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本編
84話 貴人の虜囚 その75
翌朝、
「だから、駄目でしょ」
「やだー、行くのー、これでいいのー、一緒に行くー」
生徒達が学園にむかい、エルマ達も出掛けようと一度事務所に戻って身支度を整えて戻って来た、ソフィアの叱責とそれに対抗するミナの叫び声が玄関先まで響き、あらまたなにかあったかなとミシェレとニコリーネが食堂を覗くと、
「駄目なものは駄目」
「ヤダッ、丁度いいのー、可愛いしー、ハナコも喜んでるー」
「あのね、可愛いのは分かるけど、喜んでいるようには見えないわよ」
「喜んでるー、ハナコが嬉しいーって言ったー」
「嘘おっしゃい」
「嘘じゃないー、ねー、ハナコー、嬉しいよねー、楽しいよねー」
ミナがたすき掛けにした小さな鞄に話しかける、鞄にはハナコがちんまりと収まって顔だけ出してヘッヘと舌を出していた、ありゃーそういう事かーと即座に察したミシェレとニコリーネ、ミナは朝食中にもニマニマと鞄を手放さず、ハナコを見つめてはほくそ笑んでいた、どうやらこういう事であったらしい、
「もう、駄目なのものは駄目、鞄だけにしなさい」
ムッとミナを睨みつけるソフィア、レインもやれやれと腰に手を当てミナを睨んでいる、
「やだー、だってー、ハナコは人気なのー、みんな喜ぶのー」
「それは分かるけど、いい、ハナコは遊び道具じゃないの、第一、そのまま歩いてミナが転んだらハナコは潰されちゃうのよ、ミナは痛いだけで済むけど、ハナコは大怪我するでしょ」
「大丈夫ー、ちゃんと歩くー」
「そういう問題じゃないの」
「ちゃんと歩けば大丈夫ー」
「ダーメ」
「ダメじゃないー」
ソフィアの叱責にも頑として譲らないミナ、アチャーとミシェレとニコリーネが顔を顰め、エルマもスッと顔を覗かせる、
「ほら、先生達を待たせちゃ駄目よ、ハナコを出しなさい」
「ヤダ、連れてくー」
「駄目」
「前は連れってたー」
「それはそれです、今日は駄目、それとそんな運び方をしたら危ないでしょ」
「だから、大丈夫ー」
「だから、駄目」
ムーと睨み合うソフィアとミナ、レインはまったくと呆れ顔で、ユーリはのんびりと湯呑を傾ける、朝から元気だなーなどと考えつつ、さて今日も忙しいんだよなーと暖炉を見つめた、
「・・・そっ、なら、連れて行っていいわよ」
根負けしたのかソフィアがやれやれと首を振る、
「イイノ?」
ピョンと跳ねるミナ、ハナコは鞄ごと持ち上げられフキュンと変な鳴き声を上げた、
「いいわよ、でもね、タロウさんには言うからね、ミナが言う事を聞かない悪い子だったって」
ギンと睨み下ろすソフィア、エッと絶句するミナ、
「明日は折角サイに会えるのにねー、言ってたでしょ、良い子にしていないと乗せてくれないって・・・」
ジーッとミナを見つめるソフィア、正直物で釣るような諭し方になり不愉快であった、しかしここはハナコの為にも譲る訳にはいかず、また教育の為にも宜しくない、汚い言い草だなと思いつつもサイとやらには餌になってもらおう、
「・・・言ってた・・・」
しまったと目を丸くするミナ、
「でしょー、言う事を聞かないミナは、良い子?悪い子?どっち?」
「・・・えー、でもー・・・」
「でもーじゃないの、いい、ちゃんと考えなさい、ハナコはまだ小さいんだから、外に連れていくのはもう少ししてからってエルマ先生も言ってるでしょ、散歩に行けるようになったら、連れて行ってもいいけど、そんな変な運び方をしたら駄目だし、ハナコも狭い所に入れられて苦しいのよ」
「・・・そうなのー?・・・」
ウーと呻いてハナコを覗き込むミナ、しかしどう見てもハナコは楽しそうに目を輝かせており、あまりにも丁度良い鞄である為、快適そうにすら見える、
「そうなの、ほら、出してあげなさい、ハナコはお留守番」
「・・・ウー・・・」
