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本編
28話 Art and recipe on the plate その3
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「失礼を、お茶を頂きたいのですが」
2階貴賓室からリシャルトが降りて来て事務所へと顔を出す、
「あ、これは失礼を、用意致します」
ケイランが気付いて動き出すがリシャルトは事務所内の光景を見て固まってしまった、事務所内はまるで厨房のような光景となっている、女性たちが大小さまざまな皿に向かって何やら楽し気に作業をしており、その女性たちの中にはあろうことか主であるユスティーナとレアンの姿があった、
「リシャルト、どうしたの?あなたもやる?」
ユスティーナが顔を上げた、実に楽しそうな笑顔である、
「いえ、あの、何を?」
リシャルトが怪訝そうに問う、何とも聞きにくそうである、
「これ?そうね、新たな芸術かしら、ね?」
楽しそうにレアンを見る、
「うむ、確かに芸術ですな、これは深いと思いますよ」
レアンも楽しそうに頷いた、
「はぁ?」
リシャルトは何とも理解に困り気の抜けた返事をしてしまった、
「そうだ、打ち合わせはどうなの?順調?」
「あ、はい、その、少々熱が入りまして、小休止にしようという事になりまして」
「あら、なら、そうね、うん、レアン、カラミッド様達へ軽食をお届けしましょうか」
「む、わかりました母上、では、こちらの自信作をお持ちしましょう」
「あら、なら、レインさんの作ったこの皿と、学園長先生にはどれでしょう、ミナさんの作ったこれなど如何です」
「えー、それは、レアンお嬢様に作ったのー、ガクエンチョー先生ならこれー」
「まぁ、ふふ、わかりましたわ、あ、リシャルト、お茶と一緒にお持ちしますから、上で待っていなさい」
ユスティーナの楽しそうな指示に、リシャルトは再び気の抜けた声で了承を伝えたのであった。
貴賓室は、やや重苦しい空気が漂っていた、降って湧いた問題である為、状況と経緯を改めて確認しながら会合は始められ、どう対処するかの点でやはり意見は若干別れたのである、カラミッドとしては神殿へ報告し、その指示を仰ぐべきであるとし、学園長は暫く放っておいて様子を見るべきとの意見である、事務長は学園長に概ね賛同しつつも基本的には秘匿すべきであるとの見解であった、学園長と事務長の意見には多分にクロノスの意思も含まれている、王国というよりもクロノスとしては豊穣の神殿への不信感もあるのであろうか。
しかし、カラミッドの意見も実に真っ当なものである、本日、実物を見て学園長より説明を受けたが、真にあの木が精霊の木であるかどうかについて懐疑的であった、過去の文献からそのように判断したと学園長は説明したが、それをそのまま信じるほどカラミッドは初心ではない、あの木をそのように仕立てて何らかの利益を得ようと学園長らが画策しているのではとも疑ったが、どうやらそういう訳でもないらしく、であれば、かの樹木について信用できる機関をいれて調査をする必要があるのではないか、がカラミッドの本意であるらしい。
しかし、その場合、神殿側が信仰を盾にしてあの地を強引に接収する可能性が少なからずあった、その辺の森の中の一角であればそれも好きにすれば良いとも考えられるが、あの山は王国立の学園の管理下にある土地である、場合によっては王と神殿との諍いの火種になる可能性すらある、また、神殿には民間信仰の中心にあるという実に大仰な自尊心がある、それ故か度々国政に口を出す事もあり、また、裕福な者、貧しい者問わずに金銭の受用が多い、大戦以前からその拝金主義には懸念の声もあった、王国としても各地方の貴族にとっても表では仲良くして見せているが、実の所は好ましく思っていないのである、学園側としてはそれら諸々を危惧しつつ、神殿がどのような対応をするかも分らない状況である為、様子見が良いところであろうとの意見なのである。
両者共に真っ当と言える見解である、領主側は正道で学園側がやや邪道な感じではあるが、学園側の意見には神殿の異常な秘匿癖と拝金主義に基づいた懸念がある為、それを知るカラミッドとしても理解を示さない訳にはいかないのであった。
「戻りました、後程、軽食をお持ちしますとの事であります」
貴賓室に戻ってきたリシャルトが静かに頭を垂れた、
「おう、そうか、軽食となるとブロンパンであろうか、楽しみだの」
