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本編
26話 優しい小父さん達と精霊の木 その4
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「いやー、久しぶりに仕事するとたのしーねー」
満面の笑顔でジャネットが食堂へ入ってきた、店番を終え金庫と木簡を抱えている、
「それはあれですよ、成績が良かった事もあるんでしょ」
ジャネットの背後にいたケイスがボソリと呟く、
「えー、ケイスさん、それ言っちゃう?それ言っちゃう?」
異常に御機嫌なジャネットに食堂にいたエレインがめんどくさそうな視線を送り、ミナとレインは何事かと顔を上げた、二人は共に静かに読書に専念していたようである、
「いやー、参ったね、ちょっと勉強したらこれだもの、なんつーのジツリキってやつ?地頭の良さってやつ?」
「はいはい、金庫、先に預かるわ」
エレインが席を立つと、
「は、会長、今日は学生が多かったであります」
いつもはしない報告を付加して、恭しく木箱と木簡を差し出した、
「二人ともお疲れ様、お客さんの様子は見てたわよ、それとそんなに浮かれないの、こっちが恥ずかしいわ」
「えー、でもー、ほらー」
ジャネットがグズグズとシナを作る、
「はいはい、取り敢えず留年は無いようね、おめでとう」
「えへへ、ありがとうございます」
ジャネットはだらしない笑顔となる、
「ケイスさんもね、オリビアから報告受けているから」
「あ、そうなんですね、はい、ありがとうございます」
ケイスは特に浮かれている様子は無い、ジャネットが有頂天な為、逆に冷静なのであろう、
「ま、当然と言えば当然なんだけどね、お疲れ様とは言っておくわね」
「そうですね、えへへ」
ケイスも柔らかい笑顔となった、
「ねー、なんの事ー?」
傍観していたミナの質問に、
「うふー、試験に通ったのだよー、進級できるんだよー、仕事も出来るんだよー、頑張ったかいがあったのだよー」
大きく両手を広げて天を仰いだジャネット、
「あー、神様ありがとー、お会い出来たらキスしちゃうー」
「これはいよいよ重症ね」
「はい、お店でも妙に機嫌が良すぎて、お客さんが引いてました」
「ま、明日には落ち着くでしょ」
「そうですね」
エレインとケイスはコソコソと話すと揃って2階へ上がり、
「ミナっちも勉強頑張ってるのかー、分らない事はこのジャネット様にお聞きあそばせ」
ん?とミナを見下ろして得意顔となる、
「ん、じゃあね、このショクチュウショクブツのね、ホショクキコウってのがあるんだけど、どーなってるの?」
「なんじゃそりゃ?」
「えっとね、ここ、ここ」
ミナは開いた本の一部を指差す、奇妙な植物の挿絵と共に食虫植物と表記され、捕食の仕組みが説明されている様子である、
「え、えっと?ごめん読ませて貰っていい?」
「うん、いいよ」
ジャネットがミナの隣に立ちつつ前屈みになって文字を追い、
「なるほど、植物なのに、蠅とか蜘蛛とか捕食するって、凄いね、魔物かな?聞いたこと無いな」
「うん、でね、ここの絵のね、これが蓋になるみたいなんだけど、どうやって閉まっているの?」
挿絵には長くだらしない袋状の花の上に、まさに蓋のような突起物が描かれている、
「これが閉じるって書いてあるよね、うん、閉じるんだよね」
「閉じるんだよね?」
ミナの確認の問いに、
「閉じるんだよ、だって、そう書いてあるし」
「もう、書いてあるのはちゃんと読んだの、どうやって閉じるの?お花も葉っぱも動いてるの見た事ないよ」
「そ、そうだよねー」
ミナの純粋で真剣な瞳がジャネットを穿ち、ジャネットはその視線に徐々に後ずさりを始めた、
「ねぇ、どうして?」
「うん、それはね」
ジャネットは2歩3歩と後ずさり、背後の椅子を器用に避けると、
「どうして?」
「あ、勉強道具、部屋に置かないとだな、そろそろ夕飯だよね、うん、じゃ、一旦、部屋戻るね」
サッときびすを返し、脱兎のごとく階段へ走る、
「あ、逃げたー」
ミナの非難の声を背に受けつつ、ジャネットはごめんよミナと心の中で詫びるのであった。
「どうしたの?」
ジャネットと入れ違いに研究所組がゾロゾロと食堂へ降りてきた、不満そうな顔で一行を睨むミナにユーリが何事かと問い、ミナが事の仔細を話すと、
「あはは、そりゃ、分らんわ」
「ユーリでも知らないの?」