しかしミナはうずうずとして動き出さない、これはいよいよかとピクリとソフィアの手が動くも、
「・・・分かったー、ハナコー、お留守番だってー・・・」
渋々と鞄からハナコを持ち上げるミナ、ソッと床に下ろされるとブンブンと大きく尻尾を振って暖炉に向かうハナコである、どうやら寒かったらしい、
「ほら、見なさい」
「えー・・・ウー・・・」
悲しそうにハナコを見つめるミナ、なにが見なさいなんだろうかと自問するソフィア、いや、ここはなんでもいい、ミナに対してそれなりの言葉をかければそれで充分である、
「はい、じゃ、ほら、ちゃんとして、しっかりお勉強してきなさい」
ソフィアはミナの服を整え、何も入っていない鞄の蓋を閉じる、
「わかったー・・・ハナコー、ちゃんとお留守番しててねー・・・」
ムームーと呟きつつハナコを見つめるミナ、収まったようだと微笑むエルマとミシェレとニコリーネ、
「ほれ行くぞ」
レインがフンスと鼻を鳴らして先に立つ、
「ムー」
ミナがグズグズしていると、
「ミナちゃん行くよー」
ミシェレが明るく声をかけた、わかったーとやっと振り向くミナ、そうして何とかバタバタと玄関から人の気配が無くなった、やれやれとソフィアは溜息を吐く、
「お疲れさまー」
ニヤーと微笑むユーリ、
「そうねー、まぁ・・・気持ちは分かるんだけどねー、少し・・・違うかしらねー」
よろよろと腰を下ろすソフィアである、
「まぁねー」
ユーリが暖炉の前のハナコを見れば、ヌベーと寝ころびゴロゴロと右に左に転がってフヘーとうつぶせになった、
「眠かったのかな?」
思わず首を傾げてしまったユーリ、
「どうかしら?まぁ、いいわ」
フヌーと鼻息を荒くするソフィア、
「そうねー・・・あっ、あの鞄懐かしいわね」
「そう?」
「だって、あれ、冒険者始めた頃に買ったやつじゃなかった?」
「そうよ、覚えてた?」
「そりゃだって、随分とあれね、丈夫ね、まだまだ使えそうだわね」
「そりゃだって・・・高かったしねー」
「そうだっけ?」
「そうよー、あんた、そんなもの買うくらいなら肉食べようとかって言ってたじゃない」
「そんなの覚えてないわよ」
「別に覚えてなくていいわよ」
「そっ、なら忘れたわ」
「それでいいの」
ニヤリと微笑み合うユーリとソフィア、
「でもいいの?あれあげちゃって」
「ん、まぁ、別にね、私はほら、もう使わないだろうし、ミナには丁度いいかなって思ってね」
「確かにねー、フフッ、小さすぎて細々としたものばっかり入れてたわね」
「便利だったじゃない」
「それは分かるけど、虫除けの葉っぱやら塗り薬、虫下しやらでゴチャゴチャだったわ」
「それは覚えてるの?」
「そりゃだって、それなりに便利だったし・・・あれのおかげで生きていられるようなもんだし?随分と・・・乱暴に扱った気がするけどね」
「あら、なら、少しは感謝しなさいよ」
「お互い様だわ」
「まったくだわね」
ソフィアが湯呑に手を伸ばし白湯を注いで口に運んだ、
「フー・・・」
とソフィアが一息ついた瞬間、
「で、あんた、講師の件どうするの?」
ニマーと微笑むユーリ、ムッと睨み返すソフィア、
「・・・どうするのって言われても・・・私には向かないと思うわよ・・・」
「それは前も聞いたから」
「なら、そういう事」
「そう言わないの、結構、上手よ、あんたは」
「なにが?」
「人に教えるの」
「だから、苦手なの」
「苦手だからって下手って訳じゃないじゃない」
「変な言い草ねー」
「そういうものでしょ、何も世の中の人、全部が全部、好きで得意な仕事をしている訳じゃないもの、特に都会の生活なんてね、出来る仕事をやるしかないんだから、田舎だってね、結局やるべき事をやるってだけで、それが好きか得意かなんて関係ないでしょ、贅沢言わないの」
「今更そんな事言われる筋合いはないわよ」
