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本編
81話 掲げられた旗(フラグ) その23
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それから暫くして学園の一階、教室から病室に改装された一部屋をあっここかとサビナとソフィアが覗き込むと、
「こっちよー」
二人に気付いたユーリがヒラヒラと手を上げた、ここで良かったんだと恐る恐ると入室する二人、ソフィアはまた大人数だわねと顔を顰めてしまい、サビナもまた大事だなーと眉根を寄せる、なにせその教室であった病室には様々な年齢、服装、男女を問わず集められているようで、ソフィアが見るにあっ軍の医者だと一目で分かる者、その助手であろう真面目そうな若者達、学園の講師が数人と事務員の姿もあった、その中から、
「あっ、ソフィアさんお久しぶりです」
明るい声が響き、ソフィアが顔を向けるとダナであった、満面の笑みで立ち上がったようで、
「あら、久しぶりね、元気にしてた?」
キャーと明るく返すソフィア、なんだ?と男達が振り向くもまるで構う事のない二人である、
「元気ですよー、昨日もエレインさんの所にお邪魔しました、ミナちゃんも相変わらずですねー」
「あらま、あっ、あれ?偉い人達が来たとかなんとか?」
「それです、すんごい勉強になりました」
「ならいいけどさー、ダナさんも大変ねー」
「そうなんですよー、もー、次から次へとまー慌ただしい感じでー」
「ちゃんと休んでる?若いからって無理しちゃ駄目よ」
「それははい、なんとかなってますー、あっ、コウボパン美味しいですね、あれもあれでしょ、ソフィアさんが関わってるって聞きました」
「いや、あれは別にって感じよー」
二人が急に明るく世間話を始めてしまい、おいおいと男達は目を細め、女達はあの人がそうなのかとソフィアを見つめる、そこでサビナがあれっと気付く、どうやら生活科、所謂メイド科の講師達の姿もあり、どうやら自分が呼ばれたのもそちらからの縁らしい、サビナも先程ユーリに声を掛けられ、ソフィアを伴って急遽学園に来ている、そこへ、
「すいません、先日はお世話になりました」
講師の一人がスッと二人に近寄り頭を下げた、医学科の講師バルテルである、
「あらっ、バルテルさんね、お久しぶり」
ニコリと微笑むソフィア、知り合いだったのかと驚くダナ、
「はい、お久しぶりです」
バルテルも優しい笑みを浮かべ、
「もしかしてソフィアさんも御協力頂けるんですか?」
とすぐさま真面目な顔となった、
「なんかねー、そうなっちゃったのよ・・・困った事にねー」
一転めんどくさそうに溜息を吐くソフィア、あらまと目を丸くするダナ、
「そうでしたか・・・すいません、であれば、もうこれほど嬉しい事は無いです」
しかしバルテルは満面の笑みとなる、
「そう?私なんか大した事無いんだから、頼りにされたら困るわよ」
「フフッ、謙遜にしても言い過ぎですよ」
ニコリと微笑むバルテル、まったくだとサビナがユーリの隣りに腰を下ろしつつ顔を顰め、ユーリも何を言っているんだかと横目で睨む、
「えっ、そうなんですか?」
ダナが不思議そうにソフィアを見つめる、
「まぁねー、なんかそうなったみたい、で、取り合えずどうするの?」
とソフィアが室内を見渡す、昨晩急に参加が決まったこの打合せ、如何にもな面々がすでに席に着いており、少々場違いに見えるのはダナを含めた事務員が数名と高齢女性の講師達である、そして、
「あら、ケイスさんどした?」
その姿を認めて思わず声をかけたソフィア、ケイスはその病室の端っこに一人ポツンと隠れるように座っていた、
「エッ」
とサビナとユーリが顔を上げる、ソフィアの視線の先を見れば確かにケイスである、ケイスはエヘヘとはにかんだ笑みを浮かべるもジッと動かない、返事すらしない、
「いたの?」
ユーリが頓狂な声を上げ、
「びっくりしたー・・・」
サビナも目を丸くする、どうやら完全に気配を消していたらしい、ソフィアでなければ見つけられなかったかもしれない見事な隠形である、
「あっ、もう、ケイスさん、こっちに来て下さい、探しに行くところでしたよ」
