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本編
82話 貴人の虜囚 その39
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「あら・・・なにやってんだ?集まって・・・」
タロウは夕食後、相談しておくかと思い立ち転送陣を幾つか潜って要塞へと入った、転送陣が置かれた部屋の近衛にリンドの居場所を確認し、まだ要塞内にいらっしゃるはずですと曖昧な答えを返された、まぁそんなもんかとタロウは礼を口にし、取り合えずとイフナースの執務室に向かうと、ここも空であった、となるとと向かった先は屋上である、
「おう、どした?」
ルーツが背を丸めたまま振り返り、ゲインもスッと顔を上げる、イフナースとリンドも背を丸めて小さくなっており、その四人が囲むのは湯沸し器であった、
「・・・天幕の中で温まれよ・・・」
何もわざわざこの寒空の下に出て来なくてもと顔を顰めるタロウ、見ればルーツの部下も湯沸し器を囲んで何やらやっており、それぞれの足元には酒樽が置いてある、
「匂いが籠るから嫌なんだよ」
ニヤリと微笑むルーツ、
「確かに」
リンドがニコリと微笑み、
「うむ、それに悪くないぞ、夜空の下で飲む酒もな」
イフナースもやっと顔を上げた、
「そりゃ・・・風流と言えば風流ですが・・・夜空?」
やれやれと微笑むタロウ、夜空と呼ぶにはあまりに寂しい曇天の下であった、さらにはチラチラと雪が舞っていたりする、天幕の側に置かれた光柱の灯りも何とも寒々しく頼りないと感じられるほどで、ルーツの部下が椅子を持って来て、リンドがスッと場所を開けた、タロウは申し訳ないと感謝しつつ遠慮なく腰を下ろす、見れば湯沸し器には鍋がかけられており、確かに良い匂いが微かな湯気と共に漂っている、
「なんだそれ?」
イフナースが湯呑を口に運ぶ、
「なにが?」
「フウ?リュウ?」
リンドがニコリと微笑む、
「あぁ、風流か・・・確かにこっちには無い表現かな?」
「表現?」
「そっ、なんていうか、上品で・・・粋な遊び方と言うか・・・まぁ、この場合はもっとほら、温かい所もあるのにわざわざこんな所で酒を飲むなんて・・・贅沢な遊びだなって感じ?」
「面白い表現ですね」
「変な言い回しだな」
リンドが微笑み、イフナースは呆れたようであった、ルーツは確かに贅沢だと笑い、ゲインはくすりともしない、
「で・・・イモ?」
タロウは鍋を見つめた、微かに漂う香りからなんとなく察する、
「だな、ジャガと言ったか?」
ルーツがどれどれと鍋を開ける、どんなもんだと覗き込む四人、ホワッと上がった湯気はあっという間に風にさらわれ消えていった、
「こんなもんなのか?」
ルーツがスッと振り返る、その先の部下がわかりませんとあっさりと答え、お前なーと笑い半分で叱るルーツ、
「あー・・・串かなんかあるか?細い針ならなんでもいいんだが」
タロウがこれだからと微笑む、どうやらジャガイモを鍋に放り込んで焼いたはいいもののその塩梅が分からないらしい、それも当然と言える、ゲインは昨日食べてはいるが調理したわけでは無く、ルーツもリンドもイフナースもジャガイモは初めて食するであろうし、となれば調理も初めてである、
「串?」
ルーツが向き直り、ルーツの部下がありますと叫んでサッと動いた、天幕内から木の棒を持って来て、そのままタロウに差し出す、タロウはありがとうと受け取り、一応と手拭いで拭ってから鍋のジャガイモに突き刺す、どういう事かと覗き込むルーツ達、ルーツの部下も思いっきり首を伸ばして覗き込んだ、
「こうしてね、中まで串が刺されば焼けてる証拠なんだよ・・・っていうか、柔らかくなってるかどうか確認するだけなんだけど・・・うん、良い感じだと思うよ」
ニヤリと顔を上げ、串を返すタロウ、なるほどとルーツの部下が自席に戻り早速と鍋に向かっている、