「あるわよ、いつまでもダラダラやってないでさ、少しはやる気を出しなさい」
ジーッとソフィアを見つめるユーリ、普段のおちゃらけた雰囲気は微塵も感じられない、
「だから、それも前に言ってるでしょ、私はこの程度が性に合ってるの」
「いつまでそんな事言ってるのよ、もう学園長にも偉い人達にもバレバレなんだから、誤魔化せる段階はとっくに過ぎてるのよ」
「・・・何よそれ・・・」
「事実よ」
ニヘーと微笑むユーリ、ムーと睨み返すソフィア、
「だから、まぁ、ほら、学園長がね・・・いきなり講師もあれだからさ、神聖医学科の助手って感じで始めてはどうかって譲歩してくれたのよ」
「それって譲歩っていうの?」
「いきなり講師をやる?」
「それは嫌」
「なら、助手から始めなさい」
「それもなんか嫌」
「嫌嫌言わないでよ、助手っていってもあれよ、ルオン先生とバルテル先生の下っていうか指導っていう感じから始めたらってなってね、あの二人ならあんたも仲良くやれるでしょ、二人共積極的だし、生真面目だし、知らない仲とは言わせないし」
「仲良くって・・・まぁ、確かにね、どっちも良い先生だと思うわよ、多分だけど・・・」
「でしょー、で、二人を鍛えてあげてよ、で、ついでに生徒にもさ、指導してやって、ケイスさんを特にね」
「・・・そうやってあれでしょ、徐々に私を取り込もうってんでしょ」
「何言ってるの、こうして面と向かって堂々と取り込もうとしてるじゃない」
「・・・それもそうか・・・」
「そういう事よ、何も影でこそこそするつもりは無いし・・・でも、あれかな、医学科の生徒って貴族が多いからな・・・それでケイスさんが除け者みたくなってる感じらしいし」
「それは・・・前にも聞いたかしら?」
「でしょうね、ルオン先生も言ってたけど、まぁ、ケイスさんほどの才能ある生徒をね、潰さなかっただけいいわよね・・・いや、そこはあれか、ケイスさんの胆力が勝ったって感じなのかな?芯の強い子よね・・・大したもんだわ・・・まぁ、ほら、それにね、世の中の事を考えればやっぱりあれね、平民の医者を増やすのも大事だと思うしね、医者はどうしても頭が良くないと駄目だし、育成に時間がかかるからってのがあるけど、苦労を知らない貴族がやる仕事ではないような気もするのよねー」
「それは同意だわ、昔散々嫌な思いしたしね」
「そうそう、金だけ高くてまーるで効果が無くてね」
「痛い目見たもんだわ・・・」
「でしょー、それをね、少しでも良くしないとね、王国の発展もないってもんで」
「なによ、貴族みたいな事言わないでよ」
「別にいいでしょ、今更よ」
「今更ってなによ?」
「だって・・・私も講師になってね、生徒達を相手にするとどうしても偉そうなことばかり言っちゃうもんでね、後からどこの何様なんだろうって思う事もあったしね、そういうものよ、どうしてもほら、生徒達の先を考えるとね、どんどん・・・なんて言うか、視点が大きく広くなっていく感じなのよ」
「そりゃまた素晴らしいわね」
フンと鼻で笑うソフィア、
「笑ってなさい、あんたも経験すれば分かるわよ」
「経験するつもりは無いかしら?」
「だから・・・まぁいいわ、で、どうする?せめて助手の仕事くらいは受けなさい、この寮に関してはティルとミーンさんが来てくれてればなんとでもなるでしょ」
「そうだけど、だって、そうなるとなんか違わない?いっその事二人を寮母として雇ってさ、私はお役御免ってするのが正しいわよ」
「確かにそれが正しいだろうけど、そうしたらなに?あんた講師になるの?」
「それはだって・・・田舎に戻ろうかしら?」
「今更?」
「今更って事は無いわよ、私はのんびりしたいのよ」
「こんなに騒がしいのに?あんたも楽しんでるでしょ」
「それはだって・・・そうだけど・・・」
「でしょう?第一タロウが来るまではアンタに振り回されてたんだから、生徒達も私もね、何がのんびりしたいよ、こっちの台詞だわ」