バルテルがムッとケイスを睨みつける、それでもエヘヘと微笑むばかりのケイスであった、
「あっ、そっか、そりゃケイスさんももう立派な戦力だもんねー」
すぐに察するソフィア、
「はい、なので、今日はこちらに参加して貰おうと思いまして、声をかけていたのです」
まったくとバルテルがケイスに近寄る、ソフィアはなるほど、学園でのケイスはこうなんだなと理解した、寮母として赴任してまず一番始めの事件がケイスの存在であった、奇妙な空間魔法に捕らわれ一年もその姿を消した状態で生活と勉強を続けていたケイスである、それを救ったのがレインとソフィアであり、さらに話しを聞いてみれば学園では誰にも気にされる事は無く、寮でも同様で、どうやらケイスもそれが楽だとなったらしい、ソフィアはそれでいいのかなと心配になったものだが、それ以後、寮での彼女はあくまで普通の娘であった、他の生徒と変わりなく、いや、優秀と言える人物である、となれば彼女の言うような苦境は過言であろうといつのまにやら思い込んでおり、まるで気にする事は無かったのであるが、どうやらケイスの言は真実で、またケイス本人もそれを望んでいるようである、なにせ先に来ていたユーリにも気付かれず、ケイスを呼び出したというバルテルも今気づいた程なのだ、いや、それは駄目だろうなと改めて思うソフィア、ユーリも事情を知っている為アチャーと心配そうにケイスを見つめ、サレバも聞いてはいたけどと首を傾げる、
「・・・まったく・・・ケイスさんもあれね、なんのかんの言って変人だわ・・・」
やれやれと苦笑する他無いユーリ、
「ですねー・・・っていうか、あの寮に関わる人って大概が大概ですよ・・・」
サビナも同意であるらしい、
「あんたも含めてね」
「ですねー」
エッそれを認めるのと目を丸くしてサビナを見つめてしまうダナ、ユーリとサビナはほらこっちに来なさいとケイスを呼びつけ、確かにそっちの方がいいかもなとバルテルはケイスに優しく微笑み、ムーと顔を顰めてユルユルと席を立つケイス、そして、
「えへへ、みつかっちゃいました・・・」
恥ずかしそうにソフィアに近づくケイス、
「まったく・・・別にいいけど、もっと堂々としなさい、こっちが困るから」
ムッと睨みつけるソフィア、
「そうねー、私は困ることは無いけど堂々とするべきよ」
ユーリも目を細める、ウンウンと大きく頷くサレバ、
「えー・・・でも、だって、私はほら、ここではこんなもんですよ・・・」
「それが駄目、でもでもだってでもないの、寮では普通なのに、しっかりなさい」
いよいよ腰に手を当て叱りつけるソフィア、何が何やらとなんとなくその騒動を見つめている他の参加者となる、そこへ、
「申し訳ない遅れました」
タロウがダダッと入って来る、さらには事務長も駆け込んできて、それに続く学園長、アフラも続いている、
「あらっ、アフラさんも?」
思わず呟くソフィアである、
「そうみたいねー・・・まぁ・・・そりゃ、偉い人もいないとでしょ」
ユーリはフーンと興味が無さそうにしている、
「そうだけど・・・」
「ほらっ、座んなさい、始まるわよ」
スッとソフィアを見上げるユーリ、あっそうねとサビナの隣りに腰を下ろすソフィア、ケイスがその隣に座り、ダナも自席に戻った、すると、
「あー・・・こりゃあれだね・・・今一つかな・・・一応ほら、皆さんの意見が欲しいと思ってたんだけど・・・」
と黒板を背にして首を傾げるタロウ、
「今一つですか?」
事務長が申し訳なさそうに室内を見渡す、
「ですね、ほら・・・折角だしね、互いの顔を覚えるって事も必要なので・・・えっと・・・」
タロウは振り向き石墨を手にすると黒板に大きく図を描く、今度は何だと一同の視線が集中した、
「机をこう並べ替えましょう、偉い人達はこっちに、医官の人達はこっち、学園関係者はこっちで、で、向こうにはユーリ他って感じかな、どうです?」
白墨を置き事務長に確認するタロウ、事務長はなるほどと頷き、学園長も異論は無いようで、アフラとしてもまぁタロウがそう言うのだから反論するつもりもない、
「なるほど、わかりました」
事務長がゴホンと咳ばらいをし、
