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本編
82話 雪原にて その49
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そうしてどうやら溜飲を下げた様子のユーリはゆっくりと腰を上げ、
「そう言う訳だから、今日は暇してていいわよ」
フーと溜息をついた、
「そっ・・・じゃ、病室の兵士さん達の方、診てこようかしら・・・」
ソフィアもやれやれと腰を上げた、愚痴を聞けと言われた時にはどうしようかと思ったものであるが、聞いてみれば大した事ではない、いや、世間的には大騒動なのであろうがソフィアからすれば今更感が強い、タロウが関わっている以上常識など通じる訳が無いのが当然で、それはクロノスもルーツも勿論ユーリでさえ理解しているであろう、しかしそのユーリがこれなのである、まぁ、その憤りの大半は驚きよりも焦りであったようで、ユーリもまだまだ若いなーとほくそ笑むソフィアであった、
「あっ・・・そっか、まだあれか治療中の兵士もいるのか・・・」
「そうよー、あっ、そうだ、亡くなった兵士さん達ってどうなってるの?」
「亡くなった兵士さん?」
「そっ、現場で、遺体の回収とかはまだ?」
「そこまでは・・・無理じゃないかなー、見た感じ陣地に近い所の遺体は回収してたけど・・・多分、あれだ、陣地の天幕に安置してあると思う、確認してみる?」
「そっか・・・じゃ、どうしようかな・・・アフラさんに相談してみようかしら・・・」
「何するの?」
「ん、ほら、昨日ね、ルオン先生がね、御遺体を洗ったらしいのよ、で、できればほら、他の御遺体もそうしたいってケイスさんが言っててね、それも正しいかな・・・って思ってね・・・」
「あら・・・」
と感心して目を丸くするユーリ、
「気持ちは分かるかな・・・ってね・・・」
ニコリと優しく微笑むソフィア、
「そう・・・ね・・・うん、了解、じゃ、アフラさん捕まえましょうか、でも洗うってどこまで?」
と歩き出すユーリ、
「お顔だけでもって事らしいけど・・・どうかしら、折角ほら、お湯も使えるんだし、これ以上負傷者が増えないのであればそこで洗って、綺麗に着付けてって思うけど、そうなるとあれね、医者の仕事じゃなくて、葬儀屋の仕事になっちゃうのかな?・・・それに現場だと鎧もなにもかも汚れてるだろうし、どこまで綺麗にするかなんて・・・なんとも・・・って感じかなー・・・」
ソフィアもスッと動き出す、
「そうよねー・・・でも、どうせやるならって感じだけど・・・お医者先生達は?なんか言ってるの?」
「特には、昨日は一緒になって清拭したらしいけどね、でも、ほら、お医者先生はお医者先生の仕事があるわけだし、となると・・・うん、生徒達の手を借りてもいいかなって思うけど・・・キツイ・・・かな・・・」
「そうねー・・・御遺体だしなー・・・でも、んー・・・実習と考えれば有意義とも思うけど、そこまで・・・って感じもするかなー・・・精々あれね、お顔を整えてあげる?それくらいが生徒にも精々だと思うわよ、あっ、でもあれか、医学科の連中総動員すればかな」
ゆっくりとシーツを捲るユーリ、
「そこなのよ、やっぱり御遺体の扱いも慣れないとじゃないの?」
「そうだろうけど、そこまでは私の管轄外よ、それこそバルテル先生かルオン先生、っていうか講師達に相談じゃない?」
「・・・それもそっか」
「でしょうね、アフラさんに話しておく?」
「そのつもり」
と二人は揃って休憩区画から出るとそのままアフラがいるであろう転送陣が並ぶ広い区画へ向かった、すると、
「だからよー、その現場をさー」
大きく響く男の叫び声、ウゲッと同時に顔を顰めるソフィアとユーリ、ラインズがアフラを捕まえ何やら大袈裟に喚いており、学園長もそれに加担している様子である、アフラは見事な仏頂面であった、