「なっ・・・別に振り回してないでしょ」
「振り回されてたわよ、エレインさん達だって、あんたが吹き込んだから商会まで設立したのよ、それはそれで悪くないし、本人達としても良い結果になっていると思うけど、タロウが来たらそれがより酷くなった感じ?」
「それはだって・・・昔からじゃない」
「そうなのよねー・・・あれはああいう人なのよね・・・」
「ああいう人なのよ」
「まったく、似たもの夫婦ってよく言うけど、あんたらの事だわ」
「悪かったわね」
「悪くは無いわよ、面倒なだけー」
「悪いじゃない」
「私は結構楽しんでるわよ」
「それは結構な事だわ」
「でしょー・・・」
ニヤーと余裕の笑みを浮かべるユーリ、その割にはギャンギャンとうるさいよなーと目を細めるソフィア、そこへ、
「おはようございます」
と階段からそろっとサビナが顔を出す、
「おはよー、早いわねー」
ニコリと微笑むソフィア、
「どした?」
ユーリがスッと振り返る、
「どしたもなにも、朝から準備だって昨日決まったでしょ・・・って、所長なんですその頭・・・」
ムーとユーリを睨むサビナ、アッと頭に手を伸ばすユーリ、まだ髪を整えてもいなければ顔も洗っていなかった、
「あー・・・じゃ、動くかー・・・」
ユーリは溜息交じりで立ち上がると、
「じゃ、そういう事で、あんたの都合に合わせるからね、考えておきなさい」
朝食のトレーを配膳台に置いた、
「ちょっとだけね」
フンと鼻を鳴らすソフィア、
「なによそれ」
「ちょっとだけ考えてあげるって事」
「そっ、それでいいわ」
ニヤーと微笑み、
「じゃ、なんだっけー」
とユーリが階段へ向かう、
「その前に、しっかりしてください」
ムッとサビナに睨まれ、ハイハイと空返事で微笑むユーリであった。
「だから、駄目でしょ」
「やだー、行くのー、これでいいのー、一緒に行くー」
生徒達が学園にむかい、エルマ達も出掛けようと一度事務所に戻って身支度を整えて戻って来た、ソフィアの叱責とそれに対抗するミナの叫び声が玄関先まで響き、あらまたなにかあったかなとミシェレとニコリーネが食堂を覗くと、
「駄目なものは駄目」
「ヤダッ、丁度いいのー、可愛いしー、ハナコも喜んでるー」
「あのね、可愛いのは分かるけど、喜んでいるようには見えないわよ」
「喜んでるー、ハナコが嬉しいーって言ったー」
「嘘おっしゃい」
「嘘じゃないー、ねー、ハナコー、嬉しいよねー、楽しいよねー」
ミナがたすき掛けにした小さな鞄に話しかける、鞄にはハナコがちんまりと収まって顔だけ出してヘッヘと舌を出していた、ありゃーそういう事かーと即座に察したミシェレとニコリーネ、ミナは朝食中にもニマニマと鞄を手放さず、ハナコを見つめてはほくそ笑んでいた、どうやらこういう事であったらしい、
「もう、駄目なのものは駄目、鞄だけにしなさい」
ムッとミナを睨みつけるソフィア、レインもやれやれと腰に手を当てミナを睨んでいる、
「やだー、だってー、ハナコは人気なのー、みんな喜ぶのー」
「それは分かるけど、いい、ハナコは遊び道具じゃないの、第一、そのまま歩いてミナが転んだらハナコは潰されちゃうのよ、ミナは痛いだけで済むけど、ハナコは大怪我するでしょ」
「大丈夫ー、ちゃんと歩くー」
「そういう問題じゃないの」
「ちゃんと歩けば大丈夫ー」
「ダーメ」
「ダメじゃないー」
ソフィアの叱責にも頑として譲らないミナ、アチャーとミシェレとニコリーネが顔を顰め、エルマもスッと顔を覗かせる、
「ほら、先生達を待たせちゃ駄目よ、ハナコを出しなさい」
「ヤダ、連れてくー」
「駄目」
「前は連れってたー」
「それはそれです、今日は駄目、それとそんな運び方をしたら危ないでしょ」
「だから、大丈夫ー」
「だから、駄目」
ムーと睨み合うソフィアとミナ、レインはまったくと呆れ顔で、ユーリはのんびりと湯呑を傾ける、朝から元気だなーなどと考えつつ、さて今日も忙しいんだよなーと暖炉を見つめた、