「申し訳ない、テーブルを並べ替えましょう、この図のようにお願いしたいです、で、各軍団の医長は前に、それと・・・生活科の部長も前に来て下さい、その他、そちら側に医官の皆さん、こちら側に学園関係者、奥にユーリ先生達・・・ですね」
「お願いします」
事務長がタロウに確認し、タロウがニコリと微笑み一礼する、タロウにそう言われたら動かない訳にはいかない医官達、どうやらすっかり顔馴染みとなったようで、男達が動くとなれば女性達も動き出す、タロウが指示を出しつつあっというまにテーブルは並び直され、少々歪な人員構成であったが皆腰を下ろした、ユーリらもケイスを交えて最奥に落ち着いた、
「ありがとうございます、では、皆さん揃っていらっしゃいますね・・・はい、じゃ、改めて医長さんからお願いできますか?」
タロウ自身はタロウの言う偉い人達の末席に座り、その隣にはアフラが座っている、いつも通り落ち着いた様子であった、あぁ打合せをしていたのかと察するユーリ、事務長と学園長もその為に少々遅れたのであろう、どうせタロウの思い付きで振り回されたのだろうなと気の毒に思うユーリであった、
「うむ、第六軍団、医長である」
スッと腰を上げた医長、やっと開始だなと一同の目が真剣なものに変わる、そして堅苦しい挨拶の後、
「では、タロウ殿からまずは提案との事であったな、私もより詳しく聞いてみたいと思っております、宜しくお願いします」
腰を下ろす医長である、ハイハイとタロウは腰を上げると、事務員達が茶を配り始める、あらっ随分と手厚いわねと感心するユーリ、ソフィアはこんな感じなんだなーとボーっと眺めており、サビナはさてここからと黒板を取り出した、ケイスも黒板を取り出している、真面目だなーと横目で見てしまうソフィアであった、
「では・・・なのですが、本日は先程医長からもありました通り、医療行為の流れと治療魔法と麻酔魔法、その取扱いに関しての打合せがメイン、じゃなかった主題となるのですが、その前にですね・・・私から一つ提案がありまして、これは先日医長とも少しばかり話しまして、で、先程、学園長、事務長、それと高級仕官であるアフラ女史とも意見交換をしております、その上で、私としては有効であるとも思いますが、是非、皆さんの御意見を賜りたいとも思います、少しばかり・・・長くなるかもしれませんが・・・うん、これもまた王国のみならず医療に於いて大変に画期的な提案であると思いますので、是非、まずは御意見を頂きたいと思う所です」
こりゃまためんどくさい事を言い出したぞと目を細めるソフィアとユーリ、特に二人はそこまでの話を聞いていない、ユーリもこの打合せはつい先日参加の要請があり、ソフィアにいたっては昨晩である、それもあくまでタロウが言う主題の件での打合せに入れと言うなんとも曖昧なもので、まぁタロウがいるのであれば素直に言う事を聞いてやるか程度の認識であったりする、しかしどうやら違うらしい、サビナもまたこりゃ大事だなと目を丸くしており、タロウの事を徐々に理解し始めている生活科の講師達、さらには医官達もこれは何やら想定とは大きく異なるぞと若干前のめりになったようで、
「・・・えっと・・・随分となんか・・・」
ケイスが不安そうにソフィアを見上げる、
「ねー・・・まぁ・・・好きにさせましょう、変な事にはならない・・・」
「なるんじゃないのー」
ユーリが小声で呟く、
「かもねー」
と同調するソフィア、エー・・・と不安そうに眼を細めるケイスとサビナであった、そして、
「では、早速その提案なのですが、看護となります、その人員の確保と、現場に於ける役割、及び将来的な教育についてもですね、私が理想とするところを説明致しますので、各職域、立場に於いて忌憚無い意見を頂ければと思います」
ほぼ全ての参加者の脳裏にカンゴ?という疑問が瞬時に浮かぶ、平然としているのは三人の医長と事前に聞いていた学園長達、そして、
「もしかして・・・前に聞いたかしら・・・」
「うん、私は何度か聞いたな・・・そっか・・・確かに、この面子と状況であれば可能かも・・・」
「そう?」
「そうよ、だって、手はあるし・・・そっか、それで生活科・・・へー・・・上手い事考えたもんだわ・・・」
