冷たい印象。
身丈よりも長い杖を俺に突きつけ、テスラコイルが放電するかのように全身から小さな稲光を上げている。
「誰かと思えば、疾雷の魔女じゃないか」
腰に両手を当て、胸を張るポーズでマリアが言う。
どうやらこのポーズは彼女の癖らしい。
「人を恥ずかしい通り名で呼ばないで頂戴。 それよりワタシが用件があるのはそこの女狐のほうよ!」
あからさまに敵意を剥き出しにして俺を罵る。
女狐と申されましても、生物学上男なんですが……。
「……おい、この漏電美人から明確な殺意を感じるんだが知り合いか?」
降参と言わんばかりに両手を挙げながら、俺はマリアに問い掛けた。
下手に刺激すればあの稲光に貫かれる……。
幸いマリアは、このおはだけ女と面識があるようだし、どうにか平和的解決方法を探ろう。
「彼女はうちで二番目の実力者、リリスだよ。 君に用があるみたいだが、アンジュー、君は彼女に何かしたのかい?」
俺の脳内でふとした記憶が蘇える。
小学生の頃、悪戯心でクリップを伸ばしたものをコンセントに差し込み惨劇と化した昼休み、あの日のトラウマ。
ちょっとした静電気でも大袈裟にリアクションしてしまうのは、この件が起因しているのだろう。
「何かするもなにも全くの初対面なんだが」
「そ、その声……、まさかアナタ、男なのっ!?」
本日二度目のこの反応。
変わり果てた自身の姿を見てしまったので、今更反論する気も起きない。
グラマラスピカ○ューは杖を降ろすと、大きく溜息をつきながら、
「はぁー、これはとんだ人違いだったわ。 その下品な服に見覚えがあったのだけれど、どうやらワタシの勘違いだったみたいね」
勘違いで感電死させられるところだったのか、俺は。
おまけに人の服をとやかく言えないほどに、あなたの装いは猥褻な気がするんですが。
よくよくその公然猥褻犯を見てみると、さっきの行列でサイモンの隣に座っていたスタイルの良い女性であることに気づく。
「つい早まってしまった非礼はお詫びするわ。 それより、……後ろのこの子をどうにかしてくれないかしら?」
いつの間に回り込んだのか、リリスの後ろにはメイスを振りかぶったセリカの姿があった。
鈍く光る冷たい金属製の柄頭は、通常のメイスよりもふた回りは大きい。
柄の長さからその得物が両手用であろうことが推測される。
とても細腕の女性が軽々と振り上げる得物ではないことは確かだ。
わかってはいたが、とんでもない馬鹿力。
「それで殴ったら絶対に死ぬからやめとこう、な」
鈍器として使用すれば相手に致命傷を与えること必至。
俺はセリカに、両手で杵でも担ぐような持ち方で掲げたメイスを降ろすよう制止した。
「どこのどなたか存じませんが、ご主人さまに危害を加えようとするのであれば、容赦はしませんよ。 先程も、目の前を通った時に何かしましたよね?」
鈍器を収めたセリカが詰問する。
可憐な容姿からは想像がつかないアグレッシブな行動に、俺は肝を冷やすばかりであった。
「あれは威圧的な意味合いで、別に攻撃するつもりなんてなかったの。 現に、すぐ彼に窘められてやめたわ」
サイモンに睨まれたせいだとばかり思っていたが、どうやら俺の異変は彼女が原因だったようだ。
サイモンがこっちを向いたのは、リリスの仕業で起きた異変を察し様子を覗っていただけだったのか。
「じゃあ、犯人は貴女ってことで宜しいんですね。 で、他に何か言い訳はありますか?」
一度は収めたメイスの長い柄尻部分を、リリスの足の甲に突きつけながらセリカがそう口にする。
その抑揚の無い喋り方に背筋に冷たいものが走った。
「おいおい、それも地味に痛そうだからやめとこう、な」
ナチュラルな動きで、ピンポイントに部位破壊を狙おうとするな。
「まぁまぁ、二人とも、ボクに免じてここは穏便にいこうじゃないか。 それと、セリカ。 そいつは元の場所に戻しておいてくれ」
俺が披露したのと同じように、降参のポーズをとりながら、マリアがやれやれという様子で事態の収拾に割って入る。
「ごめんなさい、つい手に取りやすい位置にあったので咄嗟に」
そそくさと壁から伸びるフックへとセリカが鈍器を収納した。
それはまるで、ホウキでも扱うかのように重量を一切感じさせない動き。
