セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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21話 美容の師匠は鏡の前に その5

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翌日、午前の早い時間になるとダナが来寮した、

「あの、これは?」

玄関口であっけにとられるも、ソフィアの適当な説明で何とか理解すると足を拭いてスリッパを履く、

「おお、これは良いですね」

とニコニコと笑顔になって食堂に入り、鏡に気付いて絶句した、

「あー、すごいでしょ」

とソフィアは誤魔化し笑いを浮かべるが、ダナは凍り付いて動けなくなってしまう、

「えっと、これは?」

やっと動いたダナの口からは短い疑問が吐き出された、それから打合せはそっちのけで鏡の前に座るダナ、そこへカトカとサビナが入って来ると、その容姿の変貌ぶりに悲鳴に似た嬌声を上げた、

「あー、そうですよねー」

三人は笑いあうがダナはどういう事なのかと真剣な目で三人を見る、

「ま、しょうがないか」

とソフィアが簡単に説明すると、

「ユーリ先生ですね、今は授業中ですか、分かりました、連れてきます」

燃えるような瞳である、

「そうね、そうして貰ってもいいわよ」

ソフィアは苦笑いを浮かべつつ、

「で、お仕事は?」

と問うと、

「あ、そうですね」

ダナは鏡の前から何とかその身を引き剥がしつつ、革袋を探る、そして、予算関係の打ち合わせを済ませ、

「で、今後の学園の行事と新しい寮生の受け入れ、それから冬支度なんですが」

ダナはチラチラと鏡を見ながらも話しを進める、

「えーと、ですね、まずは大事なのは今月の30日に進級試験があります」

「あら、近いじゃない」

今日は20日である、

「はい、なので、その点を寮母さんには認識して欲しいかなと思います、特にこの寮では仕事をしている生徒さんも、というか全員が仕事してますので、学業を優先するようにさせて下さい」

「確かにそうね、進級試験でしょ、進級できないとどうなるの?」

「留年ですね」

「留年?」

「はい、本校の場合は半年分の留年となりまして半学年下の学級に移る事になります、その分卒業が遅れますし、御実家にはその旨通達されます」

「あら、一大事ね」

「ですね、ですので、仕事を言い訳にしてそのような事態にならないよう、指導をお願いしたいところです、ま、ユーリ先生が同居してますので、その点は先生に一任されても宜しいかなとも思いますが」

「そうか、そうね、うん、ユーリに任せつつ私も気を付けるわ、エレインさんにも言っておかないとね」

「はい、で、その後、夏期講習が入ります、現場研修と言った方が理解は早いと思いますが、これが34日~38日ですね」

「へー、何するの?」

「ホーイ湖畔で自給自足の実践講習ですね、実技試験も兼ねておりますが、こちらでは留年とはなりません」

「面白そー」

「楽しいですよ、大人数で行きますからね、現場研修とか講習とか実技試験とか名目は立派ですが、やってることは集団キャンプです、街中では出来ない事を野山で実践する事が目的になってます」

「なるほどね」

「はい、で、対象はこの寮だと、エレインさんとオリビアさん以外・・・ジャネットさんとケイスさんですね、それとユーリ先生も同行されると思うので、その点御理解下さい」

「エレインさんはいいとしても、オリビアさん・・・あ、メイドさんには必要無いのか」

「端的に言えばそうですね、ジャネットさんは戦術科ですし、ケイスさんは医学部なので強制参加です」

「そっか、えっと、34日~38日ね」

とソフィアは壁の黒板の端にメモを取る、

「はい、学園の行事はそんな所で、それで」

ダナはごそごそと革袋を漁って木簡を取り出すと、

「えーと、来月の30日に卒業式、この寮には卒業生はいないですね、その後31日~40日迄は秋休みとなります」

「学園が全休になるの?」

「生徒達は休みですね、翌9月の1日が秋入学になりますので、職員達はその受け入れでてんやわんやです」

とダナは笑顔になり、

「ですので、その秋休みの間に新しい寮生が入寮する事になります」

「なるほど、そっか、そうだよね、新しい生徒さんも来るんだね」

「はい、現状空いている部屋は・・・7部屋・・・かな?合ってます?」

「えっと」

ソフィアは首を傾げて、指折り数えると、

「1階が5部屋、2階が2部屋か、3階はまるっと使えないから、うん、7部屋ね」

「そうなると、恐らくですが5人くらいかな?先方の予算もあるので、新規の寮生はそれくらいになると思いますが、調整はこれからですね、どうでしょう作業量的には受け入れられそうですか?」