「うん、第一そんな植物見た事ないなー、カトカ知ってる?」
「いえ、初耳ですね、植物が昆虫を食べるのですか?」
「そうだよー、蠅とか蜘蛛とか食べるんだって、袋に入れてパクッて」
ミナが両手と全身を使って身振り手振りで解説する、その様に微笑みながら、
「何処に生えてるの?」
「うんとね、南の方だって」
「南かー、どの辺だろう?」
どれどれと一行も書に向かう、3人揃って書を囲み一読すると、
「へー凄いね、面白いね」
ユーリは素直に感心し、
「確かに、図も詳細ですし、これは実物を見ないと書けないですね」
カトカは冷静に分析する、
「いや、嘘は書かないだろう、学園長だよ」
サビナが著者を擁護するが、
「でも、こういった資料的な文献は実物を見ないで書かれている場合が多いですよ」
「それはだって、学問的な知見の無い書物だろ、鯨とか虎とかが魔物みたいな絵になってるやつ」
「そうですが、そういう意味ではこの書もある程度疑ってかかるべきでは?」
「学園長は実践派だからね、自分の目で見たものとそうでないものは分けると思うわよ」
ユーリの解説に、
「そうなると、学園長は実際に見て書いているのですか、なら、存在するのですね」
「そうね、ここにも詳細に大きさが書いてあるし希少であるともあるわね」
ユーリが文章の一部を差す、
「で、で、どうなってるの?」
ミナが3人の間に割り込んで来た、
「うん、分んない」
「そうですね、実際に目にしてみないと、ホントに閉じるんでしょうか?」
「それよりも、蠅や蜘蛛を消化するの?植物が?想像できないな、あ、でもあれよね、植物系の魔物で毒とか消化液とか飛ばすのもいるからね、魔物の一種?そう考えれば簡単だけど、これを読む限りでは魔物ではないのかしら?」
「うーん、魔物の定義にもよるのよね、こういった植物が魔力を持って意思らしきものを身に着けてやっと魔物と呼べると思うんだけど、学者によっては恣意的にあるいは無自覚で魔力を扱う動植物全てを魔物と定義する人もいるし、そうすると私たち平野人も魔物に類する事になるじゃない?さらに言えば一般的・・・何が一般的かは置いておいて、ほら、食料にならない脅威ある生物を一括りで魔物呼びするでしょ、そうなってくると、あそこら辺もしっかり定義するべきよね」
「そうなると、動植物の分類と魔物のそれを分けるべきか否かですよね、私としては生物として考えた場合、皆同じ系統の上にあると思うのですね、ですが・・・イノシシは動物で、灰色イノシシは魔物で、蜘蛛は昆虫で、グリーンスパイダーは魔物でってなると・・・こう、違和感があります」
「だから、それはね・・・」
三人三様の答えの果てに話題は大きくずれている、ミナの探求心を満足させる話しには戻りそうになかった、
「ぶー、でー、どうなってるの?」
ミナが頬を膨らませて再度質問すると、3人はアッと驚いた顔でミナを見下ろし、
「ごめん、分んない、大人でも分らない事の方が多いのよー、っていうかね、知れば知るほど分らなくなって、知れば知るほど知らない事が増えていくものよ、世界はとっても大きくて深くて見えないものだから」
ユーリが諭すように誤魔化すように答えとした、
「おー、所長なんか悟ったような言葉です」
サビナがうんうんと頷く、
「所長それかっこいいですね、私も使わせて貰っていいですか」
カトカは尊敬の眼差しをユーリに向ける、
「むー、なぞなぞ?」
ミナが困ったような顔でユーリを見上げると、
「なぞなぞかー、うん、世界はなぞなぞで出来ている、これ、どうよ?」
ユーリが調子に乗ってサビナとカトカを見るが、
「あ、それは、今一つですね」
「はい、一気に陳腐になりました」
二人はやれやれと肩をすくめる、
「なによー、言い得て妙って感じじゃない、子供の言葉は時折真理を突くものよ」
「そうでしょうけど、もう少し高尚な単語で表現したいですよね」
「そうですね、世界はいいとして、なぞなぞ、なぞなぞがいけないのかな?謎かけ?問答・・・とんち・・・問題・・・うーん、語彙がないな、恥ずかしい」
「逆にしようか、なぞなぞで世界は出来ている・・・違うわね」
「そうですね」
大人達は笑いあうがミナは困った顔を崩さない、
「確かに悪くはないが、5歩足りぬな」
別の書を読んでいたレインが顔を上げた、
「あ、レインには分かる?この言葉の良さが」
ユーリは笑いあった笑顔のままレインに問うと、