カラミッドが顔を上げる、
「そうですな、なるほど、学園長、今後、会合はこちらで行うのはどうでしょうな、この部屋は打ち合わせには最上かと思いますし、なにより静かでよいです」
事務長の弁に、
「あー、事務長殿、魂胆は見え梳いておりますぞ、甘味でしょう?」
学園長はニヤリと微笑む、
「わかりましたか、これは失礼」
事務長は破顔した、
「ほう、事務長殿は甘味好きでしたか」
カラミッドが少しばかり驚いて尋ねる、
「そうですな、恥ずかしながら酒よりも甘味でしてな、あの店舗が出来て以来、帰り道には寄ってしまうようになりましてな、妻から小言を貰うほどです」
事務長は明るく笑う、
「ほう、それはそれは、私もレアンがちょっとした騒動を起こしてから、あ、確かその席にいらっしゃたとか、娘が失礼をしましたな」
「いやいや、楽しい来客でしたよ、おかげでこうしてお話しが出来る、これも、もしかしたらあの精霊の木の思し召しかもしれません」
「・・・そうかも、しれませんな」
カラミッドは小さく溜息を吐いた、実の所、カラミッドとしては学園はあまり好ましい存在ではなかったのである、なにせ領内に於いて王国立として自治を保っているだけでも扱いに苦慮する上に、政治的には伯爵家は公爵派閥に属している、先々代がどのような経緯で学園を王へ譲渡したのかは今となっては分らないが、公爵の手前、必要以上に仲良くする訳にはいかず、それではと自陣営のイグレシア学部長を引き込んではいたが、学園長の交代時期にクロノス王太子によって現学園長であるアウグスタが抜擢され、イグレシアを傀儡として学園を御する事も出来なくなった、しかし、事ここに至ってはそれもまた良かったのかもしれないとカラミッドは考える、アウグスタは研究者気質の強すぎる人物のようで、まるで政治力は無く、また、シェルビー事務長も公平な人物である為、イグレシアによる影響力が少ない、これはクロノス王太子の学園を政争に巻き込まないとの意思表示であったのかと今になって思うのである。
そして、これもまた自分の至らなさかとも思うが、こうして腹を割って話し込む事は初めてのことであった、地下の下水道の件では一方的な報告に終始した事と全容が不明でもあった為、本気で頭を悩ませる事は無く、また、カラミッド自身の学園への不信感が強く、足を引っ張るような策も実行したが、ここでユスティーナの件が発生し、印象を大きく変える事となった、その後、レアンを通じて急速に距離が近くなったとはいえ、こうして共同して当たる問題が無かった事が最も大きな原因であろうか、王国立の学園である為、領主への報告等も通り一遍のものである、それで問題も無かった為互いに疎遠であったのはむべなるかなといった所であろうか。
しかし、ここに来て学園関係者との付き合いが増えるに従い、その人となりを知るにつれ、レアンが楽しそうに語る人々の魅力が少なからず理解できた、やはり大勢を集めた顔合わせの会食程度では知りえなかった人となりをやっと知りえたとも感じられる、特に、カラミッドから見る限り学園の中心にいる眼前の両者は共に好人物であり、実に博識で聡明である、政治的な本音はあるのであろうが、欲深い人間ではないようであった、学園長は自身の研究と探求に重きを置き、事務長は生まれの良さもあってか生真面目で理想的な官僚といって良い人物である、かの英雄クロノス王太子が信頼するだけの事はあるなと、今日カラミッドは思い知った。
「失礼致しますわ」
カラミッドが思考し、学園長と事務長が他愛無い会話を続けている所にユスティーナ自らが扉を叩く、
「これは、奥方自らとは恐悦でございます」
事務長がユスティーナの姿に驚いて腰を上げ、学園長も一歩遅れて腰を上げる、
「そのままで、結構ですよ、軽食をお持ちしました、少し御休憩下さい、ほら、リシャルトも座りなさい、ここはお屋敷ではないのですから」
ユスティーナの言葉にリシャルトは驚いて言葉も無く自席に落ち着いた、
「それでは、こちらを、主も客もない場というのは気兼ねが無くて良いですわね、さ、レアンはカラミッド様に、ミナさんは学園長に」
ユスティーナはニコニコと微笑みながら奥の席に座る事務長とリシャルトの前に皿を置き、レアンとミナも楽しそうな笑みでそれぞれに給仕する、
「ほう、これは華やかですな、初めて目にする料理かな?いや、もしかしてこれはミルクアイスケーキですか、いや、これは素晴らしい」
事務長の絶賛の声が上がった、リシャルトは何とも複雑な顔で皿を見詰めている、