「・・・そっ、なら、連れて行っていいわよ」
根負けしたのかソフィアがやれやれと首を振る、
「イイノ?」
ピョンと跳ねるミナ、ハナコは鞄ごと持ち上げられフキュンと変な鳴き声を上げた、
「いいわよ、でもね、タロウさんには言うからね、ミナが言う事を聞かない悪い子だったって」
ギンと睨み下ろすソフィア、エッと絶句するミナ、
「明日は折角サイに会えるのにねー、言ってたでしょ、良い子にしていないと乗せてくれないって・・・」
ジーッとミナを見つめるソフィア、正直物で釣るような諭し方になり不愉快であった、しかしここはハナコの為にも譲る訳にはいかず、また教育の為にも宜しくない、汚い言い草だなと思いつつもサイとやらには餌になってもらおう、
「・・・言ってた・・・」
しまったと目を丸くするミナ、
「でしょー、言う事を聞かないミナは、良い子?悪い子?どっち?」
「・・・えー、でもー・・・」
「でもーじゃないの、いい、ちゃんと考えなさい、ハナコはまだ小さいんだから、外に連れていくのはもう少ししてからってエルマ先生も言ってるでしょ、散歩に行けるようになったら、連れて行ってもいいけど、そんな変な運び方をしたら駄目だし、ハナコも狭い所に入れられて苦しいのよ」
「・・・そうなのー?・・・」
ウーと呻いてハナコを覗き込むミナ、しかしどう見てもハナコは楽しそうに目を輝かせており、あまりにも丁度良い鞄である為、快適そうにすら見える、
「そうなの、ほら、出してあげなさい、ハナコはお留守番」
「・・・ウー・・・」
しかしミナはうずうずとして動き出さない、これはいよいよかとピクリとソフィアの手が動くも、
「・・・分かったー、ハナコー、お留守番だってー・・・」
渋々と鞄からハナコを持ち上げるミナ、ソッと床に下ろされるとブンブンと大きく尻尾を振って暖炉に向かうハナコである、どうやら寒かったらしい、
「ほら、見なさい」
「えー・・・ウー・・・」
悲しそうにハナコを見つめるミナ、なにが見なさいなんだろうかと自問するソフィア、いや、ここはなんでもいい、ミナに対してそれなりの言葉をかければそれで充分である、
「はい、じゃ、ほら、ちゃんとして、しっかりお勉強してきなさい」
ソフィアはミナの服を整え、何も入っていない鞄の蓋を閉じる、
「わかったー・・・ハナコー、ちゃんとお留守番しててねー・・・」
ムームーと呟きつつハナコを見つめるミナ、収まったようだと微笑むエルマとミシェレとニコリーネ、
「ほれ行くぞ」
レインがフンスと鼻を鳴らして先に立つ、
「ムー」
ミナがグズグズしていると、
「ミナちゃん行くよー」
ミシェレが明るく声をかけた、わかったーとやっと振り向くミナ、そうして何とかバタバタと玄関から人の気配が無くなった、やれやれとソフィアは溜息を吐く、
「お疲れさまー」
ニヤーと微笑むユーリ、
「そうねー、まぁ・・・気持ちは分かるんだけどねー、少し・・・違うかしらねー」
よろよろと腰を下ろすソフィアである、
「まぁねー」
ユーリが暖炉の前のハナコを見れば、ヌベーと寝ころびゴロゴロと右に左に転がってフヘーとうつぶせになった、
「眠かったのかな?」
思わず首を傾げてしまったユーリ、
「どうかしら?まぁ、いいわ」
フヌーと鼻息を荒くするソフィア、
「そうねー・・・あっ、あの鞄懐かしいわね」
「そう?」
「だって、あれ、冒険者始めた頃に買ったやつじゃなかった?」
「そうよ、覚えてた?」
「そりゃだって、随分とあれね、丈夫ね、まだまだ使えそうだわね」
「そりゃだって・・・高かったしねー」
「そうだっけ?」
「そうよー、あんた、そんなもの買うくらいなら肉食べようとかって言ってたじゃない」
「そんなの覚えてないわよ」
「別に覚えてなくていいわよ」
「そっ、なら忘れたわ」
「それでいいの」
ニヤリと微笑み合うユーリとソフィア、