「ちょ、ラインズ、何やってるの」
条件反射でギャンと吠えたユーリ、サッと振り返るラインズと学園長とアフラ、
「おう、お前からも頼むよ、あれだろ、もう戦闘は終わったんだろ?ならよ、現場に行かせくれよ」
ギランと目を輝かせるラインズ、
「そうだけど、あんたみたいなうるさいのは邪魔よ」
バシッと言い返すユーリ、まったくだと苦笑するソフィア、
「いやいや、陛下からもさ、状況を見ながらであれば足を運べとお許しは頂いているんだよ」
「それは前にも聞いたわよ、で、その状況を判断するのは誰なのよ、あんたじゃない事だけは確かよ」
「そっ・・・だからさ、だからこうして頼んでるんじゃんよー」
頼んでいるようには思えなかったとラインズを睨みつけるアフラ、学園長も今日はまだ違うだろうなと渋い面相で、
「うむ、ユーリ先生の言う通りじゃ、ここは引くのが正解じゃろう」
と静かにラインズを宥める、
「いやいや、学園長、ここ、こここそですぞ、何やら大事もあったようですから、それを聞き取らないと作家としてのですな」
なにが作家よと目を細めるソフィアとユーリ、
「だからそれはまたゆっくりとじゃ、戦場の記憶となればまず忘れる事は無い」
「いやいや、学園長、人というものはですな、たかが一日、たかが一日で記憶を良いように作り変えるものなのですよ、それは学園長も仰っていたでしょう」
「確かにそうだが、それ以前にだ、軍の仕事を妨げてはならん」
「妨げてなぞおらんです」
ギャンと吠えるラインズ、まったくと眉を顰める学園長、やっぱりこうなったかーと呆れるソフィアとユーリ、タロウも含めて学園長とラインズを引き合わせるのを躊躇したのはこれが原因である、学園長もある意味で破天荒な人物ではあるが、それであっても常識と社会規範の許容範囲内の事であり、ああいう人だからで済ませられる程度の曲者と言える、しかしラインズはそれを軽々と飛び越える型破りな人格で、そこには常識も社会規範も関係無い、さらに悪い事にすっかり興奮しているらしい、一番駄目な状態のラインズだなとソフィアとユーリは感付いた、
「こりゃ・・・駄目だわね・・・」
「タロウさん呼ぶ?」
「そうねー、クロノスでもいいんじゃない?」
「そうなの?」
「うん、ほら、あんたらが放浪している最中よくぶん殴って正気に戻したわよ」
「あらま・・・クロノスも災難ねー」
「まったくだわ」
ラインズを見つめて呟くソフィアとユーリ、そこへ、
「お疲れ様ー」
見事なタイミングでタロウが転送陣を潜って来た、さらにはクロノスの姿もある、すると当然、
「タロウ、クロノス、聞いてくれよー」
ラインズの標的が二人に移る、エッと足を止めた二人、アチャーと肩を落すアフラと学園長とソフィアとユーリであった。
「それはいいな、アフラ、段取りできるか?」
アフラを見下ろすクロノス、
「はい、私としても嬉しく思います」
ニコリと微笑むアフラ、
「ん、じゃ、こっちはバルテル先生に話すけど・・・あっ、どうせだからこっちに運ぶ?御遺体?」
ユーリも自然と声が明るくなる、ラインズの相手はタロウに押し付ける形となった、タロウもクロノスも今はまだ荒野に連れて行くのは難しいと断言し、それでもラインズはギャーギャーとごねていたが、クロノスが思いっきりガツンと脳天におみまいしそれで正気を取り戻したらしい、タロウがまぁ、聞きたいだろうし、イフナースの英雄譚には必要な事だからと学園長とラインズを連れて場所を変えてくれた、そしてソフィアとユーリはケイスの提案をクロノスとアフラにゆっくり話す事が出来た次第となる、
「・・・その方がいいか・・・どっちにしろこっちにも遺体はあるのだよな?」
「そうねー、20くらい?」
「そっか・・・うん、陛下にも話して、ここで合同の葬式・・・違うな慰霊の祈りを捧げてもいいし・・・」
「それもそうね、街中の人にもその機会があればと思うけど・・・」