ソフィアが一人納得し、ユーリもウーンと首を傾げる、エッと二人を見つめるケイスとサビナであった。
「こっちよー」
二人に気付いたユーリがヒラヒラと手を上げた、ここで良かったんだと恐る恐ると入室する二人、ソフィアはまた大人数だわねと顔を顰めてしまい、サビナもまた大事だなーと眉根を寄せる、なにせその教室であった病室には様々な年齢、服装、男女を問わず集められているようで、ソフィアが見るにあっ軍の医者だと一目で分かる者、その助手であろう真面目そうな若者達、学園の講師が数人と事務員の姿もあった、その中から、
「あっ、ソフィアさんお久しぶりです」
明るい声が響き、ソフィアが顔を向けるとダナであった、満面の笑みで立ち上がったようで、
「あら、久しぶりね、元気にしてた?」
キャーと明るく返すソフィア、なんだ?と男達が振り向くもまるで構う事のない二人である、
「元気ですよー、昨日もエレインさんの所にお邪魔しました、ミナちゃんも相変わらずですねー」
「あらま、あっ、あれ?偉い人達が来たとかなんとか?」
「それです、すんごい勉強になりました」
「ならいいけどさー、ダナさんも大変ねー」
「そうなんですよー、もー、次から次へとまー慌ただしい感じでー」
「ちゃんと休んでる?若いからって無理しちゃ駄目よ」
「それははい、なんとかなってますー、あっ、コウボパン美味しいですね、あれもあれでしょ、ソフィアさんが関わってるって聞きました」
「いや、あれは別にって感じよー」
二人が急に明るく世間話を始めてしまい、おいおいと男達は目を細め、女達はあの人がそうなのかとソフィアを見つめる、そこでサビナがあれっと気付く、どうやら生活科、所謂メイド科の講師達の姿もあり、どうやら自分が呼ばれたのもそちらからの縁らしい、サビナも先程ユーリに声を掛けられ、ソフィアを伴って急遽学園に来ている、そこへ、
「すいません、先日はお世話になりました」
講師の一人がスッと二人に近寄り頭を下げた、医学科の講師バルテルである、
「あらっ、バルテルさんね、お久しぶり」
ニコリと微笑むソフィア、知り合いだったのかと驚くダナ、
「はい、お久しぶりです」
バルテルも優しい笑みを浮かべ、
「もしかしてソフィアさんも御協力頂けるんですか?」
とすぐさま真面目な顔となった、
「なんかねー、そうなっちゃったのよ・・・困った事にねー」
一転めんどくさそうに溜息を吐くソフィア、あらまと目を丸くするダナ、
「そうでしたか・・・すいません、であれば、もうこれほど嬉しい事は無いです」
しかしバルテルは満面の笑みとなる、
「そう?私なんか大した事無いんだから、頼りにされたら困るわよ」
「フフッ、謙遜にしても言い過ぎですよ」
ニコリと微笑むバルテル、まったくだとサビナがユーリの隣りに腰を下ろしつつ顔を顰め、ユーリも何を言っているんだかと横目で睨む、
「えっ、そうなんですか?」
ダナが不思議そうにソフィアを見つめる、
「まぁねー、なんかそうなったみたい、で、取り合えずどうするの?」
とソフィアが室内を見渡す、昨晩急に参加が決まったこの打合せ、如何にもな面々がすでに席に着いており、少々場違いに見えるのはダナを含めた事務員が数名と高齢女性の講師達である、そして、
「あら、ケイスさんどした?」
その姿を認めて思わず声をかけたソフィア、ケイスはその病室の端っこに一人ポツンと隠れるように座っていた、
「エッ」
とサビナとユーリが顔を上げる、ソフィアの視線の先を見れば確かにケイスである、ケイスはエヘヘとはにかんだ笑みを浮かべるもジッと動かない、返事すらしない、
「いたの?」
ユーリが頓狂な声を上げ、
「びっくりしたー・・・」
サビナも目を丸くする、どうやら完全に気配を消していたらしい、ソフィアでなければ見つけられなかったかもしれない見事な隠形である、
「あっ、もう、ケイスさん、こっちに来て下さい、探しに行くところでしたよ」
バルテルがムッとケイスを睨みつける、それでもエヘヘと微笑むばかりのケイスであった、
「あっ、そっか、そりゃケイスさんももう立派な戦力だもんねー」
すぐに察するソフィア、
「はい、なので、今日はこちらに参加して貰おうと思いまして、声をかけていたのです」