「だから、悪くはないぞ、何を表現したいかと、どの立場で用いたかで大きく意味が変わってくるであろうな、宗教者が使うのと学者が使うのとではまるで意味が異なるであろう?まして子供の使うそれなど、可愛らしい戯言と微笑む以外に意味を求めるのは・・・それこそ受け取り側の考えすぎというものじゃ、さらに言えば、真理とはそこらに転がっているが、それに気付くものは少なく、また表現に成功するものはさらに少ない、じゃろう?」
レインはミナの表情を伺いつつ、
「しかしなぞなぞという表現は面白いの、あらゆる事象は複雑に絡み合っておるからの、一つを解けば別の謎が、それを解けばもう一つの謎が、謎は円環なりし、ならば円環は世界なりしか?一を知れば百の疑問を得、知識は知恵を生み、知恵は知識の温床となる、探求は永遠なりし、ゆえにその終焉は未だ見えず、それがあるかも分らず、それもまた謎の円環なりし、じゃろ」
3人はポカンとした顔でユーリを見つめ、ミナは不満顔でレインを睨む、
「むー、また、レインが難しい事言ってるー」
「そうだのう、ミナならその内に真理に辿り付けるかものう、それもミナの至った真理であって、ミナが求めた真理ではないかもだが・・・分かりやすい言葉を使ったつもりなのだがな、まだ、難しいようだのー」
老成した言葉遣いでレインは空虚に笑う、
「ちょっと、レイン、あなたやっぱり何者なの?」
「凄いですね、えっと、哲学ですか?どこでそんな事を?」
「レインさん、それは、そんなことを御自分で気付かれたのですか?それとも何かの書物ですか?」
3人の驚きと畏怖と疑問が綯い交ぜになった視線に、レインはこれはやばい事になったと勘付き、
「うむ、冗談じゃ」
そう言って書へと視線を落とした、
「ちょっと、冗談じゃないわよ」
「そうですよ、レインさん、もっと、話しましょう」
あっという間にレインを3人の大人が囲み、取り残されたミナは泣きそうな顔になる、
「準備できたわよー」
ソフィアが食堂に入ると研究所組が輪になってなにやら話し込み、その中心には石のように硬くなったレインがいた、
「ちょっと、あんた達、レインに何してるのよ」
ソフィアの激しい雷が3人を襲い、何とか開放されたレインは硬い表情を崩さず、ミナはミナでへそを曲げているのであった。
満面の笑顔でジャネットが食堂へ入ってきた、店番を終え金庫と木簡を抱えている、
「それはあれですよ、成績が良かった事もあるんでしょ」
ジャネットの背後にいたケイスがボソリと呟く、
「えー、ケイスさん、それ言っちゃう?それ言っちゃう?」
異常に御機嫌なジャネットに食堂にいたエレインがめんどくさそうな視線を送り、ミナとレインは何事かと顔を上げた、二人は共に静かに読書に専念していたようである、
「いやー、参ったね、ちょっと勉強したらこれだもの、なんつーのジツリキってやつ?地頭の良さってやつ?」
「はいはい、金庫、先に預かるわ」
エレインが席を立つと、
「は、会長、今日は学生が多かったであります」
いつもはしない報告を付加して、恭しく木箱と木簡を差し出した、
「二人ともお疲れ様、お客さんの様子は見てたわよ、それとそんなに浮かれないの、こっちが恥ずかしいわ」
「えー、でもー、ほらー」
ジャネットがグズグズとシナを作る、
「はいはい、取り敢えず留年は無いようね、おめでとう」
「えへへ、ありがとうございます」
ジャネットはだらしない笑顔となる、
「ケイスさんもね、オリビアから報告受けているから」
「あ、そうなんですね、はい、ありがとうございます」
ケイスは特に浮かれている様子は無い、ジャネットが有頂天な為、逆に冷静なのであろう、
「ま、当然と言えば当然なんだけどね、お疲れ様とは言っておくわね」
「そうですね、えへへ」
ケイスも柔らかい笑顔となった、
「ねー、なんの事ー?」
傍観していたミナの質問に、
「うふー、試験に通ったのだよー、進級できるんだよー、仕事も出来るんだよー、頑張ったかいがあったのだよー」
大きく両手を広げて天を仰いだジャネット、
「あー、神様ありがとー、お会い出来たらキスしちゃうー」
「これはいよいよ重症ね」
「はい、お店でも妙に機嫌が良すぎて、お客さんが引いてました」
「ま、明日には落ち着くでしょ」
「そうですね」
エレインとケイスはコソコソと話すと揃って2階へ上がり、
「ミナっちも勉強頑張ってるのかー、分らない事はこのジャネット様にお聞きあそばせ」
ん?とミナを見下ろして得意顔となる、