「でもいいの?あれあげちゃって」
「ん、まぁ、別にね、私はほら、もう使わないだろうし、ミナには丁度いいかなって思ってね」
「確かにねー、フフッ、小さすぎて細々としたものばっかり入れてたわね」
「便利だったじゃない」
「それは分かるけど、虫除けの葉っぱやら塗り薬、虫下しやらでゴチャゴチャだったわ」
「それは覚えてるの?」
「そりゃだって、それなりに便利だったし・・・あれのおかげで生きていられるようなもんだし?随分と・・・乱暴に扱った気がするけどね」
「あら、なら、少しは感謝しなさいよ」
「お互い様だわ」
「まったくだわね」
ソフィアが湯呑に手を伸ばし白湯を注いで口に運んだ、
「フー・・・」
とソフィアが一息ついた瞬間、
「で、あんた、講師の件どうするの?」
ニマーと微笑むユーリ、ムッと睨み返すソフィア、
「・・・どうするのって言われても・・・私には向かないと思うわよ・・・」
「それは前も聞いたから」
「なら、そういう事」
「そう言わないの、結構、上手よ、あんたは」
「なにが?」
「人に教えるの」
「だから、苦手なの」
「苦手だからって下手って訳じゃないじゃない」
「変な言い草ねー」
「そういうものでしょ、何も世の中の人、全部が全部、好きで得意な仕事をしている訳じゃないもの、特に都会の生活なんてね、出来る仕事をやるしかないんだから、田舎だってね、結局やるべき事をやるってだけで、それが好きか得意かなんて関係ないでしょ、贅沢言わないの」
「今更そんな事言われる筋合いはないわよ」
「あるわよ、いつまでもダラダラやってないでさ、少しはやる気を出しなさい」
ジーッとソフィアを見つめるユーリ、普段のおちゃらけた雰囲気は微塵も感じられない、
「だから、それも前に言ってるでしょ、私はこの程度が性に合ってるの」
「いつまでそんな事言ってるのよ、もう学園長にも偉い人達にもバレバレなんだから、誤魔化せる段階はとっくに過ぎてるのよ」
「・・・何よそれ・・・」
「事実よ」
ニヘーと微笑むユーリ、ムーと睨み返すソフィア、
「だから、まぁ、ほら、学園長がね・・・いきなり講師もあれだからさ、神聖医学科の助手って感じで始めてはどうかって譲歩してくれたのよ」
「それって譲歩っていうの?」
「いきなり講師をやる?」
「それは嫌」
「なら、助手から始めなさい」
「それもなんか嫌」
「嫌嫌言わないでよ、助手っていってもあれよ、ルオン先生とバルテル先生の下っていうか指導っていう感じから始めたらってなってね、あの二人ならあんたも仲良くやれるでしょ、二人共積極的だし、生真面目だし、知らない仲とは言わせないし」
「仲良くって・・・まぁ、確かにね、どっちも良い先生だと思うわよ、多分だけど・・・」
「でしょー、で、二人を鍛えてあげてよ、で、ついでに生徒にもさ、指導してやって、ケイスさんを特にね」
「・・・そうやってあれでしょ、徐々に私を取り込もうってんでしょ」
「何言ってるの、こうして面と向かって堂々と取り込もうとしてるじゃない」
「・・・それもそうか・・・」
「そういう事よ、何も影でこそこそするつもりは無いし・・・でも、あれかな、医学科の生徒って貴族が多いからな・・・それでケイスさんが除け者みたくなってる感じらしいし」
「それは・・・前にも聞いたかしら?」
「でしょうね、ルオン先生も言ってたけど、まぁ、ケイスさんほどの才能ある生徒をね、潰さなかっただけいいわよね・・・いや、そこはあれか、ケイスさんの胆力が勝ったって感じなのかな?芯の強い子よね・・・大したもんだわ・・・まぁ、ほら、それにね、世の中の事を考えればやっぱりあれね、平民の医者を増やすのも大事だと思うしね、医者はどうしても頭が良くないと駄目だし、育成に時間がかかるからってのがあるけど、苦労を知らない貴族がやる仕事ではないような気もするのよねー」
「それは同意だわ、昔散々嫌な思いしたしね」