まったくとバルテルがケイスに近寄る、ソフィアはなるほど、学園でのケイスはこうなんだなと理解した、寮母として赴任してまず一番始めの事件がケイスの存在であった、奇妙な空間魔法に捕らわれ一年もその姿を消した状態で生活と勉強を続けていたケイスである、それを救ったのがレインとソフィアであり、さらに話しを聞いてみれば学園では誰にも気にされる事は無く、寮でも同様で、どうやらケイスもそれが楽だとなったらしい、ソフィアはそれでいいのかなと心配になったものだが、それ以後、寮での彼女はあくまで普通の娘であった、他の生徒と変わりなく、いや、優秀と言える人物である、となれば彼女の言うような苦境は過言であろうといつのまにやら思い込んでおり、まるで気にする事は無かったのであるが、どうやらケイスの言は真実で、またケイス本人もそれを望んでいるようである、なにせ先に来ていたユーリにも気付かれず、ケイスを呼び出したというバルテルも今気づいた程なのだ、いや、それは駄目だろうなと改めて思うソフィア、ユーリも事情を知っている為アチャーと心配そうにケイスを見つめ、サレバも聞いてはいたけどと首を傾げる、
「・・・まったく・・・ケイスさんもあれね、なんのかんの言って変人だわ・・・」
やれやれと苦笑する他無いユーリ、
「ですねー・・・っていうか、あの寮に関わる人って大概が大概ですよ・・・」
サビナも同意であるらしい、
「あんたも含めてね」
「ですねー」
エッそれを認めるのと目を丸くしてサビナを見つめてしまうダナ、ユーリとサビナはほらこっちに来なさいとケイスを呼びつけ、確かにそっちの方がいいかもなとバルテルはケイスに優しく微笑み、ムーと顔を顰めてユルユルと席を立つケイス、そして、
「えへへ、みつかっちゃいました・・・」
恥ずかしそうにソフィアに近づくケイス、
「まったく・・・別にいいけど、もっと堂々としなさい、こっちが困るから」
ムッと睨みつけるソフィア、
「そうねー、私は困ることは無いけど堂々とするべきよ」
ユーリも目を細める、ウンウンと大きく頷くサレバ、
「えー・・・でも、だって、私はほら、ここではこんなもんですよ・・・」
「それが駄目、でもでもだってでもないの、寮では普通なのに、しっかりなさい」
いよいよ腰に手を当て叱りつけるソフィア、何が何やらとなんとなくその騒動を見つめている他の参加者となる、そこへ、
「申し訳ない遅れました」
タロウがダダッと入って来る、さらには事務長も駆け込んできて、それに続く学園長、アフラも続いている、
「あらっ、アフラさんも?」
思わず呟くソフィアである、
「そうみたいねー・・・まぁ・・・そりゃ、偉い人もいないとでしょ」
ユーリはフーンと興味が無さそうにしている、
「そうだけど・・・」
「ほらっ、座んなさい、始まるわよ」
スッとソフィアを見上げるユーリ、あっそうねとサビナの隣りに腰を下ろすソフィア、ケイスがその隣に座り、ダナも自席に戻った、すると、
「あー・・・こりゃあれだね・・・今一つかな・・・一応ほら、皆さんの意見が欲しいと思ってたんだけど・・・」
と黒板を背にして首を傾げるタロウ、
「今一つですか?」
事務長が申し訳なさそうに室内を見渡す、
「ですね、ほら・・・折角だしね、互いの顔を覚えるって事も必要なので・・・えっと・・・」
タロウは振り向き石墨を手にすると黒板に大きく図を描く、今度は何だと一同の視線が集中した、
「机をこう並べ替えましょう、偉い人達はこっちに、医官の人達はこっち、学園関係者はこっちで、で、向こうにはユーリ他って感じかな、どうです?」
白墨を置き事務長に確認するタロウ、事務長はなるほどと頷き、学園長も異論は無いようで、アフラとしてもまぁタロウがそう言うのだから反論するつもりもない、
「なるほど、わかりました」
事務長がゴホンと咳ばらいをし、
「申し訳ない、テーブルを並べ替えましょう、この図のようにお願いしたいです、で、各軍団の医長は前に、それと・・・生活科の部長も前に来て下さい、その他、そちら側に医官の皆さん、こちら側に学園関係者、奥にユーリ先生達・・・ですね」
「お願いします」
