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本編
81話 掲げられた旗(フラグ) その21
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それからどうやら覚悟を決めたらしいソフィアが状況を確認する、なにせまるで関わっていなかった為に事情を全く把握していなかった、タロウからも聞いていない、タロウも聞かれれば答えるが自分から戦争の話題を口にする事は無く、ソフィアとしてもクロノスやらリンドやらが参画しているのであるからなんとでもなると興味が無い訳では無いが安心していたりした、
「と言う訳で、明日、明後日は取り合えず静観かな?」
クロノスとリンド、タロウがここまでの流れを説明し、うんうんと頷きつつそうだったなー等と思う他の男達、ユーリもなるほどねーと理解を深め、ゲインは黙したままで何を考えているのかも分からない、
「そっ・・・だから、暇なのねー」
湯呑のワインを空けてソフィアが呟いた、リンドがどうですか?と手を伸ばすも、十分ですと控えるソフィア、代わりにユーリが頂きますと湯呑を預け、ニコリと微笑むリンドである、
「だね、あっ、そうだ、墓参り俺達も行くか?」
タロウがスッと顔を上げた、
「墓参り?」
怪訝そうに首を傾げるソフィア、ユーリもそれは聞いてないなと思いつつ湯呑を傾ける、
「それもあったな、うん、ついでだ、行くか?」
クロノスがポンと膝を叩いた、
「どこに?なんの?」
「北ヘルデルだよ、前の大戦の慰霊碑?」
「あー・・・そっか、なんのかんの言って行ってなかったわねー」
やっと理解するソフィアである、
「そうだっけ?」
ユーリが横目で確認する、
「そうなのよ、だって・・・まぁ、なんていうか時機を逃しまくったって感じ?」
「だねー、あっちこっち回って寒くなってから北ヘルデルに戻ってただろ?なもんで、あの丘迄行くのに雪だなんだで行けなくてな」
タロウも口添える、そういえばそうよねーとユーリも当時の事を思い出す、
「・・・俺も初めてなんだよ・・・」
寂しそうに暖炉を見つめるイフナース、
「あらっ・・・あっ、そうですよねー」
すぐに察するユーリとソフィア、
「それもあってな、ちゃんと雪かきしてある、転送陣も置いてあるから行こうと思えば今すぐにでも行けるんだが・・・といっても・・・」
嫌そうに目を細めるクロノス、
「何かあるの?」
ユーリが怪訝そうに問いかけた、
「いや、見れば分かるよ、こっちが春かと思える状況だ」
「・・・あー・・・何?そんなに積もった?」
「積もってますね、壁です」
リンドが苦笑しつつ答え、だなーと同意するクロノス、
「そっか、そういう感じよね、あそこって・・・まぁ、仕方ない」
「うん、しっかり除雪はしたが、折角の眺望は楽しめないな・・・」
「それは構わないけど、えっ、私達だけ?」
「いや、陛下と軍団長らと高官と・・・かな?」
クロノスがリンドを見上げ、そんなもんですねと答えるリンド、
「王妃様に王女様もですな」
ロキュスが口添えた、
「あー・・・そうなると・・・私はどうかしら・・・」
流石に難色を示すソフィア、ユーリも余りに場違いだなと目を細める、
「そうか?」
「そりゃそうでしょ」
「・・・じゃ、明後日でもいいぞ、明日はしっかり仕事をやれ」
「はいはい・・・明後日ね」
フーと溜息をつくソフィア、その慰霊碑とは先の大戦で亡くなったあらゆる階級の人々の魂を慰める為に大戦後、一周忌だかなんだかで建立された石碑となっている、故にその石碑には平民は勿論かつて仲間であった冒険者達も祀られており、ソフィアは折角のお誘いではあるし、確かに慰霊碑には行かなきゃなと思っていたなと思い出す、なにせ大戦後、タロウと共にあっちこっちと動き回り慰霊どころでは無く、昔の仲間達に花の一つも手向けていなかった、
「ん、じゃ、そのように」
クロノスがリンドを見上げ、大きく頷くリンド、
「あっ、ついでだ、ミナも連れて来い、あれの大きくなった姿を見せれば喜ぶやつもいるだろ」
クロノスが優しく微笑む、