「そうそう、金だけ高くてまーるで効果が無くてね」
「痛い目見たもんだわ・・・」
「でしょー、それをね、少しでも良くしないとね、王国の発展もないってもんで」
「なによ、貴族みたいな事言わないでよ」
「別にいいでしょ、今更よ」
「今更ってなによ?」
「だって・・・私も講師になってね、生徒達を相手にするとどうしても偉そうなことばかり言っちゃうもんでね、後からどこの何様なんだろうって思う事もあったしね、そういうものよ、どうしてもほら、生徒達の先を考えるとね、どんどん・・・なんて言うか、視点が大きく広くなっていく感じなのよ」
「そりゃまた素晴らしいわね」
フンと鼻で笑うソフィア、
「笑ってなさい、あんたも経験すれば分かるわよ」
「経験するつもりは無いかしら?」
「だから・・・まぁいいわ、で、どうする?せめて助手の仕事くらいは受けなさい、この寮に関してはティルとミーンさんが来てくれてればなんとでもなるでしょ」
「そうだけど、だって、そうなるとなんか違わない?いっその事二人を寮母として雇ってさ、私はお役御免ってするのが正しいわよ」
「確かにそれが正しいだろうけど、そうしたらなに?あんた講師になるの?」
「それはだって・・・田舎に戻ろうかしら?」
「今更?」
「今更って事は無いわよ、私はのんびりしたいのよ」
「こんなに騒がしいのに?あんたも楽しんでるでしょ」
「それはだって・・・そうだけど・・・」
「でしょう?第一タロウが来るまではアンタに振り回されてたんだから、生徒達も私もね、何がのんびりしたいよ、こっちの台詞だわ」
「なっ・・・別に振り回してないでしょ」
「振り回されてたわよ、エレインさん達だって、あんたが吹き込んだから商会まで設立したのよ、それはそれで悪くないし、本人達としても良い結果になっていると思うけど、タロウが来たらそれがより酷くなった感じ?」
「それはだって・・・昔からじゃない」
「そうなのよねー・・・あれはああいう人なのよね・・・」
「ああいう人なのよ」
「まったく、似たもの夫婦ってよく言うけど、あんたらの事だわ」
「悪かったわね」
「悪くは無いわよ、面倒なだけー」
「悪いじゃない」
「私は結構楽しんでるわよ」
「それは結構な事だわ」
「でしょー・・・」
ニヤーと余裕の笑みを浮かべるユーリ、その割にはギャンギャンとうるさいよなーと目を細めるソフィア、そこへ、
「おはようございます」
と階段からそろっとサビナが顔を出す、
「おはよー、早いわねー」
ニコリと微笑むソフィア、
「どした?」
ユーリがスッと振り返る、
「どしたもなにも、朝から準備だって昨日決まったでしょ・・・って、所長なんですその頭・・・」
ムーとユーリを睨むサビナ、アッと頭に手を伸ばすユーリ、まだ髪を整えてもいなければ顔も洗っていなかった、
「あー・・・じゃ、動くかー・・・」
ユーリは溜息交じりで立ち上がると、
「じゃ、そういう事で、あんたの都合に合わせるからね、考えておきなさい」
朝食のトレーを配膳台に置いた、
「ちょっとだけね」
フンと鼻を鳴らすソフィア、
「なによそれ」
「ちょっとだけ考えてあげるって事」
「そっ、それでいいわ」
ニヤーと微笑み、
「じゃ、なんだっけー」
とユーリが階段へ向かう、
「その前に、しっかりしてください」
ムッとサビナに睨まれ、ハイハイと空返事で微笑むユーリであった。
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いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
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1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。