「絵画のようだの、それでいて目に鮮やかな色彩が楽しいの、これは何だろう?動物かな?」
「えっとね、ニャンコなの、黒ニャンコ」
ミナが学園長の隣りで飛び跳ねた、
「ほう、ニャンコかなるほどの可愛らしいのう」
「でしょ、でしょ」
ミナはピョンピョンと飛び跳ねた、
「親愛なるお父様へ・・・これはもしかしてレアンが作ったのか?」
カラミッドが嬉しそうにレアンを見た、
「まぁ、の、黙って食すがいい」
レアンは顔を赤らめてソッポを向いている、
「レアン、父上への言葉遣いを気を付けなさい、他人の目がある所ですよ」
ユスティーナが微笑みながら注意するが、それはどうやら本位ではないようである、彼女は単に赤面しているレアンをからかっている様子であった、
「む、それは気を付けています・・・父上、溶ける前にお召し上がり下さい」
レアンは赤面しつつも仏頂面である、
「勿論だ、だが、これは感激だぞ、じっくりと眺めていたいのう、食べるのが申し訳ないくらいだ」
カラミッドは嬉しそうに皿の端に描かれた文言を見る、
「さ、ケイラン、お茶を、私達は下がりましょう、ほら、レアン、ミナさんも、戻らないとアイスケーキが溶けてしまいますよ」
「そうだ、えっとね、ミナのをレアンお嬢様が作ってくれたの、可愛いのよ」
「うむ、折角の力作じゃからな、頂かなくてはな」
レアンが率先して動き出した、やや慌てた様子なのは気恥ずかしさの裏返しとも見える、
「ソフィ、来たかなー?」
「ん、エレイン会長が呼びに行ったであろう」
「うん、あ、そうだ、お嬢様に凄いの見せてあげるー」
「ん?今度は何じゃ?」
「えっとねー」
二人は騒がしく事務所へと降りて行った、その明るく元気な声に大人達は微笑みながら、
「では、頂きましょうか、これほど美しい料理は初めてです」
学園長はフォークを手に取り、
「そうですな、ん?これは珍しい食器ですな」
事務長が4本フォークを手にしてまじまじと見詰める、
「事務長は初めてでしたか、これは4本フォークと呼んでいましてな、レアンと六花商会で商品化の最中なのですよ」
カラミッドが思わず嬉しそうに解説する、
「ほう、商品化・・・いや、それは凄い」
大人達も別の話題ではあるが盛り上がり始めた、酒を挟まない穏やかな会話である、ユスティーナとケイランはその様子を確認してそっと退室するのであった。
2階貴賓室からリシャルトが降りて来て事務所へと顔を出す、
「あ、これは失礼を、用意致します」
ケイランが気付いて動き出すがリシャルトは事務所内の光景を見て固まってしまった、事務所内はまるで厨房のような光景となっている、女性たちが大小さまざまな皿に向かって何やら楽し気に作業をしており、その女性たちの中にはあろうことか主であるユスティーナとレアンの姿があった、
「リシャルト、どうしたの?あなたもやる?」
ユスティーナが顔を上げた、実に楽しそうな笑顔である、
「いえ、あの、何を?」
リシャルトが怪訝そうに問う、何とも聞きにくそうである、
「これ?そうね、新たな芸術かしら、ね?」
楽しそうにレアンを見る、
「うむ、確かに芸術ですな、これは深いと思いますよ」
レアンも楽しそうに頷いた、
「はぁ?」
リシャルトは何とも理解に困り気の抜けた返事をしてしまった、
「そうだ、打ち合わせはどうなの?順調?」
「あ、はい、その、少々熱が入りまして、小休止にしようという事になりまして」
「あら、なら、そうね、うん、レアン、カラミッド様達へ軽食をお届けしましょうか」
「む、わかりました母上、では、こちらの自信作をお持ちしましょう」
「あら、なら、レインさんの作ったこの皿と、学園長先生にはどれでしょう、ミナさんの作ったこれなど如何です」
「えー、それは、レアンお嬢様に作ったのー、ガクエンチョー先生ならこれー」
「まぁ、ふふ、わかりましたわ、あ、リシャルト、お茶と一緒にお持ちしますから、上で待っていなさい」
ユスティーナの楽しそうな指示に、リシャルトは再び気の抜けた声で了承を伝えたのであった。
貴賓室は、やや重苦しい空気が漂っていた、降って湧いた問題である為、状況と経緯を改めて確認しながら会合は始められ、どう対処するかの点でやはり意見は若干別れたのである、カラミッドとしては神殿へ報告し、その指示を仰ぐべきであるとし、学園長は暫く放っておいて様子を見るべきとの意見である、事務長は学園長に概ね賛同しつつも基本的には秘匿すべきであるとの見解であった、学園長と事務長の意見には多分にクロノスの意思も含まれている、王国というよりもクロノスとしては豊穣の神殿への不信感もあるのであろうか。