「どれ・・・」
ルーツが手を伸ばすもアツッと叫んで手を引いた、そりゃそうだと笑うイフナース、それでもアツアツ言いながら無理して取り出すと鍋の蓋を皿代わりにして皮を剥くルーツ、そして、
「おっ、これは確かに美味いな・・・」
千切ったイモを口に運ぶ、ホフーと湯気を吐き出し、ハフハフ言いつつ、ゴクリと飲み込む、
「そうなのか?」
「はい、どうぞ、少々はしたないですがね」
鍋の蓋ごとイフナースへ差し出すルーツ、せめてそこはナイフくらいはあるだろうがとタロウは思うも、このざっくばらんな感じが何とも懐かしく感じられる、冒険者時代の食事は毎回こんなであった、一応食事当番なるものがあるにはあったが、男所帯の食事等、焼くか煮るかしかなく、無論味付けは期待できない、まして変に味を付けると濃すぎてしまい文句が出る、となれば食える状態で提供するのが当番の仕事であり、塩か酢を好みで使い、腹に入れる、それだけの食事なのであった、
「構わん」
イフナースがムンズとジャガイモを掴んでアチアチ言いながらかぶりつく、ホフーと湯気を吹き出し、ウンウンと噛み締め、
「確かに美味いな・・・」
「どれ、私も」
リンドも手を伸ばす、
「塩かバターがあるとさらに美味いぞ」
ニヤリと微笑むタロウ、
「ムッ、確かにそうかもな、なんか足りないと思った」
ルーツがバッと立ち上がり自ら天幕へ入った、ルーツの部下も腰を上げてルーツを追う、
「で、お前、何しに来たんだ?」
フーと一息ついてイフナースがタロウを見つめる、ゲインが鍋を下ろして別の鍋を置いた、そこへゴロゴロとジャガイモを投入する、
「あっ、リンドさんにね、報告、っていうか相談?」
ハッと顔を上げるタロウ、
「どうされました?」
ジャガイモをゴクリと飲み込み、湯呑を口にするリンド、
「うん、昼間にね、先代公爵様とカラミッド閣下と相談してね」
ヘッと目を丸くするリンドとイフナース、そこへこれだこれだとルーツが戻ってくる、
「ほら、荒野の開発について?」
「・・・なるほど、しかし・・・」
「しかし?」
「それを私共に話しても構わないので?」
スッと背筋を正すリンド、
「何を今更・・・向こうもだって、そうなる事を見越しての相談だよ」
タロウが目を細め片眉を上げる、
「確かに今更だな」
フッと鼻で笑うイフナース、
「分かりました、そういう事でしたら、はい、どのような内容で?」
リンドもすぐに理解する、確かに今更であるし、なによりその二人がタロウを頼るのは暗に王家との仲介を頼みにしているか、こちらの様子を探る為であろう、
「うん、簡単に言えばなんだけど」
タロウは思い出しつつ続けた、レイナウトもカラミッドも荒野の開発についてはその有用性も価値も理解しているが、やはり伯爵家また公爵家だけでは難しいと考えていた、それもそうだよなーとタロウも思う、急に自領の倍の土地を与えられ、好きにしろと言われても困るだけである、挙句、真の意味で好きにできるわけでもない、レイナウトは人的なリソースを問題と考えており、カラミッドはあらゆるものが足りないと考えていた、となればやはりその力を有する者に頼らざるを得ないとなり、それが王国であり王家であり軍となるのは当然の事であった、
「で、労働力もそうなんだけど、まず流通だよね、だから、転送陣をさ、もっとこう、楽に使えるようにするか、蛇のあの道みたいなの作って欲しいらしい」
「それは前にも聞いているがさ・・・お前がやればいいだろが」
湯呑を傾けつつ目を細めるイフナース、ルーツも確かになーとモグモグやっている、
「やってもいいけど・・・そこはほら、王家がちゃんと恩を売らないとさ・・・」
ニヤーと微笑むタロウ、
「恩って・・・まぁ・・・それもあるか・・・」
ムーと眉を顰めるイフナース、