「あらま・・・随分あれね、感傷的ね・・・」
「そうね、どしたの?酔った?」
ユーリとソフィアが目を丸くし、なんだよと睨み返すクロノス、ルーツがギャッハッハと下品に笑い出す、
「・・・別にいいだろうがよ、あれもあの場にいたんだ、第一お前・・・なー」
「まぁねー・・・ミナのお陰で荒まなかったのよね・・・」
「そうかもなー」
「そうなのか?」
「おう、そりゃお前・・・あれだぞ、男ばっかの小汚い集団の中にさ、赤子が紛れ込んでるんだ・・・最初は何考えてるんだかと思ったもんだが・・・」
ジローとタロウを睨むクロノス、そうよねーとユーリとソフィアも横目でタロウを睨みつける、
「別にいいだろ、なんとかなったんだし・・・」
めんどくさそうに睨み返すタロウ、
「そうだけど・・・まぁ、ヤロー共もあれね、毒気を抜かれたのよ、ミナのお陰でね・・・そりゃ寝てる姿も可愛かったけど、誰彼構わず懐くもんだから・・・」
「そうかもねー」
「そうか?」
嫌そうに目を細めるルーツ、
「あんたは嫌ってたでしょうけどね」
ギロリと睨みつけるユーリ、そうそうとソフィアも同意する、
「そりゃお前、普通はそうだろが」
「まぁ、普通はそうだな・・・」
「だろー」
クロノスの同意に小さく安堵するルーツ、今一つ状況を理解していないイフナースとロキュスは何のことやらと首を傾げる、
「・・・まぁ、そうね、ミナも連れていきましょう、少々うるさいかもだけど」
「だな・・・」
ソフィアが納得したようで、となればタロウが反対することは無い、そうして少しばかり話題がズレたが再び仕事の話題に移る、それが一段落したあたりで、
「ん、こんなもんだな、俺は戻る」
イフナースがゆっくりと立ち上がり大きく伸びをした、ロキュスもですなと腰を上げた、
「早いな」
クロノスが二人を見上げるも、
「誰かさんと違って昨日遅かったんだよ・・・」
ギロリとクロノスを見下ろすイフナース、ロキュスも呆れ顔で、リンドもやれやれと困り顔となった、
「あっ・・・それもそうだな」
素直に認めるクロノス、どうやらタロウの推測は当たっていたようである、件の宣戦布告文、それはイフナースとロキュス、リンドが作成したもので、クロノスは早々に退散したのであろう、となれば三人は見事に寝不足なのである、挙句に昼間はくそ寒い中馬を駆り、その後で会議ももたれていた、そりゃ疲れるだろうなと察するタロウである、
「明日も早い・・・じゃ、そういう事でな」
フーと疲れた顔を隠さないイフナース、病み上がりとはいえ最も若いイフナースがこれである、高齢のロキュスとリンドにしたらその疲れはどれほどであろうか、
「ですね、ゆっくりお休みください」
タロウが優しく微笑むと、ですなとリンドも退室する事にしたらしい、ゾロゾロと転送陣へ向かう三人、それをなんとなく見送る六人であった、すると、
「ルルは元気か?」
リンドの背中が消えた瞬間、ゲインがボソリと呟く、ウォッと驚く残りの五人、
「なんだよ、驚かすな」
「お前はまったく・・・」
ルーツが振り返りクロノスが呆れ顔となるもすぐに笑顔となった、
「元気よー、あっ、あんた顔出しなさい、喜ぶわ」
「そうよねー、あっ、あれよ、あの子もあれね、賢い子ねー、あんたとは全然違ってさー」
ソフィアとユーリが嬉しそうにはしゃぎだす、
「ん・・・これを届けてくれ・・・」
ヌッと傍らの壺を無造作に持ち上げるゲイン、
「なんだよそれ」
ルーツが受け取りシゲシゲと見つめ、そのまま近場のタロウによいせと手渡す、タロウも不思議そうに見つめ、一応と左目を閉じた、そして、
「えっ・・・お前これ、えっ、こんなものあったのか?」
とゲインを見上げた、
「知ってるのか?・・・まぁ、お前ならそうかもな・・・」
暗闇の中で微笑むゲイン、その優しい笑顔は誰にも見られていなかった、そしてその声は実に嬉しそうである、
「おう・・・いや、これ、お前、売れるぞ、うん」
ヘーと感心しつつ壺を見つめるタロウ、なになに?とソフィアとユーリも首を伸ばすも、その中身が見えるはずも無い、しっかりと蓋で密閉されている、
「フフッ、ルルの好物だ、去年のだがな、まだ残ってた・・・」