「ん、じゃあね、このショクチュウショクブツのね、ホショクキコウってのがあるんだけど、どーなってるの?」
「なんじゃそりゃ?」
「えっとね、ここ、ここ」
ミナは開いた本の一部を指差す、奇妙な植物の挿絵と共に食虫植物と表記され、捕食の仕組みが説明されている様子である、
「え、えっと?ごめん読ませて貰っていい?」
「うん、いいよ」
ジャネットがミナの隣に立ちつつ前屈みになって文字を追い、
「なるほど、植物なのに、蠅とか蜘蛛とか捕食するって、凄いね、魔物かな?聞いたこと無いな」
「うん、でね、ここの絵のね、これが蓋になるみたいなんだけど、どうやって閉まっているの?」
挿絵には長くだらしない袋状の花の上に、まさに蓋のような突起物が描かれている、
「これが閉じるって書いてあるよね、うん、閉じるんだよね」
「閉じるんだよね?」
ミナの確認の問いに、
「閉じるんだよ、だって、そう書いてあるし」
「もう、書いてあるのはちゃんと読んだの、どうやって閉じるの?お花も葉っぱも動いてるの見た事ないよ」
「そ、そうだよねー」
ミナの純粋で真剣な瞳がジャネットを穿ち、ジャネットはその視線に徐々に後ずさりを始めた、
「ねぇ、どうして?」
「うん、それはね」
ジャネットは2歩3歩と後ずさり、背後の椅子を器用に避けると、
「どうして?」
「あ、勉強道具、部屋に置かないとだな、そろそろ夕飯だよね、うん、じゃ、一旦、部屋戻るね」
サッときびすを返し、脱兎のごとく階段へ走る、
「あ、逃げたー」
ミナの非難の声を背に受けつつ、ジャネットはごめんよミナと心の中で詫びるのであった。
「どうしたの?」
ジャネットと入れ違いに研究所組がゾロゾロと食堂へ降りてきた、不満そうな顔で一行を睨むミナにユーリが何事かと問い、ミナが事の仔細を話すと、
「あはは、そりゃ、分らんわ」
「ユーリでも知らないの?」
「うん、第一そんな植物見た事ないなー、カトカ知ってる?」
「いえ、初耳ですね、植物が昆虫を食べるのですか?」
「そうだよー、蠅とか蜘蛛とか食べるんだって、袋に入れてパクッて」
ミナが両手と全身を使って身振り手振りで解説する、その様に微笑みながら、
「何処に生えてるの?」
「うんとね、南の方だって」
「南かー、どの辺だろう?」
どれどれと一行も書に向かう、3人揃って書を囲み一読すると、
「へー凄いね、面白いね」
ユーリは素直に感心し、
「確かに、図も詳細ですし、これは実物を見ないと書けないですね」
カトカは冷静に分析する、
「いや、嘘は書かないだろう、学園長だよ」
サビナが著者を擁護するが、
「でも、こういった資料的な文献は実物を見ないで書かれている場合が多いですよ」
「それはだって、学問的な知見の無い書物だろ、鯨とか虎とかが魔物みたいな絵になってるやつ」
「そうですが、そういう意味ではこの書もある程度疑ってかかるべきでは?」
「学園長は実践派だからね、自分の目で見たものとそうでないものは分けると思うわよ」
ユーリの解説に、
「そうなると、学園長は実際に見て書いているのですか、なら、存在するのですね」
「そうね、ここにも詳細に大きさが書いてあるし希少であるともあるわね」
ユーリが文章の一部を差す、
「で、で、どうなってるの?」
ミナが3人の間に割り込んで来た、
「うん、分んない」
「そうですね、実際に目にしてみないと、ホントに閉じるんでしょうか?」
「それよりも、蠅や蜘蛛を消化するの?植物が?想像できないな、あ、でもあれよね、植物系の魔物で毒とか消化液とか飛ばすのもいるからね、魔物の一種?そう考えれば簡単だけど、これを読む限りでは魔物ではないのかしら?」
「うーん、魔物の定義にもよるのよね、こういった植物が魔力を持って意思らしきものを身に着けてやっと魔物と呼べると思うんだけど、学者によっては恣意的にあるいは無自覚で魔力を扱う動植物全てを魔物と定義する人もいるし、そうすると私たち平野人も魔物に類する事になるじゃない?さらに言えば一般的・・・何が一般的かは置いておいて、ほら、食料にならない脅威ある生物を一括りで魔物呼びするでしょ、そうなってくると、あそこら辺もしっかり定義するべきよね」
「そうなると、動植物の分類と魔物のそれを分けるべきか否かですよね、私としては生物として考えた場合、皆同じ系統の上にあると思うのですね、ですが・・・イノシシは動物で、灰色イノシシは魔物で、蜘蛛は昆虫で、グリーンスパイダーは魔物でってなると・・・こう、違和感があります」