しかし、カラミッドの意見も実に真っ当なものである、本日、実物を見て学園長より説明を受けたが、真にあの木が精霊の木であるかどうかについて懐疑的であった、過去の文献からそのように判断したと学園長は説明したが、それをそのまま信じるほどカラミッドは初心ではない、あの木をそのように仕立てて何らかの利益を得ようと学園長らが画策しているのではとも疑ったが、どうやらそういう訳でもないらしく、であれば、かの樹木について信用できる機関をいれて調査をする必要があるのではないか、がカラミッドの本意であるらしい。
しかし、その場合、神殿側が信仰を盾にしてあの地を強引に接収する可能性が少なからずあった、その辺の森の中の一角であればそれも好きにすれば良いとも考えられるが、あの山は王国立の学園の管理下にある土地である、場合によっては王と神殿との諍いの火種になる可能性すらある、また、神殿には民間信仰の中心にあるという実に大仰な自尊心がある、それ故か度々国政に口を出す事もあり、また、裕福な者、貧しい者問わずに金銭の受用が多い、大戦以前からその拝金主義には懸念の声もあった、王国としても各地方の貴族にとっても表では仲良くして見せているが、実の所は好ましく思っていないのである、学園側としてはそれら諸々を危惧しつつ、神殿がどのような対応をするかも分らない状況である為、様子見が良いところであろうとの意見なのである。
両者共に真っ当と言える見解である、領主側は正道で学園側がやや邪道な感じではあるが、学園側の意見には神殿の異常な秘匿癖と拝金主義に基づいた懸念がある為、それを知るカラミッドとしても理解を示さない訳にはいかないのであった。
「戻りました、後程、軽食をお持ちしますとの事であります」
貴賓室に戻ってきたリシャルトが静かに頭を垂れた、
「おう、そうか、軽食となるとブロンパンであろうか、楽しみだの」
カラミッドが顔を上げる、
「そうですな、なるほど、学園長、今後、会合はこちらで行うのはどうでしょうな、この部屋は打ち合わせには最上かと思いますし、なにより静かでよいです」
事務長の弁に、
「あー、事務長殿、魂胆は見え梳いておりますぞ、甘味でしょう?」
学園長はニヤリと微笑む、
「わかりましたか、これは失礼」
事務長は破顔した、
「ほう、事務長殿は甘味好きでしたか」
カラミッドが少しばかり驚いて尋ねる、
「そうですな、恥ずかしながら酒よりも甘味でしてな、あの店舗が出来て以来、帰り道には寄ってしまうようになりましてな、妻から小言を貰うほどです」
事務長は明るく笑う、
「ほう、それはそれは、私もレアンがちょっとした騒動を起こしてから、あ、確かその席にいらっしゃたとか、娘が失礼をしましたな」
「いやいや、楽しい来客でしたよ、おかげでこうしてお話しが出来る、これも、もしかしたらあの精霊の木の思し召しかもしれません」
「・・・そうかも、しれませんな」
カラミッドは小さく溜息を吐いた、実の所、カラミッドとしては学園はあまり好ましい存在ではなかったのである、なにせ領内に於いて王国立として自治を保っているだけでも扱いに苦慮する上に、政治的には伯爵家は公爵派閥に属している、先々代がどのような経緯で学園を王へ譲渡したのかは今となっては分らないが、公爵の手前、必要以上に仲良くする訳にはいかず、それではと自陣営のイグレシア学部長を引き込んではいたが、学園長の交代時期にクロノス王太子によって現学園長であるアウグスタが抜擢され、イグレシアを傀儡として学園を御する事も出来なくなった、しかし、事ここに至ってはそれもまた良かったのかもしれないとカラミッドは考える、アウグスタは研究者気質の強すぎる人物のようで、まるで政治力は無く、また、シェルビー事務長も公平な人物である為、イグレシアによる影響力が少ない、これはクロノス王太子の学園を政争に巻き込まないとの意思表示であったのかと今になって思うのである。
そして、これもまた自分の至らなさかとも思うが、こうして腹を割って話し込む事は初めてのことであった、地下の下水道の件では一方的な報告に終始した事と全容が不明でもあった為、本気で頭を悩ませる事は無く、また、カラミッド自身の学園への不信感が強く、足を引っ張るような策も実行したが、ここでユスティーナの件が発生し、印象を大きく変える事となった、その後、レアンを通じて急速に距離が近くなったとはいえ、こうして共同して当たる問題が無かった事が最も大きな原因であろうか、王国立の学園である為、領主への報告等も通り一遍のものである、それで問題も無かった為互いに疎遠であったのはむべなるかなといった所であろうか。