突如現れた露出女はどうだか知らないが、俺達二人はマリアに免じられる義理は無いのだが、この場が穏便に済ませられるならと、無粋な真似はよしておいた。
「いくら頭に血がのぼっていたからと言っても、仮にもサファイア級のワタシが簡単に背後を取られるなんて、あの子一体何者なのよ。 それにそこの女男は何で、忌々しいどこぞの天使と同じ服装をしているのかしら」
「それってセラさんの事か? だとしたら俺とは似ても似つかないと思うんだが」
身長も髪色も顔も、何もかもが違う、むしろ一致する部分を探すほうが難しいと思われるのだが。
胸は……、完全なる絶壁って訳でも無かったような……。
「そんな名前だったかしら、顔なんて覚えてないわ。 だって興味ないもの」
「興味がない相手を感電死させる趣味でもあるのか?」
明らかな言行不一致、怨みの感情を向ける相手に興味がないなんて到底有り得ぬこと。
何の怨恨があるのかは知らないが、セラは命を狙われるような悪人では無いだろう。
「だからその件は謝るわよ、ごめんなさい。 でも、その子にはすごく興味があるわ」
その態度からは、これ以上の追求を避けたい、という様がありありと見て取れた。
聴取を続けたところで、煙に巻かれるか十万ボルトの餌食になるかのどちらかだろう。
「はっはっは、すごいだろう! その子はボクが見つけ出した逸材だ」
あたかも自分の手柄と言わんばかりに、マリアが腰に手を当て、無い胸をこれでもかと張る。
「そんなに敵意に溢れた視線で見なくても、もう何もしないわよ。 お嬢さんには、また日を改めて挨拶させて貰うとして、彼をこれ以上待たせるわけにいかないからそろそろ失礼するわね」
「私は別に会いたくないですけどっ」
去ろうとするリリスに、舌を出してあっかんべーをするセリカ。
可愛いだけで何の牽制にもなってないぞ、それ。
「あら、つれないのね。 じゃあアナタも、またね」
リリスは俺に向かって投げキッスをすると、小走りで足早に部屋を去っていった。
騒ぎ立てるだけ騒ぎ立てて消えていった後には、何ともいえない空気と静けさだけが残る。
俺達三人はただ静かに、言葉も発さずその場に立ち尽くしていた。
「ははっ、済まないね。 悪い子じゃないんだよ、彼女」
静寂を破ったのはマリアだった。
乾いた笑いを上げながら言うのは、フォローオブフォロー、そう言えるような当たり障りの無い擁護の言葉。
「結果的には何事もなかったわけだし、別に気にしてないぞ」
魔物を倒して報酬を得ることで生活するという特殊な連中、曲者も多いことは容易に想像がつく。
そんな曲者達を束ねなければならないマリアの気苦労が窺い知れ、俺はこの件を水に流すことにした。
「私はちょっとあの人苦手ですね。 ……胸も大きいですし、……大きいですし」
セリカさん、苦手な理由ってそこなのね。 貴女もそこそこなモノをお持ちじゃないですか。
「あぁ、……確かに大きかったな」
相槌のように、そう自然と感想を口にする。
見てわかる程に機嫌の悪そうな表情になるセリカ。
……しまった、つい。
「あんまり遅くなるとセラさんに悪いし、俺達はそろそろ帰るとするよ」
俺は滑り出た感想を、この場からの退散を提案することで誤魔化そうとした。
「うん、色々済まなかったね、登録申請書は持ってるかな? それと、これは土産だ。 ボクからだと、セラに宜しく伝えてくれ」
「さっき受付で貰ったぞ。 これは、……酒か?」
「とっておきの一品なんだ。 あと、君たちへのお礼も忘れずに持って帰ってくれよ」
手渡されたそれは、銀色の装飾が所々に施された真ん丸いボトル。
注ぎ口ぎりぎりまで入った、なんとも濃厚そうな深い紫色の液体が揺れている。
「おーい、そろそろ帰るぞ」
狭い部屋なので話は聞こえているだろうが、俺は後ろでゴソゴソと物色をしていたセリカに声を掛けた。
良かった、機嫌は悪く無さそうだ……。
「おい、……まさか、それ持って帰るつもりか?」
笑みを見せる彼女の手には、凶器としか表現しようがないものが握られていた。
柄と鎖で繋がった先に、無数の棘が付いた大振りな鉄球がぶら下がっている。
よりにもよって何故、そういうパワー系の武器をチョイスした?