「ですな、しかし、すでにある程度の計画は出来ておるはずです、取り決めも含め、協議はしておりますからね・・・あそこから・・・進展は無いですけど・・・なので、そのお二人も冷静に考えた上で構想を練ったのでしょう・・・」
「そなの?」
「はい、陛下とも相談しておりました、王都の事務官が絵図面を引いている筈・・・私もこちらにかかりっきりでしたから、どこまで進んでいるかは把握しておりませんが・・・それと、現地の調査、及び測量も進めなければと考えます、伯爵家とも公爵家ともあくまで大雑把な土地区分ですので、その辺も明確にしませんと、新たな火種になるでしょう、ここはより慎重にと陛下も考えている筈です・・・」
「あっ、そっか、前にも相談してたよね」
「ですね、なので、もう少しこちらが落ち着きましたらと考えております、先代公爵様が出てくるとなれば話も早いでしょう、施設での岩石処理の手法ですか、それと人材教育も進んでおりますし、そちらと合わせて大きな視点で動かなければと考えております、巨大な公共事業となりますので・・・以前タロウ殿がおっしゃった通り、数年、数十年がかりの大仕事です」
ニコリと微笑むリンドである、とりあえず任せておけとの笑みであろう、タロウはそう解釈し、
「ならいいか・・・明日も会うから話しておくよ、近いうちにちゃんと話し合いの場所は設けるって感じで・・・特にほら、先代様がグチグチ言っててさ」
「なんて言ってた?」
「あー・・・息子さんじゃ不安だとか、任せる人材がおらんとか」
アー・・・と目を細めるイフナースとリンド、
「・・・確かにクンラート閣下では・・・」
「あれじゃなー・・・」
「クロノス以上にノウキンだぞ、あれ」
ルーツも口を挟んでしまう、
「お前、よくそれ覚えてたな」
タロウが懐かしそうに微笑む、
「当然だ、あとなんだっけ、直線バンチョウ?直進だったか?」
「あー、言ってた、言ってた」
アッハッハと笑うタロウ、ゲインもわずかに頬を緩ませる、
「それはどういう意味だ?」
「突っ込む事しか考えない乱暴者?って感じ?ダーっと走っていって、暴れて、また突っ込む?」
「・・・なるほど、理解できます」
リンドが鼻で笑う、
「だろー、あっ、で、クロノスはどうしたよ、珍しく顔出さねぇな」
そう言えばとルーツが湯呑を口に運ぶ、クロノスは朝方渋い顔を出したっきり、会議を終えても遊びに来なかった、普段であれば忙しくなければグダグダと管を巻いて暇を潰しているはずである、というか基本的にクロノスは暇である、北ヘルデルも冬季となれば社会活動は停滞気味となり、そう大きな問題も起こらないもので、起こったとしても役人で対処できる内容となる、こちらに自軍を連れて来ている訳でも無い、第六軍団はもう完全にイフナースの配下であり、下手な口出しは混乱の元であり、クロノスは突き放した様に関係を断っている、
「確かに・・・すぐに戻りましたな・・・」
ハッとリンドもタロウを見つめる、エッ俺?と視線を合わせるタロウ、
「はい、私もすっかりこちらに集中しておりまして・・・陛下の意向もあっての事ですが、トーラー殿もおられますし、まぁ、大丈夫かと思っていたのです」
「あー・・・そっか、そうだよねー」
正式な辞令はまだのようであるが、リンドもまた軍の再編に於いて役職が上がるのは確実であり、またその能力からもより重要な立場になるのが確実視されている、現時点ではイフナースの副官として細々とした事務を担当し、また転送陣の管理もアフラと共に担っている、この場にあって最も忙しかったりする、しかしとなるとである、これはクロノスの下から離れるという事を意味しており、実際にそうなってしまってもいた、
「まぁ・・・あっ、あれが原因か・・・」
すぐに思い出すタロウ、なんだとタロウを睨む男達、
「いや、ほら、昨日か?寮にね、陛下とアンドリースさんとメインデルトさんが来てね・・・」
「・・・なんだそりゃ・・・」