「だから、それはね・・・」
三人三様の答えの果てに話題は大きくずれている、ミナの探求心を満足させる話しには戻りそうになかった、
「ぶー、でー、どうなってるの?」
ミナが頬を膨らませて再度質問すると、3人はアッと驚いた顔でミナを見下ろし、
「ごめん、分んない、大人でも分らない事の方が多いのよー、っていうかね、知れば知るほど分らなくなって、知れば知るほど知らない事が増えていくものよ、世界はとっても大きくて深くて見えないものだから」
ユーリが諭すように誤魔化すように答えとした、
「おー、所長なんか悟ったような言葉です」
サビナがうんうんと頷く、
「所長それかっこいいですね、私も使わせて貰っていいですか」
カトカは尊敬の眼差しをユーリに向ける、
「むー、なぞなぞ?」
ミナが困ったような顔でユーリを見上げると、
「なぞなぞかー、うん、世界はなぞなぞで出来ている、これ、どうよ?」
ユーリが調子に乗ってサビナとカトカを見るが、
「あ、それは、今一つですね」
「はい、一気に陳腐になりました」
二人はやれやれと肩をすくめる、
「なによー、言い得て妙って感じじゃない、子供の言葉は時折真理を突くものよ」
「そうでしょうけど、もう少し高尚な単語で表現したいですよね」
「そうですね、世界はいいとして、なぞなぞ、なぞなぞがいけないのかな?謎かけ?問答・・・とんち・・・問題・・・うーん、語彙がないな、恥ずかしい」
「逆にしようか、なぞなぞで世界は出来ている・・・違うわね」
「そうですね」
大人達は笑いあうがミナは困った顔を崩さない、
「確かに悪くはないが、5歩足りぬな」
別の書を読んでいたレインが顔を上げた、
「あ、レインには分かる?この言葉の良さが」
ユーリは笑いあった笑顔のままレインに問うと、
「だから、悪くはないぞ、何を表現したいかと、どの立場で用いたかで大きく意味が変わってくるであろうな、宗教者が使うのと学者が使うのとではまるで意味が異なるであろう?まして子供の使うそれなど、可愛らしい戯言と微笑む以外に意味を求めるのは・・・それこそ受け取り側の考えすぎというものじゃ、さらに言えば、真理とはそこらに転がっているが、それに気付くものは少なく、また表現に成功するものはさらに少ない、じゃろう?」
レインはミナの表情を伺いつつ、
「しかしなぞなぞという表現は面白いの、あらゆる事象は複雑に絡み合っておるからの、一つを解けば別の謎が、それを解けばもう一つの謎が、謎は円環なりし、ならば円環は世界なりしか?一を知れば百の疑問を得、知識は知恵を生み、知恵は知識の温床となる、探求は永遠なりし、ゆえにその終焉は未だ見えず、それがあるかも分らず、それもまた謎の円環なりし、じゃろ」
3人はポカンとした顔でユーリを見つめ、ミナは不満顔でレインを睨む、
「むー、また、レインが難しい事言ってるー」
「そうだのう、ミナならその内に真理に辿り付けるかものう、それもミナの至った真理であって、ミナが求めた真理ではないかもだが・・・分かりやすい言葉を使ったつもりなのだがな、まだ、難しいようだのー」
老成した言葉遣いでレインは空虚に笑う、
「ちょっと、レイン、あなたやっぱり何者なの?」
「凄いですね、えっと、哲学ですか?どこでそんな事を?」
「レインさん、それは、そんなことを御自分で気付かれたのですか?それとも何かの書物ですか?」
3人の驚きと畏怖と疑問が綯い交ぜになった視線に、レインはこれはやばい事になったと勘付き、
「うむ、冗談じゃ」
そう言って書へと視線を落とした、
「ちょっと、冗談じゃないわよ」
「そうですよ、レインさん、もっと、話しましょう」
あっという間にレインを3人の大人が囲み、取り残されたミナは泣きそうな顔になる、
「準備できたわよー」
ソフィアが食堂に入ると研究所組が輪になってなにやら話し込み、その中心には石のように硬くなったレインがいた、
「ちょっと、あんた達、レインに何してるのよ」
ソフィアの激しい雷が3人を襲い、何とか開放されたレインは硬い表情を崩さず、ミナはミナでへそを曲げているのであった。
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いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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