「それはもう少し先・・・あっ・・・そっか、遺体も腐らないんだな・・・今だと・・・」
「そうなのよね、ここで安置してる御遺体も固くはなってるけど全然って感じ?」
「向こうのもそうだろうな、わざわざ遺体を温めるような事はしていない・・・へー・・・冬場の戦争も少しは利点があるようだ・・・いや、どうでもいい利点だな・・・」
フンと不愉快そうに鼻を鳴らすクロノス、そうねとソフィアとユーリ、アフラも不愉快そうに眉を顰める、まずもって戦争自体が不愉快で、しかし一般的には春から秋にかけて行われるそれだと遺体はすぐに燃やされるか埋めるものである、伝染病の元であったり、なにより悪臭が問題となる、遺体は腐るのだ、当然の事である、となると兵士の遺体を故郷に送る事などまず出来ない、労力が必要でもあるし、夏の盛りとなれば魔法使いを一人つけ、氷魔法を駆使する必要があり、となれば余程の高位の者でもなければその栄誉に預かることは無い、なんとも世知辛い事であった、
「では、まずは向こうを確認します」
アフラがスッと背筋を正す、
「ん・・・あっ、いや、俺が動く、リンドと話そう、イフナースはいいとして、メインデルトとクンラートの許可が必要だ・・・代わりにお前は学園長・・・事務長の方が適任かな・・・どっちでもいいや、話しておけ、それと医官を動かして遺体の安置所を、外の天幕が余っているだろ、そこに運び込もう、ここよりも寒いだろうしな」
「はい、すると、ほぼ決定実行として動きますか?」
「そうなる、カラミッドにも話して、慰霊の機会を作ろう、この街を守った英雄達だ、なに、悪い事じゃない、軍団長らも反対はしないさ」
「そうねー、それがいいわね」
ニコーと微笑むソフィア、
「確かにね、感謝で送らないとだわ・・・」
ユーリもゆっくりと頷く、
「だな、いや、ケイスか、あの娘も良い事を言うな、大したものだ」
クロノスが優しく微笑む、
「そりゃ・・・ね、寮母がいいのよ」
ムフンと胸を張るソフィア、
「なにそれ」
ムッとソフィアを睨むユーリ、言ってろと鼻で笑うクロノス、アフラも笑顔となり、
「では、こちらの調整はお任せを」
静かに頭を下げた、
「頼む、じゃ、俺は出戻りで・・・」
さっさと転送陣を潜るクロノスである、
「任せておけばいいわね」
「そうみたいねー」
やれやれと一息ついたソフィアとユーリ、しかし、
「・・・っていうか、タロウとクロノスって何しに来たの?」
ユーリがふと湧いた疑問を口にする、
「・・・さぁ・・・」
大きく首を傾げるソフィア、そこへ、
「あっ、ソフィアさんいいですか?」
ケイスがシーツの間から顔を覗かせた、
「はいはい、どした?」
同時に振り返るソフィアとユーリ、
「どうしたって事でも無いんですけど、ほら、クロノス殿下とお話されていたみたいだったから・・・」
ニコーと微笑むケイス、
「あっ、そうよねー、あっ、でね」
とケイスに歩み寄るソフィア、ユーリも自然と足を向け、クロノスとアフラが遺体の処置について動き始めた事を告げると、
「良かったですー、先生、先生も」
ケイスが明るい笑顔で振り返った、
「さて・・・じゃ、こんなもんか、私は・・・一旦向こうに戻って、何も無かったら帰ろうかしら」
ユーリがんーと大きく背筋を伸ばす、モニケンダムではまだ午前の中頃である、寮に戻ればまだ一日が始まった程度の頃合いで、今日のあれをカトカとゾーイとも共有したいと考えていた、冷静に考えれば自分にも再現は可能である、しかしそれをやろうとは思わなかったし、大変にめんどくさい、単純に性に合わない技術でもある、
「そっか、じゃ・・・私もって・・・訳にはいかないか」
「そうなの?」
「そうよー、ほら、一応ね、大人としての責任ってものがあるし?」
ニヤーと微笑むソフィア、
「・・・フンッ、あんたがそんな事言うなんてね・・・明日は雨かしら・・・雪か嵐は勘弁してほしいわねー」
サッと踵を返すユーリ、アン?とその背を睨むソフィアであった。