「妙な組み合わせですな・・・いや、あっ、昨日ですな?」
「うん、ほれ、二人が引退云々?先に殿下と話したとかなんとかって」
「あぁ、確かにあの後か?」
「そうだね、トーラーさんがサツマイモ届けたでしょ」
「そうですな、寮に行かれたのでしたか・・・」
「あれは美味かった」
「それは聞いてねぇ」
ムッとイフナースとタロウを睨むルーツ、
「そのうち嫌ってなるほど食えるようになるよ、で、だ、そん時さ、クロノスが陛下に叱られちゃってね・・・」
エッと言葉を無くすリンドとイフナース、
「叱られたっていうか、けつを叩かれたっていうか・・・うん、ほら、殿下にも言ったとかなんとかって陛下から聞いてけど・・・政がどうのとか、だらしないとか?」
「あー・・・」
イフナースがムーと小首を傾げ、リンドがそれはまたと顔を顰める、
「なもんで、なんだっけ、まぁ、詳しい内容はあれだけどさ、クロノスってば珍しく考え込んでてさ」
「あれが?」
ルーツがハッと鼻で笑い、あれがと返すタロウ、
「だから・・・どうなんだろうね、トーラーさんが張り付いてるんであればトーラーさんに聞いてみれば?近況というか・・・状況?取り合えず?」
「そう・・・ですね・・・」
リンドがイフナースを見つめ、イフナースも確かになと頷いた、
「だから・・・まぁ、あれも少しは頭を使うって事を覚えないとね、そういう立場なんだしさ・・・ひでぇ表現だけど・・・もう、ほら、リンドさんに頼りきっりって訳にもいかなくなるんだろうし・・・」
やれやれと微笑むタロウ、
「まったくだ」
ガッハッハと笑うルーツ、そうだけどもと心配そうなリンド、ムーとイフナースは考え込んでしまい、ゲインは変わらず仏頂面でモフリと岩塩を振りかけたジャガイモに食い付いた。
タロウは夕食後、相談しておくかと思い立ち転送陣を幾つか潜って要塞へと入った、転送陣が置かれた部屋の近衛にリンドの居場所を確認し、まだ要塞内にいらっしゃるはずですと曖昧な答えを返された、まぁそんなもんかとタロウは礼を口にし、取り合えずとイフナースの執務室に向かうと、ここも空であった、となるとと向かった先は屋上である、
「おう、どした?」
ルーツが背を丸めたまま振り返り、ゲインもスッと顔を上げる、イフナースとリンドも背を丸めて小さくなっており、その四人が囲むのは湯沸し器であった、
「・・・天幕の中で温まれよ・・・」
何もわざわざこの寒空の下に出て来なくてもと顔を顰めるタロウ、見ればルーツの部下も湯沸し器を囲んで何やらやっており、それぞれの足元には酒樽が置いてある、
「匂いが籠るから嫌なんだよ」
ニヤリと微笑むルーツ、
「確かに」
リンドがニコリと微笑み、
「うむ、それに悪くないぞ、夜空の下で飲む酒もな」
イフナースもやっと顔を上げた、
「そりゃ・・・風流と言えば風流ですが・・・夜空?」
やれやれと微笑むタロウ、夜空と呼ぶにはあまりに寂しい曇天の下であった、さらにはチラチラと雪が舞っていたりする、天幕の側に置かれた光柱の灯りも何とも寒々しく頼りないと感じられるほどで、ルーツの部下が椅子を持って来て、リンドがスッと場所を開けた、タロウは申し訳ないと感謝しつつ遠慮なく腰を下ろす、見れば湯沸し器には鍋がかけられており、確かに良い匂いが微かな湯気と共に漂っている、
「なんだそれ?」
イフナースが湯呑を口に運ぶ、
「なにが?」
「フウ?リュウ?」
リンドがニコリと微笑む、
「あぁ、風流か・・・確かにこっちには無い表現かな?」
「表現?」
「そっ、なんていうか、上品で・・・粋な遊び方と言うか・・・まぁ、この場合はもっとほら、温かい所もあるのにわざわざこんな所で酒を飲むなんて・・・贅沢な遊びだなって感じ?」
「面白い表現ですね」
「変な言い回しだな」
リンドが微笑み、イフナースは呆れたようであった、ルーツは確かに贅沢だと笑い、ゲインはくすりともしない、
