セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

25話 銀色の作法 その8

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エレインが壁の黒板を背にして、

「さて、レアン様、改めて戦略を練りましょう」

ニヤリと笑みする、

「うむ、真面目にやるか」

レアンは諦めた顔でエレインに向き直り、ライニールはどこか安堵したように吐息を吐いた、

「先程、ライニールさんとオリビアを交えて意見を出し合いまして、大きく分けるとこのような分野になるかと思います」

エレインが黒板に向かい、商品開発、食事作法の開発、料理の工夫、と書きつけた、

「商品開発はそのものずばりですね、お嬢様とライニール様考案になります、フォークとスプーン、ナイフの3点セットです、これは銀を使った品になるかと思いますが、貴族趣味に則った意匠を念頭に置いた品になるかと思います」

「うむ、それは理解している、統一した意匠というのが難しい面もあるが、職人達もそうだが芸術家達に協力させても宜しかろうな」

レアンは腕組みをして頷いて見せた、急に声音を変えたレアンにミナはムーと不機嫌な顔になる、

「そうですね、次にこれはほぼ一緒と思っても良いかと思いますが、食事作法の確立とその際の料理の工夫ですね・・・これはライニールさんに説明お願いしましょうか」

エレインが目配せするとライニールがスッと立ち上がり、黒板の前へ進み出る、

「先日から何度かお話しております通り・・・」

ライニールは何度目かになるか分らない貴族の食事風景の問題点とその仕草に関する事を熱っぽく語り、

「その上でエレイン様とのお話合いでよりその問題点が顕になったかと思うのですね、つまり、この2点です」

黒板を差して一息吐いた、

「もう何度も聞いておるわ、で、どうしたのじゃ」

レアンは眉根を寄せるが、ソフィアはへーと面白そうに傾聴している、

「はい、これはお嬢様も御存知の事と察しておりますが、クレオノート家は大戦時弱兵として謗られておりました、これは、開祖から続く、民を栄え、民を活かす、との領地経営の信念の下の結果であります」

そこからライニールはクレオノート家の現状と他貴族からの評判をあげつらった、要約すると、クレオノート家は市民から徴収する税を王国税と同等とする事によって市民生活を豊かにし、大戦時には王国軍の食糧庫として国を支えた、しかし、税収が少ない事と、戦時徴兵等も行わかなった為、兵は最低限度の防衛力しか維持しておらず、それにより兵を戦線に送る事は殆ど無かったのだそうである、その為、他領からの非難の声も大きく聞こえていたが、現領主カラミッドは、頑として信念を曲げず、兵を送る代わりに兵糧を提供し、戦線を維持する為に領内問わず駆けずり回ったそうである、結果、王国軍は魔軍を退去させる事に成功し、魔軍に侵略された土地は北ヘルデルとして英雄クロノスの直轄領として復興しつつあるのである、

「そこで、この食事作法と料理です、これは、現在までのどの貴族も気付かなかった新しい価値観であると思います、これをクレオノート家の名前の下に王国へ広めるのです、そうする事によってクレオノート領が、このモニケンダムが新しい文化発信地になる、それは強兵を持って名をなさしめる以上の価値があると確信する所であるのです」

ライニールは鼻息を荒くして一旦言葉を区切ると、

「では具体的な内容になっていくのですが、現状、貴族の食事も平民の食事も大きくは変わりません、これはエレイン様やオリビアさんにも確認したのですが、王都の方でも似たようなものであるとの事です、大皿に焼いた肉、籠に持ったパン、野菜のスープ、それに調味料が幾つか、貴族は良い食事をしていると我々平民は思っておりますが、実際は、皿が豪華なだけで中身は変わらないのですね、さらに食事風景を見ても、これまた大きくは変わりません、肉を切るためのナイフで雑に肉を切り分け、スプーンでスープを飲み、パンは千切ってスープに浸ける、さらにそれらは手掴みであるのです、うん、同じです、平民と貴族に変わりはありません」

「それはそうであろう、食事とはそういうものだ」

レアンは嫌そうにライニールを睨む、

「いいえ、もっと優雅に美しく熟せる筈なのです、お嬢様、ユスティーナ様がお茶を飲む姿が美しいと思った事はありませんか?」

「む」

とレアンは口元を引き締めた、

「私は快復なされてからのユスティーナ様の所作はまさに貴族の見本と思っておりますが、お茶の席もそうですし、普段からの立ち居振る舞いもまた優雅で気品のあるものです、ですが、食事の際だけはなんとも美しく無い、お茶を楽しんでいらっしゃる時はあれほど優雅であるのにです、そこで」