「そっか・・・あれか?こっちでもそろそろ採取の時期か?」
「・・・そうなる・・・一月先くらいからかな?・・・なんだ、随分詳しいな・・・」
ニヤリとタロウを見つめるゲイン、何のことやらと二人を交互に見つめる他四人、
「まずな・・・へー・・・あっ、ほれ」
とタロウはその壺をソフィアに手渡す、ソフィアもその壺を見つめ、
「なんなの?」
「酒?酒でしょ」
ギャンと吠えるユーリ、
「違うよ、これなんて呼んでるんだ?」
タロウがゲインを見上げると、
「甘い樹液」
そのままの答えを端的に答えるゲイン、
「何だそれ?」
ルーツが訝し気にゲインを見上げ、クロノスも眉を顰めた、
「いや、そのままだよ、俺の国ではメープルシロップって呼んでた、あれだろ?楓の樹の樹液だろ?」
「たぶんな」
「たぶん?」
「うん、俺達は甘い樹液の木って呼んでる」
「それもまたそのままだなー」
呆れて微笑むタロウである、しかしヘーと感心しその壺を見つめるソフィアとユーリ、その壺は中々に大きかった、タロウから手渡された時、ソフィアはその重さにおおっと驚き両手で何とか支える程で、しかしゲインが手にしていた時は普通の大きさに見え、ルーツとタロウも平気で片手で取り扱っている、どうやらルーツとタロウは無理していたらしい、二人共に変なところで見栄っ張りであったりする、
「悪いか?」
「悪くないよ、あっ、でもあれか、もしかしてゲインの村に転送陣を設置したのか?」
タロウの視線がルーツに向かう、
「その通りだよ」
ニヤリと微笑むルーツ、
「なんだよ、教えろよ」
「その義理はねぇー」
「義理の問題かよ・・・って、お前はそうか・・・」
「おう、俺はそういうやつだ」
ニヤニヤと微笑むルーツ、らしいなと微笑むタロウ、
「まぁ、俺の背中を守れるのはコイツだけだからよ、いざって時の為にな、まぁこいつには使えねぇもんだから俺が動かなきゃならんのがめんどいと言えばめんどいが・・・まぁ、折角だしな」
ガッハッハと笑うルーツ、
「そりゃそうだろうけど・・・いや、そっか、あれだぞ、クロノス、ゲインもだが、これ絶対売れるぞ」
キランと目を輝かせるタロウ、
「売れる?」
「おう、ゲイン、少し試してもいいか?」
「・・・構わんが、ルルに食わせてやりたい・・・だから嫌だ」
明確に拒否するゲイン、
「あー・・・その気持ちは分かる、舐める程度ならいいだろ?味見程度にするからさ、頼むよ」
思いっきり下手にであるタロウである、そこまでのものかとクロノスとルーツも不思議そうにタロウを見つめ、ソフィアとユーリも首を傾げる、
「・・・わかった・・・」
漸く了承するゲイン、しかし不承不承といった感じで、
「すまんな、あー・・・スプーンかなにか・・・」
室内を見渡すタロウ、しかし勝手の分からない暗がりである、ルーツが何かあったかなと腰を上げるも、
「あっ、いいや」
とタロウは懐を弄って数本のスプーンを取り出した、なんだあるのかよと不貞腐れて座り直すルーツ、
「ほれ、ゲインに感謝して舐めてみろ、美味いぞ」
ソフィアの手にする壺の蓋をゆっくりと開けるタロウ、どれどれとソフィアとユーリが覗き込み、クロノスも腰を上げる、そして、
「わっ・・・甘い・・・」
「うん、えっ、蜂蜜?」
「違う」
ゲインがあっさりと否定する、
「だな、樹液なんだよ、いや、美味いな・・・上質だ・・・」
「へー・・・こりゃいいな・・・あっさりしてる・・・樹液って・・・あれか、松脂みたいなもんか?」
クロノスもスプーンを咥えて目を丸くする、
「近いね、それの甘くて美味いやつって感じだ、樹種が違うんだよ、楓の中でも甘い樹液をだす種類だな」
「へー、こりゃ確かに売れそうね・・・」
「だろ?」
「うん、どうやって食べるの?蜂蜜と一緒?」
「基本的にはね、そっか・・・今度遊びに行っても良いか?お前の村にはまだ行ってなかったな」
「構わんぞ」
「あっ、私もいい?」
「なら、私も、あっ、奥さん紹介しなさいよ」
「・・・それはどうかな・・・」
「なんでよ」
「・・・めんどいしうざい・・・」
「あんたねー」