「そう言う訳だから、今日は暇してていいわよ」
フーと溜息をついた、
「そっ・・・じゃ、病室の兵士さん達の方、診てこようかしら・・・」
ソフィアもやれやれと腰を上げた、愚痴を聞けと言われた時にはどうしようかと思ったものであるが、聞いてみれば大した事ではない、いや、世間的には大騒動なのであろうがソフィアからすれば今更感が強い、タロウが関わっている以上常識など通じる訳が無いのが当然で、それはクロノスもルーツも勿論ユーリでさえ理解しているであろう、しかしそのユーリがこれなのである、まぁ、その憤りの大半は驚きよりも焦りであったようで、ユーリもまだまだ若いなーとほくそ笑むソフィアであった、
「あっ・・・そっか、まだあれか治療中の兵士もいるのか・・・」
「そうよー、あっ、そうだ、亡くなった兵士さん達ってどうなってるの?」
「亡くなった兵士さん?」
「そっ、現場で、遺体の回収とかはまだ?」
「そこまでは・・・無理じゃないかなー、見た感じ陣地に近い所の遺体は回収してたけど・・・多分、あれだ、陣地の天幕に安置してあると思う、確認してみる?」
「そっか・・・じゃ、どうしようかな・・・アフラさんに相談してみようかしら・・・」
「何するの?」
「ん、ほら、昨日ね、ルオン先生がね、御遺体を洗ったらしいのよ、で、できればほら、他の御遺体もそうしたいってケイスさんが言っててね、それも正しいかな・・・って思ってね・・・」
「あら・・・」
と感心して目を丸くするユーリ、
「気持ちは分かるかな・・・ってね・・・」
ニコリと優しく微笑むソフィア、
「そう・・・ね・・・うん、了解、じゃ、アフラさん捕まえましょうか、でも洗うってどこまで?」
と歩き出すユーリ、
「お顔だけでもって事らしいけど・・・どうかしら、折角ほら、お湯も使えるんだし、これ以上負傷者が増えないのであればそこで洗って、綺麗に着付けてって思うけど、そうなるとあれね、医者の仕事じゃなくて、葬儀屋の仕事になっちゃうのかな?・・・それに現場だと鎧もなにもかも汚れてるだろうし、どこまで綺麗にするかなんて・・・なんとも・・・って感じかなー・・・」
ソフィアもスッと動き出す、
「そうよねー・・・でも、どうせやるならって感じだけど・・・お医者先生達は?なんか言ってるの?」
「特には、昨日は一緒になって清拭したらしいけどね、でも、ほら、お医者先生はお医者先生の仕事があるわけだし、となると・・・うん、生徒達の手を借りてもいいかなって思うけど・・・キツイ・・・かな・・・」
「そうねー・・・御遺体だしなー・・・でも、んー・・・実習と考えれば有意義とも思うけど、そこまで・・・って感じもするかなー・・・精々あれね、お顔を整えてあげる?それくらいが生徒にも精々だと思うわよ、あっ、でもあれか、医学科の連中総動員すればかな」
ゆっくりとシーツを捲るユーリ、
「そこなのよ、やっぱり御遺体の扱いも慣れないとじゃないの?」
「そうだろうけど、そこまでは私の管轄外よ、それこそバルテル先生かルオン先生、っていうか講師達に相談じゃない?」
「・・・それもそっか」
「でしょうね、アフラさんに話しておく?」
「そのつもり」
と二人は揃って休憩区画から出るとそのままアフラがいるであろう転送陣が並ぶ広い区画へ向かった、すると、
「だからよー、その現場をさー」
大きく響く男の叫び声、ウゲッと同時に顔を顰めるソフィアとユーリ、ラインズがアフラを捕まえ何やら大袈裟に喚いており、学園長もそれに加担している様子である、アフラは見事な仏頂面であった、
「ちょ、ラインズ、何やってるの」
条件反射でギャンと吠えたユーリ、サッと振り返るラインズと学園長とアフラ、
「おう、お前からも頼むよ、あれだろ、もう戦闘は終わったんだろ?ならよ、現場に行かせくれよ」
ギランと目を輝かせるラインズ、
「そうだけど、あんたみたいなうるさいのは邪魔よ」
バシッと言い返すユーリ、まったくだと苦笑するソフィア、