「で・・・イモ?」
タロウは鍋を見つめた、微かに漂う香りからなんとなく察する、
「だな、ジャガと言ったか?」
ルーツがどれどれと鍋を開ける、どんなもんだと覗き込む四人、ホワッと上がった湯気はあっという間に風にさらわれ消えていった、
「こんなもんなのか?」
ルーツがスッと振り返る、その先の部下がわかりませんとあっさりと答え、お前なーと笑い半分で叱るルーツ、
「あー・・・串かなんかあるか?細い針ならなんでもいいんだが」
タロウがこれだからと微笑む、どうやらジャガイモを鍋に放り込んで焼いたはいいもののその塩梅が分からないらしい、それも当然と言える、ゲインは昨日食べてはいるが調理したわけでは無く、ルーツもリンドもイフナースもジャガイモは初めて食するであろうし、となれば調理も初めてである、
「串?」
ルーツが向き直り、ルーツの部下がありますと叫んでサッと動いた、天幕内から木の棒を持って来て、そのままタロウに差し出す、タロウはありがとうと受け取り、一応と手拭いで拭ってから鍋のジャガイモに突き刺す、どういう事かと覗き込むルーツ達、ルーツの部下も思いっきり首を伸ばして覗き込んだ、
「こうしてね、中まで串が刺されば焼けてる証拠なんだよ・・・っていうか、柔らかくなってるかどうか確認するだけなんだけど・・・うん、良い感じだと思うよ」
ニヤリと顔を上げ、串を返すタロウ、なるほどとルーツの部下が自席に戻り早速と鍋に向かっている、
「どれ・・・」
ルーツが手を伸ばすもアツッと叫んで手を引いた、そりゃそうだと笑うイフナース、それでもアツアツ言いながら無理して取り出すと鍋の蓋を皿代わりにして皮を剥くルーツ、そして、
「おっ、これは確かに美味いな・・・」
千切ったイモを口に運ぶ、ホフーと湯気を吐き出し、ハフハフ言いつつ、ゴクリと飲み込む、
「そうなのか?」
「はい、どうぞ、少々はしたないですがね」
鍋の蓋ごとイフナースへ差し出すルーツ、せめてそこはナイフくらいはあるだろうがとタロウは思うも、このざっくばらんな感じが何とも懐かしく感じられる、冒険者時代の食事は毎回こんなであった、一応食事当番なるものがあるにはあったが、男所帯の食事等、焼くか煮るかしかなく、無論味付けは期待できない、まして変に味を付けると濃すぎてしまい文句が出る、となれば食える状態で提供するのが当番の仕事であり、塩か酢を好みで使い、腹に入れる、それだけの食事なのであった、
「構わん」
イフナースがムンズとジャガイモを掴んでアチアチ言いながらかぶりつく、ホフーと湯気を吹き出し、ウンウンと噛み締め、
「確かに美味いな・・・」
「どれ、私も」
リンドも手を伸ばす、
「塩かバターがあるとさらに美味いぞ」
ニヤリと微笑むタロウ、
「ムッ、確かにそうかもな、なんか足りないと思った」
ルーツがバッと立ち上がり自ら天幕へ入った、ルーツの部下も腰を上げてルーツを追う、
「で、お前、何しに来たんだ?」
フーと一息ついてイフナースがタロウを見つめる、ゲインが鍋を下ろして別の鍋を置いた、そこへゴロゴロとジャガイモを投入する、
「あっ、リンドさんにね、報告、っていうか相談?」
ハッと顔を上げるタロウ、
「どうされました?」
ジャガイモをゴクリと飲み込み、湯呑を口にするリンド、
「うん、昼間にね、先代公爵様とカラミッド閣下と相談してね」
ヘッと目を丸くするリンドとイフナース、そこへこれだこれだとルーツが戻ってくる、
「ほら、荒野の開発について?」
「・・・なるほど、しかし・・・」
「しかし?」
「それを私共に話しても構わないので?」
スッと背筋を正すリンド、
「何を今更・・・向こうもだって、そうなる事を見越しての相談だよ」
タロウが目を細め片眉を上げる、
「確かに今更だな」
フッと鼻で笑うイフナース、
「分かりました、そういう事でしたら、はい、どのような内容で?」