ぬるくなったホットワインと壺いっぱいのメープルシロップを囲んで、数年振りに一堂に会した英雄六人の笑い声が、暖炉で揺れる炎に照らされ明るく狭く冷たい部屋を満たすのであった。
「と言う訳で、明日、明後日は取り合えず静観かな?」
クロノスとリンド、タロウがここまでの流れを説明し、うんうんと頷きつつそうだったなー等と思う他の男達、ユーリもなるほどねーと理解を深め、ゲインは黙したままで何を考えているのかも分からない、
「そっ・・・だから、暇なのねー」
湯呑のワインを空けてソフィアが呟いた、リンドがどうですか?と手を伸ばすも、十分ですと控えるソフィア、代わりにユーリが頂きますと湯呑を預け、ニコリと微笑むリンドである、
「だね、あっ、そうだ、墓参り俺達も行くか?」
タロウがスッと顔を上げた、
「墓参り?」
怪訝そうに首を傾げるソフィア、ユーリもそれは聞いてないなと思いつつ湯呑を傾ける、
「それもあったな、うん、ついでだ、行くか?」
クロノスがポンと膝を叩いた、
「どこに?なんの?」
「北ヘルデルだよ、前の大戦の慰霊碑?」
「あー・・・そっか、なんのかんの言って行ってなかったわねー」
やっと理解するソフィアである、
「そうだっけ?」
ユーリが横目で確認する、
「そうなのよ、だって・・・まぁ、なんていうか時機を逃しまくったって感じ?」
「だねー、あっちこっち回って寒くなってから北ヘルデルに戻ってただろ?なもんで、あの丘迄行くのに雪だなんだで行けなくてな」
タロウも口添える、そういえばそうよねーとユーリも当時の事を思い出す、
「・・・俺も初めてなんだよ・・・」
寂しそうに暖炉を見つめるイフナース、
「あらっ・・・あっ、そうですよねー」
すぐに察するユーリとソフィア、
「それもあってな、ちゃんと雪かきしてある、転送陣も置いてあるから行こうと思えば今すぐにでも行けるんだが・・・といっても・・・」
嫌そうに目を細めるクロノス、
「何かあるの?」
ユーリが怪訝そうに問いかけた、
「いや、見れば分かるよ、こっちが春かと思える状況だ」
「・・・あー・・・何?そんなに積もった?」
「積もってますね、壁です」
リンドが苦笑しつつ答え、だなーと同意するクロノス、
「そっか、そういう感じよね、あそこって・・・まぁ、仕方ない」
「うん、しっかり除雪はしたが、折角の眺望は楽しめないな・・・」
「それは構わないけど、えっ、私達だけ?」
「いや、陛下と軍団長らと高官と・・・かな?」
クロノスがリンドを見上げ、そんなもんですねと答えるリンド、
「王妃様に王女様もですな」
ロキュスが口添えた、
「あー・・・そうなると・・・私はどうかしら・・・」
流石に難色を示すソフィア、ユーリも余りに場違いだなと目を細める、
「そうか?」
「そりゃそうでしょ」
「・・・じゃ、明後日でもいいぞ、明日はしっかり仕事をやれ」
「はいはい・・・明後日ね」
フーと溜息をつくソフィア、その慰霊碑とは先の大戦で亡くなったあらゆる階級の人々の魂を慰める為に大戦後、一周忌だかなんだかで建立された石碑となっている、故にその石碑には平民は勿論かつて仲間であった冒険者達も祀られており、ソフィアは折角のお誘いではあるし、確かに慰霊碑には行かなきゃなと思っていたなと思い出す、なにせ大戦後、タロウと共にあっちこっちと動き回り慰霊どころでは無く、昔の仲間達に花の一つも手向けていなかった、
「ん、じゃ、そのように」
クロノスがリンドを見上げ、大きく頷くリンド、
「あっ、ついでだ、ミナも連れて来い、あれの大きくなった姿を見せれば喜ぶやつもいるだろ」
クロノスが優しく微笑む、
「あらま・・・随分あれね、感傷的ね・・・」
「そうね、どしたの?酔った?」
ユーリとソフィアが目を丸くし、なんだよと睨み返すクロノス、ルーツがギャッハッハと下品に笑い出す、
「・・・別にいいだろうがよ、あれもあの場にいたんだ、第一お前・・・なー」
「まぁねー・・・ミナのお陰で荒まなかったのよね・・・」
「そうかもなー」
「そうなのか?」
「おう、そりゃお前・・・あれだぞ、男ばっかの小汚い集団の中にさ、赤子が紛れ込んでるんだ・・・最初は何考えてるんだかと思ったもんだが・・・」