「いやいや、陛下からもさ、状況を見ながらであれば足を運べとお許しは頂いているんだよ」
「それは前にも聞いたわよ、で、その状況を判断するのは誰なのよ、あんたじゃない事だけは確かよ」
「そっ・・・だからさ、だからこうして頼んでるんじゃんよー」
頼んでいるようには思えなかったとラインズを睨みつけるアフラ、学園長も今日はまだ違うだろうなと渋い面相で、
「うむ、ユーリ先生の言う通りじゃ、ここは引くのが正解じゃろう」
と静かにラインズを宥める、
「いやいや、学園長、ここ、こここそですぞ、何やら大事もあったようですから、それを聞き取らないと作家としてのですな」
なにが作家よと目を細めるソフィアとユーリ、
「だからそれはまたゆっくりとじゃ、戦場の記憶となればまず忘れる事は無い」
「いやいや、学園長、人というものはですな、たかが一日、たかが一日で記憶を良いように作り変えるものなのですよ、それは学園長も仰っていたでしょう」
「確かにそうだが、それ以前にだ、軍の仕事を妨げてはならん」
「妨げてなぞおらんです」
ギャンと吠えるラインズ、まったくと眉を顰める学園長、やっぱりこうなったかーと呆れるソフィアとユーリ、タロウも含めて学園長とラインズを引き合わせるのを躊躇したのはこれが原因である、学園長もある意味で破天荒な人物ではあるが、それであっても常識と社会規範の許容範囲内の事であり、ああいう人だからで済ませられる程度の曲者と言える、しかしラインズはそれを軽々と飛び越える型破りな人格で、そこには常識も社会規範も関係無い、さらに悪い事にすっかり興奮しているらしい、一番駄目な状態のラインズだなとソフィアとユーリは感付いた、
「こりゃ・・・駄目だわね・・・」
「タロウさん呼ぶ?」
「そうねー、クロノスでもいいんじゃない?」
「そうなの?」
「うん、ほら、あんたらが放浪している最中よくぶん殴って正気に戻したわよ」
「あらま・・・クロノスも災難ねー」
「まったくだわ」
ラインズを見つめて呟くソフィアとユーリ、そこへ、
「お疲れ様ー」
見事なタイミングでタロウが転送陣を潜って来た、さらにはクロノスの姿もある、すると当然、
「タロウ、クロノス、聞いてくれよー」
ラインズの標的が二人に移る、エッと足を止めた二人、アチャーと肩を落すアフラと学園長とソフィアとユーリであった。
「それはいいな、アフラ、段取りできるか?」
アフラを見下ろすクロノス、
「はい、私としても嬉しく思います」
ニコリと微笑むアフラ、
「ん、じゃ、こっちはバルテル先生に話すけど・・・あっ、どうせだからこっちに運ぶ?御遺体?」
ユーリも自然と声が明るくなる、ラインズの相手はタロウに押し付ける形となった、タロウもクロノスも今はまだ荒野に連れて行くのは難しいと断言し、それでもラインズはギャーギャーとごねていたが、クロノスが思いっきりガツンと脳天におみまいしそれで正気を取り戻したらしい、タロウがまぁ、聞きたいだろうし、イフナースの英雄譚には必要な事だからと学園長とラインズを連れて場所を変えてくれた、そしてソフィアとユーリはケイスの提案をクロノスとアフラにゆっくり話す事が出来た次第となる、
「・・・その方がいいか・・・どっちにしろこっちにも遺体はあるのだよな?」
「そうねー、20くらい?」
「そっか・・・うん、陛下にも話して、ここで合同の葬式・・・違うな慰霊の祈りを捧げてもいいし・・・」
「それもそうね、街中の人にもその機会があればと思うけど・・・」
「それはもう少し先・・・あっ・・・そっか、遺体も腐らないんだな・・・今だと・・・」
「そうなのよね、ここで安置してる御遺体も固くはなってるけど全然って感じ?」
「向こうのもそうだろうな、わざわざ遺体を温めるような事はしていない・・・へー・・・冬場の戦争も少しは利点があるようだ・・・いや、どうでもいい利点だな・・・」