あと、自然な動きで俺に向けるな。
「はい、可愛いと思いませんか? ほらほら、ここにウサギさんみたいなマークが付いてるんですよっ!」
嬉々としながら、殺傷能力抜群な凶器の柄に施された彫刻を俺に見せる。
物騒としか言いようのない凶器の柄には、ミ○フィーのような彫刻が入っていた。
これは、殴打された相手のお口がミッ○ィーみたいになる、という類のジョークなのだろうか?
「わかったわかった、でもそんな物騒なもん持って街中は歩けないだろ? って事で、これにしとこう、な」
免罪符を持たない俺達には、衛兵さんの職務質問待ったなしのソイツは危険すぎる。
代わりに真っ白い柄に土星のような形をした打撃部のついた、一見すると魔法少女の杖かと思うようなメイスをチョイスして渡す。
もっとも、ファンシーな見た目とは裏腹に、惑星部分は磨かれた石製で環の部分は鋼鉄製、という鈍器としての面目は十二分に果たせそうな代物である。
「むー、ウサギさん可愛いのに。 でも、ご主人さまが選んでくれたのならそっちにします」
頬を膨らませながら凶器を元の位置に収納し、満面な笑みで新たな鈍器を受け取るセリカ。
これが鈍器じゃなくて、アクセサリーか何かなら良いイベントスチルになったであろう。
「俺はこれを貰っていこう。 じゃあ、またな」
俺は例の変身用ローブをいただくことにした。
下の服は相変わらずだが、覆いがあれば幾分は精神衛生上マシである。
「あ……、アンジュー、それは。 ま、まぁ約束だしね。 気を付けて帰ってくれ、二人の良い返事を期待しているよ」
部屋に来た時と同じく、俺達を仁王立ちで見送るマリア。
一瞬彼女の表情が曇った気がしたが、たぶん気のせいだろう。
俺達は神殿への帰路についた。
身丈よりも長い杖を俺に突きつけ、テスラコイルが放電するかのように全身から小さな稲光を上げている。
「誰かと思えば、疾雷の魔女じゃないか」
腰に両手を当て、胸を張るポーズでマリアが言う。
どうやらこのポーズは彼女の癖らしい。
「人を恥ずかしい通り名で呼ばないで頂戴。 それよりワタシが用件があるのはそこの女狐のほうよ!」
あからさまに敵意を剥き出しにして俺を罵る。
女狐と申されましても、生物学上男なんですが……。
「……おい、この漏電美人から明確な殺意を感じるんだが知り合いか?」
降参と言わんばかりに両手を挙げながら、俺はマリアに問い掛けた。
下手に刺激すればあの稲光に貫かれる……。
幸いマリアは、このおはだけ女と面識があるようだし、どうにか平和的解決方法を探ろう。
「彼女はうちで二番目の実力者、リリスだよ。 君に用があるみたいだが、アンジュー、君は彼女に何かしたのかい?」
俺の脳内でふとした記憶が蘇える。
小学生の頃、悪戯心でクリップを伸ばしたものをコンセントに差し込み惨劇と化した昼休み、あの日のトラウマ。
ちょっとした静電気でも大袈裟にリアクションしてしまうのは、この件が起因しているのだろう。
「何かするもなにも全くの初対面なんだが」
「そ、その声……、まさかアナタ、男なのっ!?」
本日二度目のこの反応。
変わり果てた自身の姿を見てしまったので、今更反論する気も起きない。
グラマラスピカ○ューは杖を降ろすと、大きく溜息をつきながら、
「はぁー、これはとんだ人違いだったわ。 その下品な服に見覚えがあったのだけれど、どうやらワタシの勘違いだったみたいね」
勘違いで感電死させられるところだったのか、俺は。
おまけに人の服をとやかく言えないほどに、あなたの装いは猥褻な気がするんですが。
よくよくその公然猥褻犯を見てみると、さっきの行列でサイモンの隣に座っていたスタイルの良い女性であることに気づく。
「つい早まってしまった非礼はお詫びするわ。 それより、……後ろのこの子をどうにかしてくれないかしら?」
いつの間に回り込んだのか、リリスの後ろにはメイスを振りかぶったセリカの姿があった。