ジローとタロウを睨むクロノス、そうよねーとユーリとソフィアも横目でタロウを睨みつける、
「別にいいだろ、なんとかなったんだし・・・」
めんどくさそうに睨み返すタロウ、
「そうだけど・・・まぁ、ヤロー共もあれね、毒気を抜かれたのよ、ミナのお陰でね・・・そりゃ寝てる姿も可愛かったけど、誰彼構わず懐くもんだから・・・」
「そうかもねー」
「そうか?」
嫌そうに目を細めるルーツ、
「あんたは嫌ってたでしょうけどね」
ギロリと睨みつけるユーリ、そうそうとソフィアも同意する、
「そりゃお前、普通はそうだろが」
「まぁ、普通はそうだな・・・」
「だろー」
クロノスの同意に小さく安堵するルーツ、今一つ状況を理解していないイフナースとロキュスは何のことやらと首を傾げる、
「・・・まぁ、そうね、ミナも連れていきましょう、少々うるさいかもだけど」
「だな・・・」
ソフィアが納得したようで、となればタロウが反対することは無い、そうして少しばかり話題がズレたが再び仕事の話題に移る、それが一段落したあたりで、
「ん、こんなもんだな、俺は戻る」
イフナースがゆっくりと立ち上がり大きく伸びをした、ロキュスもですなと腰を上げた、
「早いな」
クロノスが二人を見上げるも、
「誰かさんと違って昨日遅かったんだよ・・・」
ギロリとクロノスを見下ろすイフナース、ロキュスも呆れ顔で、リンドもやれやれと困り顔となった、
「あっ・・・それもそうだな」
素直に認めるクロノス、どうやらタロウの推測は当たっていたようである、件の宣戦布告文、それはイフナースとロキュス、リンドが作成したもので、クロノスは早々に退散したのであろう、となれば三人は見事に寝不足なのである、挙句に昼間はくそ寒い中馬を駆り、その後で会議ももたれていた、そりゃ疲れるだろうなと察するタロウである、
「明日も早い・・・じゃ、そういう事でな」
フーと疲れた顔を隠さないイフナース、病み上がりとはいえ最も若いイフナースがこれである、高齢のロキュスとリンドにしたらその疲れはどれほどであろうか、
「ですね、ゆっくりお休みください」
タロウが優しく微笑むと、ですなとリンドも退室する事にしたらしい、ゾロゾロと転送陣へ向かう三人、それをなんとなく見送る六人であった、すると、
「ルルは元気か?」
リンドの背中が消えた瞬間、ゲインがボソリと呟く、ウォッと驚く残りの五人、
「なんだよ、驚かすな」
「お前はまったく・・・」
ルーツが振り返りクロノスが呆れ顔となるもすぐに笑顔となった、
「元気よー、あっ、あんた顔出しなさい、喜ぶわ」
「そうよねー、あっ、あれよ、あの子もあれね、賢い子ねー、あんたとは全然違ってさー」
ソフィアとユーリが嬉しそうにはしゃぎだす、
「ん・・・これを届けてくれ・・・」
ヌッと傍らの壺を無造作に持ち上げるゲイン、
「なんだよそれ」
ルーツが受け取りシゲシゲと見つめ、そのまま近場のタロウによいせと手渡す、タロウも不思議そうに見つめ、一応と左目を閉じた、そして、
「えっ・・・お前これ、えっ、こんなものあったのか?」
とゲインを見上げた、
「知ってるのか?・・・まぁ、お前ならそうかもな・・・」
暗闇の中で微笑むゲイン、その優しい笑顔は誰にも見られていなかった、そしてその声は実に嬉しそうである、
「おう・・・いや、これ、お前、売れるぞ、うん」
ヘーと感心しつつ壺を見つめるタロウ、なになに?とソフィアとユーリも首を伸ばすも、その中身が見えるはずも無い、しっかりと蓋で密閉されている、
「フフッ、ルルの好物だ、去年のだがな、まだ残ってた・・・」
「そっか・・・あれか?こっちでもそろそろ採取の時期か?」
「・・・そうなる・・・一月先くらいからかな?・・・なんだ、随分詳しいな・・・」
ニヤリとタロウを見つめるゲイン、何のことやらと二人を交互に見つめる他四人、
「まずな・・・へー・・・あっ、ほれ」
とタロウはその壺をソフィアに手渡す、ソフィアもその壺を見つめ、
「なんなの?」
「酒?酒でしょ」
ギャンと吠えるユーリ、
「違うよ、これなんて呼んでるんだ?」
タロウがゲインを見上げると、