リンドもすぐに理解する、確かに今更であるし、なによりその二人がタロウを頼るのは暗に王家との仲介を頼みにしているか、こちらの様子を探る為であろう、
「うん、簡単に言えばなんだけど」
タロウは思い出しつつ続けた、レイナウトもカラミッドも荒野の開発についてはその有用性も価値も理解しているが、やはり伯爵家また公爵家だけでは難しいと考えていた、それもそうだよなーとタロウも思う、急に自領の倍の土地を与えられ、好きにしろと言われても困るだけである、挙句、真の意味で好きにできるわけでもない、レイナウトは人的なリソースを問題と考えており、カラミッドはあらゆるものが足りないと考えていた、となればやはりその力を有する者に頼らざるを得ないとなり、それが王国であり王家であり軍となるのは当然の事であった、
「で、労働力もそうなんだけど、まず流通だよね、だから、転送陣をさ、もっとこう、楽に使えるようにするか、蛇のあの道みたいなの作って欲しいらしい」
「それは前にも聞いているがさ・・・お前がやればいいだろが」
湯呑を傾けつつ目を細めるイフナース、ルーツも確かになーとモグモグやっている、
「やってもいいけど・・・そこはほら、王家がちゃんと恩を売らないとさ・・・」
ニヤーと微笑むタロウ、
「恩って・・・まぁ・・・それもあるか・・・」
ムーと眉を顰めるイフナース、
「ですな、しかし、すでにある程度の計画は出来ておるはずです、取り決めも含め、協議はしておりますからね・・・あそこから・・・進展は無いですけど・・・なので、そのお二人も冷静に考えた上で構想を練ったのでしょう・・・」
「そなの?」
「はい、陛下とも相談しておりました、王都の事務官が絵図面を引いている筈・・・私もこちらにかかりっきりでしたから、どこまで進んでいるかは把握しておりませんが・・・それと、現地の調査、及び測量も進めなければと考えます、伯爵家とも公爵家ともあくまで大雑把な土地区分ですので、その辺も明確にしませんと、新たな火種になるでしょう、ここはより慎重にと陛下も考えている筈です・・・」
「あっ、そっか、前にも相談してたよね」
「ですね、なので、もう少しこちらが落ち着きましたらと考えております、先代公爵様が出てくるとなれば話も早いでしょう、施設での岩石処理の手法ですか、それと人材教育も進んでおりますし、そちらと合わせて大きな視点で動かなければと考えております、巨大な公共事業となりますので・・・以前タロウ殿がおっしゃった通り、数年、数十年がかりの大仕事です」
ニコリと微笑むリンドである、とりあえず任せておけとの笑みであろう、タロウはそう解釈し、
「ならいいか・・・明日も会うから話しておくよ、近いうちにちゃんと話し合いの場所は設けるって感じで・・・特にほら、先代様がグチグチ言っててさ」
「なんて言ってた?」
「あー・・・息子さんじゃ不安だとか、任せる人材がおらんとか」
アー・・・と目を細めるイフナースとリンド、
「・・・確かにクンラート閣下では・・・」
「あれじゃなー・・・」
「クロノス以上にノウキンだぞ、あれ」
ルーツも口を挟んでしまう、
「お前、よくそれ覚えてたな」
タロウが懐かしそうに微笑む、
「当然だ、あとなんだっけ、直線バンチョウ?直進だったか?」
「あー、言ってた、言ってた」
アッハッハと笑うタロウ、ゲインもわずかに頬を緩ませる、
「それはどういう意味だ?」
「突っ込む事しか考えない乱暴者?って感じ?ダーっと走っていって、暴れて、また突っ込む?」
「・・・なるほど、理解できます」
リンドが鼻で笑う、
「だろー、あっ、で、クロノスはどうしたよ、珍しく顔出さねぇな」
