セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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26話 優しい小父さん達と精霊の木 その3

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「そうなると、留年した者はいないわけですわね」

事務所ではエレインがオリビアから報告を受けていた、長時間の会議の疲れはあるがやや高揚して見えるのは有意義な会議であった事が原因であるだろう、

「はい、詳細な順位がこちらです、従業員のみ書き留めております」

オリビアが木簡をエレインに提出する、

「なるほど、あら?ジャネットさん頑張りましたわね、あら、ケイスさんも、あなたはまぁ当然ですわね」

ニコリとエレインが微笑み、オリビアは恐縮ですと一礼した、

「そうなると、何か、御褒美でもと思うのですが」

エレインは木簡に視線を落として呟く、

「そこまではどうでしょう、当然の結果であるとも思いますし、お言葉をかけるだけでも十分かと思います」

「そう・・・そうね、それに私が褒めるのもなんか違うわね、上司って難しいわ」

「ふふ、そうですね」

二人は静かに微笑みあい、

「では、そうね、テラさんが来ているからちゃんと引き合わせますわ、それと、マフレナさんもまだいるわよね、厨房かしら?」

エレインはスッと立ち上がると、厨房へ向かった、オリビアは静かにその背についていく、厨房に入るとマフレナとテラは回転機構を間にして調理の講習をしているようであった、

「あ、ごめんなさい、少しばかりいいかしら?」

エレインの問いに二人は手を止めて向き直る、

「あ、そんなに硬くならないで」

エレインは軽く笑みを浮かべ、作業台兼調理台のテーブルを4人で囲むと、

「えっと、お互いに話しだけはしていたけどね、こちらがオリビア、でこちらがテラさん、ちゃんと顔を合わせるのは初めてよね」

二人を簡単に紹介する、

「はい、初めましてですね、テラ・ベイエルです、オリビアさんですね、エレインさんから若いのに大変優秀な方と聞いております、宜しくお願い致します」

テラが優しい笑顔を浮かべる、

「こちらこそ、オリビア・ラトランドです、エレインお嬢様の専属であります、宜しくお願い致します」

やや硬い表情でオリビアは返礼とした、

「そうね、うーん、年齢で上下をつけるつもりはないけど、たぶんあれよね、オリビアさんのお母さんよりも私の方が年上よね」

テラ自らが年齢について話題に出した、エレインはいいのかなと思いつつも、

「そうですわね、えっと、サマンタさんて、今、お幾つ?」

サマンタとはオリビアの母親の名前である、

「えーと、私が16で、母が20の時に生んでますので」

「あら、なら、同い年位かしら、あー、一度目の結婚の時に授かっていたらこんなに大きな子供がいたのかもしれないのねー」

テラは楽しそうに微笑むがやや寂しい言葉でもある、

「一度目?」

マフレナが耳聡く問うと、

「そうよ、一度目、私2回失敗してるから、子供ができなかった事もあるけど、戦争もあってね」

テラはあっけらかんと答える、

「へー、っていうか、え、そんなに歳いってたの?」

マフレナの遠慮の無い問いに、

「そうよー、見えないでしょ、よく言われるわ」

これまた明るく返すテラ、どうもテラという女性は自身の身の上について開放的な性分であるらしい、クロノスも他人の、それも女性の事であるにも関わらず、明け透けに話していたが、これは本人がそうであるからクロノスも思わず口に出た事なのであろうか、エレインは軽く違和感を覚える、

「あら、会長、そんな険しい顔しないで下さい」

テラはエレインの微妙な変化に気付いて機先を制すると、

「いずれ、どこからか漏れ伝わる事ですからね、特に小さい集団に属するとなれば特殊?な生い立ちや身上は隠しているつもりはないのに、話していないと隠していると思われる事が多いのです、ならば、ほら、先に話しておけば無用な噂話や軋轢が生まれにくいでしょ」

テラはニコヤカに話し、

「恐らくは私のそれは不幸話に類するものなのでしょうが、あの戦争を生き抜いた身としてはね、大した事ではないですよ」

これまた晴々とした顔で笑って見せた、

「そう、ですか、なるほど」

エレインが驚きつつも納得する、

「そうなのです、これもまた一つの戦術ですね、さらに言えばつまらない話しは仕事でやり返せば良いのです、面白いことに人というものは実力を見せつけられると黙るものです、また、そうであるべきとも思っておりますが・・・」

「そうですね、はい、しかし、あまりやりすぎないように、異質すぎるものは排斥されますから」

エレインは自身の境遇と経験を思い出していた、若気の至りとはいえあの場、あの環境で自分は異物であったのだと、そして最も迷惑をかけたのは何者でもなく父と母であったのだと、最近になって漸くそう思えるようになっていた、

「そうですね、はい、気を付けます」

テラは真面目に答えた、エレインはテラの思慮深くも柔らかな微笑みに安堵しつつ、

「では、そうですね、えーと、後は、あ・・・」

とマフレナへ視線を向けると、

「マフレナさん、どうでしょう、昨日話しましたガラス鏡の店舗の件、関わってみませんか?」

唐突な質問にマフレナは不思議そうな顔になり、あー、と言葉にならない声を上げると、

「はい、昨日の件ですよね、はい、えっと・・・そうですね・・・」

と握りこぶしを口元に当てて視線を彷徨わせる、

「面白そうです、と思います、それに遣り甲斐のある仕事でもありますよね、うん、しかし、私に勤まるかどうか・・・」

不安そうにエレインを見返した、

「そこは大丈夫・・・と私が言うのは変ですが」

エレインが自嘲気味に笑い、

「私の構想では、テラさんを店の責任者として、マフレナさんとケイランさんを接客関係の中心人物に置きたいのです、想定される顧客が貴族である事もありますが、そうなりますとやはり経験のある人を置きたいのですよね、勿論、私としても3人に放り投げるつもりはありませんからその点は心配無く」