事務長がタロウに確認し、タロウがニコリと微笑み一礼する、タロウにそう言われたら動かない訳にはいかない医官達、どうやらすっかり顔馴染みとなったようで、男達が動くとなれば女性達も動き出す、タロウが指示を出しつつあっというまにテーブルは並び直され、少々歪な人員構成であったが皆腰を下ろした、ユーリらもケイスを交えて最奥に落ち着いた、
「ありがとうございます、では、皆さん揃っていらっしゃいますね・・・はい、じゃ、改めて医長さんからお願いできますか?」
タロウ自身はタロウの言う偉い人達の末席に座り、その隣にはアフラが座っている、いつも通り落ち着いた様子であった、あぁ打合せをしていたのかと察するユーリ、事務長と学園長もその為に少々遅れたのであろう、どうせタロウの思い付きで振り回されたのだろうなと気の毒に思うユーリであった、
「うむ、第六軍団、医長である」
スッと腰を上げた医長、やっと開始だなと一同の目が真剣なものに変わる、そして堅苦しい挨拶の後、
「では、タロウ殿からまずは提案との事であったな、私もより詳しく聞いてみたいと思っております、宜しくお願いします」
腰を下ろす医長である、ハイハイとタロウは腰を上げると、事務員達が茶を配り始める、あらっ随分と手厚いわねと感心するユーリ、ソフィアはこんな感じなんだなーとボーっと眺めており、サビナはさてここからと黒板を取り出した、ケイスも黒板を取り出している、真面目だなーと横目で見てしまうソフィアであった、
「では・・・なのですが、本日は先程医長からもありました通り、医療行為の流れと治療魔法と麻酔魔法、その取扱いに関しての打合せがメイン、じゃなかった主題となるのですが、その前にですね・・・私から一つ提案がありまして、これは先日医長とも少しばかり話しまして、で、先程、学園長、事務長、それと高級仕官であるアフラ女史とも意見交換をしております、その上で、私としては有効であるとも思いますが、是非、皆さんの御意見を賜りたいとも思います、少しばかり・・・長くなるかもしれませんが・・・うん、これもまた王国のみならず医療に於いて大変に画期的な提案であると思いますので、是非、まずは御意見を頂きたいと思う所です」
こりゃまためんどくさい事を言い出したぞと目を細めるソフィアとユーリ、特に二人はそこまでの話を聞いていない、ユーリもこの打合せはつい先日参加の要請があり、ソフィアにいたっては昨晩である、それもあくまでタロウが言う主題の件での打合せに入れと言うなんとも曖昧なもので、まぁタロウがいるのであれば素直に言う事を聞いてやるか程度の認識であったりする、しかしどうやら違うらしい、サビナもまたこりゃ大事だなと目を丸くしており、タロウの事を徐々に理解し始めている生活科の講師達、さらには医官達もこれは何やら想定とは大きく異なるぞと若干前のめりになったようで、
「・・・えっと・・・随分となんか・・・」
ケイスが不安そうにソフィアを見上げる、
「ねー・・・まぁ・・・好きにさせましょう、変な事にはならない・・・」
「なるんじゃないのー」
ユーリが小声で呟く、
「かもねー」
と同調するソフィア、エー・・・と不安そうに眼を細めるケイスとサビナであった、そして、
「では、早速その提案なのですが、看護となります、その人員の確保と、現場に於ける役割、及び将来的な教育についてもですね、私が理想とするところを説明致しますので、各職域、立場に於いて忌憚無い意見を頂ければと思います」
ほぼ全ての参加者の脳裏にカンゴ?という疑問が瞬時に浮かぶ、平然としているのは三人の医長と事前に聞いていた学園長達、そして、
「もしかして・・・前に聞いたかしら・・・」
「うん、私は何度か聞いたな・・・そっか・・・確かに、この面子と状況であれば可能かも・・・」
「そう?」
「そうよ、だって、手はあるし・・・そっか、それで生活科・・・へー・・・上手い事考えたもんだわ・・・」
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アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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