フンと不愉快そうに鼻を鳴らすクロノス、そうねとソフィアとユーリ、アフラも不愉快そうに眉を顰める、まずもって戦争自体が不愉快で、しかし一般的には春から秋にかけて行われるそれだと遺体はすぐに燃やされるか埋めるものである、伝染病の元であったり、なにより悪臭が問題となる、遺体は腐るのだ、当然の事である、となると兵士の遺体を故郷に送る事などまず出来ない、労力が必要でもあるし、夏の盛りとなれば魔法使いを一人つけ、氷魔法を駆使する必要があり、となれば余程の高位の者でもなければその栄誉に預かることは無い、なんとも世知辛い事であった、
「では、まずは向こうを確認します」
アフラがスッと背筋を正す、
「ん・・・あっ、いや、俺が動く、リンドと話そう、イフナースはいいとして、メインデルトとクンラートの許可が必要だ・・・代わりにお前は学園長・・・事務長の方が適任かな・・・どっちでもいいや、話しておけ、それと医官を動かして遺体の安置所を、外の天幕が余っているだろ、そこに運び込もう、ここよりも寒いだろうしな」
「はい、すると、ほぼ決定実行として動きますか?」
「そうなる、カラミッドにも話して、慰霊の機会を作ろう、この街を守った英雄達だ、なに、悪い事じゃない、軍団長らも反対はしないさ」
「そうねー、それがいいわね」
ニコーと微笑むソフィア、
「確かにね、感謝で送らないとだわ・・・」
ユーリもゆっくりと頷く、
「だな、いや、ケイスか、あの娘も良い事を言うな、大したものだ」
クロノスが優しく微笑む、
「そりゃ・・・ね、寮母がいいのよ」
ムフンと胸を張るソフィア、
「なにそれ」
ムッとソフィアを睨むユーリ、言ってろと鼻で笑うクロノス、アフラも笑顔となり、
「では、こちらの調整はお任せを」
静かに頭を下げた、
「頼む、じゃ、俺は出戻りで・・・」
さっさと転送陣を潜るクロノスである、
「任せておけばいいわね」
「そうみたいねー」
やれやれと一息ついたソフィアとユーリ、しかし、
「・・・っていうか、タロウとクロノスって何しに来たの?」
ユーリがふと湧いた疑問を口にする、
「・・・さぁ・・・」
大きく首を傾げるソフィア、そこへ、
「あっ、ソフィアさんいいですか?」
ケイスがシーツの間から顔を覗かせた、
「はいはい、どした?」
同時に振り返るソフィアとユーリ、
「どうしたって事でも無いんですけど、ほら、クロノス殿下とお話されていたみたいだったから・・・」
ニコーと微笑むケイス、
「あっ、そうよねー、あっ、でね」
とケイスに歩み寄るソフィア、ユーリも自然と足を向け、クロノスとアフラが遺体の処置について動き始めた事を告げると、
「良かったですー、先生、先生も」
ケイスが明るい笑顔で振り返った、
「さて・・・じゃ、こんなもんか、私は・・・一旦向こうに戻って、何も無かったら帰ろうかしら」
ユーリがんーと大きく背筋を伸ばす、モニケンダムではまだ午前の中頃である、寮に戻ればまだ一日が始まった程度の頃合いで、今日のあれをカトカとゾーイとも共有したいと考えていた、冷静に考えれば自分にも再現は可能である、しかしそれをやろうとは思わなかったし、大変にめんどくさい、単純に性に合わない技術でもある、
「そっか、じゃ・・・私もって・・・訳にはいかないか」
「そうなの?」
「そうよー、ほら、一応ね、大人としての責任ってものがあるし?」
ニヤーと微笑むソフィア、
「・・・フンッ、あんたがそんな事言うなんてね・・・明日は雨かしら・・・雪か嵐は勘弁してほしいわねー」
サッと踵を返すユーリ、アン?とその背を睨むソフィアであった。
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オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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