鈍く光る冷たい金属製の柄頭は、通常のメイスよりもふた回りは大きい。
柄の長さからその得物が両手用であろうことが推測される。
とても細腕の女性が軽々と振り上げる得物ではないことは確かだ。
わかってはいたが、とんでもない馬鹿力。
「それで殴ったら絶対に死ぬからやめとこう、な」
鈍器として使用すれば相手に致命傷を与えること必至。
俺はセリカに、両手で杵でも担ぐような持ち方で掲げたメイスを降ろすよう制止した。
「どこのどなたか存じませんが、ご主人さまに危害を加えようとするのであれば、容赦はしませんよ。 先程も、目の前を通った時に何かしましたよね?」
鈍器を収めたセリカが詰問する。
可憐な容姿からは想像がつかないアグレッシブな行動に、俺は肝を冷やすばかりであった。
「あれは威圧的な意味合いで、別に攻撃するつもりなんてなかったの。 現に、すぐ彼に窘められてやめたわ」
サイモンに睨まれたせいだとばかり思っていたが、どうやら俺の異変は彼女が原因だったようだ。
サイモンがこっちを向いたのは、リリスの仕業で起きた異変を察し様子を覗っていただけだったのか。
「じゃあ、犯人は貴女ってことで宜しいんですね。 で、他に何か言い訳はありますか?」
一度は収めたメイスの長い柄尻部分を、リリスの足の甲に突きつけながらセリカがそう口にする。
その抑揚の無い喋り方に背筋に冷たいものが走った。
「おいおい、それも地味に痛そうだからやめとこう、な」
ナチュラルな動きで、ピンポイントに部位破壊を狙おうとするな。
「まぁまぁ、二人とも、ボクに免じてここは穏便にいこうじゃないか。 それと、セリカ。 そいつは元の場所に戻しておいてくれ」
俺が披露したのと同じように、降参のポーズをとりながら、マリアがやれやれという様子で事態の収拾に割って入る。
「ごめんなさい、つい手に取りやすい位置にあったので咄嗟に」
そそくさと壁から伸びるフックへとセリカが鈍器を収納した。
それはまるで、ホウキでも扱うかのように重量を一切感じさせない動き。
突如現れた露出女はどうだか知らないが、俺達二人はマリアに免じられる義理は無いのだが、この場が穏便に済ませられるならと、無粋な真似はよしておいた。
「いくら頭に血がのぼっていたからと言っても、仮にもサファイア級のワタシが簡単に背後を取られるなんて、あの子一体何者なのよ。 それにそこの女男は何で、忌々しいどこぞの天使と同じ服装をしているのかしら」
「それってセラさんの事か? だとしたら俺とは似ても似つかないと思うんだが」
身長も髪色も顔も、何もかもが違う、むしろ一致する部分を探すほうが難しいと思われるのだが。
胸は……、完全なる絶壁って訳でも無かったような……。
「そんな名前だったかしら、顔なんて覚えてないわ。 だって興味ないもの」
「興味がない相手を感電死させる趣味でもあるのか?」
明らかな言行不一致、怨みの感情を向ける相手に興味がないなんて到底有り得ぬこと。
何の怨恨があるのかは知らないが、セラは命を狙われるような悪人では無いだろう。
「だからその件は謝るわよ、ごめんなさい。 でも、その子にはすごく興味があるわ」
その態度からは、これ以上の追求を避けたい、という様がありありと見て取れた。
聴取を続けたところで、煙に巻かれるか十万ボルトの餌食になるかのどちらかだろう。
「はっはっは、すごいだろう! その子はボクが見つけ出した逸材だ」
あたかも自分の手柄と言わんばかりに、マリアが腰に手を当て、無い胸をこれでもかと張る。
「そんなに敵意に溢れた視線で見なくても、もう何もしないわよ。 お嬢さんには、また日を改めて挨拶させて貰うとして、彼をこれ以上待たせるわけにいかないからそろそろ失礼するわね」
「私は別に会いたくないですけどっ」
去ろうとするリリスに、舌を出してあっかんべーをするセリカ。
可愛いだけで何の牽制にもなってないぞ、それ。
「あら、つれないのね。 じゃあアナタも、またね」