エレインは笑みする、どうやら笑いどころであったらしいが3人は静かにエレインの言葉を待った、

「えっと、ごほん」

わざとらしく咳払いをすると、

「ですので、テラさんにはお店の全体の管理を、マフレナさんとケイランさんで従業員の管理と接客、それから店舗の管理になるのでしょうか、そういった形かなと思うのです、以前に従業員の自薦を求めるような話しをしましたが、よく考えるとちょっと難しいかなと思いまして」

「確かに、ケイランさんと一緒というのは心強いです、が・・・そうですね、私もケイランさんも家庭の方がやや問題かなと思います、そこ・・・ですかね」

マフレナはなんとも煮え切らない様子である、

「そうですね、ただ、貴族相手となると基本的に予約対応になると思うのですね」

エレインはかつての貴族暮らしを思い出しつつ言葉を続ける、

「午前に一組、午後に一組若しくは二組、前もって訪問時間と滞在時間が厳密に調整されますでしょ、飛び入りで来るお客様はまずおりませんし、そう言ったお客様は無粋とされるのがあの界隈の常識です、そう考えた場合、実は店側が優位なのですよね」

「そう・・・ですね、そう言われれば、確かに、うん」

マフレナもメイドの頃を思い出しつつ頷いた、

「あっち側でいたときはお客として踏ん反り返っていましたけど、店側として考えると・・・実は、貴族様方は扱いさえ間違えなければ、超優良で確実に利益が出せるうえに店側で調整も制御も可能な便利な顧客なのですよ」

やや不遜な事を言っているが、自身も子爵家の令嬢であるエレインにとっては大した問題では無いのであろう、

「その扱いさえ間違えなければ、が、一番の問題ですね」

テラが楽しそうに話す、

「そうね、そうすると、やっぱり、マフレナさんとケイランさんが適任なのです、特にケイランさんは領主様のメイドだった人ですし、今も例の一件で領主様とは仲良くしてらっしゃいますしね、さらに、店側が制御可能という事は、勤務時間等もこちらで都合がつくと言う事なのですね」

例の一件とはユスティーナ関連の事であろう、

「なるほど、理解しました、会長、そこまでお考えだったとは、すいません、まるで、知恵が回りませんで、恥ずかしいです」

マフレナは消沈したのか俯いてしまった、

「こちらこそ、突然の話しでごめんなさいね、そうね、もう一つ、私とオリビアの考えなんだけど、これはテラさんにも理解して欲しいんだけどね」

エレインはオリビアを見て、テラに視線を合わせると、二人で話し合った経営の要点をかいつまんで話した、俗に経営方針又は経営理念と呼ばれるであろうそれは、テラとしてはやや綺麗事すぎるのか、その表情は小さく明暗を繰り返す、しかし、エレインの真摯な言葉とオリビアの真剣な視線を受け、

「わかりました、正直な感想を言わせて頂ければ」

テラは前置きしつつ、

「理想的で背筋が痒くなるほどです、それ故に最も大事な事と思います、凡百の商人では考えもしないし、考えることをしようともしない点でもあるかと思います、特に人を活かすという事は、さらに女性を中心に据えるとなれば中々に難しいです、この世の中にあっては女性はどうしても・・・格下・・・ですしね・・・現在は奇跡的に戦時では無いですが、そうなればまた変わってくるという事もあります・・・しかし、いや、それだからこそ至った結論なのでしょうね・・・どうでしょうマフレナさん、悪く言えば青臭い理想論ですが、ここは一つ年長者として、なによりも高給を約束してくれる希少な経営者に出会えた幸運を思って、尽力しませんか?」

テラは真面目な顔でそう言って、マフレナ、エレイン、それからオリビアへと視線を移す、

「そうですね、まったく、凄い人と出会っちゃったかな、やれやれ、足りない頭を使うときが来るとは、それもこの歳で、まったく、出来悪いんですからね、御容赦願いますよ」

マフレナは自嘲して笑う、

「あら、頭を使うのに歳は関係ないですよ、それこそ、頭は歳をとってから使うべきものです」

「まぁ酷い、私はテラさんよりも10は若いんですからね、じゃ、テラさんには頭を使ってもらいましょう、私は手足を使いますんで」

「あら、腰は使わないの?」

「うーん、最近御無沙汰かしら、えっ、テラさんそっちもいけるの?」

「女相手には使わないわよー、男相手も御無沙汰ねー、あっ、相手がいないわ、マフレナさん、旦那さん貸して」

「えー、返してくださいよー、って、駄目です、旦那が帰ってこなくなったらどうするんですか」

急に始まった色話に、

「もう、真面目な話だったのに、この人達は・・・」

静かにしていたオリビアが呆れたように呟くと、

「あー、今のうちから慣れときなさいよー」

マフレナがからかい、

「そうねー、良い男捕まえとくには大事よ、あ、私、2回も失敗してるわ」

とテラは自虐で笑いを誘いつつ、

「マフレナさんなにかコツとかあるの?」

明るく助言を求めた、

「えー、それこそ秘密ですよー、ん、もしかしてテラさんは激しすぎるんじゃないですか?」

「・・・そうなのかしら、うーん、どうだろう?マフレナさん見せて頂ける?他人の見た事ないのよね」

「えっ、それは、嫌です」

キッパリとした拒絶にテラはそうかーとあからさまに肩を落とす、

「この、小母様方はまったく」

「お嬢様、耳に毒です」

エレインとオリビアは困った顔で笑いを隠すのであった。
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