「追加で5人か・・・ま、大丈夫そうね、あれかしら、生徒達に手伝わせているのって駄目かしら?」

「あー、学園としては学業に支障が出なければ黙認・・・というか、生活科の生徒さんとかは実践学習の良い機会でもありますし、女子寮ですからね、家事については男子以上に熟せないと駄目な風潮はありますから、場合と内容によると思います」

「そっか、そうね、うん、その点は注意しましょう、すると、あれ?生徒ってもう決まってるの?」

「試験は終わってます、通知も済んでますんで、あとは先方さんの都合次第ですかね」

「なるほど、分かりました、その時になって慌てないように準備しておくってことね?」

「はい、そういう事です」

ダナは笑みし、

「こちらで準備するものはこんな感じです、有る物はそれを使って下さい、足りない物や使えない物があれば相談下さい」

と別の木簡をソフィアの前に置いた、

「ふんふん、はい、分かりました、これは頂ける?」

「どうぞ、お使い下さい、で、次が」

ダナはさらに木簡を引っ張り出すと、

「冬支度なんですが」

とソフィアとダナの打合せは続き、やがて、ソフィアが概ねを了解して終わりとなった、

「あの、もう少し居てもいいですか?」

ダナはソワソワと鏡を見ている、

「いいわよ、あ、でも、あれよ、他言は絶対にしないでね、ダナさんには特別よ」

ソフィアがにやりと笑みすると、

「勿論です」

言うが早いかダナは立ち上がり鏡の前に居座った、

「はー、えー、なんかー、えー」

マジマジと自分の顔を観察しつつ、鏡に顔を近付ける、

「あー、皆、同じよねー」

とソフィアは苦笑して、

「白湯持ってくるわね、ごゆっくり」

と席を立つのであった。



夕刻になるとダナがニコニコとユーリと共に3階から下りて来た、

「あら、捕まったの?」

とソフィアが顔を上げると、

「昔の生徒に頼まれちゃぁねー、無碍にも断れないじゃない」

とユーリは渋々といった感を出すが、満更でもない様子である、

「あら?打合せ?」

ソフィアと同じテーブルにはエレインとサビナが座っている、

「はい、例の箱の相談ですね」

サビナが答えると、

「あ、そうよね、エレインさん、御協力お願いね」

「勿論です、師匠、喜んで協力しますわ」

「わ、エレインさんも、綺麗で可愛いー、お人形さんみたい・・・」

ダナは陶然とエレインを見る、

「ふふ、師匠のお陰ですわ」

と微笑むエレイン、

「なるほど、師匠ですか、いいですね、師匠宜しくお願い致します」

ダナはそそくさと鏡の前に座る、

「もう、師匠はもういいわ、次そう呼んだら2度とやってやらないからね」

ユーリは鼻息を荒くするが、

「えー、師匠は師匠ですよー、もう、それ以外無いですわ」

「そうですよ、所長、名誉の称号じゃないですか、甘んじて受けるべきです」

「そうよね、先生としては今一つどころか尊敬される事はまず無いだろうけど、美容の師匠となれば話しは変わるわよね」

と三者三葉に喚きたてた、

「ソフィア、あんたが一番辛辣よ、なに?喧嘩売ってるの?」

ユーリは頬を引くつかせてソフィアを睨む、

「なによ、事実じゃないの」

「・・・はー、もう、でも師匠は止めて、むず痒いわ」

そう言ってダナの背後に立つと化粧道具をテーブルに並べ、

「さて、ダナはどうかな?綺麗な金髪なのよね、それと顔も面長だし・・・」

とダナの髪を静かに梳き始めた、

「へへ、宜しくお願いします、し・・・じゃなかった先生」

「うん、宜しい、じゃ、毛先を整えて、あ、ソフィア、シーツ借りていい?」

「持ってくるわ、ついでにお湯を沸かしてあげるから洗髪もしていきなさい」

「そうね、ふふん、これでダナも正式なソフィア一派の一員ね、秘密は厳守よ、イイ女は秘密を溜め込むものなのだからね」

「なによその一派って?」

ソフィアがムッとしてユーリを睨みつつ倉庫へ入る、

「あー、いいですねソフィア一派、カシュパル一派?ソフィア一派の方が言い易いですわね」

エレインがほくそ笑み、

「そうなるとあれですか、首領はソフィアさんで、副首領が所長みたいな?」

サビナが調子にのって笑う、

「もー、お前らは―」

ユーリが鏡越しに睨むと、

「えー、言い出しっぺは先生ですよー」

「そうそう、師匠が嫌なら副首領で如何です?」

「まったく、調子にのちゃってー」

ユーリの嫌そうな顔に二人は笑い声を上げ、ダナは何とか笑いを堪えるのであった。
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