しかし、ここに来て学園関係者との付き合いが増えるに従い、その人となりを知るにつれ、レアンが楽しそうに語る人々の魅力が少なからず理解できた、やはり大勢を集めた顔合わせの会食程度では知りえなかった人となりをやっと知りえたとも感じられる、特に、カラミッドから見る限り学園の中心にいる眼前の両者は共に好人物であり、実に博識で聡明である、政治的な本音はあるのであろうが、欲深い人間ではないようであった、学園長は自身の研究と探求に重きを置き、事務長は生まれの良さもあってか生真面目で理想的な官僚といって良い人物である、かの英雄クロノス王太子が信頼するだけの事はあるなと、今日カラミッドは思い知った。
「失礼致しますわ」
カラミッドが思考し、学園長と事務長が他愛無い会話を続けている所にユスティーナ自らが扉を叩く、
「これは、奥方自らとは恐悦でございます」
事務長がユスティーナの姿に驚いて腰を上げ、学園長も一歩遅れて腰を上げる、
「そのままで、結構ですよ、軽食をお持ちしました、少し御休憩下さい、ほら、リシャルトも座りなさい、ここはお屋敷ではないのですから」
ユスティーナの言葉にリシャルトは驚いて言葉も無く自席に落ち着いた、
「それでは、こちらを、主も客もない場というのは気兼ねが無くて良いですわね、さ、レアンはカラミッド様に、ミナさんは学園長に」
ユスティーナはニコニコと微笑みながら奥の席に座る事務長とリシャルトの前に皿を置き、レアンとミナも楽しそうな笑みでそれぞれに給仕する、
「ほう、これは華やかですな、初めて目にする料理かな?いや、もしかしてこれはミルクアイスケーキですか、いや、これは素晴らしい」
事務長の絶賛の声が上がった、リシャルトは何とも複雑な顔で皿を見詰めている、
「絵画のようだの、それでいて目に鮮やかな色彩が楽しいの、これは何だろう?動物かな?」
「えっとね、ニャンコなの、黒ニャンコ」
ミナが学園長の隣りで飛び跳ねた、
「ほう、ニャンコかなるほどの可愛らしいのう」
「でしょ、でしょ」
ミナはピョンピョンと飛び跳ねた、
「親愛なるお父様へ・・・これはもしかしてレアンが作ったのか?」
カラミッドが嬉しそうにレアンを見た、
「まぁ、の、黙って食すがいい」
レアンは顔を赤らめてソッポを向いている、
「レアン、父上への言葉遣いを気を付けなさい、他人の目がある所ですよ」
ユスティーナが微笑みながら注意するが、それはどうやら本位ではないようである、彼女は単に赤面しているレアンをからかっている様子であった、
「む、それは気を付けています・・・父上、溶ける前にお召し上がり下さい」
レアンは赤面しつつも仏頂面である、
「勿論だ、だが、これは感激だぞ、じっくりと眺めていたいのう、食べるのが申し訳ないくらいだ」
カラミッドは嬉しそうに皿の端に描かれた文言を見る、
「さ、ケイラン、お茶を、私達は下がりましょう、ほら、レアン、ミナさんも、戻らないとアイスケーキが溶けてしまいますよ」
「そうだ、えっとね、ミナのをレアンお嬢様が作ってくれたの、可愛いのよ」
「うむ、折角の力作じゃからな、頂かなくてはな」
レアンが率先して動き出した、やや慌てた様子なのは気恥ずかしさの裏返しとも見える、
「ソフィ、来たかなー?」
「ん、エレイン会長が呼びに行ったであろう」
「うん、あ、そうだ、お嬢様に凄いの見せてあげるー」
「ん?今度は何じゃ?」
「えっとねー」
二人は騒がしく事務所へと降りて行った、その明るく元気な声に大人達は微笑みながら、
「では、頂きましょうか、これほど美しい料理は初めてです」
学園長はフォークを手に取り、
「そうですな、ん?これは珍しい食器ですな」
事務長が4本フォークを手にしてまじまじと見詰める、
「事務長は初めてでしたか、これは4本フォークと呼んでいましてな、レアンと六花商会で商品化の最中なのですよ」
カラミッドが思わず嬉しそうに解説する、
「ほう、商品化・・・いや、それは凄い」
大人達も別の話題ではあるが盛り上がり始めた、酒を挟まない穏やかな会話である、ユスティーナとケイランはその様子を確認してそっと退室するのであった。
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