リリスは俺に向かって投げキッスをすると、小走りで足早に部屋を去っていった。
騒ぎ立てるだけ騒ぎ立てて消えていった後には、何ともいえない空気と静けさだけが残る。
俺達三人はただ静かに、言葉も発さずその場に立ち尽くしていた。
「ははっ、済まないね。 悪い子じゃないんだよ、彼女」
静寂を破ったのはマリアだった。
乾いた笑いを上げながら言うのは、フォローオブフォロー、そう言えるような当たり障りの無い擁護の言葉。
「結果的には何事もなかったわけだし、別に気にしてないぞ」
魔物を倒して報酬を得ることで生活するという特殊な連中、曲者も多いことは容易に想像がつく。
そんな曲者達を束ねなければならないマリアの気苦労が窺い知れ、俺はこの件を水に流すことにした。
「私はちょっとあの人苦手ですね。 ……胸も大きいですし、……大きいですし」
セリカさん、苦手な理由ってそこなのね。 貴女もそこそこなモノをお持ちじゃないですか。
「あぁ、……確かに大きかったな」
相槌のように、そう自然と感想を口にする。
見てわかる程に機嫌の悪そうな表情になるセリカ。
……しまった、つい。
「あんまり遅くなるとセラさんに悪いし、俺達はそろそろ帰るとするよ」
俺は滑り出た感想を、この場からの退散を提案することで誤魔化そうとした。
「うん、色々済まなかったね、登録申請書は持ってるかな? それと、これは土産だ。 ボクからだと、セラに宜しく伝えてくれ」
「さっき受付で貰ったぞ。 これは、……酒か?」
「とっておきの一品なんだ。 あと、君たちへのお礼も忘れずに持って帰ってくれよ」
手渡されたそれは、銀色の装飾が所々に施された真ん丸いボトル。
注ぎ口ぎりぎりまで入った、なんとも濃厚そうな深い紫色の液体が揺れている。
「おーい、そろそろ帰るぞ」
狭い部屋なので話は聞こえているだろうが、俺は後ろでゴソゴソと物色をしていたセリカに声を掛けた。
良かった、機嫌は悪く無さそうだ……。
「おい、……まさか、それ持って帰るつもりか?」
笑みを見せる彼女の手には、凶器としか表現しようがないものが握られていた。
柄と鎖で繋がった先に、無数の棘が付いた大振りな鉄球がぶら下がっている。
よりにもよって何故、そういうパワー系の武器をチョイスした?
あと、自然な動きで俺に向けるな。
「はい、可愛いと思いませんか? ほらほら、ここにウサギさんみたいなマークが付いてるんですよっ!」
嬉々としながら、殺傷能力抜群な凶器の柄に施された彫刻を俺に見せる。
物騒としか言いようのない凶器の柄には、ミ○フィーのような彫刻が入っていた。
これは、殴打された相手のお口がミッ○ィーみたいになる、という類のジョークなのだろうか?
「わかったわかった、でもそんな物騒なもん持って街中は歩けないだろ? って事で、これにしとこう、な」
免罪符を持たない俺達には、衛兵さんの職務質問待ったなしのソイツは危険すぎる。
代わりに真っ白い柄に土星のような形をした打撃部のついた、一見すると魔法少女の杖かと思うようなメイスをチョイスして渡す。
もっとも、ファンシーな見た目とは裏腹に、惑星部分は磨かれた石製で環の部分は鋼鉄製、という鈍器としての面目は十二分に果たせそうな代物である。
「むー、ウサギさん可愛いのに。 でも、ご主人さまが選んでくれたのならそっちにします」
頬を膨らませながら凶器を元の位置に収納し、満面な笑みで新たな鈍器を受け取るセリカ。
これが鈍器じゃなくて、アクセサリーか何かなら良いイベントスチルになったであろう。
「俺はこれを貰っていこう。 じゃあ、またな」
俺は例の変身用ローブをいただくことにした。
下の服は相変わらずだが、覆いがあれば幾分は精神衛生上マシである。
「あ……、アンジュー、それは。 ま、まぁ約束だしね。 気を付けて帰ってくれ、二人の良い返事を期待しているよ」
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