ライニールは咳払いをする、

「これはあくまで会食の際にこうすれば良いのではないかとの案なのですが、まず食材に直接手を触れる事のないようにする事、その為には3種の道具、フォークとスプーンそれからナイフを活用する事ですね、次に料理です、これも、3種の道具を使いやすいような料理に変える事です、さらにその提供方法です、全ての料理を卓上に広げるのではなく適した量を給仕していく形にするのです、如何でしょう、想像できますでしょうか」

ライニールは黒板に追記していった、カッカッと力強い白墨の音が響く、

「すごいな、そこまで考えておったのか」

レアンは素直に驚いている、

「はい、ですが、そうですね、半分はエレイン様とオリビアさんの発案です」

ニコリとライニールは笑みする、

「そうか、なるほどな、うん、これは」

とレアンは沈思した、ライニールは喋り続けて疲れたのか大きく吐息を吐き、エレインとオリビアは静かにレアンの表情を伺っている、

「面白そうね」

不意にソフィアがポツリと言った、

「そう、思うかの?」

レアンがソフィアを見る、

「ええ、実に面白いと思いますよ、料理を小分けにして提供するなんて、上品じゃないですか」

ソフィアは楽しそうに黒板をみつめ、

「私も常々思ってはいたのです、それと以前食されたスペシャルセット?でしたっけ?」

ソフィアがエレインに問う、

「はい、あ、あの、貴族様用のブロンパンとケーキとアイスの盛り合わせですよね」

エレインがそう答えると、

「はい、あれです、あれなどは見た目が大変よろしかった、華やかで可愛らしくて食べるのが申し訳ないくらい、私はほら見ただけなんですけどね」

ソフィアは笑いつつ、

「つまり、あのように飾り付けた品を会食の様子を見ながら逐次提供していくと・・・そう考えますと、どうでしょう?」

レアンに問いかける、

「・・・なるほど、それは、楽しいな、華やかな料理で目を引きつつ味も良い、食事そのものをより楽しめるようになる・・・かもしれんな」

「はい、そうですね、最初は軽い品から、スープでお口を潤して、次にサラダかしら?それから軽い・・・そうですね、焼いたお魚、次に焼いたお肉、そしてパン、これは調理の仕方に一考が必要でしょうが、そして最後に甘味ですね、アイスケーキ等で締めとする、恐らくですがそれぞれの皿はそれぞれに美しく盛られ、そして食べやすい調理方法が取られ、さらに食べやすい大きさになっているとしたら、会食も楽しくなるのではないですか?あ、勿論、一番大事なのは味ですが」

ソフィアの補足にレアンはさらに沈思し、やがて、

「・・・なるほどな、うん、面白いな、それと・・・食べてみたいな」

レアンのその一言に一同はそうですねと同意を表した、

「では、次に物語についてです」

エレインがライニールに変わって黒板の前に立つ、

「うむ、聞こう」

レアンはすっかりと乗り気である、

「この場合の物語とは、戦略の流れを言います、まずは、食器の作成ですね、これはレアン様の発案の通り、職人と芸術家、そちらと協議しつつ開発が必要と考えます」

「うむ、その通りだな」

「次に作法・・・は一旦置いておいて、料理の開発ですね、こちらは料理人に趣旨を説明して開発頂く事となるかと思います、その上で会食用のメニューとして5品~6品程度になるでしょうか、卓上で調理用ナイフの必要が無い料理が至上命題になるのかなと思います、そして最も難解な点が、作法ですね」

「なるほど、しかし、作法と言ってもな・・・」

レアンが眉根を寄せ、エレインもそうなのですと同意する、

「そこで物語としましては、食器の開発と料理の開発これを同時に進めます、二つが揃ったら実際に試してみまして、作法の確立ですね、そして、会食での披露、となります、この流れが物語として大事かなと思います」

「物語か・・・分かり易いな、うん」

「そうなると、あれね、中々に長期戦略って事ね」

ソフィアの感想に、エレインは素直にそうですねと認め、ライニールも、

「そうなるかと思います、ですが、新しい文化の創出と考えると」

「うむ、これは遣り甲斐があるというものじゃ」

レアンは納得したようである。
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