そう言えばとルーツが湯呑を口に運ぶ、クロノスは朝方渋い顔を出したっきり、会議を終えても遊びに来なかった、普段であれば忙しくなければグダグダと管を巻いて暇を潰しているはずである、というか基本的にクロノスは暇である、北ヘルデルも冬季となれば社会活動は停滞気味となり、そう大きな問題も起こらないもので、起こったとしても役人で対処できる内容となる、こちらに自軍を連れて来ている訳でも無い、第六軍団はもう完全にイフナースの配下であり、下手な口出しは混乱の元であり、クロノスは突き放した様に関係を断っている、
「確かに・・・すぐに戻りましたな・・・」
ハッとリンドもタロウを見つめる、エッ俺?と視線を合わせるタロウ、
「はい、私もすっかりこちらに集中しておりまして・・・陛下の意向もあっての事ですが、トーラー殿もおられますし、まぁ、大丈夫かと思っていたのです」
「あー・・・そっか、そうだよねー」
正式な辞令はまだのようであるが、リンドもまた軍の再編に於いて役職が上がるのは確実であり、またその能力からもより重要な立場になるのが確実視されている、現時点ではイフナースの副官として細々とした事務を担当し、また転送陣の管理もアフラと共に担っている、この場にあって最も忙しかったりする、しかしとなるとである、これはクロノスの下から離れるという事を意味しており、実際にそうなってしまってもいた、
「まぁ・・・あっ、あれが原因か・・・」
すぐに思い出すタロウ、なんだとタロウを睨む男達、
「いや、ほら、昨日か?寮にね、陛下とアンドリースさんとメインデルトさんが来てね・・・」
「・・・なんだそりゃ・・・」
「妙な組み合わせですな・・・いや、あっ、昨日ですな?」
「うん、ほれ、二人が引退云々?先に殿下と話したとかなんとかって」
「あぁ、確かにあの後か?」
「そうだね、トーラーさんがサツマイモ届けたでしょ」
「そうですな、寮に行かれたのでしたか・・・」
「あれは美味かった」
「それは聞いてねぇ」
ムッとイフナースとタロウを睨むルーツ、
「そのうち嫌ってなるほど食えるようになるよ、で、だ、そん時さ、クロノスが陛下に叱られちゃってね・・・」
エッと言葉を無くすリンドとイフナース、
「叱られたっていうか、けつを叩かれたっていうか・・・うん、ほら、殿下にも言ったとかなんとかって陛下から聞いてけど・・・政がどうのとか、だらしないとか?」
「あー・・・」
イフナースがムーと小首を傾げ、リンドがそれはまたと顔を顰める、
「なもんで、なんだっけ、まぁ、詳しい内容はあれだけどさ、クロノスってば珍しく考え込んでてさ」
「あれが?」
ルーツがハッと鼻で笑い、あれがと返すタロウ、
「だから・・・どうなんだろうね、トーラーさんが張り付いてるんであればトーラーさんに聞いてみれば?近況というか・・・状況?取り合えず?」
「そう・・・ですね・・・」
リンドがイフナースを見つめ、イフナースも確かになと頷いた、
「だから・・・まぁ、あれも少しは頭を使うって事を覚えないとね、そういう立場なんだしさ・・・ひでぇ表現だけど・・・もう、ほら、リンドさんに頼りきっりって訳にもいかなくなるんだろうし・・・」
やれやれと微笑むタロウ、
「まったくだ」
ガッハッハと笑うルーツ、そうだけどもと心配そうなリンド、ムーとイフナースは考え込んでしまい、ゲインは変わらず仏頂面でモフリと岩塩を振りかけたジャガイモに食い付いた。
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父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
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莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
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