「甘い樹液」
そのままの答えを端的に答えるゲイン、
「何だそれ?」
ルーツが訝し気にゲインを見上げ、クロノスも眉を顰めた、
「いや、そのままだよ、俺の国ではメープルシロップって呼んでた、あれだろ?楓の樹の樹液だろ?」
「たぶんな」
「たぶん?」
「うん、俺達は甘い樹液の木って呼んでる」
「それもまたそのままだなー」
呆れて微笑むタロウである、しかしヘーと感心しその壺を見つめるソフィアとユーリ、その壺は中々に大きかった、タロウから手渡された時、ソフィアはその重さにおおっと驚き両手で何とか支える程で、しかしゲインが手にしていた時は普通の大きさに見え、ルーツとタロウも平気で片手で取り扱っている、どうやらルーツとタロウは無理していたらしい、二人共に変なところで見栄っ張りであったりする、
「悪いか?」
「悪くないよ、あっ、でもあれか、もしかしてゲインの村に転送陣を設置したのか?」
タロウの視線がルーツに向かう、
「その通りだよ」
ニヤリと微笑むルーツ、
「なんだよ、教えろよ」
「その義理はねぇー」
「義理の問題かよ・・・って、お前はそうか・・・」
「おう、俺はそういうやつだ」
ニヤニヤと微笑むルーツ、らしいなと微笑むタロウ、
「まぁ、俺の背中を守れるのはコイツだけだからよ、いざって時の為にな、まぁこいつには使えねぇもんだから俺が動かなきゃならんのがめんどいと言えばめんどいが・・・まぁ、折角だしな」
ガッハッハと笑うルーツ、
「そりゃそうだろうけど・・・いや、そっか、あれだぞ、クロノス、ゲインもだが、これ絶対売れるぞ」
キランと目を輝かせるタロウ、
「売れる?」
「おう、ゲイン、少し試してもいいか?」
「・・・構わんが、ルルに食わせてやりたい・・・だから嫌だ」
明確に拒否するゲイン、
「あー・・・その気持ちは分かる、舐める程度ならいいだろ?味見程度にするからさ、頼むよ」
思いっきり下手にであるタロウである、そこまでのものかとクロノスとルーツも不思議そうにタロウを見つめ、ソフィアとユーリも首を傾げる、
「・・・わかった・・・」
漸く了承するゲイン、しかし不承不承といった感じで、
「すまんな、あー・・・スプーンかなにか・・・」
室内を見渡すタロウ、しかし勝手の分からない暗がりである、ルーツが何かあったかなと腰を上げるも、
「あっ、いいや」
とタロウは懐を弄って数本のスプーンを取り出した、なんだあるのかよと不貞腐れて座り直すルーツ、
「ほれ、ゲインに感謝して舐めてみろ、美味いぞ」
ソフィアの手にする壺の蓋をゆっくりと開けるタロウ、どれどれとソフィアとユーリが覗き込み、クロノスも腰を上げる、そして、
「わっ・・・甘い・・・」
「うん、えっ、蜂蜜?」
「違う」
ゲインがあっさりと否定する、
「だな、樹液なんだよ、いや、美味いな・・・上質だ・・・」
「へー・・・こりゃいいな・・・あっさりしてる・・・樹液って・・・あれか、松脂みたいなもんか?」
クロノスもスプーンを咥えて目を丸くする、
「近いね、それの甘くて美味いやつって感じだ、樹種が違うんだよ、楓の中でも甘い樹液をだす種類だな」
「へー、こりゃ確かに売れそうね・・・」
「だろ?」
「うん、どうやって食べるの?蜂蜜と一緒?」
「基本的にはね、そっか・・・今度遊びに行っても良いか?お前の村にはまだ行ってなかったな」
「構わんぞ」
「あっ、私もいい?」
「なら、私も、あっ、奥さん紹介しなさいよ」
「・・・それはどうかな・・・」
「なんでよ」
「・・・めんどいしうざい・・・」
「あんたねー」
ぬるくなったホットワインと壺いっぱいのメープルシロップを囲んで、数年振りに一堂に会した英雄六人の笑い声が、暖炉で揺れる炎に照らされ明るく狭く冷たい部屋を満たすのであった。
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-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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